記事監修者:眞鍋 憲正 先生
大腿骨頭壊死症について、どのような疾患なのか詳しく知りたい方はいるのではないでしょうか。大腿骨頭壊死症とは、大腿骨の骨頭が壊死して、股関節の機能に異常をきたす疾患です。大腿骨頭壊死症を発症した場合は、早期から治療を進めていくことが大切です。
この記事では、大腿骨頭壊死症の症状や原因、具体的な治療方法などについてご紹介します。
股関節に起こる大腿骨頭壊死症とは
股関節の疾患である大腿骨頭壊死症とは、大腿骨の骨頭部分に流れる血流が低下して、壊死に陥っている状態のことです。股関節は、大腿骨の骨頭と骨盤の臼蓋(きゅうがい)と呼ばれるくぼみの部分があわさってできています。大腿骨頭壊死症になると骨頭が壊死して潰れやすくなるので、機能低下につながるのです。
大腿骨頭壊死症の好発年齢は30〜50歳代といわれており、働き盛りの時期に起こりやすい傾向にあります。そのため、発症すると仕事に大きな支障をきたし、その方のQOL(生活の質)に悪影響をおよぼすでしょう。また発症割合は2,000〜3,000人に1人で、女性よりも男性の方がやや多いとされています1)。
大腿骨頭壊死症の症状
大腿骨頭壊死症のおもな症状は、股関節の痛みや可動域制限(動きの悪さ)などです。初期の股関節の痛みは、2〜3週間経過すると消失することもあります2)。
一方で、骨壊死が発生した初期の段階では股関節の痛みをともなわず、腰痛や膝痛などが出現する場合もあります。股関節の痛みを自覚しにくいことから、大腿骨頭壊死症の発見は遅れやすく、知らないうちに症状が進行しているケースも珍しくありません。股関節の痛みが強くなったタイミングには、すでに骨頭の壊死が進行していることもあります。
大腿骨頭壊死症の原因
大腿骨頭壊死症には、以下の2つに分けられています3)。
- 特発性大腿骨頭壊死症:はっきりとした原因がわかっていないもの
- 症候性大腿骨頭壊死症:明確な原因があるもの
特発性骨頭壊死症が発症するメカニズムはわかっていませんが、以下のような原因が関係しているとされています。
- 脂肪塞栓症(脂肪が血管を詰まらせること)
- 脂質代謝異常
- アルコールの多量飲酒
- ステロイドの大量投与
一方で、症候性骨頭壊死症は外傷や放射線の放射などがおもな原因です。
大腿骨頭壊死症の診断について
大腿骨頭壊死症の診断は、おもにX線を使用します。X線では、以下のような股関節の状態をチェックします2)。
- 関節の隙間が狭くなっていないか
- 臼蓋に異常が現れていないか
- 骨頭が潰れていないか
これらの要素に問題が現れている場合、大腿骨骨頭壊死症を疑います。しかし、早期に骨頭壊死症を発症したタイミングでは、X線では異常所見がみられないケースも少なくありません。その場合はMRIの撮影に変更して、股関節の状態を確認します4)。
骨頭壊死症は症状の進行度合いによって分類が決められており、以下の4つに分かれています3)。
- stage1:X線で異常所見がみられないが、MRI等であれば異常を認められる
- stage2:X線で異常所見が認められるが、骨頭の陥没はしていない
- stage3:骨頭の陥没が認められるが、関節の隙間は狭くなっていない
- stage4:関節の変化が認められている
この分類は、数字が大きいほど症状が進んでいることを示しています。
大腿骨頭壊死症の治療方法
大腿骨頭壊死症で行われる治療法は、以下のとおりです。
- 保存療法
- 手術療法
- 再生医療
ここでは、それぞれの治療法について詳しく紹介します。
保存療法
保存療法とは、手術以外の方法で症状の悪化を改善・防止する治療法です。大腿骨頭壊死症の症状がそこまで進行しておらず、壊死の範囲が小さい場合は保存療法による治療が行われます。保存療法では、基本的に股関節にかかる負荷を軽減させるために、杖や松葉杖が使用されます。そして股関節の痛みが強い場合に対しては、鎮痛剤をはじめとした薬物療法を併用することも多いでしょう5)。
しかし、保存療法でできる範囲は限られており、症状を完全におさえることは難しいといえます。症状が進行して骨頭の壊死範囲が広がっている場合は、後述する手術療法を検討する必要があります。
手術療法
症状が強く、骨頭の状態が悪化している場合は手術による治療が行われます。手術方法は疾患の状況によっても異なりますが、おもに「骨切り術」や「人工関節置換術」などが実施されます。
ここでは、それぞれの手術方法について詳しくみていきましょう。
骨切り術(関節温存手術)
骨切り術とは、大腿骨の一部を切除して骨頭の位置を変えて、壊死していない部分で荷重できるようにする手術法です。骨頭の壊死が広がっていない若年の方の場合、この骨切り術が中心に行われます。
骨切術は骨頭壊死の状態にあわせて、以下のような内容で行われます3)。
- 大腿骨内反骨切り術
- 大腿骨頭前方回転骨切り術
- 大腿骨頭後方回転骨切り術
内容によって切除の方法は異なりますが、目的としては大きく変わりません。骨切り術は自身の骨をそのまま使用する手術なので、関節の機能を保ちやすいのがメリットです。また、将来的には後述する人工関節置換術への移行も可能です。
人工関節置換術
人工関節置換術とは、壊死した骨頭を取り除いて人工の股関節に取り替える手術法です。骨頭の壊死が広がっており、関節の温存ができない場合にこの手術が行われます。人工関節置換術は、「人工骨頭置換術」と「人工股関節置換術」の2つに分かれます3)。
