【医師監修】再生医療のAPS療法(自己タンパク溶液療法)とは?治療法と治療の流れ、費用、注意点を解説

「慢性的な痛みに悩んでいる」「手術は避けたいけれど、痛みはどうにかしたい」――そんな方に今注目されているのが、再生医療の一種である「APS療法(自己タンパク溶液療法)」です。

この記事ではAPS療法の詳しい内容をはじめ、治療の流れ、費用、注意点についてわかりやすくお伝えします。

APS療法とは?

慢性的な関節痛などにお悩みの方が、「できるだけ手術を避けたい」「なるべく身体への負担が少ない治療を受けたい」と思うのは自然なことです。そのようなニーズに応える新しい治療法のひとつが「APS療法(Autologous Protein Solution;自己タンパク溶液療法)」です1)

APS療法は、患者さまのご自身の血液から採取した成分を使って行う再生医療の一種です。APSはPRP(多血小板血漿)から関節に関わる成分のみを取り出し、濃縮したものです。PRP療法は筋肉や腱などの組織修復を促す効果が期待できる治療法ですが、関節への効果はいまひとつでした。APSはPRPよりも関節に特異的に作用するよう開発されており、「次世代PRP」とも呼ばれています2)

APS療法では、まず、患者さまの血液から炎症を抑える作用のあるたんぱく質や、組織修復を促す成長因子を高濃度に抽出します。この高濃度な溶液がAPSです。APSを痛みのある関節内に注射することで、炎症を抑え、痛みなどの症状緩和を目指します。

患者さま自身の血液由来のため、比較的安全性の高い治療3)とされています。ただし、新しい治療のため、予期せぬ副作用が起きることもあるため、受けるにあたっては慎重な検討が必要です。

再生医療の具体的な内容について知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
>>【医師監修】再生医療とはどんな治療?種類やメリットを詳しくご紹介
>>【医師監修】膝の痛みに対する注射治療とは?再生医療についても紹介

APS療法が適している疾患

APSの適応となる疾患は、変形性関節症やスポーツ外傷です。

変形性関節症、とくに中高年に好発する変形性膝関節症では、関節の軟骨がすり減ることで痛みや腫れ、変形、可動域制限などの症状が現れます4)。APSを注入することで、患部の痛みや炎症の軽減、進行の抑制などが期待できます5)。また、中等度以下の患者さまの保存療法と手術療法をつなぐ新たな選択肢としても注目されています。

スポーツ外傷にともなう関節痛に対する再生医療はPRP療法のほうが主流ですが、APSも効果が期待されています2)

ただし、関節の変形が著しい場合など重度の症例では、APSの効果が十分に得られない場合もあります3)

スポーツ外傷の治療に効果が期待できる再生医療について知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
>>【医師監修】「再生医療」はスポーツ外傷を治せる?ケガの種類やアスリートの成功事例を解説

APS療法の治療の流れ

APS療法は、基本的に日帰りで受けられる治療です。

治療当日は、まず55mLの血液を採血します。その血液を遠心分離してPRPを作り、次に専用キットを用いてAPSを作成します6)。APSを痛みのある関節内に注入し、30分ほど経過観察をして終了です7)

患者さま由来の成分を用いているため、安全性は高いといわれていますが、注射にともなう痛みはあります。また、治療から数日間は、注射した部位に痛みや腫れが生じることがあります3)

1回のAPS療法で痛みの改善効果は2年ほど続くといわれています7)が、個人差が大きいため、治療を繰り返し受けることが必要となる場合もあります。

APS療法の治療にかかる費用

変形性膝関節症などにともなう膝の痛みに対するAPS療法の費用相場は、片膝あたり330,000円3) 7)です。

APS療法は保険適用外の自由診療に分類されるため、費用はすべて自己負担となります。また、治療を受ける部位や医療機関によっても料金が異なる点に注意が必要です。

治療効果や持続期間は個人差が大きい7)ため、1回のAPS療法で改善するとは限りません。必ず費用についての説明を受け、納得いくまで確認したうえで治療を受けるかどうかを決めることをおすすめします。

再生医療の費用相場について知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
>>【医師監修】再生医療にかかる費用の相場は?保険適用の範囲と美容系再生医療についても解説

APS療法の注意点

患者さま由来の成分を用いるAPS療法は、身体への負担が比較的少なく、安全性の高い治療法とされています。一方で、注意すべきポイントも存在します。

まず、APS療法はすべての方に確実な効果があるわけではありません。効果の現れ方や持続期間には個人差があります7)。とくに関節の変形が進行している重度の症例では、APS療法だけでは十分な改善が見込めない場合もあります。

また、注射のあとには一時的に腫れや痛みが出ることもあります。通常は数日も経てば落ち着きますが、注射部位によっては1週間ほど続くケースもあるようです3)。1週間以上痛みや腫れ、不快感などが続いている場合や、発熱などほかの症状もみられる場合は、感染症の疑いがある8)ため、医師に相談しましょう。

医療機関にもよりますが、一般的にAPS療法を受けてから2週間程度は激しい運動は控えるよう指示されます。運動再開のタイミングについては、医師とご相談ください3)

なお、APS療法は病気を根本から治す治療法ではありません。あくまで進行を遅らせたり、症状を緩和させたりする「対症療法」のひとつであることを理解しておくことも大切です。

APS療法は手術前の新たな選択肢

従来、保存療法で十分な効果が得られなかった変形性関節症に対しては、人工関節置換術などの手術が検討されることが一般的でした。しかし、多くの手術では入院をともなうため、仕事や日常生活への影響は避けられません。また、手術そのものに不安を抱く方も少なくありません。

このような背景から、APS療法は新たな治療の選択肢として注目を集めています。患者さま自身の血液から抽出した成分を用いるため、安全性が高く、通常は日帰りで受けることが可能な点も大きなメリットです。

一方で、APS療法はまだ長期的な効果に関するエビデンスが十分に蓄積されているとはいえない背景があります。また、保険適用外であることから、治療費が高額になることも懸念点といえるでしょう。

APS療法を選択肢のひとつとして考える際は、再生医療に詳しい医師と相談のうえ、ご自身の症状やライフスタイルと照らし合わせながら慎重に検討することが大切です。納得したうえで治療を選ぶことが、より良い結果につながるでしょう。

【医師からのコメント】
APS療法は自己血液を遠心分離などで処理し、炎症抑制や組織修復に関わるタンパク質を濃縮した自己タンパク溶液を患部へ注入する再生医療です。手術を伴わず通院で完結し、変形性関節症などの疼痛や機能改善が期待できます。

費用は保険外診療で30万~50万円が目安で、適応や実施施設の選択が成否を分けます。副作用は現時点で報告が少ないものの、投与部位の疼痛や腫脹が数日間続くため安静が必要です。また、長期的効果の持続期間には個人差があるため、信頼できる医師に相談したうえで治療を検討してください。本記事を参考に、まずは専門クリニックへお問い合わせをおすすめします。

【参考】
1)横須賀市立市民病院 APS療法とは 再生医療 PRP 療法から APS 療法へ
2)東京歯科大学 市川総合病院 再生医療PRP・APSについて
3)社会医療法人財団互恵会 大船中央病院 情報ひろば ~再生医療~ APS療法のご案内
4)公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性膝関節症」
5)北里大学北里研究所病院 再生医療
6)ひざ関節症クリニック APS再生治療
7)横須賀市立市民病院 APS療法とは APS療法のメリット・デメリット、Q&Aについて
8)IMSグループ 医療法人財団 明理会 東戸塚記念病院 APS療法外来【予約制】 リスクと副作用

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