【医師監修】関節の炎症で考えられる疾患は?治療法や予防法も解説肩甲上腕関節の痛み(肩関節の痛み)の原因は?疑うべき疾患も解説

肩甲上腕関節(肩の関節)に痛みを感じて、日常生活に支障をきたしている方も多いのではないでしょうか。急に痛みが出たり、肩の動きが悪くなったりと、その症状はさまざまです。放っておくと痛みが慢性化してしまう可能性もあるため、どのような原因で起きているかを把握し、適切に対処することが大切です。

この記事では、肩甲上腕関節の痛みの原因や疑うべき疾患についてご紹介します。肩の痛みの正体を知ることで、どのような対応をすれば良いのかがわかるでしょう。

肩甲上腕関節とは?痛みの原因は?

肩甲上腕関節は、上腕骨の頭部と肩甲骨の関節窩(くぼみの部分)から成り立っている関節です。肩甲上腕関節は可動域が広く、複雑な動きができる反面、安定性が低いという特徴があります1)。そのため、周囲についている筋肉や腱、靭帯によって関節の安定性をサポートしています。

それらの組織や骨が何かしらの原因によって損傷すると、肩の痛みが現れるのです。肩甲上腕関節は複雑な構造をしているため、痛みの原因を特定することが難しいケースもあります。

肩甲上腕関節の痛みが現れたときに疑うべき疾患

肩甲上腕関節付近の痛みが続く場合、何かしらの疾患を疑う必要があります。ここでは、肩甲上腕関節に現れやすい代表的な疾患について詳しく解説します。

肩関節周囲炎(五十肩)

肩関節周囲炎は、肩関節周辺の組織の炎症によって、痛みや可動域制限が生じる疾患です。「五十肩」と呼ばれることもあり、50歳前後の方に起こりやすいとされていますが、70〜80代で発症することも少なくありません2)。おもな症状は運動時痛や夜間痛です。肩を動かすときにズキズキとした痛みがあるほか、夜間痛で眠れなくなることもあります。痛みによって肩を動かさなくなると、肩の可動域制限が徐々に進行します。

このように肩関節周囲炎は、炎症による強い痛みが生じて、それにともなう可動域制限が現れやすいのが特徴です。放置すると関節の拘縮が進行し、日常生活にも大きな支障をきたすこともあるでしょう。

肩腱板損傷

肩腱板損傷は、肩関節を支えている「腱板」が損傷することで起こる疾患です。腱板とは、肩の周囲についている筋肉の腱の集まりで、以下の4つからできています3)

これらの腱によって、肩関節の安定性を高めているのです。スポーツや仕事などで腱板に大きな負担がかかり、損傷すると肩腱板損傷となります。代表的な症状は肩の痛みで、それにともなって腕を上げるのが困難となります。また、夜間痛で睡眠障害をきたしたり、損傷部位の腫脹がみられたりすることもあるでしょう4)

変形性肩関節症

変形性肩関節症とは、肩甲上腕関節が変形し、痛みや運動障害などを引き起こす疾患です。変形性肩関節症の多くは、腱板損傷をはじめとした肩の疾患から派生して発症するとされています5)。おもな症状は、肩の痛みや可動域の制限などがあり、日常生活に支障をきたすこともあるでしょう。

肩関節は体重がかかりにくい関節なので、構造的に膝や股関節に比べると変形性関節症になりにくい傾向にあります。しかし、一度変形が進行すると可動域の制限が現れやすいのが特徴です。

関節リウマチ

関節リウマチは自己免疫疾患の1つで、肩甲上腕関節を含む全身の関節に炎症が生じる疾患です。関節リウマチでは滑膜という関節を覆っている組織に炎症が現れ、腫れや痛みが生じます。そして症状が進行すると軟骨や骨の破壊が起こり、関節の変形をきたすのです。とくに高齢者の関節リウマチは、肩関節の変形が現れることが多いとされています6)

炎症による関節の痛みだけでなく、以下のような症状をともなうことも珍しくありません。 

胸郭出口症候群

胸郭出口症候群とは、肩や腕に痛み、しびれなどが現れる疾患で、神経や血管が圧迫されることで起こります。胸郭出口とは、鎖骨と肋骨の間にある狭い隙間のことを指します。胸郭出口には神経や血管が通過しているため、この隙間が狭くなると圧迫されてしまうのです7)

圧迫の原因としては、肋骨の奇形や異常な線維が現れていることなどがあげられます。おもな症状には、以下があげられます。

痛みは首や肩にも及ぶことがあり、上記以外にも多彩な症状が現れやすいのが特徴です。胸郭出口症候群はつり革につかまるときや携帯電話を耳にあてるときなど、上肢を上げる動作で症状が悪化する傾向にあります8)

肩甲上腕関節の痛みが現れたときの対処法

肩甲上腕関節の痛みが現れたとき、どのように対処すべきなのでしょうか。ここでは、おもな対処法について詳しく解説します。

保存療法で痛みの軽減を図る

肩甲上腕関節の痛みに対する治療として、まずは保存療法で症状の軽減を図ることが基本です9)。保存療法では鎮痛剤や湿布などの薬物療法のほか、運動療法が中心に行われます。具体的には、痛みが強いときには患部を安静にして薬物療法を行い、落ち着いてきた段階で徐々に可動域訓練などの運動療法を実施します。

このように、まず肩甲上腕関節の痛みがある場合は、保存療法で対応することが重要です。無理のない範囲で患部を動かしながら、薬物療法と運動療法を組み合わせて、痛みの軽減を図りましょう。

