2017年、神戸三宮のスポーツ整形外科病院(あんしんクリニック)に新卒入社。一般整形およびスポーツ整形、整形外科的手術の術後といった幅広いお客さまのリハビリに従事。園児から学生、ビジネスマン、アスリート、高齢者層までのべ3万人に理学療法を行った。臨床外ではバンコク解剖研修を修了、また身体に関する講演活動や全国学会での臨床研究発表も行う。2021年に株式会社GOAL-Bにて事業責任者、Mindset株式会社ではトレーナーを務める。2022年に御茶ノ水のB&Jクリニックにて非常勤理学療法士として従事したのち、渋谷にてLead off Health 整体院を開院。2023年7月に霞が関へ移転。
記事監修者:中川 利右司 先生

本記事では、歩行時に骨盤が沈み込んで体が不安定に揺れる「トレンデレンブルグ徴候(歩行)」のメカニズムや原因、改善のためのリハビリについて解説しています。
「歩くたびに骨盤がカクンと落ちる感覚がある」「足が前に出にくく、体が左右に大きく揺れてしまう」といった症状でお悩みの方やそのご家族向けに、トレンデレンブルグ徴候(歩行)が生じる原因や、悪化することで起こる影響、主な改善方法について、理学療法士の視点を交えてわかりやすく解説します。
✅ トレンデレンブルグ歩行の概要とデュシャンヌ歩行との違い
✅ 骨盤が落ちるような歩行を引き起こす主な5つの原因
✅ 放置することで生じる3つの重大なリスク(関節変形の進行や転倒など)
✅ 症状を改善・予防するための具体的なリハビリ・トレーニング方法
目次
トレンデレンブルグ徴候(歩行)とは?わかりやすく解説
トレンデレンブルグ徴候とは、障害や痛みがある足で片足立ちをした際に、地面から浮かせている足側の骨盤が、下方に傾いて沈み込んでしまう現象です。
例えば、片足で立ったとき、健康な状態であれば体重を支えている側の股関節周囲にある筋肉が強力に収縮することで骨盤を水平に固定します。しかし、トレンデレンブルグ徴候では、何らかの理由で骨盤を水平に固定できなくなり、骨盤が沈み込んだ姿勢になります。

「トレンデレンブルグ歩行」は、この「片足立ち時の骨盤の落下」が歩行中に連続して生じている状態です。トレンデレンブルグ歩行では、足を踏み出すたびに骨盤が左右にカクンカクンと落ち、それに伴って体全体が不安定に振れるような歩き方になります。患者自身は「歩きにくい」「足が前に出にくい」と感じるだけのケースも多くありますが、体の重心コントロールがうまくいっていない危険な状態です。
トレンデレンブルグ徴候(歩行)は、ドイツの外科医であるフリードリヒ・アドルフ・トレンデレンブルグに由来しています。
監修理学療法士からのコメント
臨床現場でトレンデレンブルグ歩行を呈する患者さんを多く担当してきましたが、ご本人が歩行の異常に気づいていないケースは非常に多いです。特に「最近なんとなく歩きにくくなった」「長距離を歩くと疲れやすい」という曖昧な訴えで整形外科を受診され、歩行分析をしてみて初めてトレンデレンブルグ徴候が判明するという場面は珍しくありません。ご家族から「歩き方がおかしい」と指摘されて来院される方も多くいらっしゃいます。
重要なのは、トレンデレンブルグ徴候は単なる「歩き方の癖」ではなく、股関節や骨盤周囲に何らかの機能的な問題が生じていることを示すサインだという点です。整形外科のリハビリ室では、歩行だけでなく片足立ちや階段昇降、靴底の減り方など、多角的な視点から原因を探っていきます。またトレンデレンブルグ歩行が継続されることにより、腰痛や膝痛の原因となっている方も多く担当してきました。
「年のせいだから仕方ない」と諦めてしまう方もいらっしゃいますが、早い段階で適切な評価を受けることで、リハビリによる改善の幅は大きく広がります。少しでも歩行時の違和感を感じたら、まずは整形外科を受診し、専門的な歩行評価を受けることをお勧めします。
この記事の監修医師:中川 利右司(理学療法士)
似ているようで違う「デュシャンヌ歩行」との違い
トレンデレンブルグ歩行と似て非なる歩行障害として「デュシャンヌ歩行(またはデュシェンヌ歩行)」が挙げられます。これらは、どちらも股関節周囲の筋肉の弱化や痛みが原因となって起こる異常です。ただし、トレンデレンブルグ歩行は軸足と反対側の骨盤が下に落ちるのに対して、デュシャンヌ歩行は軸足側へ上半身が傾きます。
