記事監修者:眞鍋 憲正 先生
股関節と腰痛には何か関係があるのか、疑問に思う方はいるのではないでしょうか。股関節と背骨は構造的につながっており、どちらかに問題が起きた場合に、何かしらの影響をおよぼすことがあります。そのため、股関節に関する問題によって腰痛が現れる可能性は十分に考えられるでしょう。
この記事では、股関節と腰痛の関係性やおすすめのストレッチ方法などについてご紹介します。それぞれの関係性を理解することで、腰痛を防止するための対策を立てられるでしょう。
股関節と腰痛には関係がある?
結論からいうと、股関節と腰痛には関係性があります。ここではその関係性を知るために、股関節と背骨の構造や腰痛が現れるきっかけについて解説します。
股関節は背骨とつながっている
まず、股関節と背骨はそれぞれつながりあっています。股関節は、大腿骨と骨盤によって構成されています。具体的には、大腿骨の「骨頭」と呼ばれる部位が、骨盤の「臼蓋」と呼ばれるくぼみに入り込むことでできているのです。
そして、骨盤を作っている骨の1つである「仙骨」と背骨がつながっています。このことから、股関節と背骨はどちらも骨盤を介しており、お互いに影響しやすい関係といえます1)。
股関節が固くなることで腰痛になる場合がある
なんらかの原因で股関節が固くなると、背骨に悪影響をおよぼし、腰痛をともなう可能性があります。たとえば、股関節まわりの筋肉が固くなり、可動域(関節の動きのこと)が低下するとしましょう。股関節の動きが悪くなると、それをカバーするために、代わりに背骨の筋肉が働くようになります。
その結果、背骨の筋肉にかかる負担が大きくなり、腰痛を引き起こしやすくなります1)。股関節の機能が低下したままだと、背骨に常に負担がかかるようになるので、慢性的な腰痛となるケースもあるでしょう。
このように、股関節に問題が生じた際に起こる腰痛の原因は、背骨の筋肉がカバーしている結果起こるものなのです。
股関節の病気は腰痛が出現しやすい
股関節の病気も腰痛が出現する原因となるため、注意が必要です。その代表的な病気には、変形性股関節症があげられます。変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減ることで痛みや可動域の低下が現れ、日常生活に支障をきたす病気です2)。変形性股関節症も股関節の機能が低下しやすくなるので、腰痛を引き起こす可能性が高くなります。
実際に、手術が必要になるほど変形性股関節症が進行した方の約60〜70%以上が、腰痛を合併していたという報告があります3)。このように、股関節の病気を発症している方は、腰痛にも注意する必要もあるでしょう。
股関節の固さをチェックする方法
股関節が固いかどうかは、自分自身で簡単にチェックできます。ここでは、股関節の固さをセルフチェックする方法についてみていきましょう4)。
【腸腰筋のチェック方法】
- あお向けになって両膝を伸ばす
- 両手で片方の膝を持ち、股関節を曲げていく
- 股関節を曲げたときに反対の膝が持ち上がるかをチェックする
股関節前面についている「腸腰筋」の固さをチェックする方法です5)。腸腰筋には、股関節を曲げる働きがあります。反対の膝が上がるほど、腸腰筋が固いと判断できます。
【大腿四頭筋のチェック方法】
- うつ伏せになって両膝を伸ばす
- 手で片足を持ち、膝を曲げていく
- 膝を曲げたときにかかとがお尻につくかをチェックする
太ももの前面についている「大腿四頭筋」には、膝を伸ばしたり股関節を曲げたりする働きがあります。かかとがお尻につかない場合は、大腿四頭筋の固さが疑われます。
【ハムストリングスのチェック方法】
- 膝を伸ばした状態であお向けになり、上体を起こす
- 両足をつけて上体を前に傾ける
- 伸ばした手がつま先に届くかをチェックする
