【医師監修】ひざ軟骨のすり減りはなぜ起こる?おもな原因と治療方法、再生医療の効果を解説

歩いたり膝を曲げたりしたときに、関節に痛みが出て悩んでいる方もいるのではないでしょうか。その痛みの原因は、もしかしたら膝軟骨のすり減りによる可能性があります。膝軟骨のすり減りによる痛みの場合は、治療を早く行うことが重要です。

この記事では、膝軟骨がすり減る原因や具体的な治療法、再生医療の特徴をご紹介します。どのような原因で起こるかを知ることで、適切な治療を進められるきっかけになるでしょう。

膝軟骨の役割とは?

膝の関節内にある軟骨には、どのような役割があるのでしょうか。ここでは、具体的な役割と膝軟骨に関係する疾患をご紹介します。

関節の動きを滑らかにする

膝軟骨には、関節同士の摩擦を軽減して、動きをスムーズにする働きがあります1)。軟骨がクッションのような役割をすることで、歩行時や運動の際に膝にかかる衝撃を吸収・分散しているのです。

運動時、膝には体重の何倍もの負荷がかかると言われています2)。このときに軟骨が衝撃を吸収することで、骨にかかる負荷を分散して痛みを出さないようにしています。

膝軟骨がすり減ると変形性膝関節症の発症につながる

膝軟骨がすり減ると、「変形性膝関節症」と言う疾患の発症につながる可能性が高くなります。変形性膝関節症とは、膝軟骨がすり減ることで起こる疾患です。変形性膝関節症の発症初期では、立ち上がりや歩き始めなど動作の開始時に痛みが出やすくなります。症状が進行すると痛みが強くなり、正座や階段の昇降が困難になることも少なくありません。

変形性膝関節症の原因には加齢による軟骨の老化が代表的ですが、膝の使いすぎやケガによる損傷も関係しています。日本整形外科学会によると、この病気は女性に多くみられ、男女比は1:4とされています3)。変形性膝関節症については、以下の記事も参考にしてみてください。

関連記事:変形性膝関節症 | ひざ関節の痛み解消ナビ

膝軟骨のすり減りが起こる5つの原因

膝軟骨がすり減る原因として、おもに以下の5つが考えられます。

  1. 加齢による膝軟骨の衰え
  2. 膝の使いすぎ
  3. ケガによる膝の損傷
  4. 体重の増加
  5. O脚

それぞれの原因について詳しく解説します。

1. 加齢による膝軟骨の衰え

1つ目が、加齢による膝軟骨の衰えです。健康な膝軟骨は水分を多く含んでおり、クッションのような役割を果たしています4)。しかし高齢になると水分量が減少し、膝軟骨の弾力性が失われることで、本来の機能が低下し始めます。

前述したように、変形性膝関節症も加齢にともなって発症しやすい疾患です3)。そのため、高齢の方はとくに膝軟骨のすり減りに注意しましょう。

2. 膝の使いすぎ

2つ目は、膝の使いすぎによるものです。膝は体重を支える重要な関節であり、普段の生活やスポーツで絶えず負荷がかかっています。この負荷が長期間続くと、軟骨が徐々にすり減る原因となるのです1

とくに正座や和式トイレの使用など、膝を深く曲げる動作は膝軟骨に大きな負担がかかります5。立ち仕事や階段の上り下りを頻繁に行う方も、膝への負担が蓄積しやすい傾向にあります。

3. ケガによる膝の損傷

3つ目は、ケガによる膝の損傷です。外傷や激しいスポーツなどで膝軟骨が直接損傷することがあります。膝軟骨の損傷を引き起こしやすいケガは、おもに以下のとおりです。

膝のまわりには、さまざまな靭帯がついており、関節の動きのサポートや安定性を高める役割があります6。半月板とは、膝関節を構成する骨の間にある線維軟骨組織のことで、体重の負荷を分散させたり関節の位置を安定させたりする働きがあります7。このような靭帯や半月板が損傷すると、関節の安定性が低下し、膝軟骨にかかる負荷が大きくなる恐れがあるのです。