このように、軸足側へ上半身が傾いてしまう現象は、股関節周囲の筋肉への負担や痛みを避けることが理由で起こるとされています。
| 比較項目 | トレンデレンブルグ歩行 | デュシャンヌ歩行 |
|---|---|---|
| 主な現象 | 軸足と反対側の骨盤が下に落ちる | 軸足側へ上半身(体幹)が大きく傾く |
| 歩行時の見た目 | 骨盤が左右にカクンと落ち、ふらつくように見える | 肩や頭が、体重を支える足の方へ大きく傾き、乗り込むように揺れる |
| 発生のメカニズム | 筋肉が重力に抗しきれず、骨盤が落下する | 股関節への圧力や筋肉の負担を積極的に減らすため、意図的に体の重心を股関節上に移動させている |
トレンデレンブルグ歩行を引き起こす5つの原因
トレンデレンブルグ歩行は単純に「一部の筋肉が弱くなっているから」というだけではありません。主な原因として以下のようなものが挙げられます。
股関節外転筋(中殿筋・小殿筋)の筋力低下
代表的かつ直接的な原因として挙げられるのが、骨盤を側面から支える中殿筋や小殿筋といった股関節外転筋群の機能低下です。骨盤から大腿骨にかけてついているこれらの筋肉は、片足立ちになった際に、骨盤が軸足の反対側へ落ち込むのを防ぐ役割を担っています。しかし、筋力の低下や過度な筋肉疲労の蓄積などで筋肉の機能が低下すると、骨盤を正常な位置で支えきれません。これが、トレンデレンブルグ歩行を引き起こす原因のひとつです。
また、内ももにある股関節内転筋群が過剰に緊張することで、股関節外転筋群の働きを阻害しトレンデレンブルグ歩行を引き起こす要因になるともいわれています。
股関節の可動域制限
変形性股関節症などの関節疾患も、トレンデレンブルグ歩行を引き起こす一因です。加齢や過度な負担、変形によって、股関節がスムーズに動く範囲が制限されると、筋肉も本来の力を発揮できなくなります。その結果、筋力そのものが失われていない場合であっても、筋肉が骨盤を支えられずに骨盤の傾きが生じてしまいます。
体幹の筋力低下
歩行時の骨盤の安定には、下半身の筋肉だけでなく、上半身と骨盤をつなぐ「体幹」にかかわる筋肉も重要です。内腹斜筋や腹横筋、多裂筋といったインナーマッスルは、歩行中に骨盤を引き上げて固定する役割を担っています。体幹の筋力が低下することで、股関節外転筋が骨盤を支えようとしても、上半身側からの支えが弱まり骨盤を安定させることが出来ず、トレンデレンブルグ歩行を引き起こす要因となります。
床反力の影響(足裏や靴の問題)
歩行の際に足の裏が地面に接地すると床反力が発生します。この床反力は、足首から膝、股関節、そして骨盤へと下から上へ順番に伝達されるため、足の裏や足首の異常が股関節に悪影響を及ぼすケースも少なくありません。
「扁平足によって足裏のアーチがつぶれている」「足首を外側から支える筋肉が弱い」「片側だけが極端にすり減った靴を長期間履き続ける」などによる足元の歪みによって、脚全体の荷重軸のズレが発生し骨盤を水平に保てなくなる要因となります。
先天性股関節脱臼や神経筋障害
生まれつきの要因や疾患もトレンデレンブルグ歩行につながることがあります。先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全など)の疾患では、トレンデレンブルグ徴候が現れやすいとされています。
また、脳卒中などの脳血管障害による神経筋障害も、トレンデレンブルグ歩行を引き起こす要因です。神経筋障害では、脳からの運動指令が筋肉に正しく伝わりにくくなり、筋肉のコントロールが失われて骨盤の水平維持が難しくなることがあります。
監修理学療法士からのコメント
整形外科での臨床経験を通じてお伝えしたいのは、トレンデレンブルグ歩行の原因は「中殿筋の筋力低下」だけに帰結しないということです。記事で紹介されている5つの原因は、実際の患者さんでは単独ではなく複数が同時に絡み合っているケースがほとんどです。例えば、変形性股関節症の患者さんでは、関節の可動域制限と痛みによる防御的な筋出力の抑制、さらに長期間の活動量低下に伴う体幹筋力の低下が複合的に生じています。このような場合、中殿筋だけを鍛えても歩行は改善しません。
