記事監修者:内藤かいせい 先生
肩に痛みを感じていて、日常生活に支障をきたしている方は多いのではないでしょうか。肩に痛みがある場合は、その時期や症状の程度に適した対応をすることが大切。肩の痛みがある状態で無理な動作を続けると、症状がさらに悪化する原因となります。
この記事では、理学療法士が肩関節の痛みに関するよくある疑問について解説します。ちまたで言われている肩の痛みに関する情報がウソなのか、ホントなのかを知ることで、より適切な対応方法がわかるでしょう。日常生活での注意点やおすすめの運動なども含めて詳しく説明していますので、肩の痛みでお困りの方はぜひ参考にしてみてください。
その情報はウソ?ホント?「肩関節の痛み」で知っておきたいQ&A
ここでは、肩関節の痛みに関してよくあるQ&Aをご紹介します。それぞれの悩みをチェックし、肩の痛みについての疑問点を解消してみましょう。
Q1. 肩の痛みの原因を特定するのは難しい?
A. 肩の痛みのきっかけはさまざまなので、自分で原因を特定するのは難しいです。
肩の痛みには、「肩関節の組織に原因があるケース」と「ほかの部位に原因があるケース」の2つに大きく分類できます。肩関節の組織に原因がある場合の代表的な疾患は、肩関節周囲炎や腱板断裂(けんばんだんれつ)などがあげられます1)2)。肩関節周囲炎は「五十肩」とも呼ばれており、靭帯や軟骨などの肩の組織が炎症を起こす疾患です。腱板断裂とは、肩への負担や加齢による組織の衰えで、腱板(肩の動きをサポートしている腱の集まり)が損傷する疾患です。
一方で、肩以外の部位が原因で痛みが出ることもあり、その代表例が「頚椎椎間板ヘルニア」です。この疾患は、首の骨の間にあるクッションの役割がある椎間板(ついかんばん)が飛び出してしまう疾患です。飛び出た椎間板が神経を圧迫することで、肩の痛みが現れるケースがあります3)。
そのほかの肩の痛みの原因について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:【医師監修】肩関節が痛いときの原因は?疑われる疾患や生活上の注意点を解説
Q2. 肩の痛みは年齢とともに現れやすくなる?
A. 基本的に、年齢を経るにつれて肩の痛みは現れやすくなります。
その理由として、加齢にともなって肩関節周辺の組織が衰えていくからです。加齢による具体的な変化としては、以下のとおりです。
- 肩を動かすための筋肉の衰え
- 関節を保護する軟骨のすり減り
- 肩関節を包む組織(関節包)の柔軟性の低下
このような変化がきっかけに、痛みとともに肩の疾患を発症することもあります。例として、日本整形外科学会によると、五十肩(肩関節周囲炎)は名前のとおり50代に発症しやすいとされています1)。
ただし、肩の痛みが現れるのは高齢者だけではありません。スポーツや仕事で肩を酷使している場合、たとえ若くても肩の痛みを感じることがあります。
Q3. 肩の痛みが強い時期はストレッチしない方がいい?
A. 肩の痛みが強い時期はストレッチを避け、炎症をおさえるために安静を優先することが大切です。
痛みが強い時期を「炎症期」と呼び、このときに無理に肩を動かすと、症状が悪化する恐れがあります4)。そのため、まずは安静を心がけて炎症を落ち着かせましょう。
痛みが落ち着いてきたら、肩の組織が固まらないように少しずつ動かす習慣をつけることが大切です。安静期間を適切に設けることで、その後の回復がスムーズになり、結果的に日常生活への早期復帰につながります。
Q4. 肩の痛みが出たら冷やすべき?温めるべき?
