慶應義塾大学医学部卒。初期研修後、市中病院にて内科、整形外科の診療や地域の運動療法指導などを行う。スポーツ医学の臨床、教育、研究を行いながら、プロスポーツや高校大学、社会人チームのチームドクターおよび競技団体の医事委員として活動。運動やスポーツ医学を通じて、老若男女多くの人々が健康で豊かな生活が送れるように、診療だけでなくスポーツ医学に関するコンサルティングや施設の医療体制整備など幅広く活動している。「健康を通じて人々の夢や日常を応援すること」をミッションに2024年6月に池尻大橋せらクリニックを開院。
記事監修者:世良 泰 先生

世界中の野球ファンを魅了し続けるメジャーリーガー、大谷翔平さん。その一挙手一投足が日本国内だけでなく世界中で大きな注目を集めていますが、現在、大谷選手を巡るあるニュースが世間を大きく騒がせています。それが「左膝の炎症」による戦線離脱や調整のニュースです1)。
一流のアスリートである大谷選手といえど、ケガとは無縁ではいられません。今回の左膝の炎症について、具体的な内容は公式には明言されていないものの、整形外科的な視点からその背景を探ると、ある「過去の既往歴」が浮かび上がってきます。それが、大谷選手が2019年に手術を受けた「二分膝蓋骨(にぶんしつがいこつ)」です。
大谷選手が抱えたこの膝のトラブルは、50代以降のシニア世代が直面する「加齢による膝の痛み」と非常に深い共通点を持っています。
本記事では、大谷選手を苦しめた二分膝蓋骨の正体を整形外科の視点から詳しく解説し、一般の人が抱える膝の痛みとの共通点、そして自分の足で歩き続けるための具体的な対策について掘り下げていきます。
この記事でわかること
✅大谷翔平選手が手術を受けた「二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)」の正体と痛むメカニズム
✅「アスリートの膝の悩み」と「50代以降の膝の痛み」の意外な共通点
✅膝の健康を維持するための「軟骨成分の補給」とストレッチ方法
✅大人になってからの手術の必要性や、膝が熱を持って痛むときの正しい応急処置
✅絶対に放置してはいけない、膝の内部でトラブルが起きている「危険なSOSサイン」
医師からのコメント
大谷選手が2019年に左膝の二分膝蓋骨の手術を受けたことは事実で、生まれつきの構造的な弱点があっても、適切な処置と丁寧なリハビリで高いパフォーマンスを取り戻せることを示す好例だと思います。一方で、今回の左膝の炎症については原因が公式に明らかにされておらず、過去の既往と直接結びつけて語ることには、専門家として慎重でありたいところです。ただ、原因が何であれ、私たちが学べる本質は変わりません。関節に構造的な弱さや変化を抱えていても、周囲の筋肉を柔らかく保ち、適切に鍛え、正しく使えていれば、痛みは出にくくなります。逆に、違和感を「これくらい」と見過ごすと悪循環に陥る。膝の小さなSOSを見逃さないことは、トップ選手にも、50代からの膝にも共通する原則です。
この記事の監修医師:世良 泰(整形外科医)
大谷選手が直面した「二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)」とは
大谷選手の左膝のトラブルを語るうえで外せないのが、2019年9月に行われた左膝の手術です2)。当時、ロサンゼルス・エンゼルスに所属していた大谷選手は、シーズン終盤に「左膝二分膝蓋骨」の手術を行いました。
二分膝蓋骨とは、「本来ひとつである膝の皿が2つ以上に分かれている状態」を指します。通常、膝の皿は成長の過程でひとつの大きな骨として成長しますが、何らかの理由で融合せず、軟骨組織などでつながったまま分裂した状態になる人が一定数存在します3)。
大谷選手もこの二分膝蓋骨でしたが、ピッチャーとしてマウンドを強く蹴り、バッターとして爆発的なスイングを繰り返す中で、その結合部分に限界を超える負荷がかかり、激しい痛みを引き起こす「有痛性分裂膝蓋骨(ゆうつうせいぶんれつしつがいこつ)」へと移行してしまったようです2)。
2019年の手術では、痛みの原因となっていた分裂した小さな骨の破片を摘出、あるいは固定する処置が行われたとされています3)。「膝の皿が割れている」と聞くと、選手生命に関わるのではないかと誰もが不安になりますが、大谷選手は適切な時期に手術を受けました。
その結果、驚異的なスピードで回復し、満票でのMVP獲得やホームラン王など、前人未到の二刀流としての大躍進を遂げました。このエピソードは、「生まれつきの骨の異常やトラブルがあっても、医療機関での適切な処置と正しい筋肉ケア・リハビリを行えば、高いパフォーマンスを取り戻せる(あるいは維持できる)」という、膝の痛みに悩むすべての人への大きな希望の光となっています。
二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)が痛むメカニズムとは
ここでは、大谷選手を悩ませた「二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)」の医学的なメカニズムについて、より深く解説します。
1. 二分膝蓋骨の発生メカニズム
子どもの成長期において、膝の皿はいくつかの「骨化中心(骨の赤ちゃんのようなもの)」が合体して1つの骨になります。しかし、非常に稀なケースですが、骨が離れたまま成長が終わることがあります。これが「二分膝蓋骨」です。 多くの場合、お皿の外側の上部が分かれているケース(Ⅲ型)が多く、日常生活ではとくに症状が出ないため、自分が二分膝蓋骨であることに気づかないまま過ごす人も珍しくありません。このように痛みを伴わない状態を「無痛性分裂膝蓋骨」と呼びます。
2. なぜ大人になってから痛むのか?
