記事監修者:眞鍋 憲正 先生
再生医療は、事故や病気などで損なわれた身体の機能の回復をはかる治療の一つです。再生医療はヒト由来の細胞・幹細胞や、人工的な材料が用いられます。本記事では再生医療を受けるメリット・デメリットについて詳しく紹介し、再生医療での改善が期待できる関節痛をきたす疾患について解説します。
膝関節や股関節などの痛みで再生医療を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
再生医療とは?
再生医療とは、ヒト由来の細胞や幹細胞を利用した治療を指す言葉です。現在、再生医療は難病を含む病気の原因解明や治療法の確立1)から、美容目的の施術2)にまで用いられています。
幹細胞は、血管・軟骨・神経・骨・脂肪・筋肉などさまざまな細胞へ変化を遂げる「分化能」と、「自己複製能力」を持っています。再生医療に用いられることが多いのは「間葉系幹細胞」で、以下の場所から採取2)できます。
- 骨髄
- 脂肪
- 臍帯(へその緒)
- 乳歯髄(子どもの乳歯)
以前は骨髄由来の幹細胞治療が多く行われていましたが、採取にともなう負担が大きいというデメリットがありました。そのため、現在の再生医療では、採取時の負担が少ない脂肪由来の幹細胞が多く用いられています。
なお、臍帯由来の幹細胞は出産時にしか採取できない貴重なもので、白血病や再生不良性貧血などの血液疾患の治療に利用2)されます。
多くの成長因子を含む乳歯髄由来の幹細胞は、増殖力や再生力に優れているといわれています。さまざまな疾患の改善効果があると期待されています3)が、美容目的で使われることも多いようです。
また、2024年3月、再生医療に関する法律である「再生医療等安全性確保法」の改正案が内閣に提出されました。再生医療の今後について詳しく知りたい方は、次の記事もご覧ください。
▶【医師監修】再生医療等安全性確保法とは?法改正の理由と内容について詳しく解説
再生医療を受けるメリット
- 失われた体の組織や機能を取り戻せる
- 難病の根治を目指せる
- 体への負担が少ない
- 治療の選択肢を広げる
再生医療で利用する幹細胞は、さまざまな細胞へ分化します。たとえば、軟骨は血液供給などの乏しさから、「一度傷むと再生しない」といわれてきました4)が、幹細胞から分化させることは可能です。つまり、再生医療は軟骨のすり減りによる変形や炎症、それにともなう可動域や日常生活の制限を根本的に治療・解決できる可能性がある5)のです。
再生医療は、今まで効果的な治療がなかった疾患に対する新たな治療法としても注目されています。実際に、日本では2014年から回復が難しいとされている「加齢黄斑変性」に対してiPS細胞由来の細胞の移植手術6)が行われており、実用化に向けて臨床研究が進められています7)。
対症療法による症状の緩和や、進行を食い止めることしかできなかった難病に対しても、再生医療の効果が期待されています。指定難病とされているパーキンソン病8)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)9)などの神経変性疾患10)、先天性骨系統疾患の低ホスファターゼ症11)などに対する新たな治療法の確立12)にも役立てられています。
自由診療で行われている再生医療の多くは、患者さま自身から採取した幹細胞や細胞を培養・抽出して、それを注射などで患者さまの体に入れるものです。そのため、通常の臓器移植などとは異なり、拒絶反応が起こりにくいというメリット13)があります。
また、整形外科領域の疾患に対する再生医療は、保存的治療と手術の間をつなぐ「第三の治療法」とも考えられています。従来は、保存的治療の効果が芳しくない場合はそのまま手術が検討されていましたが、再生医療という選択肢が増えたことにより、侵襲性の高い手術を受けずにQOLの回復を目指すこともできるようになった14)のです。
再生医療を受けるデメリット
再生医療には大きなメリットもある一方、次のようなデメリットもあります。
- 効果には個人差がある
- 副作用が起きる可能性がある
- 治療費が高額になりやすい
- 受けられる医療機関が限られる
- 誰でも受けられるわけではない
再生医療は患者さま自身の幹細胞を利用して行う治療であるため、効果には個人差があります。持病や体質によっては効果が表れにくかったり、予想よりも効果が感じられなかったりする場合がある15)ため、事前に医師とよく相談したうえで治療を検討しましょう。
再生医療は注射で幹細胞や細胞を採取し、培養してから再び注射で患者さまの体内へ投与する治療方法です。注射にともない、痛みや出血、感染などのリスク16)があります。命にかかわる重篤な副作用としては、脂肪塞栓症17)があります。また、再生医療はまだ新しい治療法のため、未知の副作用が起きる可能性があることも知っておきましょう。
多くの再生医療は自由診療となり、保険適用では受けられません。再生医療にかかわる治療費はすべて自己負担のため、高額になりがち15)です。
再生医療は厚生労働省に届出をした医療機関でしか受けられません18)。また、届け出は再生医療等の安全上のリスクに応じて、第一種から第三種まで分類19)されています。治療に先立ち、受けたい再生医療を提供している医療機関を探さなければなりません。
新しい治療法として注目されている再生医療ですが、患者さまの持病や体の状態によっては、適応とならない場合があります。とくに悪性疾患(がん)を有する方が再生医療を受けると、がん細胞が過剰に増殖してしまうことが考えられます。また、自己免疫疾患を持病に持つ方や全身状態の悪い方、抗がん剤・免疫抑制剤を使用している方、薬剤過敏症の既往を持つ方などは、再生医療を受けられません20)。
関節の痛みを緩和する再生医療とは?
