2007年、自治医科大学医学部を卒業後、長崎医療センターに勤務。その後、長崎県上五島病院や長崎県対馬病院で離島医療に携わったほか、福岡大学病院整形外科や長崎県島原病院で経験を積んだうえで、2020年いでた整形外科クリニックを開院。日本DMAT隊員や長崎県難病指定医などを務め、地域医療への貢献意欲も高い。
記事監修者:出田 聡志 先生

夏になると膝の痛みがひどくなると悩む高齢者の方は多くいらっしゃいます。「暑さによる体力の低下」や「エアコンの冷え」のせいだと考えがちですが、実はその背景には、夏バテによる「サルコペニア(筋肉減少症)」があります。
夏は暑さのせいで食欲が落ち、そうめんだけで済ませてしまうなど偏った食生活になりがちです。こうした「夏の栄養不足」こそが、短期間のうちに太ももの筋肉を急激に萎縮させ、膝の痛みを一気に悪化させる引き金になります。
本記事では、夏バテによるサルコペニアが高齢者の膝痛を悪化させる医学的メカニズムと、それを防ぐための正しい栄養補給、そして整形外科で行うべき安全な「運動療法(リハビリ)」についてわかりやすく解説します。
この記事でわかるこの記事でわかること
✅夏バテによる「たんぱく質不足」が太ももの筋肉を減らし、膝痛を悪化させるメカニズム
✅食欲がない夏場でも効率よく筋肉と軟骨を守る「食事法と栄養補給」
✅手軽に自宅で判定できる「指輪っかテスト」などサルコペニアの簡単セルフチェック法
✅大人になってからの手術の必要性や、膝が熱を持って痛むときの正しい応急処置
✅筋肉を落とさないための運動療法
✅痛みを和らげながら無理なく継続できる「整形外科での安全な運動療法(リハビリ)」
医師からのコメント
夏の暑さでそうめんなど炭水化物中心の食事が続くと、筋肉の材料であるタンパク質が不足します。高齢者の場合、この低栄養状態が太ももの筋肉(大腿四頭筋)の急激な萎縮、つまりサルコペニアを招きます。大腿四頭筋は膝の衝撃を吸収する大切なクッションです。ここが弱ると歩行時の負担が直接関節にかかり、変形性膝関節症の悪化や激痛の引き金となります。膝を守るには、消化の良い良質なタンパク質を意識して摂ることと、関節に負担をかけない適切なリハビリが不可欠です。自己流の筋トレで痛みを悪化させる前に、まずは整形外科を受診し、ご自身の状態に合った正しい運動指導を受けてください。
この記事の監修医師:出田 聡志(整形外科医)
夏バテの食欲不振が招く「サルコペニア」と高齢者の膝痛のリアル
サルコペニアとは?
サルコペニア(Sarcopenia)とは、加齢や活動量の低下、栄養不足などによって、全身の筋肉量や筋力が急激に減少していく状態を指します1)。とくに高齢者は年齢とともに筋肉が減少傾向にあるため、夏の暑さによって骨格筋量減少と筋力低下が急加速します。
高齢者の筋力低下とサルコペニア
夏になると、食欲がないときでも食べやすい「そうめん」「そば」「お茶漬け」などを選ぶ方も多いでしょう。しかし、炭水化物に偏ったこれらの食事には、筋肉を作る最も重要な材料である「タンパク質」がほとんど含まれていません。
タンパク質が不足した低栄養状態が続くと、身体は筋肉を削って生命を維持しようとします。その結果、本人が気付かないうちに太ももやお尻の大きな筋肉が落ち、立ち上がりや歩行のバランスを崩してしまうサルコペニアへと進行していくのです2)。
なぜ夏に膝が支えられなくなるのか?低栄養と膝痛悪化のメカニズム
食欲低下によるタンパク質不足は、具体的にどのようにして膝関節の物理的な痛みにつながるのでしょうか。
加齢によって減りやすい筋肉はどこ?