膝の代表的な疾患について詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひご覧ください。

関連記事:【医師監修】膝の痛みの原因は?考えられる疾患や治療法を解説

4. 体重の増加

4つ目は、体重の増加によるものです3)。膝は大きな負荷がかかりやすい関節であり、ランニングの際は体重の8〜10倍の衝撃が加わるとされています8。そのため、肥満や体重が増加した状態が続くと、膝軟骨は常に過剰な負荷がかかりやすくなるのです。この持続的な負荷によって軟骨のすり減りが進んでしまいます。

体重の増加とともに膝の痛みが出てきた場合は、それが影響している可能性があります。膝関節を労わるためにも、適切な食事管理によって体重の増加を防ぐことが重要です。

5. O脚

5つ目は、O脚による影響があげられます。O脚とは、両足が「Oの字」になり、膝の間に隙間ができる状態のことです。O脚では体重が膝関節の内側に集中するため、その部分の軟骨がすり減りやすくなります。

O脚の原因として、筋力の低下や生まれつきによるものなどが考えられています。とくに女性の高齢者に多いとされており、O脚の状態が長期間続くと変形性膝関節症につながる恐れもあるのです9。O脚を改善するためには、大腿四頭筋(だいたいしとうきん:太ももの筋肉)をはじめとした膝まわりの筋力の強化が重要です。

O脚と変形性膝関節症の関係性については、以下の記事でも解説しています。

関連記事:【医師監修】変形性膝関節症とO脚の関係性とは?おもな治療法や生活上の注意点を解説

すり減った膝軟骨は自然に再生する?

すり減った膝軟骨は、自然に再生しにくいと考えられています。膝軟骨には血管がほとんど通っておらず、栄養や酸素の供給が制限され、組織の修復が起こりにくいとされています1)。すり減った膝軟骨をそのままにすると、変形性膝関節症につながり、軟骨のすり減りがさらに進行します。

その結果、膝の痛みや、動きの制限が強くなる可能性もあります。膝軟骨のすり減りに気づいたら、早めに整形外科のある医療機関へ受診し、適切な治療を受けることが重要です。

膝軟骨のすり減りに対する治療法

膝軟骨のすり減りに対して、一般的にどのような治療が行われるのでしょうか。ここでは、おもな治療法を詳しくご紹介します。

保存療法

手術以外の手段で症状の改善・悪化予防を図る治療法です。膝軟骨のすり減りがそこまで進行していない段階では、まず保存療法による治療が行われます。具体的な治療内容として、以下があげられます10)

症状が軽度の場合であれば、これらの保存療法の組み合わせによって十分に対応できることも多いです。

手術療法

保存療法で思うような効果が得られない場合や、症状が悪化している場合は、手術による治療が検討されます。膝軟骨のすり減りに対する手術はさまざまですが、「骨切り術」や「人工関節置換術」などが代表的です10)

骨切り術とは、膝関節を構成する脛骨(けいこつ:すねの骨)の一部分を切り、関節の角度を調整する手術法です。関節に負担がかかる部位を整えることで、膝軟骨のすり減りの防止につながります。人工関節置換術とは、関節を人工物に入れ換える手術のことです。すり減りの程度が強く、日常生活に支障をきたすような方に対して行われます。

膝軟骨のすり減りに対する新しい治療「再生医療」とは?

近年では、膝軟骨のすり減りに対する新しい治療として「再生医療」が注目されています。ここでは再生医療とはどんな治療法なのか、膝軟骨のすり減りにどのような効果が期待できるのかを解説します。

人の再生能力を活用した治療法

再生医療とは、人が本来持っている自然治癒力を活用した治療法です。代表的な再生医療として、「PRP(多血小板血漿)療法」があげられます。PRP療法とは、自身の血液から「血小板(けっしょうばん)」と呼ばれる成分を濃縮し、それを患部に注射する治療法です。この血小板には、傷ついた組織の修復を促進する成長因子が豊富に含まれているとされています11)

