記事監修者:眞鍋 憲正 先生
乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)とはどんな疾患なのか、どんな診断基準なのか知りたい方はいませんか? 乾癬性関節炎は、皮膚病変とともに関節炎をともなう疾患です。皮膚や関節に関する症状が現れるのが特徴で、放置すると状態が悪化するおそれもあります。
この記事では、乾癬性関節炎の症状や原因、診断基準をご紹介します。どのような疾患なのかを知ることで、早期から治療を進めるきっかけになるでしょう。
乾癬性関節炎とは?
乾癬性関節炎とは、皮膚に赤みやかさぶたなどの症状が現れる「乾癬」と言う疾患に合併して起こる関節炎です1)。乾癬の皮膚症状に加えて、関節に炎症が生じることで腫れや痛みを引き起こすのが特徴です。この疾患は自己免疫疾患のひとつとされており、免疫システムが本来守るべき自身の組織を誤って攻撃することで発症します。
日本リウマチ学会によると、乾癬性関節炎は乾癬を発症した方の約10~15%が合併すると言われています2)。乾癬性関節炎は皮膚や関節の問題だけでなく、全身に影響を与える可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。
乾癬性関節炎の症状
乾癬性関節炎を発症すると、どのような症状が現れるのでしょうか。ここでは、具体的な症状を解説します。
皮膚症状
乾癬性関節炎の症状のひとつに、乾癬による皮膚症状があげられます3)。乾癬の皮膚症状として典型的なのが、境界がはっきりとした赤い発疹の上に、皮膚の一部がかさぶたのように付着する状態です。この皮膚症状は以下のようなさまざまな場所に現れやすく、フケのようにはがれ落ちることがあります。
- 肘や膝の外側
- 頭皮
- 耳のまわり
- おしり
かゆみをともなう場合も多く、日常生活にとってストレスとなることもあるでしょう。また、皮膚に加えて爪が部分的にはがれる、小さなくぼみができるなどの変化も現れます。
関節症状
乾癬性関節炎では、関節に腫れや痛みなどの炎症をともないます2)。とくに、手や足の指先に近い第一関節に症状が現れる傾向にあります。乾癬性関節炎の関節症状は左右非対称に現れやすく、同じ指でも関節ごとに症状の程度が異なることがあるのが特徴です。
さらに、指全体がソーセージのように腫れる炎症や、アキレス腱をはじめとした腱が骨に付着する部分に痛みも生じやすくなります。適切な治療を行わないと関節の破壊が進行し、変形や機能障害を引き起こす可能性があります。
そのほかの症状
乾癬性関節炎では、皮膚や関節以外にもさまざまな症状が現れることがあります。例として、眼の症状では結膜炎をはじめとした炎症が現れ、目の痛みや見えにくさなどをともなうケースがあります3)。原因不明の疲労感が長期間続くこともあり、日常生活の質に大きく影響するおそれもあるでしょう。
そのほかにも、以下のような疾患を合併しやすい傾向にあるのも特徴です。
- 糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
ほかの疾患も疑いつつ、皮膚症状や関節症状と合わせて総合的に評価することで、より正確な診断につながります。
乾癬性関節炎の原因
乾癬性関節炎の原因は明確にわかっているわけではありませんが、遺伝的要因と環境要因が複合的に関与して発症すると考えられています3)。遺伝的要因として、家族に乾癬や乾癬性関節炎を持つ方がいる場合、発症リスクが高くなるとされています。環境要因としてあげられるのが、以下のとおりです。
- ストレス
- 食生活の乱れ
- 喫煙
- 外傷
これらの要素がきっかけで、免疫システムの異常が引き起こされて発症につながります。このように、乾癬性関節炎は、遺伝的な素因に環境要因が加わることで炎症を引き起こす複雑な疾患と言えます。
乾癬性関節炎と関節リウマチとの違い
乾癬性関節炎と関節リウマチはどちらも関節に炎症が起こる疾患ですが、症状の現れ方や発症部位、症状の内容が違います。関節リウマチは左右対称に関節炎が現れやすいのに対し、乾癬性関節炎は左右非対称に症状が出るのが特徴です4)。
乾癬性関節炎では、指先の第1関節を含むすべての関節に炎症が起こる可能性があります。一方で、関節リウマチでは手指の第2関節や指の付け根の関節に症状が出やすい傾向にあります。関節リウマチは「滑膜(関節を覆う膜)」と言う関節内の組織に炎症が起こりますが、乾癬性関節炎は骨に付着する腱や靭帯に炎症が生じるのが特徴的です。このような違いを理解することで、正確な診断と適切な治療方針の決定につながります。
関節リウマチの具体的な症状や特徴について知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:【理学療法士監修】関節リウマチにはどんな症状がある?症状による分類や進行度も解説
乾癬性関節炎は指定難病に含まれる?
