記事監修者:眞鍋 憲正 先生

コンパートメント症候群は、筋膜内部の圧力が上がって組織がダメージを受ける病態です。対応が遅れると後遺症が残る可能性もあるため、迅速な対応が欠かせません。
そこでこの記事では、コンパートメント症候群の症状や急性・慢性の違い、なりやすい人、治療法などを解説します。自分やまわりの人がコンパートメント症候群を引き起こしたときに適切な対処が行えるよう、応急処置や適切な対処法についてもしっかり理解しておきましょう。
コンパートメント症候群とは

コンパートメント症候群とは、筋肉を包む筋膜によって区切られた区画(コンパートメント)内で圧力が高まり、神経や血管が圧迫されて血流が悪くなった状態です。主に手足に起こる「四肢コンパートメント症候群」と、腹部に起こる「腹部コンパートメント症候群」がありますが、この記事ではスポーツ傷害として知られている四肢コンパートメント症候群について解説します。
コンパートメント内の圧力が高まると、痛みやしびれのほか、冷たく感じるなどの感覚異常が現れます。放置すると筋肉や神経が壊死する危険もあるため、適切な治療法や受診のタイミングを知っておきましょう。
コンパートメント症候群の症状や急性と慢性の違い
コンパートメント症候群には「急性」と「慢性」の2種類があり、発症の原因や症状の現れ方が異なります。コンパートメント症候群の症状を急性と慢性に分けて解説します。
急性のコンパートメント症候群の症状
急性コンパートメント症候群では、骨折や打撲などの外傷による腫れで急激にコンパートメント内の圧力が上昇します。通常はケガをした直後から数時間以内に発症し、非常に強い痛みが出ます。患部の腫れやしびれ、感覚が鈍くなるなどの神経症状も現れる場合があり、時間の経過とともに症状が悪化します。
たとえ見た目が軽い外傷であっても、内部ではコンパートメント症候群を引き起こしている可能性もあります。安静にしていても激しい痛みが続く場合や大きく腫れている場合、患部が冷たく感じる・動かしにくいなどの異変がある場合、コンパートメント症候群の可能性を考えて早急に対処しましょう。
慢性のコンパートメント症候群の症状
慢性のコンパートメント症候群では、長期間にわたる運動やトレーニングによって筋肉に負荷がかかって徐々にコンパートメント内の圧力が高まります。
主な症状は、運動中や運動の直後の痛みやしびれです。初期段階では休息を取ると症状が和らぎますが、進行すると安静時にも症状が現れるようになります。シンスプリントや疲労骨折など、ほかのスポーツ傷害でも似た症状が現れるため、自己判断せずに医師の診察を受けましょう。
シンスプリントや疲労骨折の症状や対処法が気になる方は、以下の記事もご覧ください。
関連記事:シンスプリントの症状をチェックしよう!ステージ分類や診断方法も解説
関連記事:疲労骨折は自然治癒する?早く治す方法や運動復帰のコツを医師が解説【ランナー向け】
コンパートメント症候群になりやすい人

コンパートメント症候群は、特定の条件下で発症リスクが高まります。とくに、激しいスポーツを行っている人やケガをした直後の人は注意が必要です。
激しいスポーツをする人
慢性のコンパートメント症候群は、長距離ランナーやサッカー選手など下肢を酷使する人に多く見られます。これらのスポーツでは、ふくらはぎやスネ(下腿)の筋肉が繰り返し使われるため、コンパートメント内の圧力が上昇しやすいのです。
下腿コンパートメント症候群よりも頻度は低いものの、バイクレースや登山、ウェイトリフティングなどの腕に負担がかかる競技をしている場合、前腕コンパートメント症候群の発症リスクが上がります1)。
放置したままスポーツを続けると徐々に症状が悪化していくため、運動中の違和感を軽視しないようにしましょう。
ケガをした人
骨折や脱臼などのケガをした直後には、コンパートメント内の出血や腫れによる急性のコンパートメント症候群を発症するリスクがあります。きつすぎるギプスや包帯がコンパートメント症候群の原因になる場合もあります2)。
後遺症を防ぐためにも、スポーツや事故によるケガを軽視せずに適切な処置を行いましょう。ケガの後遺症について気になる方は、以下の記事もご覧ください。
関連記事:肉離れの後遺症とは?治療せずに放置してはならない理由も解説
関連記事:筋断裂の後遺症を防ぐ方法を解説!早期回復が目指せる再生医療も紹介
コンパートメント症候群の治療法

