記事監修者:眞鍋 憲正 先生
肩甲骨のまわりに痛みを感じており、日常生活に支障をきたしている方はいませんか。肩甲骨の痛みは、単なる筋肉の張りから内臓の病気まで、さまざまな原因が考えられます。痛みの種類や部位によっても原因が異なるため、適切な対処法を知ることが大切です。
この記事では、肩甲骨の構造や痛みの原因、効果的な対処法をご紹介します。肩甲骨の痛みの原因を知ることで、自分の状態を正しく理解し、適切なケアができるでしょう。
肩甲骨の構造
肩甲骨とは、背中上部の左右についている平らな三角形の骨で、肩関節の一部を作っています。肩甲骨は腕の骨である上腕骨と関節を作っている反面、体幹とはつながっておらず、周囲のさまざまな筋肉によって支えられています1)。そのため、肩甲骨のまわりについている筋肉や周囲の組織に問題が生じると、痛みが現れるのです。
そのほかにも、肩周囲に走っている神経や臓器に問題が生じると、痛みを感じるケースもあります。
肩甲骨まわりが痛くなる原因
肩甲骨まわりが痛くなる原因にはおもに以下が考えられます。
- 筋肉や組織の問題
- 内臓や血管の問題
ここでは、それぞれの原因について詳しく解説します。
筋肉や組織の問題
ここでは、筋肉や組織の問題によって肩甲骨まわりが痛くなる原因についてみていきましょう。
肩甲骨骨折
まず痛みの直接的な問題として考えられるのが、肩甲骨の骨折です。肩甲骨骨折が起こる頻度は低く、割合としては全体の骨折の約1%とされています2)。この骨折は外部からの強い衝撃によって発症するとされており、その代表例としてバイク事故があげられます。
おもな症状には痛みや動きの制限などがありますが、肩甲骨は周囲の筋肉に包まれている関係上、重大な骨折にはなりにくいとされています。ただし、肩甲骨の周囲にある血管や神経などが損傷しやすいため、発症後は速やかな処置が必要です。外傷によって肩甲骨の痛みが生じる場合は、骨折も考慮することが重要です。
肩こり
肩こりによって、肩甲骨まわりの筋肉が硬くなり、痛みを感じることがあります。肩こりによる首から肩、肩甲骨まわりに生じる症状は、以下のとおりです。
- 筋肉の張り
- 凝り
- 痛み
そのほかにも、頭痛や吐き気をともなうこともあります。肩こりの原因はさまざまですが、代表的なものとして以下があげられます3)。
- 長時間の同じ姿勢
- 姿勢不良
- 運動不足
- ストレス
- 睡眠不足
- 冷え
これらの要因が重なることで肩甲骨周辺の筋肉が緊張し、血行不良を引き起こします。その結果、痛みをはじめとしたさまざまな症状が現れるのです。
肩関節周囲炎(五十肩)
五十肩とは、肩関節を作っている組織に炎症が起こり、痛みや動きの制限などが生じる状態のことです。名前のとおり、50代以降の方に多くみられる病気で、利き腕でない肩に起こりやすいといわれています4)。五十肩になると肩関節を中心とした痛みが現れ、さらに肩甲骨周辺にまで及ぶことがあります。具体的な症状としては、以下のとおりです。
- 夜間時や安静時の痛み
- 運動時の肩の痛み
- 肩の可動域制限
これらの症状が悪化すると、日常生活動作に支障をきたす恐れがあります。五十肩は、以下のような要因が重なって起こるとされています。
- 加齢
- 過度の使用
- 外傷によるストレス
明確なきっかけがないまま肩甲骨周辺の痛みが続く場合は、五十肩を考慮する必要があるでしょう。
腱板断裂
腱板断裂とは、肩関節についている「腱板」が損傷し、切れてしまった状態のことです。腱板とは、肩関節の動きや安定性をサポートしている筋肉の腱の集まりのことで、以下の4つを指します。
- 棘上筋(きょくじょうきん)
- 棘下筋(きょくかきん)
- 小円筋(しょうえんきん)
- 肩甲下筋(けんこうかきん)
これらの筋肉は、肩甲骨から上腕骨頭(上腕の末端)についています。そのため、筋肉の断裂によって肩甲骨に痛みが現れることも珍しくありません。特徴的な症状は、肩の痛みと腕を上げる際の困難さです。おもな原因としては、以下のとおりです。