乾癬性関節炎は現在、指定難病には含まれていませんが、進行性の疾患のため、放置すると生活に支障をきたすおそれがあります。指定難病とは、厚生労働省が定めた特定の条件をすべて満たす疾患のことで、医療費助成の対象となる疾患です。指定難病の対象となる条件は、以下のとおりです5)。
- 患者数が本邦において一定の人数に達しないこと
- 客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が確立していること
厚生労働省によると、一定の人数とは日本人口で「約0.1%以下」とされています。いずれにせよ、乾癬性関節炎を発症したら早期の診断と適切な治療を受けることが重要です。
乾癬性関節炎の診断基準
乾癬性関節炎の診断には、おもに「CASPAR分類基準」と言う評価法が用いられています。この基準は、炎症性の関節疾患がある方を対象として、以下の5つの項目をもとに診断します6)。
- 乾癬の症状
- 爪の病変
- リウマトイド因子(抗体の1種)陰性
- 手足の指の症状
- 関節近傍部の骨新生の画像所見
このように、医師による診察と問診に加えて、乾癬や血液・画像検査による結果から判断し、乾癬性関節炎を診断します。
乾癬性関節炎を判断するためのセルフチェックリスト
乾癬性関節炎をセルフチェックするためには、「PASE」と呼ばれるチェックリストが役立ちます7)。このチェックリストは症状に関する7項目と、日常生活に関する8項目に分かれています。具体的な内容は、以下のとおりです。
【症状に関するチェックリスト】
- 1日中疲れを感じる
- 関節が痛む
- 背中が痛む
- 関節が腫れてきた
- 関節が熱っぽい
- 手足や指がソーセージのように腫れている
- 痛みを感じる関節が変わることがある
【日常生活に関するチェックリスト】
- 関節の症状によって仕事に悪影響が出ている
- 関節の症状によって身の回りの動作に悪影響が出ている
- 指輪や腕時計をつけるのが難しい
- 車の乗り降りが難しい
- 今まで通りの動きができない
- 起床後、2時間以上身体のこわばりがある
- 朝が1番つらく感じる
- 動き出すのに時間がかかる
これらの項目が当てはまるほど、乾癬性関節炎の可能性が高くなります。「乾癬性関節炎かもしれない……」と感じたら、整形外科のある医療機関を受診して適切な検査を受けましょう。
乾癬性関節炎の治療法
乾癬性関節炎の治療では、どのようなことが行われるのでしょうか。ここでは、具体的な治療法を解説します。
薬物療法
免疫異常によって起こる炎症を抑え、関節破壊の進行を防ぐために行われるのが、薬物療法です。症状の程度に応じて、痛みをやわらげる薬から、免疫の働きを調整する薬まで段階的に使用されます1)。例えば、軽度から中等度の症状には、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が用いられ、痛みや腫れの軽減を図ります。
症状が重度で関節破壊が進んでいる場合は、抗リウマチ薬や生物学的製剤の使用を検討する場合もあるでしょう。生物学的製剤は、炎症を引き起こす物質の働きをおさえる薬で、従来の治療で効果が不十分な場合に選択されます。医師と相談しながら、その方の状態に適した治療法を選択することが重要です。
リハビリテーション
乾癬性関節炎の治療は薬物療法が中心ですが、症状によって低下した身体機能の改善のために、リハビリテーションも行われます。リハビリでは、関節の柔軟性を高めるストレッチや筋力強化を目的とした筋力トレーニングが行われます。
また関節への負担を減らしつつ、日常生活を送るための動作を練習することも重要です。実際に、リハビリの実施によって身体機能の改善がみられたという報告もあります7)。乾癬性関節炎の方は関節に負担がかかりやすいため、なるべく負荷の少ないリハビリから始めることをおすすめします。
乾癬性関節炎発症後の生活上の注意点
乾癬性関節炎の発症後は、ストレスを溜め込まないように注意することが重要です1)。乾癬性関節炎の症状はストレスによって悪化する恐れがあるため、できるだけ心身の負担をかけないようにしましょう。
また、体重が増加するとその分関節に負担がかかりやすくなるので、栄養管理や運動習慣を心掛けることもポイントです。生活の質を維持するためにも、症状に変化があったときはすぐに医師に相談し、適切な治療を受けましょう。
乾癬性関節炎の診断基準を把握しておこう
乾癬性関節炎は、乾癬の症状と関節の炎症をともなう疾患です。乾癬性関節炎を発症すると皮膚症状や関節症状だけでなく、さまざまな疾患を合併するおそれもあります。この疾患の治療では、薬物療法とリハビリを並行して行うことが重要です。乾癬性関節炎の診断基準を把握しつつ、発症の疑いがある場合は早期から整形外科のある医療機関を受診しましょう。
【医師からのコメント】
乾癬性関節炎は皮膚症状に加え関節の炎症を伴う疾患であり、早期診断と治療が不可逆的な関節破壊の予防に重要です。本記事では、診断基準やセルフチェックリスト、治療法について分かりやすく解説されており、患者自身が症状に気づき医師に相談するきっかけとなる内容です。特に、特徴的な皮膚症状を伴う関節痛やこわばりなどの初期症状に対する注意は重要であり、皮膚科・整形外科・リウマチ科の連携の重要性が示唆されます。少しでも疑わしいと思われた場合は近くのこれらの科の受診を推奨します。
【参考】
1)慶應義塾大学病院|乾癬性関節炎(psoriatic arthritis: PsA)
2)日本リウマチ学会|乾癬性関節炎(PsA)
3)宇多野病院|乾癬性関節炎
4)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
5)厚生労働省|指定難病の要件について
6)岸本暢将. 臨床リウマチ. 2024, 36(4), p.244-25.
7)日本皮膚科学会|乾癬性関節炎診療ガイドライン 2019
記事監修者情報
