記事監修者:内藤かいせい 先生
ひざ関節の痛みの原因は何なのか、どんな対処をすれば痛みが和らぐのか。ひざの痛みは加齢による衰えや生活習慣、スポーツによるケガなど、さまざまな理由で発生します。痛みの部位や発症時期によって対処方法が異なるため、症状改善のための正しい知識を持っておくことが重要です。
この記事では、理学療法士の専門的な視点から、ひざの痛みに関するさまざまな疑問にお答えします。
その情報はウソ?ホント?「ひざ関節の痛み」で知っておきたいQ&A
ここでは、ひざ関節の痛みに関してよくあるQ&Aをご紹介します。Q&Aをチェックして、ひざの痛みについての疑問を解消してみましょう。
Q1. ひざが痛む場所によって疑うべき疾患も変わる?
A. ひざが痛む場所によって、疑われる疾患は大きく異なります。
ひざが痛む場所に応じて考えられる代表的な疾患を、以下の表にまとめました。
ひざが痛む場所 | 疑うべき疾患 | 疾患の説明 |
---|---|---|
ひざの内側 | 変形性膝関節症 | ひざの軟骨がすり減る疾患1) |
内側半月板(はんげつばん)損傷 | ひざ関節のなかにある半月板の内側が損傷する疾患2) | |
内側側副靭帯(そくふくじんたい)損傷 | ひざ関節の内側につく靭帯が損傷する疾患3) | |
ひざの外側 | 外側半月板損傷 | ひざ関節のなかにある半月板の外側が損傷する疾患 |
外側側副靱帯損傷 | ひざ関節の外側につく靭帯が損傷する疾患 | |
ランナー膝(腸脛靭帯炎) | 「腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)」という、骨盤から足にかけてつく靭帯が炎症を起こす疾患4) | |
ひざの前側 | ジャンパー膝 | 膝のお皿(膝蓋骨:しつがいこつ)についている「膝蓋腱(しつがいけん)」という腱が炎症を起こす疾患5) |
それぞれの疾患について詳しく知りたい方は、以下の記事で解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:【医師監修】膝に負担がかかる行動とは?痛みの部位別の原因も解説
Q2. ひざからポキポキ音がする場合、それは疾患のサイン?
A. ひざからポキポキ音がする場合は、注意が必要な状態といえます。
ひざのポキポキ音は、関節内にある軟骨や半月板などの組織が損傷している可能性があるからです。ひざ関節の軟骨や半月板には、歩行時の衝撃をやわらげたり、関節をスムーズに動かしたりする役割があります。
しかし、これらの組織が傷つくと、関節の動きに異常が生じてポキポキ音が発生するケースがあります。疑うべき疾患としては、おもに以下のとおりです6)7)。
- 変形性膝関節症
- 半月板損傷
変形性膝関節症は軟骨がすり減っている状態なので、骨と骨がこすれあって音が出やすくなります。半月板が損傷すると、ひざを曲げ伸ばしする際にひっかかり感をともなうポキポキ音が出ることもあります。音とともに痛みがある場合や、日常生活に支障が出る場合は、早めに整形外科のある医療機関を受診しましょう。
Q3. O脚の人はひざの痛みが出やすい?
A. O脚の方は、ひざ関節の痛みが出やすい傾向にあります。
O脚とは、足がまっすぐではなく「Oの字」のようになっている状態のことです。O脚になると、立っているときや歩いているときに、体重がひざ関節の内側に集中しやすくなります。その結果、ひざの内側にある軟骨や半月板にストレスがかかりやすくなるのです。このような状態が続くと、変形性膝関節症へと進行する可能性もあるでしょう8)。
O脚と変形性膝関節症の関係性についてさらに知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:【医師監修】変形性膝関節症とO脚の関係性とは?おもな治療法や生活上の注意点を解説
Q4. ひざの痛みがある場合は運動をしないほうがいい?
A. 運動を控えるべきかどうかは、ひざの痛みの程度によって対応が変わります。
ひざに強い痛みを感じている場合や、ケガをした直後の場合は安静を優先しましょう。しかし、安静期間が長いと、ひざまわりの筋力が衰えやすくなります。そのため、我慢できるくらいの痛みであれば、適度な運動をしたほうがよいケースもあります。
実際に、「変形性膝関節症診療ガイドライン」では運動が推奨されており、身体機能の改善だけでなく鎮痛効果も認められているのです9)。ひざの痛みがある場合は完全な安静ではなく、無理のない範囲で適度な運動を心がけましょう。
Q5. ひざのケガをした場合は冷やすべき?温めるべき?