夏バテで食事が細くなりタンパク質が不足すると、筋肉を作ることができず筋力が低下します。 加齢によってとくに減りやすいとされている筋肉のひとつが、太ももの筋肉である「大腿四頭筋」と言われています3)。健康な状態であれば、太ももの筋肉がクッションとなって歩行時の衝撃を逃がしてくれますが、筋肉が減少した膝では、歩くたびに体重の3〜5倍もの衝撃が膝の軟骨(半月板や関節軟骨)を直撃します。
これにより、もともと「変形性膝関節症」を患っていた方は、夏の間に軟骨のすり減りが加速し、滑膜(かつまく)が激しい摩擦熱で火傷のような炎症を起こして激痛や膝の腫れ(水が溜まる状態)を引き起こすのです。
夏バテから膝を守る!筋肉を維持・回復するための食事法
夏場でも膝の筋肉を削らせないためには、弱った胃腸に負担をかけずに、筋肉を創る材料を素早く体内に届ける工夫が必要です。
「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」と「ペプチド」が筋肉増強や修復を助ける
夏バテで胃腸の消化吸収能力が落ちているときは、お肉や魚をたくさん食べることが難しくなります。そこでおすすめなのが、すでに分解されていて身体に素早く吸収される栄養素の摂取です。
卵、豆腐、白身魚、乳製品など、胃腸に優しく良質なタンパク質を含む食材を毎食少しずつでも取り入れる工夫が基本です。その上で、食欲が湧かない時の補助としてBCAAやペプチドを活用しましょう。
分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、 筋肉を構成する主役であるバリン、ロイシン、イソロイシンの総称です。脳へ「筋肉を作れ」という命令を出し、筋肉の分解を直接ストップする働きがあります4)。
ペプチドとは、アミノ酸が2個以上結合した分子です。 タンパク質がアミノ酸に分解される手前の状態で、胃腸に負担をかけずにスピーディーに体内に吸収されるため、食欲がないシニア世代の栄養補給に最適と言われています5)。
なお、筋肉の材料であるアミノ酸を補うと同時に、すり減り始めている軟骨の弾力を守る成分を合わせて摂ることも意識しましょう。
主に、プロテオグリカンやコラーゲン、ヒアルロン酸は水分を強力に抱え込み、膝のクッション性を保つための必須成分です。プロテオグリカンやコラーゲン、ヒアルロン酸などを日常的なサプリメント等で軟骨成分の構成材料を補うことは健康維持の助けになりますが、それだけで関節が修復されるわけではありません。適切な食事と運動療法をメインに据えることが重要です6)。
筋肉を落とさないための運動療法(リハビリ)
筋力低下によって起こるサルコペニアの対策には、運動療法が最適です。しかし、「筋肉をつけなければ」と、暑い中無理に屋外を歩き回ったり、自己流のスクワットを始めたりするのはあまりおすすめしません。酷暑が多い昨今では、熱中症になる可能性もあるからです。
自己流のスクワットは膝の寿命を縮める可能性も
大腿四頭筋を鍛えようとして間違った姿勢でスクワットを行うと、体重が膝のお皿(膝蓋骨)の裏側に異常に集中し、かえって軟骨をボロボロに傷付けてしまうケースがあります。とくに、膝が内側に入ってしまう「ニーイン(Knee-in)」の姿勢でのスクワットは、変形性膝関節症を劇的に悪化させます7)。
整形外科で安全なリハビリを
医師や理学療法士の指導のもと、ご自身に合った方法・強度で運動や筋力トレーニングを行いましょう。
整形外科でのリハビリは、サルコペニアの症状や患者さまの体力などにあわせた、運動プログラムなどが用意されています。
クリニックによっては、温熱療法や電気刺激などと組み合わせて膝の痛みを和らげながら行うため、無理なく運動を継続できるのもメリットです。医師の診断のもと、治療の一環として健康保険を適用することで安価にリハビリを継続できます。お近くの整形外科などに訪ねて、医師や理学療法士に相談してみましょう。
よくある質問Q&A
いでた整形外科クリニックの出田先生が、患者さまからよくいただく質問にお答えします。
Q1.夏バテで体重が3キロ減りました。膝にかかる体重の負担が減って、むしろ膝痛には良いのではないですか?
A.いいえ、非常に危険な痩せ方です。体重が減ること自体は膝の負担を減らしますが、それは「余分な体脂肪」が減った場合の話です。夏バテによる急激な体重減少のほとんどは、水分と筋肉の減少によるものと考えられます。とくに体重を支えるための太ももの筋肉(大腿四頭筋)が3キロ分落ちれば、たとえ全体の体重が軽くなったとしても、膝にかかる不安定さと荷重衝撃はそれ以上に増大し、結果として膝痛が悪化する可能性があります。
Q2.高齢者が自分でサルコペニアかどうかを調べる簡単なセルフチェック法はありますか?
