【医師監修】足の付け根の関節が痛いのはなぜ?おもな原因や対処法を解説

足の付け根の関節に痛みを感じるようになって、困っている方はいませんか?歩いたり立ち上がったりする際に股関節が痛むと、日常生活にも支障をきたす恐れがあります。足の付け根の痛みにはさまざまな原因が考えられるため、適切な対処法を知ることが重要です。

 

この記事では、足の付け根の関節が痛む原因や対処法、治療方法についてご紹介します。痛みの原因を理解し、適切なケア方法を学ぶことで、快適な日常生活を取り戻すヒントが見つかるでしょう。

 

足の付け根の関節が痛いのはなぜ?

 

足の付け根の関節が痛い原因として、その周囲の組織が傷つくことがあげられます。足の付け根、つまり股関節とは、人体でもっとも大きな関節です。股関節は、大腿骨の頭部と骨盤がつながってできている関節です。上半身の体重を支えつつ、歩行や立ち上がりなどのさまざまな動きに関わっています1)

 

この関節の動きをサポートするために、靭帯や筋肉などの数多くの組織がついています。これらの組織に問題が生じると、股関節の痛みが引き起こされるのです。股関節の痛みを感じたら、原因に応じた適切な対処や治療を行うことが重要です。

 

足の付け根の関節が痛いときに考えられる原因

 

股関節の痛みが続く場合、どのような原因が考えられるのでしょうか。ここでは、おもな原因について解説します。

 

股関節まわりの筋肉や靭帯の損傷

股関節が痛む原因の1つとして、筋肉や靭帯の損傷などがあげられます。筋肉や靭帯の損傷は、過度の運動や外傷によって引き起こされることが多い傾向にあります。とくにスポーツやトレーニング時に発生しやすく、突然痛みを感じることも珍しくありません2)

 

筋肉の損傷で代表的なのが、オーバーワークによる筋肉痛や肉離れです。このような損傷が起こると、股関節を動かす際に痛みを感じたり、関節の可動域が制限されたりすることがあります。痛みをともなったまま無理をすると、症状の悪化や慢性化につながる恐れがあるため、注意が必要です。

 

変形性股関節症

変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減り、痛みや動きの制限が出ている状態のことです3)。変形性股関節症を発症すると、日常生活で以下のような影響が出ることがあります。

 

 

症状は徐々に進行し、悪化するとさらに痛みの程度が強くなる恐れがあります。この疾患のおもな原因は、以下のとおりです。

 

 

これらの影響によって股関節に負担がかかることで引き起こされます。また先天的な問題で股関節の形成不全が起きることも、発症原因の1つです。

 

大腿骨頭壊死症

大腿骨頭壊死症とは、大腿骨の骨頭に栄養を送る血流が途絶え、骨組織が壊死した状態のことです。骨頭の壊死が進行すると骨が潰れて変形し、激しい痛みや機能障害を引き起こす恐れがあります。初期段階では軽い痛みや違和感を覚える程度ですが、進行すると夜間痛や安静時痛も現れやすくなります。痛みが強くなると、歩くことも一苦労になる場合もあるでしょう。

 

大腿骨頭壊死症は、おもに原因が明確ではない「特発性」と、はっきりとした原因がある「症候性」に分けられます4)。特発性は、アルコールやステロイドなどが原因で発症すると考えられています。症候性の原因としては、以下のとおりです。

 

 

大腿骨頸部骨折

大腿骨頸部骨折とは、大腿骨の付け根である骨頭に近い部分(頸部)で起こる骨折のことです。頸部骨折が起こると、股関節に強い痛みをともない、多くの場合は立つことや歩くことが困難になります。

 

この骨折のおもな原因は、転倒や転落などによる衝撃です。骨粗鬆症がある場合、わずかな衝撃でも骨折することもあります。骨が衰えやすい高齢者に発症しやすく、痛みによって行動が制限されて寝たきりや要介護状態のきっかけになることもあります5)。大腿骨頸部骨折の多くは手術による治療が必要となるため、発症後は速やかに医療機関へ受診することが重要です。

