【医師監修】肩の痛みに対する注射治療の種類は?対象となる肩関節疾患も解説

肩の痛みに悩まされ、日常生活に支障をきたしている方も多いのではないでしょうか。そのような肩の痛みに対する治療法の1つに、注射治療が行われることがあります。注射にはさまざまな種類があり、症状や原因に応じて適切なものを選択することが大切です。
この記事では、肩の痛みに対する注射治療の役割や種類、適応となる症状をご紹介します。注射治療の効果や注意点を理解することで、自分にあった治療法を見つけるきっかけになるでしょう。

肩の痛みに対する注射治療の役割

肩の痛みに対する注射治療の多くは、「保存療法」としての役割があります1)。保存療法とは、手術以外で痛みに対する予防・改善を図る方法です。注射治療は、肩の痛みを引き起こすさまざまな原因に対して行われます。さらに運動療法や薬物療法など、他の保存療法と併用することで、より高い効果が期待できるのです。詳細は後述しますが、注射治療にはステロイド注射やヒアルロン酸注射などのさまざまな種類があります。
一方で、注射治療には効果の持続期間や回数制限、副作用のリスクなども考慮する必要があります。そのため、医師との十分な相談のもと適切な治療計画を立てることが重要です。

肩の痛みに対しての注射治療の種類

肩の痛みに対しては、どのような種類の注射治療が行われるのでしょうか。ここでは、代表的な注射治療の種類について解説します。

ヒアルロン酸注射

ヒアルロン酸注射とは、ヒアルロン酸ナトリウムを主成分とした薬剤を注射する方法です。ヒアルロン酸は、もともと体内に存在する成分でもあり、関節の潤滑剤としての役割があるのが特徴です。年齢とともに減少するヒアルロン酸を注射で補うことで、関節の動きがスムーズになり、痛みの軽減が期待できます2)
ヒアルロン酸注射はその特性から、肩関節だけでなく、膝関節の痛みに対する治療としてもよく使用されています。ヒアルロン酸注射は痛みや副作用が少なく、後述するステロイド注射と比べて安全性が高い傾向にあるのがメリットです。

ステロイド注射

ステロイド注射は、強力な抗炎症作用を持つステロイドホルモンを直接患部に注入する方法です。ステロイドは身体の免疫細胞に働きかけて、痛みや腫れなどの症状の軽減が期待できます3)。とくに急性の肩関節周囲炎(五十肩)や腱板炎など、炎症をともなう疾患に対して効果を発揮しやすいのが特徴です。
一方で、ステロイド注射は副作用にも注意する必要があります。おもな副作用は、以下のとおりです。

このように、ステロイド注射は即効性のある治療ですが、副作用が起こることも珍しくないため、適切な使用が重要です。

神経ブロック注射

神経ブロック注射は、患部に局所麻酔薬を注射して、痛みを伝える神経の働きを一時的に遮断する方法です。神経に作用するため、激しい痛みに対しても高い鎮痛効果が続きやすいのが、この注射のメリットです4)。神経ブロック注射の具体的な方法としては、局所麻酔薬を肩周辺の特定の神経に直接注入します。
痛みの部分に応じた神経に注射するので、肩以外にもさまざまな部位に対応しています。即効性もあり、注射後数分程度で肩の痛みがやわらぐことも多いでしょう。軽微な合併症としては、一時的な麻痺や注射部位の出血などが起こる可能性があります。

再生医療

再生医療とは、人体が本来持っている自然治癒力を活用して、損傷した組織の修復や再生を促進させる治療法です。再生医療は従来の治療とは異なる方法であり、保存療法や手術療法以外の選択肢として広まっています。
再生医療の代表的な治療法として、「PRP(多血小板血漿)療法」があげられます。PRP療法とは、血液中の「血小板」に含まれる成長因子を利用した治療法です5)。この血小板の成長因子には組織を修復する作用があるとされており、それを患部に注射して痛みの改善を図ります。
関節の炎症や軽微な損傷がみられている疾患がおもな対象であり、副作用が少ないのがメリットです。ただし、再生医療には未知な部分も多く、すべての方に効果があるわけではないという側面もあります。

注射治療が行われる肩の痛みの原因

肩こり

肩こりは、肩から首にかけての筋肉が緊張し、こわばりや痛みを感じる状態のことです。多くの方が経験している肩こりの原因はさまざまで、おもに以下があげられます。 

とくに近年ではパソコンやスマートフォンの使用時間が増加し、首や肩に負担がかかりやすい環境にあるといえるでしょう。肩こりは単なる痛みだけでなく、以下のような症状をともなうこともあるので、長期間放置しないようにする必要があります6)

肩こりは日常生活で起こりやすい症状ですが、その程度や持続期間によっては医療的処置が必要な場合もあります。

肩関節周囲炎(五十肩)

肩関節周囲炎は「五十肩」とも呼ばれており、肩の痛みや動きの制限を引き起こす疾患です。五十肩は、肩関節を作っている組織に炎症が起こることで発症します。名前のとおり50代前後の方に多くみられ、20〜50人に1人は五十肩を経験するという報告もあります1)

五十肩の症状は、初期では肩を動かすときの痛みやこわばりなどが現れるのが特徴です。症状が進行すると、次第に肩の動かしにくさや痛みが悪化し、日常生活にも支障をきたしはじめます。五十肩の原因は完全にわかっているわけではありませんが、年齢による関節の老化や、軽度のケガなどが重なって起こると考えられています。