再生医療は自身の組織を使用するため、副作用や拒絶反応が起きにくいと言うメリットもあります12)。このように、再生医療は保存療法や手術療法に加わる新しい治療法と言えるでしょう。

再生医療については、以下の記事も参考にしてみてください。

関連記事:再生医療 | ひざ関節の痛み解消ナビ

膝のすり減りに対する再生医療の効果

再生医療は、膝軟骨のすり減りに対しても効果が得られるとされています。実際に、変形性膝関節症の方に対してPRP療法を実施したところ、関節機能の改善や痛みが軽減したという報告もあります。また、そのような効果は保存療法よりも高い傾向にあるとされています13)

PRP療法は患部に注射するだけなので、施術も短時間で可能です。「保存療法では効果が感じられないが、手術には抵抗がある」と言う方にとって、再生医療は新しい選択肢となるでしょう。

お近くで再生医療を扱っている医療機関を探したい方は、こちらから検索してみましょう。

再生医療の注意点

再生医療は膝軟骨のすり減りに対する効果が期待できますが、すべての方に適しているわけではありません。まず、再生医療はおもに症状が軽度から中等度の方に効果が現れやすくなります。関節の変形が重度で軟骨が減少している場合、再生医療よりも手術のほうが適している可能性があります12)

再生医療は保険適用外であり、経済的な負担もかかりやすい点にも注意が必要です。膝軟骨のすり減りの治療を受ける際は、医師と十分に相談し、自分の症状や状態に適した方法を選択することが大切です。

膝軟骨のすり減りに対する治療では再生医療の検討を

膝軟骨がすり減ると動きの悪さや痛みなど、変形性膝関節症の症状が悪化する恐れがあります。膝軟骨がすり減る原因には加齢による組織の衰えや、膝の使いすぎなど、さまざまなものが考えられます。

膝関節の痛みが続く場合は、整形外科のある医療機関へ受診し、適切な治療を受けることが重要です。受診した医療機関で再生医療を扱っている場合は、ぜひ検討してみましょう。

【医師からのコメント】
ひざ軟骨のすり減り、いわゆる変形性膝関節症は、中高年を中心に多くの方が悩まされる疾患です。主な原因は加齢による軟骨の変性に加え、過体重や膝への繰り返しの負担、O脚などのアライメント異常も関与します。軟骨は一度損傷すると自然回復が難しいため、進行を防ぐ早期対応が重要です。治療には保存療法(運動療法、体重管理、薬物治療)から、関節内注射、最終的には人工関節置換術などの外科的治療まで選択肢があります。

近年注目されている再生医療では、PRP(多血小板血漿)療法や幹細胞治療などがあり、進行抑制や痛みの軽減が期待されていますが、すべての方に有効とは限らず、現時点では補完的治療として位置づけられます。記事では、こうした治療の選択肢が網羅的に紹介されており、患者さんが自分に合った治療を検討するうえで非常に有益な内容です。

【参考】
1)聖路加国際病院|関節軟骨損傷の診断と治療
2)鳥取大学医学部|変形性膝関節症の自己管理
3)日本整形外科学会|変形性膝関節症
4)厚生労働省科学研究成果データベース|変形性関節症(OA)の病理、病態
5)日本理学療法士協会|シリーズ 7 変形性膝関節症
6)聖路加国際病院|膝複合靭帯損傷の診断と治療
7)順天堂医院|膝半月板損傷
8)「変形性膝関節症におけるスポーツの功罪」三浦 裕正, 体力科学 第67巻 第1号 1(2018)
9)「地域在住女性高齢者におけるO脚の有無と身体機能との関連」村田 伸、中野 英樹ら,Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy Vol. 12, No. 2:51-56, 2022
10)慶應義塾大学病院|変形性膝関節症
11)北里大学|再生医療
12)東京女子医科大学|関節再生医療|人工関節
13)「変形性膝関節症の病態と治療方針―多血小板血漿による自由診療を含めて」大島 康史、眞島 任史, 日医大医会誌 2023:19(4)

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