【医師監修】膝靱帯の痛みがあるときの対処法は?代表的な疾患や治療法を解説

膝の靱帯に痛みを感じて、日常生活にも影響が出てきている方はいるのではないでしょうか。膝の靭帯は、事故やスポーツを含めた激しい動きによって痛めてしまうことは珍しくありません。膝靱帯の痛みは安静にしていれば自然治癒することもありますが、重症の場合は手術が必要になることもあります。

この記事では、膝にある主要な靱帯の種類や、痛みが出た際に疑われる疾患をご紹介します。膝靱帯を痛める原因を知ることで、今後の治療を検討する際の判断材料になるでしょう。

膝関節にある主要な靱帯

膝関節にはどのような靭帯がついているのでしょうか。ここでは主要な靱帯について詳しく解説します。

前十字靭帯

前十字靭帯(ACL)は、膝関節を作っている大腿骨と脛骨(けいこつ)をつなぐ靱帯です。おもな役割としては、脛骨の前方への動きを制御し、捻り動作の安定性の向上などです1)。そのため、前十字靭帯はジャンプの着地や急な方向転換、ストップ動作などで働きやすくなります。

また、前十字靭帯をはじめとした靱帯は関節内にあるため血行に乏しく、一度損傷すると自然治癒が難しいとされています2)

後十字靭帯

後十字靭帯(PCL)は、前十字靭帯と交差するように膝関節内を走行している靱帯です。前十字靭帯とともに、膝の安定性に寄与しています。後十字靭帯のおもな働きは、脛骨が後方へずれるのを防ぐことで、これにより膝が過伸展しないよう制御しているのです。また、膝の屈曲動作を円滑に行うためにサポートする役割もあります2)

内側側副靱帯

内側側副靱帯(MCL)は、膝の内側についている靭帯です。具体的に、内側側副靱帯は以下のような役割があります。 

内側側副靱帯は比較的幅が広く、強靭な靭帯です。また、単独よりも他の靭帯や半月板と同時に損傷することが多いとされています3)

外則側副靱帯

外側側副靱帯(LCL)は、膝の外側にある靭帯です。外側側副靱帯は、膝の内側方向からの力に抵抗して、膝関節の安定性を維持するのに重要な役割を果たしています3)。内側側副靱帯と比べると小さく、股関節についている他の靭帯とともに膝を制御しているのが特徴です。

スポーツ活動中の接触プレーやジャンプ着地の際に受傷することがありますが、損傷頻度は低い傾向にあります。

膝靱帯の痛みが現れているときに疑うべき疾患

膝靭帯付近の痛みが続く場合、何かしらの疾患を疑う必要があるでしょう。ここでは膝靱帯の痛みが現れる疾患について詳しく解説します。

前・後十字靭帯損傷

前十字靭帯や後十字靭帯が損傷すると、膝に痛みや腫れが現れやすくなるのが特徴です4)。前十字靭帯損傷では膝が前方に対して不安定になり、動かすたびにグラグラする感覚が生じます。後十字靭帯損傷の場合は、膝を後ろに突っ張る際に痛みを感じ、完全に伸ばすことが難しくなります。
これらの靭帯損傷のおもな原因は、以下のようなスポーツ場面で生じる膝へのストレスです2)。 

損傷の程度によっては靭帯が部分的に切れたり、完全に断裂したりします。靭帯断裂の状態を放置すると、将来的に変形性膝関節症へ移行するリスクが高まるため、適切な治療が必要です

内側・外則側副靱帯

内側側副靱帯と外側側副靱帯の損傷では、それぞれ膝の内側や外側に痛みが現れます。内側側副靱帯損傷は膝の外側から力が加わったときに起こりやすい一方、外側側副靱帯損傷は内側からのストレスで発生します5)。どちらも損傷によって膝の安定性が失われ、歩行時にふらつきを感じることもあるでしょう。
原因の多くはスポーツによるものとされていますが、交通事故などの外傷で靱帯を痛める場合もあります。

靱帯以外にも半月板が損傷されている場合もある

膝の靱帯損傷の際には、「半月板」も同時に損傷されていることがあります。半月板とは、膝関節の間にある軟骨のことで、靱帯とともに膝関節の安定性に重要な役割を果たしています。半月板も膝の靭帯と同じように、スポーツ中の急な方向転換やストップ動作の際に痛めることが多いです。
半月板損傷の症状としては、以下のとおりです6)。 

靱帯損傷と半月板損傷の両方がみられた場合には、それぞれに応じた治療を行う必要があるでしょう。

膝靱帯の痛みがある場合の検査・診断

膝靱帯の痛みがある場合、医師の診察によって膝の動きや安定性をチェックします。このとき膝の動きを確認して、関節が不安定かどうかを調べるテストを行う場合もあるでしょう7)
その後の画像検査では、MRIによって靱帯や半月板などの状態を詳しく観察します。これらの検査結果をもとに、靱帯の損傷部位やその程度を診断します。

膝靱帯の痛みがある場合の治療法

膝靱帯の痛みがある場合、どのような治療が行われるのでしょうか。ここではおもな治療法について詳しく解説します。

保存療法

膝靱帯の痛みに対する保存療法では、まずギプス固定による安静やサポーターの使用などで様子をみます5)。この間は松葉杖などを使って歩行するケースもあります。
また、痛みが強い場合は、鎮痛剤や湿布を併用することもあるでしょう。安静期間が過ぎたら、徐々に歩行や運動を再開し、筋力の強化を図ります。リハビリでは、おもに膝関節の可動域訓練や筋力強化などを行います。