肩腱板断裂

肩腱板断裂とは、肩関節を支える筋肉の腱の集まり(腱板)が損傷することで起こる疾患です。腱板は、以下の4つの筋腱からできています。

腱板は肩関節のまわりについており、動きや安定性をサポートしているのです。腱板断裂は、転倒や重い物を持ち上げるときなどの突発的な出来事で発症することがあります。また、加齢や長期にわたる肩の使いすぎによって徐々に腱板が傷つくことも珍しくありません。症状としては、肩の痛みや腕の上げにくさなどがあります7)

石灰沈着性腱板炎

石灰沈着性腱板炎は、先ほど解説した腱板に石灰(カルシウムの結晶)がたまることで起こる疾患です。石灰沈着性腱板炎は40〜50代の女性にみられやすく、夜間時に激しい痛みが突然生じることが多いとされています。発症直後は強い痛みが続き、十分に睡眠がとれないこともあるでしょう。症状が慢性化する時期になると、肩の運動時の痛みやひっかかり感が現れるのも特徴です。
腱板に石灰がたまる原因は明確ではなく、肩の使いすぎやケガが関係しているわけではないと考えられています。なかには、遺伝的な要因があるのではないかという報告もあります8)

変形性肩関節症

変形性肩関節症とは、肩関節の軟骨がすり減ることで起こる病気です。おもな症状は以下のとおりです。 

症状初期は軽い痛みや違和感程度ですが、進行すると安静時にも痛みを感じるようになります。変形性肩関節症の原因は、おもに「一次性」と「二次性」の2種類に分けられます9)
一次性は特定の原因ではなく、加齢や遺伝的要因によって起こるものです。二次性は外傷や別の疾患が原因で発症するもので、上腕骨の骨折や腱板断裂などから派生することも珍しくありません。

肩関節の注射以外の治療

肩関節の注射治療以外では、どのような手段が選択されるのでしょうか。ここでは、注射以外の治療法について解説します。

運動療法

運動の実施によって肩関節の機能を改善し、痛みの軽減を図る方法が運動療法です。具体的には、以下のような内容があげられます10)。 

これらの運動を継続的に行うことで筋力や可動域の向上につながり、痛みの軽減が期待できるのです。ただし、無理な運動は症状を悪化させる可能性があるため、自分の状態にあわせて実施することが重要です。運動療法と注射治療と併用することで、より効果的な治療が期待できます。

動作指導

肩の負担をかけないようにするための動作指導も、重要な治療の1つです10)。適切な動作指導によって肩の負担を軽減できれば、痛みの悪化予防につながります。動作指導の例としては、以下のとおりです。

これらのポイントを日常生活に取り入れることで、肩の痛みの軽減が期待できます。

手術療法

手術療法は、注射治療をはじめとした保存療法で効果が得られない場合や、症状が悪化している場合に検討される治療法です。肩の痛みに対する手術療法にはさまざまな種類があり、その方の状態によって適切な方法を実施します。

代表的な肩の手術には、「人工肩関節置換術」があげられます11)。人工肩関節置換術とは、変形性肩関節症や関節リウマチなど、肩関節の軟骨が激しく損傷している場合に行われる手術法です。損傷した関節を人工の関節に置き換えることで、痛みを軽減し、関節の機能改善が期待できます。ただし、手術療法には感染や人工物の劣化などのリスクもあるため、医師と慎重に相談することが重要です。

肩関節の痛みに対しては注射治療の検討を

注射治療は、保存療法の1つとして選択される治療法です。肩関節の痛みに対する注射治療には、ヒアルロン酸注射やステロイド注射など、さまざまな種類があります。それぞれ特徴や適応が異なり、その方の状態にあわせて適切な注射治療が行われます。運動療法や動作指導などと組み合わせることで、さらに治療を得られやすくなるでしょう。注射治療が行われる疾患についても把握しつつ、肩の治療の選択肢として検討してみてください。

【医師からのコメント】
肩の痛みに対する注射治療は、さまざまな肩の疾患や障害に対して効果的な方法の一つです。代表的な注射治療には、ステロイド注射、ヒアルロン酸注射、PRP(血小板豊富血漿)注射などがあります。
ステロイド注射は、炎症を強力に抑制し、痛みを迅速に軽減する効果があります。特に肩関節炎や腱板損傷などの炎症性疾患に対して用いられます。
ヒアルロン酸注射は、関節の潤滑性を高め、痛みを和らげる効果があります。これは特に肩の変形性関節症に対して有効です。
PRP注射は、患者自身の血液を用いて成長因子を注入し、組織の修復を促進します。肩の慢性痛や腱の損傷に対して効果が期待されます。
これらの注射治療は、症状や病態に応じて選択され、理学療法やリハビリテーションと併用されることが一般的です。注射治療は比較的安全で迅速な効果が期待できる一方、治療効果は一時的である場合が多いため、根本的な原因の治療や生活習慣の改善が重要です。

【参考】

1)霞ヶ浦医療センター|五十肩(ごじゅうかた)
2)「肩関節周囲炎に対するヒアルロン酸ナトリウム(SPH)の比較臨床試験」山本 龍二、並木 脩 臨床薬理 19(4) 1988
3)「夜間痛を伴う一次性肩関節拘縮に対する注射治療の効果」河合 伸昭 菅谷 啓之ら 肩関節 35巻 第3号 903-906 2011
4)慶應義塾大学病院|神経ブロック
5)北里大学|再生医療(PRP療法・APS療法)
6)久留米大学医療センター|肩こりを訴える疾患と原因
7)霞ヶ浦医療センター|腱板断裂(けんばんだんれつ)
8)霞ヶ浦医療センター|石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん)
9)慶應義塾大学病院|変形性肩関節症
10)日本理学療法士協会|肩関節周囲炎とは?
11)聖路加国際病院|人工肩関節置換術とは

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