記事監修者:眞鍋 憲正 先生
半月板の痛みに対して、再生医療は効果があるのか気になる方はいませんか?半月板は膝関節にとって重要な組織であり、損傷すると日常生活に支障をきたす可能性があります。半月板の治療は従来の方法だけでなく、近年では再生医療での治療も進められているのです。
この記事では、半月板の痛みで疑われる疾患や再生医療の効果についてご紹介します。これらの知識を得ることで、自分に適した治療法を選択する際の判断材料になるでしょう。
半月板の役割
半月板とは、膝関節を作っている「脛骨(けいこつ)」についている軟骨様の組織で、三日月のような形をしているのが特徴です。半月板は膝関節としての機能を保つうえで、重要な役割を果たしています。おもな役割として、膝関節にかかる負荷を分散させることです。膝関節にかかる体重の負荷を半月板が分散させることで、関節軟骨への過度な圧力を防いでいます。これにより、軟骨の摩耗や損傷を軽減し、関節の健康維持につながっています1)。
また、半月板は関節の安定性を高める働きも担っているのも大きな点です。クッションのような役割によって膝関節の動きをスムーズにし、安定した歩行や運動が可能です。このように、半月板は膝関節の機能を維持するために、さまざまな役割を果たしています。
半月板に関係する疾患
半月板に関係する疾患には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、具体的な疾患についてご紹介します。
半月板損傷
半月板損傷とは、なんらかの原因によって半月板が傷つき、損傷した状態のことです。半月板が損傷すると本来の役割である衝撃の吸収や、膝関節の安定化などがうまく機能しにくくなります。半月板損傷のおもな症状としては、以下のとおりです。
- 膝の痛み
- 関節部の腫れ
- 可動域の制限
とくに、膝の曲げ伸ばしの際に痛みが生じやすくなり、ひどい場合には歩行にも支障をきたすケースがあります。また、膝がカクッとしたり、曲げ伸ばしができなくなる状態(ロッキング)になったりすることもあるでしょう2)。
損傷の原因は、おもに「急性の外傷」と「慢性的な変性」の2つに大きく分けられます。急性による外傷では、スポーツ中の急な方向転換やジャンプの着地など、強い力が加わることが原因です。一方で慢性的な変性では、加齢にともなう半月板の衰えによって、少しずつ損傷が進みます。
変形性膝関節症
変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨が徐々にすり減った状態のことです。変形性膝関節症の原因は、加齢による軟骨の自然な摩耗に加え、以下のような要素も関係しています。
- 肥満
- 過度の運動
- 遺伝的要因
前述した半月板損傷も、変形性膝関節症の引き金になることがあります。半月板が損傷すると、関節軟骨への負担が増えて徐々に摩耗が進行し、変形性膝関節症へと発展するのです3)。おもな症状としては、膝の痛みや関節の可動域制限などです。とくに長時間の歩行や階段の上り下りなど、膝に負担がかかる動作の繰り返しによって症状が悪化しやすくなります。
再生医療の種類・特徴
半月板損傷や半月板に付随した疾患に対して、再生医療が行われることがあります。再生医療とは、体内の成分や細胞を活用し、損傷した組織の再生を図る治療法です。ここでは、再生医療のおもな種類や特徴について解説します。
幹細胞治療
幹細胞治療は、人体の「幹細胞」と呼ばれる細胞を活用した治療法です。幹細胞とは、以下の特徴を持った細胞のことです4)。
- 自己複製:自分のコピーを作れる能力
- 分化:皮膚や臓器などのほかの細胞に変化できる能力
この特徴によって、幹細胞から別の組織のもととなる細胞を作り出し、損傷部位の再生が期待できます。自分自身の体内で抽出した幹細胞を患部に注入するため、副作用が起こりにくいのもメリットです。幹細胞治療は半月板だけでなく、臓器や神経などのさまざまな治療に応用できる点から、多くの研究が進んでいます。
PRP療法
PRP(多血小板血漿)療法とは、血液内から得られる「血小板」を濃縮した血漿を用いる再生医療です。血小板に含まれている成長因子には、傷ついた組織を修復する機能が備わっているとされています5)。濃縮された血小板を患部に注射することで、組織の修復や炎症の抑制などの効果が期待されています。
プロアスリートやスポーツ愛好家に対してPRP療法が使用された例もあり、再生医療のなかでは多くの実績があるのが特徴です。PRPは、以下のような疾患がおもな対象です。
- 関節炎
- 軽度の腱炎
- 軽度の靭帯損傷
- 軽度の変形性関節症
- 肉離れ
- 筋挫傷
APS療法
APS(自己たんぱく質溶液)療法とは、前述したPRPをさらに遠心分離・特殊加工して、抽出した成長因子を活用する治療法です。APS療法は、炎症をおさえる働きのあるたんぱく質と、軟骨を保護する成長因子を高濃度に含んでいるのが特徴です。次世代のPRPとも呼ばれており、さらなる抗炎症効果や組織修復効果が期待できます5)。
治療の流れとしては、まず患者さんから採血を行い、特殊な機器を用いてAPSを生成し、それを患部に注射します。APS療法の対象疾患としては、以下のとおりです。
- 変形性関節症
- 骨壊死
- 軟骨の炎症
このように、関節疾患に対して効果があるとされています。
半月板の疾患に対して再生医療は有効?
