【医師監修】更年期で股関節が痛む原因は?疑うべき疾患や治療をご紹介

更年期に入り、突然股関節に痛みを感じて不安になる方もいるのではないでしょうか。更年期には女性ホルモンの変化や加齢の影響で、股関節に痛みが生じることがあります。しかし、適切な対策をとることで症状をやわらげたり、悪化を防いだりすることも十分に可能です。

 

この記事では、更年期における股関節痛の原因や考えられる疾患、治療法についてご紹介します。更年期の股関節痛に関する正しい知識を得ることで、痛みのない生活を送るためのヒントが見つかるでしょう。

 

更年期とは

 

更年期とは、一般的に女性の40代後半から50代前半にかけての期間、つまり「閉経」を迎える前後の時期を指します1)。この時期は、女性の身体に大きな変化が起こり、さまざまな症状が現れやすくなります。更年期では、卵巣機能の低下にともない女性ホルモンである「エストロゲン」が減少しやすくなるのが特徴です。

 

エストロゲンは、女性らしさや骨・関節の健康維持など、身体にとってさまざまな役割を担っています。そのため、更年期に入るとホルモンバランスの乱れによって体調の変化を感じる方も少なくありません。詳細は後述しますが、更年期に現れる症状が強い場合、「更年期障害」の可能性があります。

 

更年期に股関節痛が起こる原因

 

更年期には股関節の痛みが起こることがあり、その原因には何があるのでしょうか。ここでは、おもな原因について解説します。

 

エストロゲンの低下

更年期における股関節の痛みの原因の1つに、エストロゲンの低下があります。前述したように、エストロゲンは骨や関節の健康に関わっている女性ホルモンの1種です。更年期に入ると、卵巣の機能が低下するとともに、エストロゲンの分泌量が急激に減少しはじめます2)

 

エストロゲンが減少すると骨密度のバランスが崩れて、骨が脆くなります3)。また、関節を保護している軟骨も衰えやすくなるため、股関節に痛みや違和感が現れやすくなるのです。更年期に股関節の痛みを感じた場合は、エストロゲンの低下が関わっている可能性があります。

 

加齢による筋力や可動域の低下

更年期が40代から50代にかけての時期であることから、股関節痛の原因は加齢にともなう影響の可能性もあります。年齢を重ねるにつれて、筋肉量は次第に減少します。とくに下半身の筋力は比較的衰えやすいとされているため、股関節に悪影響をきたしやすいです4)

 

筋肉が衰えれば、歩行時や立ち上がる際に股関節にかかる負担が増加し、痛みの原因となるでしょう。さらに、筋力だけでなく関節の可動域も狭くなりがちです。関節の可動域が低下すれば足を動かしにくくなり、股関節に負担がかかりやすくなります。普段から運動不足の方は、筋力や可動域の低下による影響の可能性があります。

 

更年期に股関節痛が起きたときに疑うべき疾患

 

更年期に股関節痛が続く場合、なにかしらの疾患を疑う必要があります。ここでは、更年期で疑うべき代表的な疾患をご紹介します。

 

更年期障害

更年期障害とは、更年期によるエストロゲンの急激な減少が原因で、さまざまな症状を発症している状態のことです。エストロゲンは骨や関節の健康に関係しているため、減少することで股関節痛を発症する可能性があります。股関節痛以外の症状としては、以下のとおりです2)

 

 

このように、更年期障害の症状には多くの種類があります。精神的な症状が現れるのも特徴で、これらによって日常生活に支障をきたすことも珍しくありません。更年期障害は一時的な状態ですが、その期間は個人差があり、数年間続くこともあります。股関節痛以外にも、上記のような症状がある場合は更年期障害の可能性があります。

 

変形性股関節症

変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減ることで骨同士が擦れ合い、痛みや炎症が起きている状態です5)。更年期の女性はエストロゲンが減少することで、骨密度が低下しやすくなります。さらに加齢や関節の過度の使用により、股関節の軟骨の摩耗が進み、変形性股関節症を発症しやすくなります。変形性股関節症のおもな症状は、以下のとおりです。

 

 

初期段階では軽度の痛みや不快感のみですが、進行すると症状が悪化し、日常生活に大きな影響をおよぼす可能性があります。

 

関節リウマチ

関節リウマチとは、体内の免疫システムが誤って組織を攻撃して、関節の炎症や痛みを引き起こす疾患です。関節リウマチも更年期に発症しやすい疾患の1つです。この疾患は指や足などの末端の関節から発症することが多く、進行すると股関節にもおよぶケースがあります。おもな症状としては、以下のとおりです。

 

 

これらの症状は左右対称かつ、複数の関節に起こりやすいのが特徴です6)。股関節以前に、手や足などの関節の痛みがあった場合は、関節リウマチを疑ったほうがよいでしょう。

 

更年期の股関節痛に対する治療

 

更年期の股関節痛が続く場合、どのような治療が行われるのでしょうか。ここでは、おもな治療について解説します。

 

運動療法

運動療法は、ストレッチや有酸素運動などの運動による治療のことです。運動療法のおもな目的や効果は、以下のとおりです。

 

 