コンパートメント症候群の治療法は、急性と慢性で大きく異なります。急性の場合は早急な治療が必要となるため、救急車を呼ぶかすぐに救急外来を受診しましょう。救急車を呼ぶべきかどうか迷う場合は、救急安心センター事業(♯7119)に電話すると医師や看護師、専門の相談員にアドバイスしてもらえます3)。
慢性の場合も、放置すると次第に悪化するリスクがあるため、早めに整形外科を受診しましょう。
急性の場合は緊急手術が必要な場合も
急性コンパートメント症候群は、処置が遅れると後遺症が残るおそれがあります。ここでは、応急処置のポイントとその後の治療法を解説します。
応急処置
ケガをしたら、まずは外傷に対する一般的な応急処置である「RICE処置」を行います。RICE処置とは、安静(Rest)、冷却(Ice)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation)の4つの処置の頭文字を取った応急処置です4)。
- 安静:患部を動かさないようにする
- 冷却:患部を氷などで冷やして感覚がなくなったら外し、痛みが出たらまた冷やす
- 圧迫:患部にパッドを当てて包帯を巻き、腫れや内出血を抑える
- 挙上:患部の位置を心臓より高くする
ただし、コンパートメント症候群が疑われる場合は圧迫を軽めにし、挙上も心臓と同じくらいの高さに留めましょう。
また、RICE処置はあくまで応急処置です。症状に応じて、速やかに救急車を呼ぶか医療機関を受診しましょう。
手術
コンパートメント内の圧力が非常に高くなっている場合、筋膜切開術という緊急手術が必要です。筋膜の切開によってコンパートメント内の圧力を下げて滞った血流を改善し、必要に応じて壊死した組織を切除して神経や筋肉へのダメージを抑えます5)。
手術が遅れると壊死の範囲が広くなり、最悪の場合は患部を切断しなければならなくなる場合もあるため、迅速な対応が欠かせません。
慢性の場合は保存療法が基本
慢性コンパートメント症候群では、まず以下のような保存療法を行って症状の改善を目指すケースが一般的です。
- 症状があるときは運動を中断して安静にする
- 患部を冷却する
- サポーターやギプスなどの強い圧迫を避ける
- 痛みや炎症を抑える消炎鎮痛薬を内服する
- 理学療法士や医師の指導のもと、ストレッチや温熱療法を行う
- 症状を悪化させる動作を避ける
これらの保存療法で改善が見られない場合や悪化している場合は、症状に応じて手術を検討する場合もあります。
コンパートメント症候群が疑われる場合は適切に対処しよう
コンパートメント症候群は、急性と慢性で症状の現れ方や治療法が大きく異なります。急性の場合は一刻も早い対応が必要なので、救急車を呼んで適切な応急処置を行いましょう。
慢性の場合も放置すると悪化するリスクがあるため、早めの受診が必要です。スポーツ中に痛みや違和感があるなら、軽視せずに整形外科を受診しましょう。
【医師からのコメント】
コンパートメント症候群は筋膜内圧が高くなり、血流障害を起こす病態で、激しい痛み、腫れ、しびれ、運動障害が主症状です。進行すると組織壊死や壊死した金組織による腎障害に陥り、機能障害を残すこともあります。
外傷後の骨折や熱傷、長時間の同一姿勢、スポーツ中の打撲や過度の筋トレ、意識低下時の圧迫で発症リスクが高まり、糖尿病や動脈硬化のある高齢者は痛みを感じづらいことからとくに注意が必要です。治療は時間との勝負で、緊急の筋膜切開術が原則。痛みやしびれの急な悪化を感じたら、迷わず受診してください。
【参考】
1)握力の低下を主訴に来院したバイクレーサーの前腕慢性コンパートメント症候群の一例. 田中 悟, 高橋完靖. 2022.
2)コンパートメント症候群|MSDマニュアル家庭版
3)救急安心センター事業(#7119)ってナニ? | 救急車の適時・適切な利用(適正利用) | 総務省消防庁
4)スポーツ外傷の応急処置(RICE処置)
5)筋膜切開 一般社団法人 日本救急医学会一般向けホームページ:用語委員会
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