また、見落とされがちな原因として「足部の問題」があります。私が担当した患者さんの中には、扁平足や外反母趾による足元の不安定性がトレンデレンブルグ歩行の一因になっていた方が少なくありませんでした。靴のインソールを調整しただけで骨盤の安定性が改善した例もあります。さらに、人工股関節置換術後の患者さんでは、手術によって痛みが改善しても、術前から続いていた筋力低下や誤った動作パターンが残存し、トレンデレンブルグ歩行が持続するケースがあります。術後のリハビリでは、筋力訓練に加えて「体重がかかった状態で骨盤を正しく保持する」という動作の再学習が不可欠です。
トレンデレンブルグ歩行の原因が様々だからこそ、起きうる症状も様々波及する恐れがあります。原因をひとつに決めつけず、全身を包括的に評価したうえでリハビリプランを組み立てることが、改善への最短ルートだと日々の臨床で実感しています。
この記事の監修医師:中川 利右司(理学療法士)
トレンデレンブルグ歩行による3つの悪影響
「痛みがないから」「歩くのは問題ないから」という軽い考えから、トレンデレンブルグ歩行を放置し続けてしまうと、身体機能のさらなる悪化を招く恐れがあります。
関節変形の進行
トレンデレンブルグ歩行のように歩くたびに骨盤が大きく傾くと、股関節や膝関節に対して通常ではかからない異常な負担が反復して加わります。この負担によって軟骨のすり減りが進行し、変形性関節症の悪化を早めてしまう原因になります。
腰や股関節の強い痛み
トレンデレンブルグ歩行による不安定な姿勢をかばうため、体は無意識のうちに別の筋肉を使ってバランスを取ろうとします。このとき、本来の歩行では大きな負担がかからない筋肉が骨盤を支えるために無理に使われ続けることで、股関節の周囲だけでなく腰や背中の慢性的な強い痛みを引き起こす恐れがあります。
また、過度な負担によって筋肉が硬くこわばることで関節の可動域がさらに狭まり、日常の基本動作が困難になるケースも少なくありません。
転倒リスクの増大
骨盤が左右に大きく揺れる歩行は、体の重心が不安定な状態です。そのため、路面のわずかなへこみや段差につまずいただけで、重大な転倒事故を起こすリスクが高まります。
また、転倒への恐れや歩行効率の悪化によって外出意欲がそがれ、生活の中での運動量が減少すると、全身の筋力や心肺機能が低下するなど健康寿命を縮める要因となることにも注意しなければいけません。
トレンデレンブルグ歩行を改善するリハビリ・治療法
トレンデレンブルグ歩行の改善には、筋力トレーニングや歩行・動作指導といったリハビリを行うのが一般的です。具体的なリハビリとしては以下のようなものが挙げられます。痛みが強くリハビリが円滑に進まない場合などは、杖の使用を検討しましょう。
リハビリ例①:座位での側方リーチ動作
トレンデレンブルグ歩行は骨盤周辺の動作が不安定になっているため、ちょっとした動きでバランスを崩して転倒してしまうリスクがあります。そのため、まずは転倒のリスクがない座った状態で、バランス感覚と体幹を鍛えるリハビリを行います。
- ✅ リハビリ方法
- 椅子に浅く腰掛け、頭部と頸部を床に対して垂直に保ったまま、両手を左右どちらかにできるだけ遠くへ伸ばす。
- ✅ 意識するポイント
- 両肩を結んだラインを床と平行に保ち、骨盤が傾かないように強く意識しましょう。内腹斜筋などの体幹インナーマッスルを活性化させ、左右への重心移動に対する骨盤の安定性を高めます。
リハビリ例②:段差昇降やステップ練習
重心移動や歩行が安定している場合は、階段昇降やステップ練習によるリハビリを行います。
- ✅ ステップ練習・サイドステップ
- 横歩き(サイドステップ)によって、体重がかかった状態での中殿筋の活動を促します。
- ✅ 段差昇降(ラテラルステップダウン)
- 小さな段差を昇り降りして、骨盤の安定性や下肢の支持力の向上を目指します。「浮かせた足側の骨盤が落ちないようにする」「支えている側の膝が内側に入側に入らないようにする」など、しっかりとしたフォームを保つことが重要です。
- ✅ フロントランジ
- 足を大きく一歩前に踏み出して、重心の移動をコントロールしながら膝を曲げるリハビリです。中殿筋や体幹を鍛えることで、骨盤の安定性や動きのバランスの向上を目指します。ただし、正しいフォームで行わなければ逆効果になるため注意が必要です。
【Q&A】トレンデレンブルグ徴候に関するよくある質問
こちらではトレンデレンブルグ徴候に関するよくある質問を、理学療法士からの回答を合わせてご紹介します。
Q1. トレンデレンブルグ徴候にはどんな病気が隠れていることが多いですか?
