記事監修者:眞鍋 憲正 先生

「歩いているとき、突然膝に強い痛みが走った」「膝の強い痛みがなかなか治らない」――このような症状がある場合、「膝関節特発性骨壊死(しつかんせつとくはつせいこつえし)」という病気が疑われます。進行すると日常生活にも大きな支障をきたすため、早期発見・早期治療が重要な疾患です。
この記事では、特発性膝骨壊死の症状や原因、治療法、日常生活で気をつけたいことまでわかりやすく解説します。痛みの軽減や進行抑制のために、ぜひご参考にしてください。
膝関節特発性骨壊死(しつかんせつとくはつせいこつえし)とは?
膝関節特発性骨壊死とは、中高年の女性に多く見られる疾患で、膝の内側に突然強い痛みが生じることが特徴1)です。ここからは、膝関節特発性骨壊死の原因と症状について詳しく解説します。
原因
膝関節特発性骨壊死の原因は、現在のところ明らかにはなっていません2)。
ただし、近年の研究では軟骨下の脆弱骨折が発症に関与しているのではないかと考えられています3)。脆弱骨折とは、加齢などにより骨がもろくなり、負荷の蓄積1)や軽微な外力により生じる骨折のことです4)。
ほかにも、60歳以上の女性に好発することから加齢や骨粗しょう症、閉経後のホルモン量の変化がリスクとしてあげられています5)。
また、膝関節に限らず、骨壊死は長期または頻回なステロイドの使用や過度のアルコール摂取などが原因となって引き起こされることがあります6)。なお、原因がはっきりとわかっているものについては、「特発性」とは表現されません7)。
明確な原因が分からない膝関節の骨壊死を、「膝関節特発性骨壊死」と呼ぶのです。特発性の場合は大腿骨外顆骨よりも大腿骨内顆骨に生じやすい5)ため、「大腿骨内顆骨壊死」と呼ばれることもあります8)。
症状
膝関節特発性骨壊死の特徴的な症状は、膝の内側の強い痛みです1)。ほかにも以下のような症状がみられることがあります1) 2)。
- 突然の激痛で動けなくなる
- 夜間に痛みが強くなり、眠れない
- 階段昇降や正座が困難になる
- 膝に水がたまる
- 膝の内側を押すと痛む
- 膝関節に腫れや熱感が生じる
初期でも上記のような症状が現れ、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
膝関節特発性骨壊死の検査
膝関節特発性骨壊死の診断は、画像検査が中心となります。
初期段階ではX線(レントゲン)検査で異常がみられないことも多く、変形性膝関節症との判別がつきにくい6)ことから、骨壊死の有無や病変の位置を確認できるMRIによる診断がきわめて重要になります9)。
膝関節特発性骨壊死は進行すると変形性膝関節症を合併する可能性が高いため、早期発見・早期治療が非常に重要です8)。疑わしい症状があれば、整形外科を早めに受診しましょう。
膝関節特発性骨壊死の治療法

膝関節特発性骨壊死の治療は、壊死の進行度に応じて異なります。ここからは膝関節特発性骨壊死の代表的な治療法3つについて詳しくご紹介します。
保存療法
骨壊死の範囲が比較的小さく、変形がみられない場合には保存療法が選択されます6)。具体的には安静による患部の負担軽減や鎮痛剤の処方、ヒアルロン酸注射などが行われます。また、運動療法1)や装具療法により、膝関節への負荷の軽減を図ります6)。
手術療法
保存療法で症状の改善がみられない場合や、骨壊死の範囲が広い場合、進行が認められる場合には、手術療法が検討されます。
おもな術式は「高位脛骨骨切り術」と「人工膝関節置換術」の2つです。高位脛骨骨切り術は脛骨の角度を変えて病変によって狭くなった膝関節の内側の隙間を広げ、膝関節にかかる負担を軽減するものです。患者さまご自身の関節を温存することが可能です。
人工膝関節置換術は、部分置換術と全置換術の2つに分かれます。壊死部分のみを人工関節に置き換える場合は部分置換術が選択されることが多いですが、変形性膝関節症を合併し、関節の変形が著しい場合などには全置換術が選択されます5)。
再生療法
近年では、保存療法と手術療法の間をつなぐ新たな選択肢として、再生医療が加わりつつあります。
