記事監修者:眞鍋 憲正 先生
股関節の痛みに対する新たな治療として、「再生医療」が注目を集めています。本記事では股関節の痛みを生じる代表的な疾患を紹介し、再生医療のメリット・デメリットを詳しく解説します。
再生医療とは?
再生医療とは、人間がもともと持っている自然治癒力を活用する新しい治療法です1)。人体から採取した組織や成分を利用して、損傷部位の修復・再生を促進します。
今までは手術が必須とされていた外傷や疾患に対して行うことも可能です。既存の治療では回復が見込めなかった症例に対する治療法としても期待されています2)。
再生医療について詳しく知りたい場合は、次の記事もあわせてご覧ください。
▶【医師監修】再生医療とはどんな治療?種類やメリットを詳しくご紹介
股関節の痛みを生じる代表的な疾患
股関節の痛みを生じる病気として最も多いのは、変形性股関節症です。発育性股関節形成不全や臼蓋形成不全、骨折など、ほかの股関節疾患から変形性股関節症に発展するケースもあります。
主な症状は、股関節の痛みと機能障害です。初期は立ち上がりや歩行の動作開始時に痛みを感じますが、進行すると痛みが持続したり、夜間に眠れない痛みが出たりすることもあります。
また、変形が進むと股関節の可動域が狭まり、靴下を履く、足の爪を切るなどの日常生活動作に支障をきたすことも。和式トイレやの使用や正座、長時間の立位や歩行が辛くなり、家事や仕事がままならなくなるケースもあります3)。
股関節に対する再生医療
変形性股関節症をはじめとする、股関節の痛みを生じる疾患に対しても再生医療は可能です。ここからは変形性股関節症に対しる再生医療の種類をご紹介します。
PRP療法
PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)療法とは、血液から血小板を取り出して濃縮したものを患部に注射する治療法です。このPRPには成長因子が多く含まれているため、傷ついた組織の修復や再生が期待できるのです。
PRPは患者さまご自身の血液から抽出するため、拒絶反応が起こりにくいこともメリットです1)。手術の難しい高齢者も受けることができ、手術療法の前の選択肢の一つとしても注目されています4)。
APS療法
APS(Autologous Protein Solution:自己たんぱく質溶液)とは、PRPを遠心分離・特殊加工して、炎症を抑制するたんぱく質と成長因子を高濃度に抽出したものです。次世代PRPと呼ばれることもあり、股関節の痛みや炎症の軽減が期待できます1) 4)。
PFC-FD療法
PFC-FD(血小板由来因子濃縮物)療法は、PRPから細胞を除去し、成長因子などの有効成分をより濃縮・抽出して、フリーズドライ加工を施したものを関節内に投与する治療法です。PFC-FDは、注射用の水に溶かしてから投与します。同量のPRPよりも含まれる成長因子が多いため、組織の修復・再生がより期待でき、長期保存できることが特徴です2)。
ASC療法
ASC療法(脂肪由来培養幹細胞療法)は、患者さまの脂肪組織に含まれる幹細胞を培養して、関節内に投与する治療法です5)。
幹細胞はさまざまな細胞への分化能を持った細胞です。骨や軟骨、筋肉、血管など、さまざまな細胞になることができます。ASC療法は、投与した培養幹細胞が軟骨細胞に分化することによる軟骨の再生のほか、関節の炎症や変形の抑制、組織の修復なども期待されています6)。
再生医療のメリット・デメリット
再生医療は新しい治療法として注目されていますが、ほかの治療法と同じく、メリット・デメリットが存在します。ここからは、再生医療のメリット・デメリットについて解説します。
再生医療のメリット
従来は保存治療の効果がないと判断されると、すぐに手術が検討されていました。しかし、再生医療の登場により、新たな選択肢が生まれたのです。再生医療は手術療法に比べて侵襲性が低く、日帰りでの処置も可能です。治療痕が残りにくいというメリットもあります。