A.監修理学療法士からのコメント
整形外科の現場で最も多く経験するのは「変形性股関節症」です。関節軟骨がすり減ることで股関節に痛みが生じ、無意識に患側への荷重を避けるようになった結果、中殿筋が十分に働かなくなりトレンデレンブルグ徴候として現れます。長年にわたり痛みをかばい続けることで筋萎縮が進行し、歩行の崩れが定着してしまうケースも少なくありません。また進行して筋萎縮が顕著になってからの筋力トレーニングは効果が薄いことも臨床の経験として感じています。
次に注意が必要なのが「発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)」です。乳幼児期に治療を受けた方でも、股関節の被りが浅いという構造的な特徴が残っていることがあり、40〜50代になって股関節痛や歩行異常として初めて問題が顕在化する場合があります。特に女性に多く、「若い頃から何となく股関節に違和感があった」とおっしゃる患者さんが目立つ印象です。
また、見落とされがちなのが「腰部脊柱管狭窄症」や「腰椎椎間板ヘルニア」です。腰の神経(特にL5神経根)が圧迫されると中殿筋への指令がうまく伝わらず、股関節自体には問題がないにもかかわらずトレンデレンブルグ徴候が出現することがあります。「腰は少し痛いけど、歩き方がおかしいのは股関節のせいだろう」と思い込んでいる方も多いため、股関節だけでなく腰の状態も含めて総合的に診てもらうことが重要です。
このほか、人工股関節置換術後に外転筋群の回復が不十分な場合や、脳卒中などの神経疾患が背景にあるケースもあります。歩行の異常にはさまざまな疾患が隠れている可能性がありますので、自己判断せず、早めに整形外科を受診して原因を明確にすることをお勧めします。
Q2. 自分でできるチェック方法はありますか?
A.監修理学療法士からのコメント
最も手軽にできるのは、鏡の前での「片足立ちテスト」です。チェックしたい側の足で片足立ちになり、反対側の足をゆっくり床から浮かせます。このとき、浮かせた側の骨盤が立っている側よりも下がれば、トレンデレンブルグ徴候の可能性があります。
ただし、臨床の経験上、ご自身の骨盤の高さの変化を正確に判断するのは意外と難しいです。人間の体は無意識にバランスを取ろうとするため、骨盤が下がる代わりに上半身を立脚側に傾けて補正してしまい、一見すると骨盤は水平に保たれているように見えることがあります(これは「デュシェンヌ徴候」と呼ばれる別の代償パターンです)。
そこでお勧めしたいのが「歩行動画の撮影」です。ご家族やご友人に後方から10歩ほど歩く様子をスマートフォンで撮影してもらってください。動画をスロー再生すると、歩くたびに骨盤が左右に揺れたり、肩が傾いたりする様子が鏡では分からないレベルで確認できます。受診時にこの動画を持参していただくと、医師や理学療法士も状態を把握しやすく、より的確な評価につながります。
なお、セルフチェックの際は必ず壁や安定した家具に手を添えて、転倒に十分ご注意ください。チェックの結果、少しでも気になる点があれば、自己判断で運動を始めるのではなく、まずは専門家の評価を受けることが大切です。
Q3. 歩くときに「骨盤を落とさないように」「まっすぐ歩くように」と意識すれば自力で治せますか?
A.監修理学療法士からのコメント
結論から申し上げると、意識だけで改善することは非常に難しいです。トレンデレンブルグ歩行は意識の問題ではなく、筋力不足・関節の可動域制限・痛みの回避など、身体的な原因によって生じているためです。
整形外科のリハビリ現場でよく目にするのが、姿勢を意識するあまり別の部位に負担が集中してしまうケースです。たとえば、骨盤を落とすまいと体幹を立脚側に無理に傾けた結果、腰椎の側屈が繰り返されて腰痛が出現した方。膝を突っ張るようにロックして歩くことで膝の内側に痛みが生じた方。いずれも元の歩行の問題に加えて新たな痛みを抱えることになり、治療が複雑化してしまいました。
また、長年にわたりトレンデレンブルグ歩行が続いている方は、脳がその歩き方を「正常」として記憶してしまっています。ご本人が正しいと思って歩いている姿勢が、客観的に見ると依然として代償動作のままであることは珍しくありません。症状が出ないゆえにご自身も気にされていないケースも臨床経験でよくみてきました。
大切なのは、まず根本原因を特定し、その原因に応じたリハビリを段階的に進めることです。筋力強化、可動域の改善、そして正しい歩行パターンの再学習を、専門家の評価のもとで行うことが、遠回りに見えて最も確実な改善への近道です。
Q4. トレンデレンブルグ歩行の改善には、どのくらいの期間がかかりますか?