 

関節リウマチ

関節リウマチとは、身体の免疫システムが誤って自分の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患の1つです。関節リウマチのおもな症状は、以下があげられます。

 

 

この疾患は足や手の小さい関節から発症しはじめる点や、左右対称に症状が現れる点が特徴です。症状が進行すると大きな関節にも影響が現れ、日常生活に支障をきたすほどの痛みにつながります。関節リウマチの原因は、完全にはわかっていません。しかし、以下のような遺伝的要因や環境要因が関係していると考えられています6)

 

 

更年期障害

更年期障害とは、女性の更年期(40代から50代)に現れる症状のことです。これは卵巣機能の低下にともない、女性ホルモン(エストロゲン)のバランスが乱れることが原因で発症するとされています。更年期障害のおもな症状は、以下のとおりです7)

 

 

このように、多くの症状が現れやすいのが特徴です。エストロゲンは骨の形成に関わっているホルモンなので、分泌が低下することで骨粗鬆症の原因となります。その結果、股関節痛や骨折などにつながる恐れがあります。

 

足の付け根の関節が痛いときの日常での対処法

 

股関節が痛む際に、日常生活ではどのようなことに気をつけるべきなのでしょうか。ここでは、おもな対処法について解説します。

 

生活環境の見直し

足の付け根の関節痛を改善するには、普段の生活環境を見直すことが重要です。股関節の負担がかかりやすい生活環境としては、以下があげられます。

 

 

このような和式での生活環境では股関節を大きく曲げたり、筋肉をよく使ったりするため、負担がかかりやすくなります8)。股関節の負担を軽くするためには、生活スタイルを和式から洋式へ変更するのがおすすめです。たとえば、洋式トイレに変更する、布団からベッドに切り替えるなどがあげられます。必要に応じて、手すりやスロープなどの設置も検討してみましょう。

 

定期的な運動

股関節の痛みをやわらげるためには、定期的な運動もおすすめです。運動によって股関節周辺の筋力強化・柔軟性向上につながり、痛みの軽減が期待できます。運動でおすすめなのが、有酸素運動と筋トレです。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動には、脂肪燃焼や体力の向上などの効果もあるとされています9)。スクワットやあお向けでのお尻上げなどの自重トレーニングであれば、自宅でも気軽に行えるでしょう。

 

有酸素運動であれば1日10分、筋トレは10回からでもいいので、まずは無理のない範囲で運動習慣をつけてみてください。ただし、股関節の痛みが強い場合は運動を控えましょう。また、すでに医療機関に通院している方は、まずは医師に相談してから運動をはじめてください。

 

体重のコントロール

体重をコントロールすることも重要です。体重が増加すると股関節にかかる負担が強くなり、痛みを悪化させる原因となります10)。体重をコントロールするためには、バランスのとれた食事や適度な運動がポイントです。食事ではカロリー制限だけでなく、栄養バランスにも注意を払いましょう。普段摂取しがちな糖質や脂質を控えめにしつつ、タンパク質やビタミンなどを積極的に摂り入れてみてください。

 

また、運動については先述した有酸素運動がおすすめです。有酸素運動には脂肪燃焼効果があるため、ダイエットによる減量につながります。

 

足の付け根の関節が痛いときに行われる治療法

 

日常での対処でも痛みが続くのであれば、股関節の疾患を発症している恐れがあります。その場合、医療機関に受診して適切な治療を受けることが重要です。ここでは、医療機関ではどのような治療が行われるのかについて解説します。

 

保存療法

保存療法とは、手術を行わずに症状の改善を目指す治療法です。多くの場合、まずは保存療法による治療が第一選択となります。保存療法の内容としては、以下のとおりです3)

 

 