A.「指輪っかテスト」や「立ち上がりテスト」で簡単にチェックできます。「指輪っかテスト」では、両手の親指と人差し指で輪っかを作り、利き足ではない方のふくらはぎの最も太い部分を囲みます。輪っかに対してふくらはぎが細く、隙間ができてしまう場合はサルコペニアの疑いが極めて高いと言えます8)。「片脚立ち上がりテスト」では、両手を胸の前で交差させた状態で、高さ40cmほどの椅子から片脚だけで反動をつけずに立ち上がれるかテストします。これができない場合、膝を支える大腿四頭筋が著しく低下しているサインです9)。
Q3.高齢者がプロテインを毎日飲めば、運動をしなくても膝の筋肉を維持できますか?
A.プロテインを飲むだけでは、筋肉を維持・増強することはできません。プロテインはあくまで筋肉の材料です。家を建てるときに木材(プロテイン)だけを現場に置いても、大工さん(運動刺激)が働かなければ家が建たないのと同じです。運動の刺激を与えて初めて、摂取したタンパク質が筋肉へと合成されます。リハビリなどの軽い運動とプロテイン補給をセットで行うことが不可欠です。
Q4.夏場、暑くて外でのウォーキングができません。クーラーの効いた室内で安全にできる筋トレはありますか?
A.「パテラ・セッティング」がおすすめです。膝関節に自分の体重をかけずに、大腿四頭筋だけをピンポイントで鍛えられる代表的なリハビリメニューです。
フローリングやベッドの上に脚を伸ばして座り、膝の裏に丸めたバスタオルを置きます。そのバスタオルを膝の裏でぎゅーっと床に押し潰すように力を入れ、5秒間キープします。これを左右10〜20回繰り返します。
Q5.すでに変形性膝関節症で膝が痛い場合、無理に筋肉を鍛える運動をしても大丈夫ですか?
A.「痛みの種類」によります。激痛や熱感、腫れがある場合は、無理な運動を行わず医師の診察を受けてください。膝がジンジンと熱を持って腫れているとき(急性炎症期)に無理に運動を行うと、炎症がさらに悪化して軟骨が急速に傷ついてしまいます。まずは安静による回復やヒアルロン酸注射、内服薬で炎症と痛みを取り除くことが先決です。痛みが落ち着いた「慢性期」に入ってから、専門の理学療法士の指導を受けながら安全に運動療法を開始するのが回復への近道です。
【まとめ】筋肉の夏バテを解消し、一生歩ける膝を手に入れよう!
夏場に忍び寄る高齢者の膝痛の悪化は、単なる冷えだけでなく、栄養不足が引き起こす「サルコペニア」が深く関係しています。
そうめんなどの糖質に偏った食事でタンパク質が不足すると、膝を支える「太ももの筋肉」を削ってしまいます。弱った胃腸でも素早く吸収できる分岐鎖アミノ酸(BCAA)やペプチドなどの栄養補給を意識し、サプリメントで軟骨の保水成分もしっかり補いましょう。
そして、衰えてしまった筋肉を安全に取り戻すためには、自己流の運動で膝を痛める前に、専門の整形外科で理学療法士による正しい運動療法を受けることが最も賢明な選択です。適切な食事と安全な運動を両輪で回し、夏の暑さに負けない潤いに満ちた健やかな膝を維持しましょう。自己流運動で悪化させる前にリハビリ指導が受けられるお近くの優良な整形外科クリニックをこちらで検索してみてください。
【参考】
1)フレイルとは | 一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会
2)「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書|厚生労働省
3)サルコペニアの人を対象にした運動プログラム|一般社団法人 日本老年医学会
4)分岐鎖アミノ酸(BCAA)|カンタン解説!アミノ酸|アミノ酸大百科|味の素株式会社
5)ペプチドの効果とは?美容や健康への働きと主な種類・相性のよい成分を解説 | 協和薬品株式会社
9)立ち上がりテスト | ロコモONLINE | 日本整形外科学会公式 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト
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