太ももの裏についている「ハムストリングス」は、膝を曲げる働きがあります。手がつま先に届かない場合は、ハムストリングスが固いといえるでしょう。
腰痛を軽減するための股関節のストレッチ方法
腰痛を軽減するためには、ストレッチによって股関節の柔軟性を高めることが大切です。ここでは、状態にあわせた股関節や腰筋肉のストレッチ方法についてご紹介します。
立った状態で行うストレッチ方法
ここでは立った状態で行うストレッチ方法をご紹介します。立って行うストレッチは、出先や移動中でも気軽に行えるのがメリットです。
【腸腰筋のストレッチ】
- 片足を後ろに引く
- 引いた足のかかとは浮かせておく
- 姿勢を伸ばしながら、足を引いた側の骨盤を前に突き出す
- 20秒ほど姿勢をキープしたら反対の足で行う
股関節の付け根が伸びるような感覚があれば、腸腰筋が伸びている証拠です。引いた側の手を上げながら行うと、さらに体幹をストレッチできます。
【大腿四頭筋のストレッチ】
- 膝を曲げて、手で片足を持つ
- かかとをお尻に近づける
- 20秒ほどキープしたら反対の足で行う
片足立ちの状態になるので、大腿四頭筋のストレッチと同時にバランス能力のトレーニングにもなります。ふらつきやすい方は、片方の手で壁や手すりなど支えになるものを利用しながら行ってください。
【ハムストリングスのストレッチ】
- 膝を伸ばしたまま上半身を曲げる
- 上半身を曲げたまま、手を床に近づける
- 20秒ほどキープする
ハムストリングスのストレッチ中は膝が曲がらないように注意してください。
座った状態で行うストレッチ方法
ここでは座った状態で行うストレッチ方法をご紹介します。デスクワークの合間や、立った状態でのストレッチがやりにくい場合はこちらの方法を試してください。
【ハムストリングスのストレッチ】
- イスに浅く座って片足の膝を伸ばす
- 伸ばした足に向かって上半身を傾ける
- 20秒ほどキープしたら反対の足で行う
座りながらハムストリングスを伸ばす際は、前方に転倒しないように注意してください。
【腰まわりのストレッチ】
- 背筋を伸ばした状態で座る
- 上半身を左右に回る
腰まわりの筋肉をほぐすストレッチ方法です。長時間イスに座っている場合は腰の筋肉が固まりやすいので、定期的にほぐすようにしましょう。
寝た状態で行うストレッチ方法
ここでは寝た状態で行えるストレッチ方法をご紹介します。ベッドの上でも行えるので、寝る前に行うことでリラックス効果も得られるでしょう。
【腸腰筋のストレッチ】
- あお向けになって膝を伸ばす
- 両手で片方の膝を持ち、股関節をできるだけ曲げる
- 20秒ほどキープしたら反対の足で行う
腸腰筋の固さをチェックしたときと同じ方法でストレッチします。その際は、伸ばしている足が浮かないように注意してください。必要に応じて足に重りを乗せるのもおすすめです。
【大腿四頭筋のストレッチ】
- うつ伏せになって両膝を伸ばす
- 手で片足を持ち、できるだけ膝を曲げる
- 20秒ほどキープしたら反対の足で行う
こちらも固さチェックと同じ方法で行います。ストレッチしている側の股関節が曲がらないように意識することが大切です。
【ハムストリングスのストレッチ】
- 膝を伸ばした状態であお向けになり、上体を起こす
- 両足をつけて上体をできるだけ前に傾ける
- 20秒ほどキープしたら反対の足で行う
固さチェックと同じ手順でハムストリングスを伸ばします。膝が曲がらないように注意しながら、ゆっくりストレッチしていきましょう。
股関節による腰痛を引き起こさないための日常のポイント
股関節による腰痛を引き起こさないようにするには、普段の生活でも注意すべきポイントがあります。ここでは、日常のポイントについて詳しく解説します。
足を組まない