「無痛性分裂膝蓋骨」でも、何かのきっかけで痛みが走ることがあります。膝の皿の上部には、太ももの大きな筋肉である「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」がつながっています。スポーツや激しいダッシュ、あるいは過度な負担によってこの太ももの筋肉が強く収縮すると、膝の皿の分裂している結合部分(軟骨や繊維組織)が強く引っ張られます。この引っ張りストレスが何度も繰り返されると、結合部に微小な断裂や炎症が起き、激しい痛みを発するようになります。これが「有痛性分裂膝蓋骨」の正体です4)。
3. 大人になってから「有痛性分裂膝蓋骨」で悩む人はいる?
二分膝蓋骨による痛みは、主に10代から20代前半のスポーツを熱心に行っている若年層(サッカー、バスケットボール、陸上など)に多く見られます4)。しかし、大人になってから運動を始めた人や、職場で重い荷物を持って階段を昇り降りする人など、太ももの筋肉を酷使する環境にある一般の方でも突然発症することがあります。「昔からなんとなく膝のお皿の外側が痛む」「押すとピンポイントで激痛が走る場所がある」という場合は、大人になってから顕在化した有痛性二分膝蓋骨の可能性があります。
シニア世代の膝の痛みとの意外な共通点
一見すると、20代のアスリートが患う二分膝蓋骨と、50代・60代以降のシニア世代が悩む「膝の痛み(主に変形性膝関節症)」は全く別物のように思えます。しかし、その根本的な発生原因には共通点が存在します。
その共通点とは、「骨や関節の構造的弱点(あるいは変化)」に対して、「大腿四頭筋(太ももの筋肉)の硬化や負担」が加わることで炎症が起きるというメカニズムです。
2つの関係性をわかりやすく比較してみましょう。
| 項目 | 大谷選手・若年層の「二分膝蓋骨」 | 50代以降の「変形性膝関節症など」 |
| ベースにある問題 | 生まれつき骨が割れている(構造的弱点) | 加齢によって軟骨がすり減っている(経年変化) |
| 痛みの引き金 | 太ももの筋肉が強く引っ張り、結合部が炎症する | 太ももの筋力低下や硬化により、関節の摩擦が増加する |
| SOSのサイン | 膝のお皿周辺のピンポイントの痛み・腫れ | 膝全体の重だるさ、立ち上がりや階段での痛み・水が溜まる |
50代以降に急増する「変形性膝関節症」も、原因はクッションである軟骨の減少(構造の変化)です。軟骨が減った状態で、太ももの筋肉が硬くなったり、筋力が落ちて膝を支えられなくなったりすると、歩行のたびに関節に過度な衝撃が加わり、滑膜に炎症が起きて水が溜まったり痛みが出たりします。
つまり、大谷選手が二分膝蓋骨による炎症と戦っているのも、シニア世代が膝の軟骨のすり減りによる痛みと戦っているのも、「弱っている関節組織に対して、筋肉の緊張や過負荷が襲いかかっている」という構図が一致しています。大谷選手が徹底的な太ももの筋肉ケアやリハビリでこれを克服したように、加齢による膝の痛み対策においても「筋肉のコントロール」と「組織の保護」が最大の鍵となります。
医師からのコメント
二分膝蓋骨そのものは、決してめずらしいものではありません。健診やレントゲンで偶然見つかることも多く、その大半は一生痛みを出さずに過ごせます。問題なのは、大谷選手のように結合部にくり返し強い負荷がかかって炎症へ移行したときです。ここで大事なのは、「骨が分かれていること」そのものより、「その弱い部分に、太ももの筋肉の緊張や過度な負担が繰り返し加わること」が痛みの引き金になる、という点です。つまり、構造の弱さは変えられなくても、そこにかかるストレスは筋肉のケアや使い方でコントロールできる。ここが、この後に解説する50代以降の膝の痛みとも共通する、いちばん大切な考え方です。骨の形に一喜一憂しすぎないことも、また大切です。
この記事の監修医師:世良 泰(整形外科医)
膝の健康維持に不可欠な「軟骨成分の補給」と「筋肉ケア」
大谷選手のように膝の炎症を長引かせず、また50代からの変形性膝関節症を予防・改善するためには、日頃から「軟骨成分の補給」と「筋肉ケア」を両輪で行うことが欠かせません。