A. ひざのケガをした直後は、炎症をおさえるために患部を冷やしましょう。
ケガをした場合の応急処置として「RICE」があり、この処置は以下の単語の頭文字をとったものです10)。
- Rest(安静)
- Ice(冷却)
- Compression(圧迫)
- Elevation(挙上)
まず、ケガをした直後は患部を動かさないように安静にします。次にケガした部分を冷やして、腫れや痛みなどの炎症をおさえましょう。その後、むくみや内出血を予防するために、弾性包帯やテーピングを用いて患部を適度に圧迫します。強く巻きすぎると血行不良を起こす可能性があるため、適度な強さで巻くことが重要です。
最後は横になる際に足を挙上させて、ケガした部位を心臓より高い位置に保ちます。重力の関係で足に流れる血流が低下するため、むくみや炎症の軽減が期待できます。これらの応急処置を行っても痛みが続く場合や、日常生活に支障をきたす場合は、医療機関を受診しましょう。
Q6. 軽症でもひざの痛みが続く場合は医療機関を受診すべき?
A. ひざの痛みが1週間以上続いたり、日常生活に支障をきたしたりしている場合は、整形外科のある医療機関への受診を検討しましょう。
ひざの痛みを我慢して生活を続けていると、症状が進行して治療に時間がかかる可能性があります。例として、変形性膝関節症の場合、発症初期の段階であれば運動や薬などによる治療で対処できるケースもあるでしょう。
しかし、症状が進行して軟骨のすり減りが強くなると、手術が必要になる場合があります1)。ひざの痛みを自覚したら我慢せず、なるべく早めに医療機関を受診しましょう。受診の際は「いつから症状が出はじめたのか」「どんな動作で痛むのか」などを、できるだけ詳しく医師に伝えることが大切です。
現在お住まいの近くにある医療機関をお探しの方は、ぜひこちらから検索してみてください。
Q7. ひざの疾患は最終的に外科手術をしないと治らない?
A. ひざの疾患を発症したとしても、発症時期や重症度によっては手術以外の方法で改善できるケースもあります。
ひざの疾患に対する治療は、おもに以下の3つに大きく分けられます11)。
- 保存療法
- 手術療法
- 再生医療
保存療法とは、以下のような方法でひざの痛みの軽減・改善を図る治療法です。
- 薬物療法
- 運動療法(リハビリ)
- 装具療法(サポーター等の使用)
- 動作指導
疾患を発症した初期の段階では、まずは保存療法から行われるケースが多いです。症状が軽ければ、保存療法で対応できることも十分にあるでしょう。しかし、保存療法では十分な改善がみられない、または症状が重度な場合は手術療法が検討されます。
近年では、再生医療による治療が行われている医療機関も少なくありません。再生医療とは、自己の細胞や成分を用いて損傷した組織の再生を促す治療法のことです12)。
再生医療について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:【医師監修】再生医療のメリット・デメリットとは?関節痛に対する再生医療についても解説
Q8. すり減ったひざの軟骨は自然に再生する?
A. 基本的に、すり減ったひざの軟骨は自然には再生しないとされています13)。
そのため、軟骨がすり減った場合は、その重症度に応じた治療が必要です。すり減った軟骨に対して行われる保存療法の一つが、ヒアルロン酸注射による治療です。これはヒアルロン酸によって関節の滑りをよくする治療ですが、すり減った軟骨そのものを再生させる治療ではありません。軟骨の損傷が進行している場合は、手術による治療が必要となることもあります。
前述したように、近年では再生医療による軟骨の治療も進められています。実際に、再生医療は変形性膝関節症に対する治療効果も報告されているため、ぜひこちらの治療も検討してみましょう。
Q9. 普段の生活を工夫することで、ひざの痛みは解消できる?