また、患者さま由来の細胞や血液を使用するため、アレルギーや感染症のリスクが低いというメリットも。
再生療法は、保存療法や手術療法など、ほかの治療法と組み合わせて行うことも可能です。手術後の回復を促進する効果も期待できます。また、手術での回復が見込めない症例や、高齢者に対する治療として選択することもできます7)。
再生医療のデメリット
再生医療はすべての方が受けられるわけではありません。再生医療を受けられない方の代表例を紹介します。
- 悪性腫瘍(がん)に罹患している方
- 抗がん剤や免疫抑制剤を使用している方
- 感染症を疑われる方
- 活動性の炎症や全身性の疾患がある方
- 発熱のある方
- 1ヶ月以内にPRP療法を受けた方
- 薬剤過敏症の方
上記以外にも、医師の判断で不適当と判断された場合には、再生医療を受けることができません。
再生医療は基本的に保険適用と歯ならず、全額自己負担です。また、効果は個人差が大きいこともデメリットといえるでしょう。高額な費用を払ったにもかかわらず、期待していた効果が得られないというケースも珍しくありません。受けられる病院に限りがあることもデメリットといえます。
再生医療は対症療法の一つです。股関節の痛みを軽減したり、変形の進行を遅らせたりすることは可能ですが、根本的な治療ではありません7)。また、新しい治療のため、未知の副作用が起きる恐れもあります。
再生医療については、主治医と相談のうえ、慎重に検討しましょう。
再生医療以外の治療法
変形性股関節症の治療法としては、再生医療以外にも以下の選択肢があります。
- 保存療法
- 運動療法・リハビリテーション
- 手術療法
初期の段階では、保存治療が選択されることが一般的です。できるだけ股関節に負担をかけず、痛み止めや装具を使用しながら温存を目指します。同時に、筋力低下防止や可動域改善のための運動療法・リハビリテーションも行います。
保存療法の効果がない場合は、手術療法が検討されます。初期では骨切り術、変形が進んでいる場合は人工股関節置換術の適応となります3)。
股関節に対する再生医療は慎重に検討しよう!
新しい治療法の一つとして、注目を集めている再生医療。拒絶反応を起こしづらく、加齢などに寄り失われた組織を修復する効果も期待できる治療法です。
ただし、股関節の痛みに対する再生医療は始まったばかりで、まだ十分なデータが出そろっているとは言えません。未知の副作用などが起きるリスクもあるため、医師に相談したうえで慎重に検討する必要があります。
【医師からのコメント】
股関節の再生医療は、変形性股関節症などの治療に新たな可能性をもたらす注目を集める分野です。幹細胞やPRPを用いた治療は、損傷した軟骨の再生を促し、痛みを軽減することが期待されています。手術を避けられ、自身の体を利用するため拒絶反応のリスクも低い点がメリットです。
しかし、効果には個人差があり、高額な費用や長期的な安全性のデータが不足している点が課題です。治療を受ける際には、必ず医師と相談し、メリット・デメリットを十分に理解することが重要です。再生医療は万能ではありませんが、今後の発展が期待される分野であり、患者さんにとっての選択肢の一つとして検討されるべきでしょう。
【参考】
1) 北里大学北里研究所病院 再生医療(PRP療法・APS療法)
2) 東京女子医科大学 整形外科 関節再生医療|人工関節
3) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性股関節症」
4) 東京医科歯科大学病院 医科(医系診療部門) 変形性股関節症の新しい治療ご紹介~PRP(APS)股関節内注射~
5) 再生医療専門クリニック リペアセルクリニック 東京院 変形性股関節症、股関節痛の再生医療・幹細胞治療
6) 医療法人社団 紺整会 船橋整形外科 みらいクリニック 膝の再生医療とは?PRP療法・APS療法・ASC療法のメリット・デメリットと費用相場を解説
7) 医療法人社団高志館 レイクタウン整形外科病院 再生医療の適応について
記事監修者情報