- 加齢
- 肩の過度の使用
- 外傷によるケガ
腱板断裂は40歳以上の男性に多くみられ、利き手の関係から右肩に発症しやすい傾向があります5)。
頸椎椎間板ヘルニア
頸椎椎間板ヘルニアとは、頸椎(首の骨)の間にある「椎間板」という、クッションの役割をしている組織が外に飛び出している状態のことです。飛び出した椎間板が神経を圧迫することで、さまざまな症状が現れます。頸椎椎間板ヘルニアのおもな症状は、首から肩、腕にかけての痛みやしびれです。
また、首を後ろに倒したり、横に曲げたりすると症状が悪化することがあります。頸椎椎間板ヘルニアは、以下のような原因でストレスがかかることで発症します。
- 加齢
- 過度な運動
- 長時間の不適切な姿勢
デスクワークや重労働の方など、首に負担がかかりやすい生活を送っている方に発症しやすい傾向にあります6)。
内臓や血管の問題
ここでは、内臓や血管の問題によって肩甲骨まわりが痛くなる原因についてみていきましょう。
虚血性心疾患
虚血性心疾患とは、心臓の血管が狭くなったり詰まったりして、十分な血液が届かなくなる病気のことです。虚血性心疾患には、おもに狭心症と心筋梗塞の2種類に分けられます。狭心症とは、心臓の血管が一時的に血流不足になることで起こる病気です。代表的な症状は胸の痛みや圧迫感ですが、肩甲骨にまで影響が出てくることもあります。
一方で、心筋梗塞は血管が完全に詰まって心筋が壊死する病気です。狭心症よりも激しい痛みをともないやすく、場合によっては命に関わるケースもあります。虚血性心疾患のおもな原因は、以下があげられます7)。
- 高血圧
- 高脂血症
- 糖尿病
- 喫煙
肺炎・気胸
肺炎や気胸などの肺の病気も、肩甲骨の痛みを引き起こすことがあります。肺炎は、細菌やウイルスなどの感染によって肺に炎症が起こる病気です。おもな症状は以下のとおりです8)。
- 発熱
- 咳
- たん
- 息切れ
肺の炎症が広がると、胸や背中に痛みを感じることがあります。気胸は、肺から空気がもれてしまう病気です。もれた空気は胸腔(きょうくう)と呼ばれる空間に溜まり、以下のような症状が現れます9)。
- 胸の痛み
- 息切れ
- 咳
肺炎は感染症によって引き起こされる一方で、気胸は明確な原因がないまま発症するケースも少なくありません。
胆石症
胆石症は、胆のうや胆管に石ができる病気のことです。胆のうとは肝臓の下にある臓器で、「胆汁」と呼ばれる消化液を蓄える場所です。胆管とは、胆汁を腸に送るための通り道のことで、肝臓や胆のうにつながっています。胆石症による症状は、以下のとおりです。
- 背中や右肩の痛み
- 腹部の痛み
- 吐き気
- 発熱
一方で、発症していても目立った症状がみられない方も少なくありません。胆石症の明確な原因はわかっていませんが、以下のような要因が関係しているとされています10)。
- 不規則な生活習慣
- 食生活の偏り
- ストレス
また発症割合として、男性よりも女性のほうが多いとされています。
急性膵炎
急性膵炎とは、膵臓に急激な炎症が起こる病気です。膵臓は胃の後ろ側にある臓器で、食べ物の消化を助ける「消化酵素」や血糖値を調節する「インスリン」を分泌する働きがあります。急性膵炎になると、これらの機能が低下するだけでなく、以下のような症状も現れやすくなります。
- 腹部や背中の痛み
- 吐き気
- 発熱
- 食欲不振
それ以外にも、肺や肝臓などにも障害が現れたり、感染症を合併したりする恐れもあるのです。急性膵炎の原因はいくつかありますが、もっとも多いのが飲酒によるものとされています。発症割合としては、女性よりも男性のほうが多いとされています11)。
肩甲骨まわりが痛いときの対処法
肩甲骨まわりの痛みが続いたときに、どのような対処をすればよいのでしょうか。ここでは、その具体的な対処法について解説します。
医療機関へ受診する
