記事監修者:眞鍋 憲正 先生
股関節の痛みや不調に対して行われる治療の1つに、保存療法があります。この保存療法では、どのような治療が行われるのかよくわからない方もいるのではないでしょうか。
今回の記事では、保存療法の種類や効果、股関節の代表的な疾患をご紹介します。保存療法が行われるタイミングや役割について知ることで、股関節の疾患を発症した際の適切な治療選択ができるでしょう。
股関節の疾患で保存療法が選択されるタイミング
保存療法は、股関節疾患の発症初期や症状が軽度の段階で選択されることが一般的です。痛みや機能の低下を最小限におさえることが、保存療法のおもな目的です。たとえば、変形性股関節症の場合は薬物療法や運動療法などによる治療が中心となります。また体重管理や運動指導によって、症状の進行をおさえることも保存療法の1つです。
一方で、保存療法で対応できない場合や症状が進行している場合は、手術療法が検討されます。このように、股関節の治療は症状の程度や進行具合に応じて変わります1)。医師の指導のもと、適切な治療法を選択することが重要です。
股関節の疾患で行われる保存療法の種類
股関節の疾患で行われる保存療法には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、具体的な治療法について解説します。
運動療法
運動療法とは、名前のとおり運動によって身体機能を改善させ、股関節の痛みの軽減を目指す基本的な治療法です2)。股関節周囲の筋肉を強化して、関節の安定性を向上させるためには、運動療法が欠かせません。
筋トレ以外にも、ストレッチも運動療法の1つです。ストレッチは筋肉の柔軟性を高めて、股関節の動きやすさを向上させる効果が期待できます。基本的に、運動療法はどのような疾患に対しても保存療法の中心として行われる傾向にあります。
薬物療法
薬物療法とは、薬や注射などを活用して股関節の痛みや炎症をおさえる治療法です1)。薬物療法によって股関節の痛みをおさえることで、生活を送りやすくする、運動療法を効率的に行えるようになるなどのメリットがあります。鎮痛剤をはじめとした薬以外にも、湿布や軟膏などの外用薬も併用することもあります。運動療法と同じように、薬物療法も保存療法の代表的な治療法といえるでしょう。
体重管理
体重管理も、股関節にかかる負担を減らすための重要な治療法です1)。股関節は上半身の体重を支えている関節の1つです。そのため、体重が重くなるほど股関節にかかる負担が強くなり、疾患の症状を悪化させる原因となります。症状の悪化を防ぐには、体重をコントロールして関節にかかる負担を軽減することも重要です。体重管理では、健康的な食事や適度な運動などの指導が行われます。
動作指導
動作指導も体重管理と同じように、股関節の負担を減らすために欠かせない治療法です。生活で間違った動作をすると、股関節に負担がかかりやすくなり、症状の悪化につながります。股関節疾患にあわせた動作を学ぶことで、関節にかかる負担を減らして、痛みや炎症の軽減が期待できます。
動作指導は動きの学習だけでなく、福祉用具を活用することもあるでしょう1)。たとえば、必要に応じて杖を使用することで、股関節にかかる負荷が分散されて歩行時の安定性を高められます。
装具療法
装具療法とは、サポーターやベルトなどの装具を使用して、関節の安定化や痛みの軽減を目指す治療法です。股関節疾患に対して装具を使用することで、関節の保護や動きの制限によって負担減少が期待できます3)。装具に加えて福祉用具を活用することで、さらに関節の負担軽減が期待できるでしょう。適切な装具を選び、正しい方法で使用することで、股関節の症状悪化を予防できます。
股関節の代表的な疾患
股関節の保存療法を行うような疾患には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、股関節の代表的な疾患について解説します。
変形性股関節症
変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減ることで、痛みや動きの制限が生じる病気です。おもな症状としては股関節の痛みがあげられ、とくに歩きはじめや長時間の歩行後に顕著に感じやすくなります。また股関節の可動域が制限されることもあり、日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。