まず、足を組まないようにしましょう。足を組むことで骨盤が左右非対称となり、身体のバランスが低下します。そして、バランスの崩れた身体が倒れるのを防ぐために、背中や腰まわりの筋肉を働かせて姿勢をキープしようとする反応が現れます。長時間足を組んでいると、背中や腰まわりの筋肉が常に働いている状態となるので、腰痛を引き起こしてしまうのです6)。
普段から足を組むのがクセになっている方は、なるべく控えるのをおすすめします。とくにデスクワークを中心とした方は、できるだけ正しい姿勢を維持することが大切です。
運動習慣をつけておく
日頃から運動習慣をつけて股関節を動かしておくことで、筋肉がほぐれやすくなります。運動で股関節を動かすことは、筋肉のストレッチ効果にもつながっています7)。普段から運動習慣をつけることで、股関節の可動域を確保できるでしょう。
腰痛に悩んでいる方は、ウォーキングをはじめとした軽い内容でも良いので、運動を継続することが大切です。関節が固まるのを防ぐために、普段あまり動かない方は意識的に運動してみましょう。
定期的にストレッチをする
定期的にストレッチして、筋肉が固まらないようにするのもおすすめです。先ほど紹介したようなストレッチじゃなく、仕事の合間にできるような軽いものでもかまいません。
たとえば、デスクワークの合間に背伸びをしたり、上半身を前に倒したりして筋肉を伸ばすだけでも良いでしょう8)。長時間同じ姿勢でいることも股関節や腰の筋肉が固まる原因となります。そのため、なるべくこまめに身体を動かすだけでも腰痛予防となります。
股関節をやわらかくして腰痛を予防しよう
股関節が固くなると、背骨がその分の動きをカバーする働きがあるため、腰痛が起こりやすくなります。腰痛を起こすのを防ぐためには、股関節まわりの筋肉をストレッチして、関節が固くならないようにすることが大切です。また足を組むことや運動不足も腰痛を引き起こすきっかけとなります。普段の生活でも座る姿勢を意識しつつ、適度な運動習慣をつけるようにしましょう。
医師からのコメント
股関節と腰痛は密接に関連しています。股関節の柔軟性や強度の低下は、腰部に負担をかけ、腰痛を引き起こす可能性があります。特に、股関節の柔軟性が低下すると、腰椎に過剰な負荷がかかり、腰の筋肉や靭帯に緊張が生じます。そのため、腰痛予防には、単に腰だけでなく、股関節を柔軟にし、強化するストレッチやエクササイズが有効です。
股関節の柔軟性を高めるためには、記事にあるような股関節周りの筋肉をターゲットとするストレッチが効果的です。また、股関節周囲の筋肉を強化する運動も重要です。例えば、ヒップスラストやレッグリフトなどの筋力トレーニングを取り入れることが推奨されます。
日常生活でのポイントとしては、長時間の座位や立位を避け、適度な運動やストレッチを定期的に行うことが重要です。また、姿勢の改善や重い物の持ち方にも注意を払いましょう。さらに、マットレスや椅子の硬さや高さを調整し、腰への負担を軽減することも大切です。
股関節と腰痛の関係は複雑であり、個々の症状や体質によって異なります。そのため、腰痛予防のためには個々の状況に合った適切なストレッチやエクササイズを行うことが重要です。定期的な運動や姿勢の改善は、腰痛を予防するために欠かせません。
【参考】
1)佐賀大学医学部 整形外科学教室|股関節の病気と腰痛との関係は?
2)慶應義塾大学病院|変形性股関節症
3)「胸椎可動性減少が変形性股関節症患者の腰痛と関連する」小池 教文、高山 真希ら 運動器理学療法学
4)甲南大学|ほんとうに大丈夫? 運動する前に知っておきたい自分のカラダのこと
5)理学療法評価学 改訂第4版|金原出版株式会社
6)足を組むことについて
7)「ダイナミックストレッチング前後の関節可動域,最大筋力,表面筋電図の変化」岡山 裕美、鶴池 柾叡、大工谷 新一 理学療法科学 30(6):897–901,2015
8)文部科学省|Myスポーツメニュー
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