記事監修者:松繁 治 先生
肩関節に急な痛みが生じる原因として、骨折が挙げられます。本記事では、肩関節に痛みを生じる骨折の種類や主な原因、治療法について詳しく解説します。
肩関節とは?
肩関節(肩甲上腕関節)は、上腕骨・肩甲骨・鎖骨から成る関節です。上腕骨の先端が肩甲骨のくぼみ(関節窩)にはまることで構成されている関節ですが、他の関節と比べると接触面が浅く不安定です。そのため、周囲の軟骨や腱、筋肉、靭帯などのサポートで安定性を保っています。
肩関節の構造について詳しく知りたい場合は、「肩関節の仕組み」をご覧ください。
肩関節に痛みを生じる骨折の種類と原因
肩関節で起きやすい骨折は、次の2種類です。
- 上腕骨近位端骨折
- 鎖骨骨折
なお、肩関節を構成する肩甲骨も、交通事故などの大きな外力により骨折するケースがありますが、比較的まれです1)。そのため、本記事では割愛します。
今回は上腕骨近位端骨折・鎖骨骨折、それぞれについて詳しく解説します。
上腕骨近位端骨折
肩関節から肘関節をつなぐ上腕骨の、肩関節近くの部分の骨折です。
小児や若い人では、スポーツや交通事故などの強いダメージを受けた場合に起きます。一方、高齢者では股関節の大腿骨近位部骨折・手関節の頭骨遠位端骨折・脊椎圧迫骨折と並んで、転倒などの弱い外力で起きることもあります。
上腕骨近位端骨折に合併する損傷として、神経損傷や脱臼があります。神経損傷では腕を挙げるなどの運動ができなくなる場合があります。脱臼を合併している場合は、骨折のみの場合と異なる治療法が選択されます。
診断自体は単純X線(レントゲン)のみで可能なケースがほとんどです。しかし、上腕骨近位端骨折では骨折の転位(骨片のずれやねじれ)の程度により治療方針が異なるため、CT検査やMRI検査も行われます。
転位がない場合は、保存的治療が選択され、三角布やバストバンドなどで最低3週間は肩関節を固定します。固定期間中は手指の腫れの軽減や手関節・肘関節の拘縮予防のための運動や筋力トレーニングを行います。肩関節の可動域訓練などのリハビリテーションは、痛み・腫れの軽減の程度に応じて開始します。
手術適応は、骨折分類と転位の程度によって判断されます。従来は鋼線(ワイヤー)を用いる手術が一般的でしたが、近年では髄内釘固定法やプレート固定法などの手術も行われます。脱臼を合併している場合には、人工骨頭置換術が選択されるケースもあります。
肩関節は、動かさずにいると可動域が制限されやすい関節です。保存的治療・手術ともに、早期に可動域訓練や筋力トレーニングを始めることが推奨されます。
上腕骨近位端骨折の合併症や後遺症は次の通りです。
- 骨癒合遷延
- 偽関節
- 変形
- 可動域制限
- 上腕骨頭無腐性壊死
- 成長障害(小児のみ)
骨癒合遷延や偽関節は、すべての骨折に合併する可能性があります。骨癒合までにかかる期間が長い場合は骨癒合遷延、骨癒合が見られない場合は偽関節となり、いずれも再手術が必要です。変形が著しかったり、生活に支障をきたす機能障害が見られたりする場合も、手術が必要となります。
可動域制限とは、骨折前と比べて肩関節の動きが悪くなることです。
上腕骨頭無腐性壊死とは、血行障害により上腕骨頭部分が壊死してしまう症状です。特殊な骨折だったり、脱臼を合併していたりする場合に見られ、関節の変形が起こることもあります2)。
また、小児で骨端線(成長線)の損傷を含む肩関節の骨折をした場合、成長障害が見られることがあります。成長にともなって骨折していない方と比べて変形をきたすことがあるため、骨癒合後もしばらく経過観察が必要です3)。
鎖骨骨折
鎖骨は、肩甲骨とともに肩鎖関節という肩関節のひとつを構成している骨です。反対側は胸骨と胸鎖関節を形成しています。
鎖骨骨折は、すべての骨折中約1割を占めるほど多い骨折です。小児でも比較的多く見られ、スポーツや交通事故、転倒などで肩や腕を強打した衝撃で折れる場合がほとんどです。