A. 肩を冷やすべきか温めるべきかは、痛みが現れた時期によって異なります5)。
肩の痛みが現れはじめたばかりの時期は炎症が起こっているため、冷やすことによる対処がおすすめです。肩を冷やすことで血管を収縮させ、痛みや腫れなどの炎症症状の軽減が期待できます。この時期に患部を温めてしまうと、血行が促進されて炎症を悪化させる恐れがあります。スポーツ中で起こったケガや寝違えた直後の痛みなどに対しては、まずは冷やすことを優先しましょう。
一方で、痛みが落ち着いてきた時期や慢性的な肩こりには、温めることをおすすめします。温めることで血行が促進され、筋肉がほぐれて痛みが落ち着きやすくなります。
Q5. 肩の痛みは放置していれば自然に治る?
A. 肩の痛みが自然に治るかは、原因によって異なります。
肩こりのような一時的な症状であれば、放置していても自然に改善する可能性はあるでしょう。しかし、組織の損傷が原因で痛みが現れている場合は、放置するとかえって症状が悪化する恐れがあります。
例として、腱板断裂の場合、損傷した腱は自然に修復されることはないとされています6)。むしろ時間の経過とともに損傷範囲が広がり、日常生活に支障をきたしやすくなるのです。五十肩のような炎症をともなう痛みも、適切なケアを行わないと関節が硬くなり、肩の動きが悪くなる原因となります。肩の痛みがある場合は放置せず、医療機関を受診することをおすすめします。
Q6. 肩の痛みが続いている場合は医療機関を受診すべき?
A. 肩の痛みが数日間続いたり、悪化したりしている場合は、整形外科のある医療機関への受診を検討しましょう。
肩の痛みを放置すると、状態が悪化して日常生活に支障をきたし、その後の治療が難しくなる恐れがあります。とくに以下のケースの場合、肩の骨折や脱臼などを発症している可能性もあるため、なるべく早めに受診してください7)。
- 痛みとともに肩が外れたような感覚がする
- 転倒や接触などの事故の後に痛みが出た
整形外科を受診した際は「いつから痛みが出たのか」「どのような動きで痛むのか」など、できるだけ具体的に症状を伝えることが大切です。
近くで受診できる医療機関を探したい方は、こちらからチェックしてみてください。
Q7. 肩の痛みが続く場合、外科手術をしないと完治しない?
A. 肩の痛みの原因や症状によっては、外科手術以外でも改善が期待できる場合があります。
肩の痛みに対する治療として、手術以外に「保存療法」があげられます。保存療法とは、以下のような治療で肩の痛みを軽減・改善を目指す方法です1)。
- 薬物療法
- 運動療法(リハビリ)
- 装具療法(サポーター等の使用)
- 動作指導
肩の痛みがそこまで強くない場合、保存療法のみで対応できるケースも多くあります。保存療法を行っても痛みがおさまらず、症状が悪化するようであれば、そのタイミングで手術による治療が検討されるのです。
また保存療法や手術以外に、「再生医療」という治療も少しずつ行われてきています。再生医療とは、人体にある再生力が備わった細胞・成分を活用して、損傷した組織の修復を図る治療法です8)。
再生医療について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:【医師監修】再生医療のメリット・デメリットとは?関節痛に対する再生医療についても解説
Q8. 肩の痛みが軽い場合、普段の生活を送りながら治せる?
A. 肩の痛みが軽い場合、関節に負担がかからないような生活を送ることで症状の軽減が期待できます。
たとえば、重い荷物を持つことや手を長時間上げる動作は、肩関節に負担がかかりやすいため注意が必要です。着替えをするときは、痛みがある側の腕を先に通し、逆に服を脱ぐときは痛みがある側を後から抜くと楽に行えます。左右または後ろにある物を取るときは手だけを使わず、身体を目的物に向けると、肩の負担を軽減できます9)。
このように、日常生活での動作を工夫するだけでも、肩の痛みをやわらげることは十分に可能です。痛みの程度にあわせて、できる範囲で実践してみましょう。
Q9. 枕やベッドなども肩の痛みに影響する?
