【医師監修】膝の痛みに対する注射治療とは?再生医療についても紹介

膝の痛みに対して、注射治療が選択される場合があります。本記事では膝の痛みを生じる疾患と、代表的な注射治療について紹介します。膝に溜まった水を抜くための注射についても解説します。

膝の痛みを生じる代表的な疾患

そもそも、膝の痛みはどのような疾患により生じるのでしょうか。ここでは、膝の痛みをきたす代表的な疾患をご紹介します。

このなかでもっとも患者数が多いのは変形性膝関節症です1)
膝の痛みの原因となる疾患について、詳しく知りたい方は「【医師監修】膝の痛みの原因は?考えられる疾患や治療法を解説」もあわせてご覧ください。

変形性膝関節症とは?

変形性膝関節症は、膝の痛みを主訴とする病気です。男女比は1:4で女性の方が多く、高齢者になるほど発症のリスクが高くなります。
変形性膝関節症の原因は、膝関節の軟骨の老化です。加齢により弾力性を失い、すり減って変形をきたすのです。膝の使いすぎや、骨折や靭帯損傷などの外傷、感染の後遺症として発症するケースもあります。
変形が軽度であれば、痛みは動作の開始時のみ生じますが、次第に正座や階段昇降が困難になり、末期になると常に痛みが続くようになります。末期では膝の変形が目立ち、膝がピンと伸ばせず、歩行が困難になるため、日常生活に支障をきたします2)

変形性膝関節症について詳しく知りたい方は、「変形性膝関節症」もあわせてご覧ください。

変形性膝関節症に対する治療方法

変形性膝関節症に対しては、次のような治療がおこなわれます。

症状が軽い場合は、痛み止めの内服薬や外用薬の処方、膝を温める物理療法、筋力アップや関節可動域改善のための運動療法・リハビリテーションなど、「保存的治療」がおこなわれます。
薬物治療のなかには、今回ご紹介する膝への注射も含まれます。ヒアルロン酸注射や局所麻酔薬によるブロック注射などが主ですが、ステロイド剤を注射することもあります。

保存療法でも改善がみられない場合や、変形が進んでいる場合は、関節鏡下手術や高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術などの手術も検討されます2)

自分の軟骨を培養して移植したり、血液成分を培養して膝に注射したりする再生医療も選択できますが、標準治療とはなっていません。保険適用外である点にも注意が必要です3)

膝の痛みに対する注射治療

ここからは、膝の痛みに対しておこなわれる注射について詳しく解説します。

ヒアルロン酸注射

ヒアルロン酸はもともと膝関節の関節液に存在する成分です。ヒアルロン酸を注射することで、膝の痛みの軽減や膝軟骨の保護、関節の動きの改善が期待できます。変形性膝関節症をはじめとする、膝に痛みをきたすさまざまな病気に対しておこなわれます。
ヒアルロン酸注射は外来でもおこなえる点がメリットですが、あくまで対症療法です。効果が一時的なものである点には注意が必要です4) 5)

ブロック注射

局所麻酔薬やステロイド剤を痛みの原因となっている神経や関節の近くに、または直接注入する治療法です。腰椎椎間板ヘルニアや腰椎脊柱管狭窄症などにともなう膝の痛みに対しておこなわれます。
一時的な痛みの緩和だけでなく、痛みによって起こっていた血管の収縮や筋肉の緊張による二次的な痛みも抑える効果が期待できます6) 7)

トリガーポイント注射

押さえると痛い部位(トリガーポイント)に局所麻酔薬や消炎鎮痛剤を注射して、痛みを取り除く治療法です。ちなみに、トリガーポイントは東洋医学のツボの位置とほぼ一致しているといわれています。
トリガーポイント注射では一時的に痛みを取り除くとともに、筋肉の緊張緩和や血行改善なども期待できるため、痛みの悪循環を防ぐ効果もあります。慢性的な肩こりや腰痛などの治療として用いられますが、膝の痛みに対しておこなわれることもあります8) 9)

再生医療

近年、膝の痛みに対して次のような再生医療もおこなわれるようになりました。

PRP療法とは、患者さまの血液からPRP(Platelet Rich Plasma;多血小板血漿)を多く含む液体成分を取り出し、PRPだけを抽出して患部に注射する治療法です。PRPには活性の高い成長因子が多く含まれるため、組織の修復や痛みの緩和、関節機能の改善などが期待できます。変形性膝関節症のほか、膝蓋腱炎や外傷などに対しておこなわれます3) 10) 11)

