記事監修者:眞鍋 憲正 先生
悪性関節リウマチとはどのような病気なのでしょうか。悪性関節リウマチは指定難病にも含まれている病気のひとつで、関節をはじめとした全身に炎症が起こりやすいのが特徴です。
この記事では、悪性関節リウマチの症状や原因、セルフチェック方法、具体的な治療法についてご紹介します。どのような病気なのかを知ることで、早期発見、早期治療につながるでしょう。
悪性関節リウマチとは?
悪性関節リウマチとは、身体を守る働きをしている免疫の異常によって、関節をはじめとした全身に痛みや炎症などの症状が現れる病気です。ここでは、悪性関節リウマチの具体的な症状や原因について解説します。
悪性関節リウマチの症状
悪性関節リウマチを発症すると、免疫の異常によって関節に炎症が起こり、痛みやこわばりなどの症状が現れます。悪性関節リウマチは、症状の現れ方によって「全身性血管炎型」と「末梢動脈炎型」に分類されます1)。全身性血管炎型では、高熱や体重減少などの全身症状が見られるのが特徴です。
そのほかにも、以下のような症状があります。
- 目の充血
- 皮膚の赤い斑点
- 皮膚のしこり
- 手足のしびれ
- 消化管からの出血
これらの症状は急速に出現し、悪化しやすい傾向にあります。一方で、末梢動脈炎型では、皮膚の潰瘍や手足の先端部分の壊死(組織や細胞が死ぬこと)といった症状が現れます。
悪性関節リウマチの原因
悪性関節リウマチは、遺伝的要因や免疫系の異常などが関わっていると考えられていますが、明確な原因は分かっていません。厚生労働省によると、悪性関節リウマチに罹患された方の家族が関節リウマチを発症する割合は12%とされています1)。
また、悪性関節リウマチは60歳代でもっとも発症しやすく、男女比率は1:2と女性に多い傾向があります。このように、悪性関節リウマチは複数の要因が複雑に絡み合って発症する病気と言えるでしょう。
悪性関節リウマチと関節リウマチの違いは?
悪性関節リウマチは、単に関節リウマチが重症化したものではない点に注意しましょう。もともとの関節リウマチの症状に加えて、関節以外の症状が現れているものを悪性関節リウマチと言います2)。関節リウマチは関節に炎症が起こり、骨や軟骨が破壊される病気です。
厚生労働省によると、関節リウマチの方は国内で約70万人いると推測されています3)。一方、悪性関節リウマチは関節リウマチ罹患者の0.6%程度の割合で、人数は約5,000人とされています4)。このように、関節リウマチと悪性関節リウマチは症状や発症割合が異なるため、区別して症状に対応することが重要です。
関節リウマチについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:【理学療法士監修】関節リウマチにはどんな症状がある?症状による分類や進行度も解説
悪性関節リウマチの診断方法
悪性関節リウマチの診断は、現れている症状や検査結果を総合的に判断して行われます2)。まず、通常の関節リウマチの症状に加えて、そのほかの部位の炎症反応の有無を確認します。
より確実な診断のために、皮膚や筋肉などを採取して検査することもあるでしょう。血液検査では、おもに「リウマトイド因子」と呼ばれる抗体の値が高値となっていないかをチェックします。このようなさまざまな検査をしたうえで、悪性関節リウマチの診断を行います。
悪性関節リウマチのセルフチェック方法
悪性関節リウマチは早期発見が重要な病気です。セルフチェックで悪性関節リウマチかどうかを確認してみましょう。まず、一般的な関節リウマチのチェック項目は、以下のとおりです5)。
- 朝に関節のこわばりが30分以上続く
- 1ヶ月以上、関節の痛みや違和感が続いている
- 2つ以上の関節に腫れや痛みがある(とくに指や手首、足の指など)
- 左右対称に関節が痛む傾向がある
- 身体を動かしたあと、痛みが強くなりやすい
- 天候や気候の変化により症状が変動する
これらの症状に加えて、悪性関節リウマチを疑うべき追加のチェック項目があります2)。
- 38℃以上の原因不明の発熱が続いている
- 短期間で急激な体重減少がある
- 皮膚に赤い斑点や皮下にしこりができた
- 手足の先に潰瘍ができた
- 手足のしびれや感覚異常、筋力低下がある
- 目の充血や痛みがある
- 息切れや胸痛がある
- 関節リウマチの診断を受けて10年以上経過している
これらの項目が複数当てはまる場合は、悪性関節リウマチの疑いがあります。悪性関節リウマチかどうかを正確に判断するためには、整形外科やリウマチ科がある医療機関の受診が必要です。「悪性関節リウマチかもしれない……」と感じたら、医師に相談して適切な検査と診断を受けましょう。
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悪性関節リウマチの治療法