人工骨頭置換術は、壊死した骨頭のみを入れ替える手術法です。骨頭だけの入れ替えなので、人工関節置換術と比較すると簡便な手術法ですが、経年による問題が発生しやすい面があります。そのため、後者の人工股関節置換術の方が行われることが多い傾向にあります。
人工股関節置換術は、骨頭だけでなく骨盤の臼蓋も人工物に取り替える手術です。この手術では股関節の問題が解消されるため、痛みが改善しやすく、足の動きもスムーズとなります。
再生医療
再生医療とは、人が備わっている再生能力がある組織や細胞を活用した治療法です。患部に再生能力を持つ組織・細胞を注入して、傷ついた場所の修復や痛みの改善を図ります。従来の治療では治せなかった疾患を治療できるケースもあり、保存療法や手術療法とは別の選択肢の1つとして注目されています。
再生医療にはさまざまな種類があり、活用される組織・細胞も異なるのが特徴です。たとえば、「多血小板血漿(PRP)療法」と呼ばれる治療法では、血液内の「血小板」と呼ばれる成分を活用します6)。
特発性の骨頭壊死症に対して再生医療を行った結果、壊死した骨頭が再生し、安全性も示されたという報告もされています7)。
大腿骨頭壊死症の治療後の予後について
大腿骨頭壊死症の治療後の予後については、これまでの症状の進行度合いによって異なります。骨頭の壊死範囲が広かったとしても、骨切り術が適応の場合であれば術後の予後は良好の可能性があります。ただし、その後に「変形性股関節症」と呼ばれる、股関節の変形がみられる疾患に進展する場合もあるため、油断はできません。
骨頭の壊死範囲が広く、人工関節置換術を行った場合でも予後は良好とされています2)。このときも術後の脱臼や人工物のゆるみなどのリスクがともなうため、定期的な診断が必要です。
大腿骨頭壊死症の手術後のリハビリ内容
大腿骨頭壊死症の手術後は、どのようなリハビリが行われるのでしょうか。ここでは、手術後のリハビリの内容について詳しく解説します。
筋力トレーニング
手術後は股関節の筋力が低下している状態なので、筋力トレーニングで筋力の強化を図ることが大切です。筋力トレーニングを開始するタイミングは手術内容や身体の状態によって異なり、およそ術後数日経過した後に行われます8)。股関節の荷重がうまくいかない時期は、ベッド上で足を動かすトレーニングを行います。必要に応じて理学療法士や作業療法士などのリハビリ職がサポートすることもあるでしょう。
立つ・歩くなどの動作ができるようになった後は、立ち上がりの練習や歩行訓練などを行い、日常生活に必要な動作獲得を目指します。
可動域トレーニング
筋力トレーニングだけでなく、可動域の確保も欠かせません。術後の安静によって関節が固くならないように、早期から股関節を動かして可動域を確保します。可動域のトレーニングは筋力トレーニングよりも早い段階で行われ、初期はリハビリスタッフがサポートしながら足を動かします8)。
股関節の痛みが落ち着き、足を動かせるようになったら、自分でストレッチしてセルフケアすることも大切です。また、人工関節の場合は脱臼のリスクが生じるので、股関節を捻ったり大きく曲げたりする動きに注意する必要があります。
股関節に起こる大腿骨頭壊死についての理解を深めよう
大腿骨頭壊死症は発症しても自覚しにくく、症状が進行しやすい疾患です。骨頭壊死症は股関節の痛みや可動域の制限などの症状が現れ、日常生活や仕事に大きな支障をきたす恐れがあります。治療は保存療法から行われ、壊死の範囲が広がっている場合は、手術を検討する必要もあります。今回の記事を参考にして、骨頭壊死症にはどのような症状なのか、どんな治療法があるのかを把握しておきましょう。
医師からのコメント
大腿骨頭壊死症は、患者さんも医師も初期段階で気付きにくい疾患の一つです。初期の段階では特に症状が顕著ではなく、軽度の腰や大腿部の痛みや不快感しか現れないことがあります。これらの症状は他の疾患と混同されやすく、適切な診断を難しくします。
さらに、大腿骨頭壊死症の進行は徐々に進行し、症状が顕著になるまでに時間がかかることがあります。そのため、患者さんは痛みや不快感を一時的なものとして軽視し、医師の診察を受けるまでに時間がかかることがあります。
股関節痛に対してX線をまずとることが多いですが、記事にあるように初期段階ではX線では非常にわかりづらいためCTやMRIといったより精密な検査でないと見落としてしまうことも多いです。
さらに中には精密検査でも初期段階では病変が目立たず、確定診断が難しい場合があります。
なので股関節の異常な症状が持続し、日常生活に支障をきたす場合や記事にあるようなリスクを持つ方は、早めに医師の診察を受けることが重要です。
【参考】
1)大阪市|特発性大腿骨頭壊死症とは どんな病気?
2)厚生労働省|071 特発性大腿骨頭壊死症
3)慶應義塾大学病院|大腿骨頭壊死症
4)日本整形外科学会|「特発性大腿骨頭壊死症」
5)膠原病リウマチ痛風センター|特発性大腿骨頭壊死症
6)東京女子医科大学|関節再生医療|人工関節
7)京都大学|特発性大腿骨頭壊死症に対する再生医療の良好な結果
8)中国労災病院|股関節のリハビリテーション
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