ここでは、膝の健康診断のために日常で取り入れられる方法を紹介します。
1. 軟骨成分・栄養の補給で関節のクッション性を高める
関節の軟骨や結合組織は、年齢とともに代謝が落ち、軟骨の成分自体が減少していきます。とくに膝に負担がかかる生活をしている人は、食事やサプリメントから意識的に軟骨の構成成分を補うことが大切です。プロテオグリカンやコラーゲン、ヒアルロン酸といった成分は、関節の水分を保持し、クッション性を維持するために重要な役割を果たします。これらを日常的に補給することで、擦れ合う関節の摩擦を和らげ、炎症が起きにくい土台を作ることができます。
2. 太ももの筋肉(大腿四頭筋)の柔軟性を出すストレッチ
二分膝蓋骨の痛みも変形性膝関節症の痛みも、太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)がパツパツに硬くなることで膝の皿や関節が強く引っ張られ、悪化します。以下の簡単なストレッチを毎日の習慣にしましょう。

【大腿四頭筋のストレッチ】
- 立った状態で膝を曲げて、手で片足を持つ
- かかとをお尻に近づける
- 20秒ほどキープしたら反対の足で行う
3. 膝を支える筋力トレーニング(パテラ・セッティング)
筋肉のストレッチに加えて、膝関節を正しい位置で支えるための筋力を鍛えるトレーニングも効果があります。関節に負担をかけないおすすめの方法が「パテラ・セッティング」です。膝の裏でタオルなどを押し潰すように大腿四頭筋に力を入れ、膝のお皿を正しい位置に安定させる筋力トレーニングです5)。

【パテラ・セッティング】
- 仰向けに寝て、膝の下に丸めたバスタオルを敷く
- かかとを床につけて、膝を床に押し付けるようにして太ももの内側の筋肉に力を入れる
- 5秒間キープして力を抜く。1セット10回を1日2~3セット行う
医師からのコメント
軟骨の成分を食事やサプリメントで補うという考え方は、悪いものではありません。ただ、口から摂った成分が、すり減った膝の軟骨にそのまま届いて元どおりにする——というほど単純ではない、というのが正直なところです。ですから、サプリメントは「これさえ飲めば安心」という主役ではなく、あくまで土台を支える脇役と考えてください。膝を守るうえで、効果がはっきりわかっているのは、やはり運動のほうです。太ももの柔軟性を保ち、膝を支える筋力を正しく働かせること。これに勝る対策は、今のところありません。サプリと運動、どちらかを選ぶなら、迷わず運動から。そのうえで余力があれば栄養面も、という順番で十分です。
この記事の監修医師:世良 泰(整形外科医)
よくある質問Q&A
池尻大橋せらクリニックの世良医師が、患者さまからとくによく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 大谷選手のように、大人になってから二分膝蓋骨の手術をすることは一般人でもありますか?
A.はい、一般の方でも症状が日常生活や仕事に深刻な支障をきたす場合は、手術を選択することがあります。 ただし、一般の方の多くは、まずは徹底した保存療法(安静、太もものストレッチ、湿布、ステロイド注射など)を行います。これらを数ヶ月行っても歩行時や階段昇降時の激痛が改善しない場合、分裂している骨の破片を摘出する内視鏡手術などを行うことがあります。大谷選手のようにスポーツへの早期復帰や高いパフォーマンスの維持が必要なアスリートは、比較的早い段階で手術を選択することもありますが、一般の方は保存療法で治るケースが大半です。
Q2. レントゲンで「膝の皿が割れている」と言われました。今は痛みがありませんが、この先に痛くなりますか?
A.いいえ、必ずしも痛くなるとは限りません。生涯にわたって一度も痛みが出ない方もいます。二分膝蓋骨があっても、周囲の軟骨や繊維組織が安定しており、太ももの筋肉が柔軟であれば炎症は起きません。ただし、肥満や急激な運動、過度な階段昇降などで膝への負担が急増すると、突然痛みが出ることがあるため、日頃から太もものストレッチを行い、体重管理に気をつけることが予防になります。
Q3. 50代ですが、最近膝のお皿のまわりが痛みます。二分膝蓋骨の可能性はありますか?