A. ひざの痛みの改善のためには治療だけでなく、関節に負担をかけないような生活を送ることが重要です。
ひざの痛みをおさえるための工夫としてあげられるのが、和式から洋式への生活の変更です。和式トイレや布団での生活は、ひざを大きく曲げる頻度が多いため、関節に負担がかかりやすくなります。洋式トイレやベッドなどに変更することで、立ち座りの際のひざへの負担を軽減できます。
そのほかにも、階段の上り下りには手すりを活用したり、歩行時に杖を使用したりすることもおすすめです。これらの福祉用具の活用によって、ひざにかかる体重が分散されて痛みの悪化予防につながります14)。
Q10. サポーターの着用によってひざの痛みは軽減する?
A. ひざの痛みがある場合、サポーターの着用も効果的な対処方法の一つです。
サポーターの着用によってひざを固定することで、関節の安定性が高まりやすくなります。関節の安定性が高まれば、ひざの痛みの軽減も期待できるでしょう15)。
ただし、サポーターを長時間着用するとその固定性に頼ってしまい、筋力低下を招く恐れがあります。運動時や痛みを感じるときなど、必要な場面でサポーターを活用しましょう。
Q11. ひざの痛みを予防・改善するにはストレッチや筋トレが必須?
A. ひざの痛みを予防・改善するためには、関節の柔軟性を高めるストレッチや筋肉を鍛えるトレーニングなどの運動が重要です。
ここでは、自宅でも行えるストレッチと筋トレ方法をご紹介します14)。
【ひざ裏のストレッチ】
- イスに浅く座る
- 片足のひざを伸ばす
- 伸ばしたひざに向かって上半身を傾ける
- 無理のない範囲で上半身を傾けた状態を20秒ほどキープする
- 反対の足で行う
【太もも前面のストレッチ】
- うつ伏せになる
- 片方のひざを曲げて、片手で足首をつかむ
- 曲げた足のかかとを、おしりにできるだけ近づける
- 痛みの出ない範囲で近づけた状態を20秒ほどキープする
- 反対の足で行う
【ひざ伸ばしのトレーニング】
- イスに浅く座る
- 片方のひざをできるだけ伸ばす
- 足を下ろす
- 2〜3の手順を左右の足で20回×2〜3セット行う
【おしり上げのトレーニング】
- あお向けになった状態で両ひざを立てる
- おしりを上げて、上半身を太ももを一直線にする
- ゆっくりともとに戻る
- 2〜3の手順を15〜20回×2〜3セット行う
【スクワット】
- イスや壁の前に立ち、手を添える
- ひざがつま先の前に出ないように、ゆっくりひざを曲げる
- ひざを90度ほど曲げたらゆっくりともとに戻る
- 2〜3の手順を20回×2〜3セット行う
「ひざ関節の痛み」に関するQ&Aのまとめ
ひざ関節の痛みは、年齢や生活習慣、スポーツによるケガなど、さまざまな原因で起こります。気になる症状がある場合は、早めに整形外科のある医療機関へ受診しましょう。ひざの痛みに対する治療法としては、保存療法や手術療法、再生医療があり、症状の程度に応じて適切な方法が選択されます。
ひざの痛みを軽減するためには、運動や自宅環境の調整などの工夫が大切です。ぜひ今回の記事で紹介した知識をもとに、ひざの痛みの予防や改善に取り組んでいきましょう。
【参考】
1)日本整形外科学会|変形性膝関節症
2)日本スポーツ整形外科学会|33.半月板損傷
3)慶應義塾大学病院|膝靱帯・半月板損傷
4)JCHO東京山手メディカルセンター|腸脛靭帯炎(ランナー膝)
5)東邦大学|膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
6)「変形性膝関節症の診断と治療」立花 陽明 理学療法科学 20(3):235-240 2005
7)順天堂医院|膝半月板損傷
8)「地域在住女性高齢者におけるO脚の有無と身体機能との関連」村田 伸、中野 英樹ら 日本ヘルスプロモーション理学療法学会 Vol. 12, No. 2:51-56 2022
9)日本整形外科学会|変形性膝関節症診療ガイドライン
10)日本スポーツ整形外科学会|3. スポーツ外傷の応急処置 (RICE処置)
11)慶應義塾大学病院|変形性膝関節症
12)北里大学|再生医療(PRP療法・APS療法)
13)聖路加国際病院|関節軟骨損傷の診断と治療
14)日本理学療法士協会|シリーズ 7 変形性膝関節症
15)日本理学療法士協会|理学療法診療ガイドライン 第1版“ダイジェスト版”
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