薬物療法では、おもに痛みや炎症を軽減する薬を使用し、関節に問題がある場合はヒアルロン酸注射を行うケースもあるでしょう。前述した「足の付け根の関節が痛いときの日常での対処法」での内容も、保存療法に該当します。保存療法の種類は多岐にわたるため、患者さんの年齢や症状の程度に応じて個別に計画されます。

 

手術療法

保存療法で十分な効果が得られない場合や、関節の変形が進行している場合、手術による治療が検討されます。疾患によって、股関節の手術の内容は大きく異なります。たとえば、軽度の変形性股関節症に対する治療で代表的なものが、「骨切り術」です3)。骨切り術とは、骨盤の一部を切り取って関節面の補強、または関節の向きを変えて股関節の負担を減らす方法です。

 

骨折や骨の変形が強い場合は、人工股関節置換術が行われます。人工股関節置換術とは、関節を人工物に置き換える手術で、根本的な症状の改善が期待できます。このように、患者さんの年齢や関節の状態など、さまざまな要因を考慮したうえで、適切な手術内容が選択されるのです。

 

再生医療

再生医療とは、人体の細胞や成長因子を利用して、損傷した組織の修復や再生を促す治療法です。股関節痛に対する再生医療として、「多血小板血漿(PRP)療法」や「幹細胞療法」などがあります。PRP療法は、自分自身の血液から抽出・濃縮した「血小板」を関節内に注入する治療法です。血小板には成長因子が含まれており、組織の修復を促進する効果が期待されています。

 

幹細胞療法とは、人体の「幹細胞」を利用する治療法です。幹細胞にはさまざまな組織に変化する能力があり、損傷した軟骨の再生を促す効果があるとされています。ただし、これらの再生医療はまだ研究段階の治療法も多く、対象疾患も限定されています11)。そのため、すべての疾患に再生医療を行えるわけではありません。

 

足の付け根の関節痛が続く場合は医療機関の受診を

 

足の付け根の関節が痛む原因として、筋肉や靭帯の損傷や股関節に関する疾患が考えられます。日常生活での対処法としては、生活環境の見直しや適度な運動などがあげられます。股関節痛の治療には保存療法や手術療法などがあり、症状や状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。痛みが続く場合は、決して我慢をせずに医療機関へ受診し、適切な治療を受けましょう。

【医師からのコメント】
この記事の中の疾患以外で足の付け根の痛みの原因として多いのは、股関節周囲の筋肉の炎症、坐骨神経痛などもあてはまります。疾患に対する具体的な対処法については本文をよく読んでいただくとわかりやすいと思います。足の付け根の痛みは、放置すると日常生活に支障をきたす可能性があります。この記事で紹介されているような疾患が隠れている場合もあります。
もし、足の付け根の痛みに悩んでいる方は、自己診断せず、必ず医療機関を受診することをおすすめします。足の付け根の痛みは、あまり我慢するものではありません。医師の診察を受けることで、痛みを引き起こしている原因を特定し、適切な治療を受けることができます。この記事を参考に、早めに医療機関を受診し、快適な生活を取り戻しましょう。

【参考】
1)愛媛大学医学部|股関節部門概要
2)「伸張性運動による筋損傷が運動機能に与える影響」遠藤 隆志、齋藤 基一郎 草学園大学研究紀要 第6巻 5~13頁(2014)
3)慶應義塾大学病院|変形性股関節症
4)慶應義塾大学病院|大腿骨頭壊死症
5)厚生労働省|大腿骨頸部骨折 e-ヘルスネット
6)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
7)日本産科婦人科学会|更年期障害
8)「女性のしゃがみ姿勢と下肢関節可動域との関連」菅原 真由美、杉田 聡、島田 達生 形態・機能 第3巻 第2号
9)厚生労働省|エアロビクス / 有酸素性運動 e-ヘルスネット
10)「運動療法中に股関節に加わる負荷について」中島 義博、前田 貴司ら
11)東京女子医科大学|関節再生医療|人工関節

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