PRP-FD療法は、厳密には再生医療ではありません。PRP療法を応用した治療法で、主に変形性膝関節症の痛みの緩和を目的におこなわれています。血液を遠心分離してPRPだけを取り出し、成長因子を活性化させる処置を施したうえで、フリーズドライ(FD)加工します。膝に投与する際は、生理食塩水に溶かして注射します3)

APS療法は、PRPをさらに遠心分離・特殊加工して必要な成分だけを取り出したAPS(Autologous Protein Solution;自己たんぱく質溶液)を投与する治療法です。次世代型PRP療法とも呼ばれており、変形性関節症やスポーツ外傷、骨壊死などに対して用いられます。PRPに比べて抗炎症成分を多く含むため、炎症抑制や痛みの軽減がより期待できます10) 11) 12)

再生医療は患者さま自身の血液を用いた治療のため、拒絶反応が起こりにくいといわれています。ただし、注射という医療行為をする以上、リスクはゼロとは言い切れません。また、始まって間もない新しい治療法のため、まだ知られていない副作用が起きるおそれもあります。

自由診療のため、全額自己負担となる点にも注意が必要です3)。高額でありながら、効果には個人差があるため、再生医療については慎重に検討しましょう。

膝の水を抜くとくせになる?

膝に対する注射は、薬剤を入れるためだけのものではありません。膝に溜まった水を抜くためにおこなわれることもあります。
しかし、巷では「膝の水を抜くとくせになって、水が溜まりやすくなる」「膝の水は抜かない方がいい」などの声も。医師から膝の水を抜く注射を提案された際に、ためらってしまう方も多いかもしれません。

結論から言うと、膝の水を抜いてもくせになることはありません、

膝の水が溜まった状態が続くと、腫れなどにより二次的な痛みが生じやすくなります。そのため、膝の水を抜くと、二次的な痛みの軽減や、腫れにより制限されていた動きの改善などが期待できます。また、膝から抜いた水を検査することによって、膝の炎症の原因を推定できるというメリットもあります。
ただし、炎症が治らない限り、繰り返し膝に水が溜まる可能性があります。ひざの水を抜くのはあくまで対症療法であり、根本治療にはならない点については必ず把握しておきましょう13) 14)

症状に合った注射で膝の痛みを和らげよう

膝は日常動作に欠かせない関節です。膝の痛みが続くと、日常生活が困難になってしまうことも。まずは整形外科などを受診し、痛みの原因を突き止めましょう。

膝への注射には、さまざまな種類があります。事前に必ず医師の説明を受け、自分に適しているかどうかを確認してから注射を受けましょう。

【医師からのコメント】
記事内にあるように、診療をしていると膝の水を抜くことについてよく相談されます。膝の水を抜くというのは医学用語でいうと関節穿刺、関節液除去という手技にあたります。関節液の過剰な蓄積は、関節包内の圧力を高め、痛みや可動域の制限を引き起こします。水を抜くことでこれらの症状が一時的に緩和されます。
また、抜いた関節液を検査することで、感染の有無や炎症の程度、関節内の問題を診断する助けにもなります。さらに、水を抜くと同時に痛み止めやステロイド剤を注入できるのでそれぞれ何度も針を刺す必要がなくなります。ただ、こうした手技はあくまで対症療法であり、さらにある程度抜けるだけの関節液が溜まっていないと難しいです。なので、気になる場合は医師の診察を受けるようにしましょう。

【参考】
1) 株式会社セルバンク ひざの痛みについて
2) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性膝関節症」
3) オムロン株式会社 痛みWith 膝の再生医療の種類
4) 日本整形外科学会 変形性膝関節症診療ガイドライン
5) ひざ関節症クリニック ヒアルロン酸注射
6) 岩井整形外科病院 ブロック療法
7) 医療法人 小西整形外科・腰痛クリニック 硬膜外ブロック療法について
8) 春日駅前 あべファミリークリニック 肩の痛み・腰痛・膝の痛み(トリガーポイント注射)/腱鞘炎外来
9) にし整形外科ペインクリニック トリガーポイント注射
10) 東京歯科大学 市川総合病院 再生医療PRP・APSについて
11) 北里大学北里研究所病院 再生医療(PRP療法・APS療法)
12) 医療法人財団 荻窪病院 APS療法について
13) 都立大整形外科クリニック 膝の水を抜くということは
14) 東京ブロック注射クリニック 「膝の水は抜くとくせになりますか?」整形外科医が答えます。

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