鎖骨骨折では、骨が折れた部分に痛みや腫れが生じ、腕を挙げられなくなるなどの症状が見られます。骨折により鎖骨がずれ、折れた部分の皮膚が突き出て見えたり、骨折した骨が周りの血管や神経、肺などにダメージを与えてしまったりすることも。
診断は単純X線(レントゲン)やCT検査で行います。一般的に、治療は保存的治療が選択されます。とくに小児の鎖骨骨折では、保存的治療が原則です。骨のずれを直してから包帯や鎖骨バンド(クラビクルバンド)などで固定します。固定期間は乳幼児で2~3週間、小中学生で4~6週間程度、成人では最大12週間程度で、年齢が低いほど短期間です。
骨のずれが激しい場合や、保存的治療で骨癒合が見られない(偽関節)場合は、手術が選択されます。鎖骨の外側の骨折(鎖骨遠位端骨折)では骨癒合しづらいため、最初から手術が検討されることもあります。手術は鋼線(ワイヤー)やプレートによる固定が一般的です。
鎖骨骨折中は、無理のない範囲で日常動作を行うようにし、肩関節の拘縮予防のために可動域訓練などのリハビリテーションを行います。本格的なリハビリテーションは骨癒合後に開始します。
鎖骨骨折では、合併症・後遺症として、骨癒合遷延や偽関節、変形、痛みをともなう関節症などが見られる場合があります4) 5)。
肩関節に痛みを生じる骨折以外の病気
骨折以外にも、肩関節に痛みを生じる病気として次のようなものが挙げられます6)。
- 肩こり
- 翼状肩甲骨(翼状肩甲)
- 肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)
- 石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)
- 腕神経叢損傷
- 胸郭出口症候群
- 反復性肩関節脱臼
交通事故や転倒など、痛みのきっかけがはっきりとわかっている場合や、運動障害・感覚障害がある場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
肩関節に痛みを生じる病気については、「【医師監修】肩関節が痛いときの原因は?疑われる疾患や生活上の注意点を解説」 で詳しく解説しています。
肩関節に急な痛みを感じたら病院へ!
肩関節に外力を受けると、上腕骨や鎖骨が折れてしまう場合があります。肩関節を構成する骨の骨折は、放置すると合併症や後遺症につながることも少なくありません。もしも肩関節に強いダメージを受けた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
先生からのコメント
上腕骨近位端骨折や鎖骨骨折は比較的よくある骨折です。いずれも保存治療となる場合が多いですが、ズレがひどかったり、鎖骨遠位端骨折といわれる鎖骨の端の方の骨折などの場合は手術が必要になります。
また子どもや若い方の場合はあまり心配ありませんが、高齢者の場合には保存治療もしくは手術後のリハビリが重要になってきます。痛みがあるからと、ずっと動かさないでいると肩関節拘縮がおこり、肩が上がりづらくなってしまうことがあります。肩が上がりづらくなってしまうと、高いところにあるものをとったり、髪を洗ったりすることがやりづらくなってしまいます。
骨折部位自体は1ヶ月程度で弱い骨ができてずれなくなってきますが、それで安心することなく、医師やリハビリ技師の指示に従い積極的にリハビリをするようにしましょう。
【参考】
1)西日本整形・災害外科学会 整形外科と災害外科 67:(4) 肩甲骨骨折の治療経験
2) 一般社団法人 日本骨折治療学会 一般の方へ 骨折の解説 上腕骨近位端骨折
3) 一般社団法人 日本骨折治療学会 一般の方へ 骨折の解説 こどもが骨折してしまった!! ひょっとして骨折??
4) 一般社団法人 日本骨折治療学会 一般の方へ 骨折の解説 鎖骨骨折
5) 社会医療法人有隣会 東大阪病院 鎖骨骨折について
6) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 肩周辺の症状
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