悪性関節リウマチの治療は、基本的に薬物療法(薬を用いた治療)が中心です。例えば、関節の炎症に対して使用されるのが、免疫の異常を抑制する働きのある「抗リウマチ薬」です。血管に関する炎症では、その症状を抑える作用のある「副腎皮質ステロイド薬」を使用します。臓器の血管の問題に対しては、血液の固まりをおさえる「抗凝固薬」や血流改善のための「血管拡張薬」などを使用します2)。
悪性関節リウマチの症状は人によって異なるため、状態に応じた治療薬を使用して病状の悪化を予防することが重要です。
悪性関節リウマチの予後
悪性関節リウマチの予後は、症状や合併症の種類によって大きく左右されます。厚生労働省によると、悪性関節リウマチの予後は以下のとおり公表されています1)。
- 軽快:21%
- 症状の変化なし:26%
- 悪化:31%
- 死亡:14%
- その他:8%
近年では、薬の普及によって関節リウマチの治療は大きく進歩しており、悪性関節リウマチの発症率も低下してきているとされています。悪性関節リウマチと診断された場合でも、適切な治療を継続することで、症状のコントロールや合併症の予防につながります。
悪性関節リウマチの生活上の注意点
悪性関節リウマチを発症した際は、生活ではどのような点に注意すべきでしょうか。ここでは、症状を悪化させないための生活上の注意点を解説します。
適度な運動を心掛ける
まず、適度な運動を日常的に取り入れることが大切です。安静状態が続くと筋力が衰えやすくなり、関節の機能がさらに低下する恐れがあります5)。無理のない範囲で身体を動かすことで、筋力や関節の柔軟性の維持・改善につながります。
具体的な運動内容としては、以下のとおりです。
- ウォーキング
- ストレッチ
- 軽い筋力トレーニング
ただし、炎症が強い時期や痛みが激しいときは無理をせず、症状にあわせて運動量を調整することが重要です。医師と相談しながら、可能な範囲で継続的に取り組んでみましょう。
感染症対策をする
悪性関節リウマチの方は、感染症の対策を心掛けましょう。悪性関節リウマチの治療で使用される薬の中には、免疫機能が低下するものもあります。免疫機能が低下すると、感染症の発症リスクが増加し、症状の悪化につながります2)。
すぐにできる感染症対策としては、以下のとおりです。
- こまめな手洗いとうがい
- マスクの着用
- 十分な睡眠と栄養バランスの良い食事
- 室内の適切な換気
- ストレスのない生活
感染症対策は治療の一環として考え、実践してみましょう。
関節に負担をかけない
炎症を悪化させないために、日常生活で関節に過度な負担をかけないように注意しましょう5)。関節への負担を軽減するには、日常生活での動作を見直すことが大切です。関節に負担がかかりやすい動作としては、深いしゃがみ込みや階段の頻繁な上り下りなどがあげられます。とくに身体を支えている膝や股関節は負担がかかりやすいため、無理な動作はできるだけ避けましょう。
そのほかの工夫としては、以下のとおりです。
- 重い荷物を持つことを避ける
- 握りやすい自助具を使用する
- ボタンの大きな服や、面ファスナー式の靴を選ぶ
- 家具の高さを調整し、立ち座りを楽にする
関節に負担をかけない習慣によって、痛みの軽減だけでなく、生活の質の向上にもつながります。できることから少しずつ生活環境や動作を見直していきましょう。
悪性関節リウマチの症状や治療法をおさえておこう
悪性関節リウマチは、通常の関節リウマチに加えて、全身に炎症が生じる病気のことです。関節リウマチの診断から長期間経過している方や、関節の炎症以外の症状がある方は、悪性関節リウマチの可能性があります。
「悪性関節リウマチかもしれない……」と感じた方は、整形外科やリウマチ科のある医療機関の受診をしてみてください。ぜひ今回の記事を参考にして、悪性関節リウマチの早期の治療を進めていきましょう。
【医師からのコメント】
悪性関節リウマチは、関節リウマチが重症化し、関節だけでなく全身の血管や臓器に深刻な炎症が起こる病気です。手足のしびれや皮膚の傷、肺の異常などが急速に現れ、命に関わることもあります。治療には大量のステロイド薬や免疫を抑える薬を使い、必要に応じて新しいタイプの薬(生物学的製剤やJAK阻害薬)を併用します。早期発見と迅速な治療がとても重要であり、感染症などの副作用にも注意しながら、チーム医療で総合的にサポートしていくことが大切です。
【参考】
1)厚生労働省|46 悪性関節リウマチ
2)慶應義塾大学病院|悪性関節リウマチ(malignant rheumatoid arthritis: MRA, rheumatoid vasculitis: RV)
3)厚生労働省|第6章 関節リウマチ
4)難病情報センター|悪性関節リウマチ(指定難病46)
5)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
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