組織の修復や機能の改善などの効果が期待される再生医療ですが、関節の痛みに対して用いられることもあります。ここからは、外来でも可能な注射での再生医療を4種類紹介します。
- PRP療法
- APS療法
- PFC-FD療法
- ASC療法
PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)療法21)は、患者さまの血液を遠心分離し、成長因子を多く含む層を抽出して、患部の関節内に注射する方法22)です。
APS(Autologous Protein Solution:自己たんぱく質溶液)療法はPRP療法を発展させた治療法です。PRPをさらに遠心分離・特殊加工して、炎症抑制のはたらきを持つたんぱく質と、軟骨を守る成長因子を高濃度に抽出して、患部に投与21)します。
PFC-FD(Platelet-derived Factor Concentrate Freeze Dry)療法23)も、PRP由来の有効成分を使用する治療法です。PRPからさらに細胞を除去し、成長因子を濃縮して抽出し、凍結乾燥させます。投与直前に注射用の液体に溶かして関節内に投与22)します。
ASC(Adipose-derived Stem Cell)療法は、脂肪由来の幹細胞を利用する再生医療です。注射で患者さまの脂肪を吸引し、脂肪肝細胞だけを抽出・培養します。培養した脂肪肝細胞は、患部の関節内に注射で投与24)します。
再生医療の対象となる関節痛を起こす疾患
最後に、外来でできる再生医療で痛みの緩和が期待できる、整形外科領域の代表的な疾患について表でまとめてご紹介します。
痛みが起こる関節 | 疾患名 |
肩関節 | ・肩関節周囲炎(四十肩・五十肩) ・腱板損傷 ・変形性肩関節症 |
肘関節 | ・変形性肘関節症 ・テニス肘(上腕骨外側上顆炎) ・ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎) |
股関節 | ・変形性股関節症 ・大腿骨頭壊死 ・大腿骨頚部骨折 |
膝関節 | ・変形性膝関節症 ・半月板損傷 ・膝蓋腱炎 ・腸脛靭帯炎 ・鵞足炎 |
足関節 | ・変形性足関節症 ・足底腱膜炎 |
上記のほか、過去の外傷による後遺症や、関節リウマチなどの全身疾患から来る炎症や痛みの軽減のために、再生医療が検討されることもあります。
リスクを把握したうえで再生医療を検討しよう
新しい治療法として注目されている再生医療ですが、メリットばかりを享受できるわけではありません。副作用などのリスクや費用面などのデメリットがあることも把握したうえで、ご自身の症状に適した再生医療を検討することが大切です。なかなかよくならない慢性的な関節痛でお悩みならば、再生医療も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
【監修医師のコメント】
再生医療は、失われた組織や器官を再生させる革新的な治療法として期待されています。メリットとしては、従来の治療法では治癒が難しかった疾患に対する新たな治療選択肢となりうる点、患者自身の細胞を用いるため拒絶反応のリスクが低い点などが挙げられます。デメリットとしては、治療費が高額であること、効果が確立されていない疾患や部位もあること、長期的な安全性や有効性に関するデータが十分でないことなどが挙げられます。
再生医療は、今後の医療の発展が期待される分野ですが、まだ全ての疾患に適用できるわけではありません。治療を受ける際は、医師と十分に相談し、メリットとデメリットを理解した上で、ご自身の判断で行うことが重要です。
【参考】
1) 一般社団法人日本再生医療学会 再生医療PORTAL 再生医療について
2) 一般財団法人 日本再生医療協会 公認団体 日本再生医療アテンドセンター 幹細胞治療とは
3) 医療法人さくら会 銀座NANAクリニック 歯髄幹細胞由来培養上清
4) TOKYOひまわりクリニック ひざ軟骨と再生医療について早わかり!軟骨は再生しない?治療方法と費用について徹底解説!
5) 再生医療専門クリニック リペアセルクリニック 東京院 軟骨は再生しないのか?
6) 公益財団法人先端医療振興財団 独立行政法人理化学研究所 「滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植に関する臨床研究」第1症例目の被験者の退院について
7) 地方独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立神戸アイセンター病院 iPS細胞の実用化に向けた取り組み
8) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター パーキンソン病(指定難病6)
9) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)
10) 住友ファーマ株式会社 iPS細胞ーからだを再生できるすごい細胞
11) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 低ホスファターゼ症(指定難病172)
12) 島根大学医学部小児科 研究について 間葉系幹細胞を用いた希少難病の再生医療
13) Gクリニック 院長ブログ 第17回 再生医療のメリット・デメリットについて
14) オムロン株式会社 痛みwith 膝の再生医療 - 期待できる効果と注意点
15) ヒロクリニック 再生医療のデメリット
16) 銀座よしえクリニック 幹細胞治療にデメリットはある?リスクやトラブル回避法について解説します
17) 一般社団法人 日本再生医療学会 第58回再生医療等評価部会 資料3-1 間葉系幹細胞等の経静脈内投与の安全な実施への提言(案)
18) 世田谷玉川 整形外科 内科 クリニック 再生医療について
19) 再生医療PORTAL FAQ 再生医療の分類、第一種・第二種・第三種とは、どのような違いがありますか?
20) リブラささしま メディカルクリニック 再生医療の適応疾患
21) 北里大学北里研究所病院 再生医療(PRP療法・APS療法)
22) 東京女子医科大学 整形外科 関節再生医療|人工関節
23) 産業医科大学若松病院 PFC-FD療法について
24) 医療法人 弘昭会 大森整形外科リウマチ科 ASC(培養脂肪幹細胞)治療
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