疾患によって肩の痛みが強い場合は手術を検討する

保存療法を行っても肩甲上腕関節の痛みが強く、日常生活に支障をきたす場合は、手術を検討する必要があります。関節の変性が進行している、または腱板の損傷が強い場合は、保存療法だけでは十分な効果が得られないことがあるからです。手術を行うことで根本的な原因が解消され、痛みの改善や肩関節の機能回復が期待できるでしょう。

どのような手術が行われるのかは、疾患によって大きく異なります。たとえば、変形性肩関節症の場合は「人工骨頭置換術」や「人工肩関節置換術」など、関節を入れ替える手術が行われます5)。手術の種類は、関節の状態や患者さんの年齢、活動量などを総合的に判断して決めることが大切です。

再生医療による治療も検討する

肩甲上腕関節の痛みに対して、再生医療による治療も徐々に進んでいます。再生医療とは、人体にある細胞を用いて、傷ついた組織の修復を促す治療法のことです。

再生医療の代表的な治療法の1つに、「多血小板血漿(PRP)療法」があります。これは、血液のなかにある「血小板」と呼ばれる有効成分を抽出して関節内に投与する方法です。血小板には組織の修復を促したり、炎症を抑えたりする効果があるとされています。PRP療法は肩関節周囲炎や腱板損傷も対象とされているため、今後さまざまな肩関節疾患への応用も期待されています10)。また再生医療は、手術療法と比べて身体への負担が少ないのも大きなメリットです。

肩甲上腕関節の痛みがあるときの注意点

肩甲上腕関節の痛みがある場合、生活上でどのような点に注意すべきでしょうか。ここでは、おもな注意点について詳しく解説します。

肩を大きく動かさない

肩甲上腕関節の痛みの悪化を予防するために、肩を大きく動かさないようにしましょう11)。肩を大きく動かすと、炎症を起こしている組織をさらに傷つけてしまう恐れがあるからです。その場合は無理に腕を上げず、痛みが出ない範囲で動かしましょう。

また、スポーツや仕事でよく肩を使う方は、症状が落ち着くまでは負担を極力減らすことをおすすめします。痛みを我慢して動かし続けると炎症が長引き、回復が遅れる原因となるでしょう。症状にあわせて肩の動きを制限することで、痛みの早期改善につながります。

重いものを持たないようにする

重いものを持つと肩の組織にかかる負担が強くなり、痛みを悪化させる要因となります11)。とくに普段から重いものを頻繁に持つ習慣がある方は、注意が必要でしょう。日常生活では、なるべく片手で持てる程度の軽い荷物を選ぶようにしましょう。

どうしても重いものを運ばなければいけないときは、他の人と協力して肩への負担を減らす工夫をすることが大切です。

セルフエクササイズを定期的に行う

肩甲上腕関節の痛みを改善するためには、セルフエクササイズを定期的に行うことも大切です12)。とくに、肩甲骨まわりの筋肉や可動域を高めるためのエクササイズがおすすめです。

おもなエクササイズの内容としては、以下があげられます。 

ただし、痛みが強い時期にエクササイズを行うのはなるべく避けましょう。痛みがやわらいできた段階で徐々に開始するのがおすすめです。

肩甲上腕関節の痛みが続く場合は医療機関の受診を

肩甲上腕関節は上腕骨と肩甲骨でできている関節で、痛みの原因には肩関節周囲炎や腱板損傷などのさまざまな疾患が考えられます。痛みが現れたときは、まずは安静にして保存療法で様子をみて、痛みが強い場合は手術による治療も検討する必要があります。日常生活では、肩を大きく動かしたり重いものを持ったりするのは避け、セルフエクササイズを定期的に行うことが大切です。肩甲上腕関節の痛みが続く場合は、早めに医療機関を受診して医師に相談してみましょう。

医師からのコメント
肩の痛みは、急性または慢性の問題により引き起こされることが多いです。急性の痛みの原因には、肩関節脱臼、回旋腱板損傷、肩峰下滑液包炎などが含まれます。これらは外傷や過度の使用によるもので、整復、安静、NSAIDs、理学療法、ステロイド注射などの治療が必要です。慢性的な肩の痛みの原因には、肩関節周囲炎(凍結肩、五十肩)、肩インピンジメント症候群、変形性肩関節症、石灰沈着性腱板炎などがあります。これらは肩の運動制限や夜間痛を伴い、理学療法、NSAIDs、ステロイド注射、手術が治療に用いられます。肩の痛みが持続する場合、正確な診断が重要であり、早期の適切な対応が症状の進行を防ぎ、機能の回復を促します。専門医による評価と治療計画が必要です。

【参考】
1)「上腕挙上にともなう肩甲上腕関節の姿勢変化と骨間距離のin-vivo計測」中村康雄、中村真里、林豊彦ら
2)国立長寿医療研究センター|肩の痛みの原因は?
3)兵庫医科大学病院|腱板断裂
4)日本整形外科学会|「肩腱板断裂」
5)慶應義塾大学病院|変形性肩関節症
6)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
7)慶應義塾大学病院|胸郭出口症候群
8)日本整形外科学会|胸郭出口症候群
9)日本整形外科学会|「五十肩(肩関節周囲炎)」
10)北里大学|再生医療(PRP療法・APS療法)
11)東北大学整形外科|わかりやすい 五十肩・肩の痛み
12)日本理学療法士協会|理学療法ハンドブック シリーズ13 肩関節周囲炎

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