A.可能性はゼロではありませんが、年代的には「変形性膝関節症」の初期症状や「膝蓋大腿関節症(しつがいだいたいかんせつしょう)」の可能性の方が高いです。50代以降の膝のお皿周辺の痛みは、お皿の裏側にある軟骨がすり減り、大腿骨と擦れ合うことで起きるトラブルが多く見られます。二分膝蓋骨かどうかはレントゲン撮影で判別できますので、痛みが2週間以上続くようであれば、自己判断せずに整形外科で精密検査を受けてください。
Q4. 膝が炎症を起こして熱を持っているとき、お風呂で温めて揉んでもいいですか?
A.絶対に避けてください。大谷選手のニュースにあるような「炎症」が起きている急性期(熱感がある、腫れている、ズキズキ痛む)は、関節の内部でトラブルが起きているサインです。ここで温めたり、マッサージで揉んだりすると、血管が拡張して炎症がさらに悪化し、激痛や大量の水腫(水が溜まること)を招きます。熱感があるときは、氷嚢や冷感湿布でしっかりと「冷やす(アイシング)」を行い、安静に保つのが鉄則です。
Q5. 大谷選手のように膝のトラブルを克服して、一生元気に歩き続けるための最大の秘訣は何ですか?
A.「違和感の段階で放置しないこと」と「大腿四頭筋の柔軟性を維持すること」です。大谷選手がこれほどの活躍を維持できているのは、一流の医療スタッフとともに、膝の小さなSOSサインを見逃さず、早期に対処しているからです。一般の方も「これくらいの痛みなら大丈夫」と放置すると、膝をかばう歩き方になり、反対側の膝や腰まで痛める悪循環に陥ります。少しでも突っ張り感や痛みを感じたら、まずは太もものストレッチを試してください。それでも改善しなければ、すぐに専門医の診察を受けましょう。
医師からのコメント
急性期に温めない・揉まないというのは、その通りです。ただ、冷やすこと自体が治りを早めるわけではなく、あくまで痛みや腫れをやわらげるための一時的な手段と考えてください。冷やしすぎず、短時間にとどめ、まずは安静に。これが今の考え方です。もう一点、次のような症状があるときは、ストレッチやセルフケアで様子を見ず、早めに整形外科を受診してください。膝が急にカクンと崩れる、引っかかって曲げ伸ばしができない、短時間で大きく腫れる、赤く腫れて熱と発熱を伴う——こうしたサインは、内部で見逃せないトラブルが起きている可能性があります。「これくらい」で放置しないこと。早く動いた人ほど、膝は長持ちします。
この記事の監修医師:世良 泰(整形外科医)
【まとめ】膝のSOSサインを見逃さず、正しいケアで未来の足を健やかに
大谷選手の「左膝の炎症」というニュースは、私たちに多くの衝撃を与えましたが、同時に「どんなに強靭な肉体であっても、関節のケアは不可欠である」という重要な教訓を教えてくれています。彼が抱えた二分膝蓋骨(有痛性分裂膝蓋骨)という病態は特殊なものに思えますが、その痛みのメカニズムや、筋肉の緊張が関節に与える悪影響は、50代以降のシニア世代が直面する膝痛と地続きです。
「生まれつきだから」「もう歳だから」と諦める必要はありません。大谷選手が適切な手術と徹底した日々のケアによって世界の頂点に立ち続けているように、正しい知識を持ち、日頃からの軟骨成分の補給や大腿四頭筋のストレッチ、そして早期の整形外科受診を心がければ、膝の健康寿命をどこまでも延ばすことができます。
膝が発する小さなSOSサインを見逃さず、今日からできる一歩を踏み出して、一生自分の足で力強く歩く未来を手に入れましょう。まずは、お近くの優良な整形外科クリニックをこちらで検索してみてください。
【参考】
1)大谷翔平、左膝の故障は「突発的ではない」 原因を"分析"「前回登板の投げ方的に」 | Full-Count
2)大谷翔平 満票でMVP選出 -膝の慢性障害を乗り越えて- | 公益財団法人 高知県スポーツ協会
3)大谷翔平選手も経験した「二分膝蓋骨」とは?手術に踏み切った意外な理由 | なかむら整形外科クリニック
4)成長期の膝の痛み(3)有痛性分裂膝蓋骨について | 公益社団法人射水市医師会
5)膝痛に大切!?パテラ・セッティングとは? | 桃谷うすい整形外科|大阪天王寺JR桃谷駅近く|リハビリ・骨粗しょう症・スポーツ整形外科
記事監修者情報