A.監修理学療法士からのコメント
根本原因や重症度によって個人差が大きいため一概には言えませんが、中殿筋の筋力低下が主な原因であれば、適切なリハビリを週2〜3回の頻度で継続した場合、4〜6週間ほどで「歩いていて安定感が出てきた」と実感される方が多い印象です。ただし、筋力がつくことと、その筋力を歩行中に無意識で発揮できるようになることは別の段階です。正しい歩行パターンが日常で自然に再現されるまでには、3〜6か月程度を目安にしていただくことが多いです。
一方、変形性股関節症による関節の構造的な変形が進行している場合は、筋力訓練だけでは限界があることも事実です。関節の状態によっては人工股関節置換術が検討されることもあり、その場合は手術後のリハビリ期間も含めた中長期的な計画が必要になります。また、扁平足や外反母趾など足部の問題が歩行の崩れに関与している場合は、インソール(靴の中敷き)の作成を併用することで、リハビリの効果が格段に上がるケースもあります。
いずれの場合も大切なのは、焦らないことです。原因が複数あるとその分だけ改善にも時間を要することが見込まれます。「何か月で治りますか?」と聞かれることは非常に多いのですが、体の状態は日々変化しますので、担当の医師や理学療法士と定期的に経過を確認しながら、段階的にゴールを設定していくことをお勧めします。
Q5. 中殿筋の筋トレを毎日しているのに、歩き方が治らないのはなぜですか?
A.監修理学療法士からのコメント
1つ目は、中殿筋が「弱い」のではなく「使いすぎている」ケースです。 足部のアーチの崩れ(扁平足など)や体幹の筋力不足があると、それを補うために中殿筋が歩行中ずっと過剰に働き続け、疲弊している状態になっていることがあります。この場合、中殿筋の筋トレで負荷を追加すると、疲労した筋肉にさらに鞭を打つことになり、かえって症状が悪化しかねません。実際に私が担当した患者さんでも、中殿筋のトレーニングを一旦休止し、体幹の安定性向上と足部のアーチサポートに取り組んだところ、中殿筋への過剰な負担が軽減されて歩行が改善に向かったケースがありました。
2つ目は、鍛えた筋力が歩行という動作に結びついていないケースです。 横向きに寝て行う脚の上げ下げで中殿筋の筋力自体は向上しても、実際の歩行では全体重を支えながら骨盤を水平に保つという、まったく異なる使い方が求められます。筋トレと歩行の間には大きなギャップがあり、このギャップを埋めるには、片足立ちの保持・ステップ練習・段差昇降など、体重をかけた状態での実践的なトレーニングへ段階的に移行する必要があります。
3つ目は、自宅で行っているメニューが正しい方向で動かせていないケースです。 特に股関節のトレーニングは、動作を行う角度や姿勢の位置が少し変わると筋肉にうまく負荷がかかりにくい部位の一つでもあります。自宅でのメニューが、適切に負荷をかけることができているか、担当の専門家に動作を確認してもらうこともおすすめします。
いずれのケースも、ご自身だけで原因を見極めるのは困難です。「頑張っているのに良くならない」と感じたときは、トレーニング内容の見直しが必要なサインですので、ぜひ一度理学療法士に相談してみてください。
まとめ:歩き方の異常を感じたら早期の専門家への相談を
トレンデレンブルグ歩行は、歩き方の変な癖ではなく、股関節の深刻な異常を示す体からのサインです。この状態を放置し続けてしまうと、変形性股関節症の悪化、足腰の強い痛み、転倒リスクの増大など、深刻な生活の質(QOL)の低下を招く恐れがあります。歩くときに骨盤がカクンと落ちる、体が横に大きく揺れるなどの異変がある場合は、放置せずに整形外科など専門機関を早めに受診しましょう。
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