半月板の疾患に対して、再生医療は有効な選択肢となる可能性があります。とくに、幹細胞治療は半月板の損傷部位を再生させる効果が期待できるでしょう。実際に、半月板損傷に対して幹細胞治療を行ったところ、半月板や軟骨が再生し、症状の改善がみられたという報告があります6)。
一方で、PRP療法を含めた血小板を活用した再生医療は、損傷部位そのものを再生させる能力は限定的とされています。再生医療は、以下のような要素によって大きく効果が異なるため、医師と相談し自身の状態に適した治療法を選択することが重要です。
- 損傷の程度
- 年齢
- 全身状態
再生医療を行う際の注意点
再生医療は、半月板の治療での大きな期待が寄せられていますが、すべての方に適しているわけではない点に注意しましょう。まず、再生医療の効果はその方の状態によって大きく異なります。軽度の損傷や変性であれば効果が期待できる一方で、広範囲の損傷や重度の変形がある場合は、十分な効果が得られない可能性があります。
たとえば、変形性膝関節症が進行している場合や、半月板が大きく損傷しているケースです。それらのケースでは、再生医療よりも人工関節置換術をはじめとした手術療法のほうが適していることがあります。また、再生医療はまだ研究段階の治療法も多く、長期的な効果や安全性については完全にわかっていない部分もあります7)。治療を行う際は医師とよく相談したうえで、慎重に決めることが大切です。
半月板の疾患に対する再生医療以外の治療法
半月板に関する疾患に対して、再生医療以外で行われる治療としては、保存療法と手術療法があげられます。ここでは、それぞれの治療法について詳しく解説します。
保存療法
保存療法とは、手術を行わずに症状の維持・改善を目指す治療法です。疾患を発症した多くの場合、保存療法が第一選択となるケースが多いといえます1)。保存療法のおもな内容は、以下のように多岐にわたります。
- 運動療法
- 薬物療法
- 装具療法
- 動作指導
とくに筋力強化によって膝関節の安定化を図る運動療法や、外用薬・内服薬で痛みをコントロールする薬物療法が中心です。必要に応じて膝サポーターの使用や、動作の改善によって痛みの軽減を図ります。ただし、保存療法は根本的な問題を改善できるわけではないため、痛みが軽減せず悪化する場合は、別の方法を検討する必要があります。
手術療法
疾患の症状が重度、または保存療法では十分な効果が得られない場合には、手術療法が選択されます。手術療法は、外科的手術によって根本的な問題を解決し、早期の症状改善や機能回復を目指す方法です。どのような手術が行われるのかは、状態や疾患によって異なります。たとえば、半月板損傷の場合は以下のような手術が行われます8)。
- 切除術:損傷した組織を切除して膝の動きをスムーズにする方法
- 縫合術:損傷した組織を縫い合わせる方法
変形性膝関節症の症状が進行している場合は、「人工膝関節置換術」が行われることも多いでしょう。人工膝関節置換術とは、膝を人工物の関節に置き換える方法です。このように、手術療法は年齢や症状の程度などを総合的に考慮して選択されます。
再生医療は半月板に対する治療の選択肢の1つ
再生医療は、半月板の損傷や変形性膝関節症などの治療において、新しい選択肢の1つといえます。再生医療には幹細胞治療やPRP療法など、種類によって特徴や適応が異なります。保存療法や手術療法など、従来の治療法と比較しながら、自分の状況にあった方法を選ぶことが大切です。半月板の問題でお悩みの方は医師に相談し、再生医療を含めた治療の選択肢について詳しく説明を受けることをおすすめします。
【医師からのコメント】
再生医療は、患者自身の細胞を利用して損傷した組織を再生させる治療法です。半月板損傷においては、幹細胞を損傷部位に注入することで、新しい軟骨組織を再生させ、機能回復を目指します。この治療法の大きなメリットは、手術による負担が少なく、自身の細胞を利用するため拒絶反応のリスクが低いことです。しかし、再生医療はまだ発展途上の分野であり、全ての患者さんに効果があるわけではありません。また、治療効果が出るまでに時間がかかる場合もあります。
さらに、費用が高額であるという点も挙げられます。記事では、再生医療の効果だけでなく、治療を受ける際の注意点についても解説されています。具体的には、治療を受ける前に、医師と十分に相談し、自分の状態に合った治療法を選ぶことが重要です。また、治療後も定期的な通院を行い、医師の指示に従ってリハビリテーションを行うことが大切です。
【参考】
1)順天堂医院|膝半月板損傷
2)日本スポーツ整形外科学会|33.半月板損傷
3)東京医科歯科大学|基礎研究-半月板、変形性膝関節症の治療
4)京都大学アイセムス|幹細胞研究とアイセムス
5)北里大学|再生医療(PRP療法・APS療法)
6)日本医療研究開発機構|「自家滑膜幹細胞の半月板損傷を対象とする医師主導治験」開始のお知らせ―国内で初めての半月板損傷患者を対象とした再生医療等製品の治験開始―
7)東京女子医科大学|関節再生医療|人工関節
8)聖路加国際病院|膝半月板損傷の診断と治療
記事監修者情報