手術療法

保存療法では対応できない場合は、手術による治療が行われます。膝靱帯の手術内容は、損傷の程度や部位によって大きく異なります。おもに靱帯修復術と自家腱や人工腱を用いた再建術などの手術が一般的です5)
手術後のリハビリのタイミングも膝の状態によって異なるため、医師の指示に従って適切な時期に受けることが大切です。

再生医療

保存療法や手術療法のほかに、再生医療という選択肢もあげられます。再生医療とは、自身の細胞を利用して、痛みの原因となっている組織の修復を促す治療法です。膝の靱帯で行われる代表的な再生医療には、「多血小板血漿(PRP)療法」があります8)。 

PRP療法とは、自身の血液を採取して血小板などの成分を濃縮し、患部に注射する方法です。血小板を注入することで、炎症をおさえたり、組織の修復を促したりする効果が期待できるのです。
ただし、再生医療は現時点では自由診療として行われることが多く、治療費用も全額自己負担になります。また、再生医療を受けても必ず痛みの改善や、靱帯の修復ができるわけではない点にも注意が必要です。

膝靱帯の痛みに関するQ&A

ここでは、膝靱帯の痛みに関するQ&Aについてご紹介します。

膝の靱帯が損傷した場合は手術しなければいけない?

膝の靱帯が損傷した場合、その程度や種類によって治療方針は異なるので、必ずしも手術が必要なわけではありません。軽度の靱帯損傷の場合、まずは安静にして薬物療法で炎症をおさえ、その後リハビリを行うことが一般的です。このような保存療法で症状が改善することも多くあります。
一方で、靱帯が完全に断裂してしまった場合や、保存療法を続けても症状が良くならない場合は手術が必要となるでしょう。手術すべきかどうかは、症状や生活スタイル、年齢なども考慮して総合的に判断します。とくにスポーツを続けたい方や、ふらつきが強い方などは手術をおすすめされることが多い傾向にあります9)

膝の靭帯の手術後はどんなリハビリを行う?

膝の靱帯の手術後は段階的なリハビリを行いますが、内容や期間は手術の方法や損傷の程度によって異なります10)。手術直後は、患部を動かさないように安静にし、痛みが落ち着いた段階で少しずつ関節可動域訓練をはじめます。
大腿四頭筋の筋力訓練も開始し、ある程度期間を経たら松葉杖や手すりを使用して、部分的な荷重で歩行を行うようになるでしょう。そして、筋力の回復にあわせて、全荷重歩行へと移行していきます。
リハビリの進行は個人差が大きいため、担当の理学療法士や医師と相談しながら無理のないペースで進めることが大切です。

靱帯の手術をしたらいつ頃スポーツに復帰できる?

靱帯の手術後にスポーツに復帰できる時期は、治療の種類や回復状況によって異なります。目安としては、約6〜9か月でスポーツに復帰ができるとされています11)
ただし、競技レベルによってはさらに復帰までの期間が必要になることもあるでしょう。半月板損傷をはじめとした他の組織の損傷を合併している場合は、さらに復帰が遅れる可能性もあります。スポーツ復帰の最終的なゴールは、パフォーマンスの向上と再受傷予防の両立です。決して治療を焦らず、医師と相談しながら自分の状態にあわせたペースで復帰を目指しましょう。

膝靭帯の痛みが続く場合は本格的な治療の検討を

膝には前・後十字靭帯や内側・外側側副靱帯の4つの主要な靱帯があります。これらの靱帯が損傷すると、膝の不安定感や痛み、腫れなどの症状が現れ、場合によっては歩行困難になることもあります。膝の靱帯を痛めた場合、軽度の損傷であれば保存療法を行う一方で、重度の損傷や断裂した際は手術が必要になることもあるでしょう。膝の靱帯の痛みが長引く場合は、一度医療機関に受診して、医師に相談してみることをおすすめします。痛みの原因を特定し、適切な治療方針を立てていきましょう。

医師からのコメント
膝靱帯の痛みは、記事にあるように急性外傷によるものが多く、適切な対処が必要です。まず、直後はRICE処置(Rest: 安静、Ice: 冷却、Compression: 圧迫、Elevation: 挙上)を行い、腫れや炎症を抑えます。アイシングは1回20分を目安に、数時間おきに実施します。
痛みが強い場合は、鎮痛薬を服用し、炎症と痛みを緩和します。長期間の痛みや再発する場合は、専門医の診断を受け、理学療法を開始します。理学療法では、筋力強化や柔軟性向上を図り、膝の安定性を高めるエクササイズが行われます。また、MRIなどの画像診断により靱帯の損傷の程度を評価し、必要に応じて手術を検討します。早期の適切な対応が、回復を促進し再発防止に繋がります。

【参考】
1)順天堂医院|膝前十字靭帯損傷
2)慶應義塾大学病院|膝靱帯・半月板損傷
3)医学書院|解剖学 第3版
4)聖路加国際病院|膝前十字靭帯損傷の診断と治療
5)日本整形外科学会|膝靱帯損傷
6)順天堂医院|膝半月板損傷
7)聖路加国際病院|膝複合靭帯損傷の診断と治療
8)東京女子医科大学|関節再生医療|人工関節
9)関東労災病院|膝前十字靱帯(ACL)損傷(断裂)の治療
10)順天堂大学|競技復帰を目指すアスリートに自宅でできるリハビリ用トレーニング動画を公開
11)日本スポーツ整形外科学会|6.膝前十字靭帯損傷

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