膝関節特発性骨壊死に対しては、患者さまご自身の脂肪由来の幹細胞や血液から抽出したPRP(多血小板血漿)を利用した再生医療が行われています。膝の痛みを抑え、組織修復を促進することが期待されています10)。
再生医療は患者さま自身の細胞や血液を利用することから、安全性の高い治療といわれています。ただし、新たな治療法であるため、効果は個人差が大きく、予期せぬ副作用などが起きるリスクもあります。また、自由診療であることから治療費も高額です。再生医療については、まだ慎重な検討が必要な段階といえるでしょう。
膝関節特発性骨壊死の生活上の注意点
膝関節特発性骨壊死が疑われる場合は、速やかに整形外科を受診しましょう。膝関節特発性骨壊死と診断されたら、膝にかかる負担を最小限に抑えることが重要です。
過度な運動や長時間の立ち仕事、階段昇降、正座など、膝への負荷がかかることは控えましょう。痛みがある場合は無理に動かさず、安静にすることが大切です。また、杖や足底板などの装具を使用し、膝関節に荷重がかからないようにしましょう。
一方で、膝の負担を軽減させるための運動や筋力トレーニングも欠かせません。医師や理学療法士の指導のもと、ご自身に合った方法・強度で膝関節周囲の筋肉を鍛え、膝関節にかかる負荷の軽減を図りましょう1)。
肥満や喫煙・飲酒は膝関節特発性骨壊死を悪化させるリスクとなります。喫煙・断酒して、栄養バランスの整った食生活を心掛けましょう6)。体重管理のために運動をする場合は、膝関節に負担をかけづらい水中でのウォーキングなどもおすすめです。
膝関節の痛みは放置せず、早めの対応を!
膝関節特発性骨壊死は進行性の疾患であり、初期段階では保存療法での改善が期待できる一方、進行すると手術が必要になることもあります。そのため、整形外科での早期診断・早期治療が重要です。とくに中高年の女性で、膝の内側の激痛が突然現れた場合は、速やかに整形外科を受診してください。
【医師からのコメント】
膝関節特発性骨壊死は、膝の骨に血流が届かず骨細胞が壊死する疾患です。主症状は激しい膝痛と可動域制限で、放置すると関節変形や歩行困難を招きます。原因は不明ですが、ステロイド長期使用や血流障害が関与すると考えられています。
治療は安静・薬物療法で軽症例を管理し、進行例では骨切り術や人工関節置換術を検討します。生活面では体重管理、膝への過度な負荷回避、筋力強化運動と定期検診で症状進行を防ぐことが大切です。違和感を感じたら早期に専門医を受診し、画像検査で進行度を把握することが予後改善のカギです。
【参考】
1)ひざ関節症クリニック 骨壊死した膝はどうなる?治る?原因と疑わしい時にすべきこと
2)横須賀市立市民病院 病名・症状ガイド 膝関節特発性骨壊死
3)Yamamoto, Takuaki, Bullough, Peter G Spontaneous Osteonecrosis of the Knee: The Result of Subchondral Insufficiency Fracture The Journal of Bone & Joint Surgery 82(6):p 858, June 2000.
4)だて整形外科リハビリテーションクリニック 脆弱性骨折といつのまにか骨折
5)東京整形外科 ひざ・こかんせつクリニック 大腿骨内顆骨壊死とは?
6)再生医療専門クリニック リペアセルクリニック 東京院 【どうなる?】特発性膝骨壊死とは|治療法や悪化させないポイントまで医師が解説!
7)公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 特発性間質性肺炎(指定難病85)
8)順天堂大学医学部附属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科 大腿骨内顆骨壊死
9)医療法人社団 久保田整形外科医院 Dr.久保田の診察室だより Vol.3 特発性膝関節骨壊死症
10)再生医療専門クリニック リペアセルクリニック 東京院 膝の痛みの再生医療・幹細胞治療
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