運動によって股関節まわりの筋力や柔軟性を高めることで、痛みの軽減を図ります。またダイエット効果で、減量によって股関節にかかる負担軽減も期待できるでしょう。運動療法は変形性股関節症だけでなく、更年期障害の症状改善にも役立つとされています7)。ウォーキングや自重トレーニングなど、気軽に行えるような運動も豊富なので、自分のペースで継続することが重要です。

 

薬物療法

薬物療法とは、薬によって症状の改善を図る治療法です。どのような薬を使用するのかは、疾患によっても異なります。ここでは、更年期障害とそれ以外の疾患に分けて解説します。

 

更年期障害に対する薬物療法

更年期障害に対して行われる薬物療法の中心が、「ホルモン補充療法(以下:HRT)」です2)。HRTは低下したエストロゲンを補うことで、更年期障害でみられる症状の軽減を図る方法です。HRTで使用されるホルモン剤には飲み薬や貼り薬など、さまざまなタイプがあります。HRT以外にも、症状に応じて漢方薬や抗うつ薬などが使用されるケースもあるでしょう。

 

漢方には多くの種類があり、更年期障害の症状にあわせた薬を処方します。気分の落ち込みや意欲低下などの精神的な症状で悩んでいる場合は、抗うつ薬をはじめとした薬を検討します。

 

更年期障害以外の薬物療法

股関節痛が更年期障害以外の原因による場合、使用される薬は大きく変わります。たとえば、変形性股関節症であれば、以下のような薬が使用されます。

 

 

関節リウマチでは、痛み止めのほかに、免疫異常の改善によって症状をおさえる「抗リウマチ剤」が代表的です6)。このように、薬物療法は症状や疾患に応じたものが選択されます。薬物療法には副作用のリスクもあるため、医師の指示に従って慎重に使用する必要があります。

 

手術療法

手術療法とは、運動療法や薬物療法でも改善がみられない場合に検討される治療です。手術の種類は、疾患や症状の進行具合によって異なります。たとえば、変形性股関節症やリウマチなどで関節の変形が進行した場合、人工股関節置換術が検討されます5)

 

人工股関節置換術とは、傷んだ股関節を人工関節に置き換える手術法です。手術療法は根本的な問題の解消につながるため、痛みの軽減や機能回復が期待できるのがメリットです。一方で、内容によっては治療までの期間が長い、感染や脱臼などのリスクがある、という面もあります。

 

再生医療

再生医療とは、人体の細胞や成長因子を利用して、傷んだ組織の修復や再生を図る治療法です。再生医療の代表的な方法として、PRP(多血小板血漿)療法があげられます。PRP療法とは、体内の血液から「血小板」という組織を濃縮し、患部に注射する治療法です8)。血小板に含まれる成長因子には組織の修復を促進させる効果があるとされており、その働きを活用しています。

 

再生医療の多くは、手術に比べて身体への負担が少なく、拒絶反応のリスクが低いのがメリットです。しかし、適応となる疾患は限られており、関節や軟骨の損傷具合によっては効果が得られないケースもあります。研究段階の部分も多く、とくに関節リウマチに対する効果については、さらなる検証が必要とされています。

 

更年期の股関節痛は早めの対処をしよう

 

更年期の股関節痛は、エストロゲンの低下や加齢による筋力の衰えが原因となるケースが多いです。股関節痛が続く場合は、更年期障害や変形性股関節症などの疾患が考えられます。それらの疾患の疑いがある場合は、早めの受診が重要です。運動療法や薬物療法など、その方の症状や状態にあった治療を行うことで、股関節痛の軽減・改善が期待できます。更年期の股関節痛に悩んでいる方は、この記事を参考に、専門医へ相談してみましょう。

医師からのコメント
「更年期と股関節痛」というテーマは、多くの女性が抱える悩みです。更年期によって低下する女性ホルモンには、関節の潤滑油である軟骨を保護し、炎症を抑える働きがあるため、その減少が関節痛を引き起こす一因と考えられています。しかし、更年期における股関節痛は、必ずしもホルモンの減少だけが原因ではありません。変形性関節症、リウマチ、外傷など、他の疾患が隠れている可能性も十分に考えられます。変形性関節症は、関節軟骨がすり減って痛みが出る病気で、特に中高年の女性に多くみられます。
リウマチは、関節の炎症が繰り返される自己免疫疾患です。股関節痛を感じたら、自己判断せず、必ず医療機関を受診することが大切です。整形外科を受診し、医師に詳しく症状を伝えることで、適切な診断を受けることができます。診断に基づいて、痛み止めや炎症を抑える薬、物理療法、運動療法など、様々な治療法が選択されます。

【参考】

1)厚生労働省|更年期 | 女性特有の健康課題

2)日本産科婦人科学会|更年期障害

3)厚生労働省|骨粗鬆症 e-ヘルスネット

4)「日本人筋肉量の加齢による特徴」谷本 芳美、渡辺 美鈴ら 日本老年医学会雑誌 47巻 1 号(2010:1)

5)慶應義塾大学病院|変形性股関節症

6)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)

7)「中年期女性の更年期症状と運動・スポーツ」上田 真寿美、徳永 幹雄 健康科学 第22巻

8)北里病院|再生医療(PRP療法・APS療法)

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