変形性股関節症の原因は、大きく分けて「一次性・2次性」の2つがあります1)。一次性は加齢や肥満、過度の運動などが組み合わさって起こるとされています。二次性は先天的な疾患、または外傷や感染症などの後天的な要因がきっかけです。変形性股関節症は進行性の疾患であり、完全に元の状態に戻すことは難しいとされています。しかし、適切な治療をすれば症状の抑制ができるので、早期からの対処が重要です。
大腿骨頸部骨折
大腿骨頸部骨折とは、大腿骨の付け根にあたる部分が骨折することです。おもな症状は、激しい股関節の痛みと、足を動かすのが難しくなることがあげられます。大腿骨頸部骨折の最大の原因は、骨粗鬆症といわれています4)。骨粗鬆症になると骨密度が低下し、骨がもろくなるので、軽い衝撃でも骨折しやすくなるのです。その他の原因としては、以下があげられます。
- 加齢
- 筋力の低下
- 交通事故による大きな衝撃
大腿骨頸部骨折は早期発見・治療が重要なので、転倒後に強い痛みが続く場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
大腿骨頭壊死
大腿骨頭壊死は、股関節の骨頭部分に血液がうまく流れなくなることで、骨が壊死する疾患です。大腿骨頭壊死のおもな症状は、動作時の股関節の痛みや可動域制限です。初期段階では軽度の違和感程度ですが、進行すると痛みが強くなり、股関節の可動域が制限されやすくなるのです。
原因がはっきりと分かってないものを「特発性」といい、ステロイド剤の長期使用やアルコールの過剰摂取が関連しているとされています。原因がわかっているものを「症候性」といい、外傷や放射線などがきっかけで発症します5)。
臼蓋形成不全
臼蓋形成不全とは、股関節の臼蓋(きゅうがい)と呼ばれる骨盤側のくぼみが十分に発達していない状態のことです。おもな症状は、以下のとおりです。
- 股関節の不安定感
- 股関節の違和感
- 歩行時の痛み
- 関節の可動域制限
臼蓋形成不全になると大腿骨頭を適切に支えられず、長期的には変形性股関節症につながることもあります。初期段階では明確な症状がないことも多く、成人になってから自覚するケースも少なくありません6)。臼蓋形成不全の原因の多くは先天的なものですが、出生後の環境因子も影響を与える可能性もあります。
関節リウマチ
関節リウマチは、股関節を含む全身の関節に炎症が生じる自己免疫疾患です。自己免疫疾患とは、身体の免疫システムが誤って自分の関節を攻撃してしまうことです。関節リウマチは、通常手足の小さな関節からはじまり、進行すると股関節にも影響を及ぼす場合があります。股関節に症状が現れると歩行時の痛みや可動域制限などが生じて、日常生活に大きな支障をきたす原因となるでしょう。
関節リウマチは慢性的な経過をたどることが多く、適切な治療を行わないと関節の変形や機能障害が進行する恐れがあります。関節リウマチの原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合っていると考えられています7)。
股関節の疾患の多くは保存療法から行われる
股関節の疾患の多くは、保存療法から行われることが一般的です。保存療法には運動療法や薬物療法などのさまざまな治療法があり、疾患にあわせたアプローチによって症状の予防・改善が期待できます。股関節の痛みや不調に悩んでいる方は、まずは医療機関へ受診して適切な治療を受けることが大切です。ぜひ今回の記事を参考にして、保存療法の内容について把握しておきましょう。
医師からのコメント
股関節の保存療法は、股関節の痛みや機能障害に対して非手術的に対処する手段として重要です。薬物療法(鎮痛剤やステロイド注射など)は炎症や痛みを緩和し、理学療法(ストレッチ、筋力強化)は関節の可動域と安定性を改善します。装具療法(杖、インソール)は負担を軽減し、生活指導(姿勢、体重管理)は長期的な管理に寄与します。
運動療法(バランス訓練、水中運動)は股関節への負担を軽減しつつ機能を向上させます。これらの治療法は、通常単独ではなく患者さんの症状や生活状況に応じて個別に組み合わせて用いることが多いです。包括的な保存療法は、患者さんの生活の質を向上させ、股関節の健康を維持するために有効です。
【参考】
1)慶應義塾大学病院|変形性股関節症
2)日本医事新報社|運動療法ガイド第5版
3)「変形性股関節症に対する装具療法」福本 和仁 日本義肢装具学会誌 Vol.21 No.1 2005
4)日本整形外科学会|大腿骨頸部骨折
5)慶應義塾大学病院|大腿骨頭壊死症
6)日本整形外科学会|臼蓋形成不全
7)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
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