肩甲骨の痛みが続く場合は、なるべく早めの医療機関への受診をおすすめします。一時的な痛みならともかく、持続的に続くのであれば、先ほど紹介したような病気を発症している可能性があります。病気をそのまま放置していると、症状が悪化して日常生活に支障をきたす恐れもあるでしょう。
早めに受診することで、適切な治療を受けられるだけでなく、症状の悪化防止が期待できます。「いつか治るだろう」と放置せずに、医療機関への受診を検討しましょう。
日常動作の見直しをする
筋肉をはじめとした問題による肩甲骨の痛みの場合は、日常動作の見直しをしましょう。不適切な姿勢や動作が、肩甲骨周辺の筋肉に負担をかけて、痛みを引き起こしている可能性があるからです。具体的なポイントとしては、以下のとおりです12)。
- 長時間同じ姿勢を続けないようにする
- 定期的にストレッチをする
- パソコンやスマートフォンを使用する際は姿勢に注意する
- 重い荷物は両手で持つか
とくに背中に負担がかかりやすいような動作を日常的に行っている方は、これらのポイントを意識することが重要です。これらの日常動作の見直しによって、肩甲骨の痛みが改善される可能性があります。
定期的に運動をする
肩甲骨の痛みを予防・改善するには、定期的な運動がよいケースもあります13)。運動には肩甲骨周辺の筋肉を強化しつつ、血行を促進させる効果が期待できます。具体的な運動としては、以下のとおりです。
- ストレッチ
- 有酸素運動
- 筋トレ
このように、肩こりなどによって肩甲骨に痛みがある場合は、無理のない範囲で運動習慣をつけてみましょう。ただし、肩の痛みが強い方や持病がある方の場合は、事前に医療機関に受診してください。
肩甲骨まわりが痛い場合は早めの対処をしよう
肩甲骨の痛みといっても、筋肉や組織の問題から内臓の病気まで、その原因は多岐にわたります。そのため、痛みが続く場合は早めに医療機関を受診することが大切です。日常生活で姿勢や動作を見直したり、適度な運動を取り入れたりすることで、肩甲骨の痛みを予防できる可能性があります。肩甲骨の痛みが続いた際は重症化を予防するためにも、早めの対処を心がけましょう。
【参考】
1)「鎖骨,肩甲骨のバイオメカニクス」佐原 亘、菅本 一臣 Jpn J Rehabil Med Vol. 53 No. 10 2016
2)「肩甲骨体部水平骨折に対しプレート固定を施行した1例」林田 一友、伊藤 弘雅ら 整形外科と災害外科 69(3)582〜584 2020
3)日本整形外科学会|肩こり
4)霞ヶ浦医療センター|五十肩(ごじゅうかた)
5)日本整形外科学会|肩腱板断裂
6)日本整形外科学会|頚椎椎間板ヘルニア
7)国立循環器病研究センター|虚血性心疾患
8)近畿中央呼吸器センター|肺炎
9)学校法人慈恵大学|自然気胸の基礎知識
10)広島大学|【胆道の病気】胆石とは?
11)産業医科大学|急性膵炎
12)日本臨床整形外科学会|肩こり
13)東北大学整形外科|わかりやすい 五十肩・肩の痛み
【医師からのコメント】
肩甲骨の周囲の痛みは、様々な原因が考えられますが、主な原因には筋肉の緊張や損傷、姿勢の悪さ、過剰なストレス、炎症性疾患があります。例えば、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用により、肩甲骨周囲の筋肉(特に僧帽筋、菱形筋、肩甲挙筋など)が緊張し、痛みが生じることがあります。
また、スポーツや運動による筋肉の使い過ぎや損傷も原因の一つです。さらに、肩甲骨周辺の痛みは、肩関節や頚椎(首の骨)の問題、たとえば頚椎椎間板ヘルニアや肩関節周囲炎(いわゆる四十肩、五十肩)とも関連する場合があります。慢性的な痛みが続く場合や、他の症状(例えば、しびれや動かしにくさ)がある場合には、医師の診察を受け、正確な診断と適切な治療を受けることが重要です。
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