A. 寝るときの寝具や姿勢は、肩の痛みに大きく影響が出るとされています。
肩の疾患を発症している方は、夜間の痛みに悩まされることも多いでしょう。夜間時に痛みが現れる理由として、寝具や姿勢によって肩に負担がかかることがあげられます10)。たとえば、枕が高すぎる、または低すぎると首や肩に負担がかかり、痛みが生じることがあります。マットレスや敷布団が柔らかすぎるのも同様に、背骨が曲がって首や肩に負担がかかる原因です。逆に、硬すぎると背骨や肩の骨などの出っ張っている部分が痛くなります11)。
また、痛みのある側を下にして横向きで寝ると、体重が患部にかかって炎症を悪化させる恐れがあります。あお向けで寝る場合も、肩の位置が下方向に沈んで痛みを引き起こすこともあるのです。
夜間の痛みをやわらげるためには、寝る姿勢の工夫や寝具の活用が重要です。枕は高すぎず低すぎないものを、マットレスや敷布団も適度な硬さのものを選びましょう。横向きで寝る際は、痛みのある側を上にすることをおすすめします。さらに、抱き枕やクッションを使うと姿勢が安定します。あお向けで寝る際は、肩の下にクッションや枕を入れて高さを調整すると、肩への負担を軽減できるでしょう9)。
Q10. 肩の痛みの改善・予防にはストレッチや筋トレが必須?
A. 肩の痛みの改善・予防のためには、症状が落ち着いたタイミングでストレッチや筋トレを行うことが重要です。
ストレッチや筋トレで肩の動きをスムーズにしたり、筋力をつけたりすることで、痛みの軽減が期待できます。ここでは、自宅でもできる肩の運動についてご紹介します9)。
【肩の運動:その1】
- タオルを用意する
- 机の前に座る
- タオルを乗せて両手をあずける
- 痛みの出ない範囲で上半身を前に倒し、タオルを前に出す
- もとに戻る
- 4〜5の手順を繰り返す
【肩の運動:その2】
- 机や手すりの横に立つ
- 片手で机や手すりにつかまりつつ、前屈みの状態になる
- 反対の手を脱力させる
- 脱力させた手を前後左右に揺らす
- 反対の手で行う
【肩の運動:その3】
- イスに座って姿勢をまっすぐにする
- 痛みの出ない範囲で、両手を斜め上方向に上げる
- 両肘を曲げて肩甲骨を寄せる
- 2〜3の手順を繰り返す
これらの運動は肩の痛みが出ない範囲で行いましょう。医療機関を受診し、肩の疾患と診断された場合はリハビリを受けることもおすすめです。
肩のリハビリに関して詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
関連記事:【医師監修】肩関節のリハビリテーションとは?主な疾患別に紹介
「肩関節の痛み」に関するQ&Aのまとめ
この記事では、理学療法士の立場から肩関節の痛みについて解説しました。肩の痛みは関節の組織自体に問題があるケースや、ほかの部位がきっかけとなるケースがあり、適切な対処には原因の把握が重要です。症状が強い時期は安静を心がけ、徐々に痛みの出ない範囲で動かすことも大切です。
肩の痛みでお悩みの方は、この記事で紹介した対処法を参考にしつつ、症状が長引く場合は早めに医療機関を受診しましょう。
【参考】
1)日本整形外科学会|五十肩(肩関節周囲炎)
2)日本整形外科学会|肩腱板断裂
3)日本整形外科学会|頚椎椎間板ヘルニア
4)埼玉県立大学|肩の痛み「そのうち治るは本当か?」
5)国立国際医療研究センター病院|よくある質問
6)霞ヶ浦医療センター|腱板断裂(けんばんだんれつ)
7)霞ヶ浦医療センター|肩関節脱臼(かたかんせつだっきゅう)
8)北里大学|再生医療(PRP療法・APS療法)
9)日本理学療法士協会|肩関節周囲炎とは?
10)「肩関節周囲炎の夜間痛に対するパンフレットを用いた就寝指導の効果」烏山 昌起ら 日本運動器看護学会誌 Vol.16 2021
11)厚生労働省|快眠のためのテクニック -よく眠るために必要な寝具の条件と寝相・寝返りとの関係 e-ヘルスネット
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