1998年、杏林大学医学部を卒業後、東京女子医科大学病院整形外科に入局。学位は博士(医学)。日本股関節学会の学術評議員を務めており、股関節、膝関節を始めとする下肢関節疾患に関する医学論文・学会発表を、国内外で数多く手がける。東京女子医科大学病院整形外科准講師、非常勤講師を経て、2024年におおつる整形外科医院を開院。変形性膝関節症に対するバイオセラピーの治療実績は約4,500件(2026年5月時点)に及ぶ。
医師・専門家インタビュー
「変形性膝関節症」に対する新しい治療法|バイオセラピーの現在地

変形性膝関節症に対する治療では、初期症状には薬物治療やリハビリテーションといった保存療法、進行期から末期にかけては骨切り術や人工関節置換術といった手術加療が行われる。しかし、手術加療を行う場合、社会生活からの長期離脱や感染症などのリスクがあることから、不安や抵抗を感じる人もいる。そうしたお悩みに対して、保存加療と手術加療の間を補完できる治療が、自身の血液や皮下脂肪から安全性の高い生物製剤を作製し、それを関節内に注射するバイオセラピー。そのバイオセラピーの治療実績が豊富な、おおつる整形外科医院の大鶴任彦院長に話を伺った。
保険診療と自由診療-開業してどちらも提案できるハイブリッド治療が可能に

――開業した経緯についてお教えください。
生まれも育ちも住まいも東京都で、1998年杏林大学医学部を卒業後、東京女子医科大学病院整形外科教室に入局しました。開業のご縁をいただいたのは、家内の実家が経営している、静岡県浜松市の石垣内科医院とデイケア施設などを擁した医療法人からお声がけをいただいたことがきっかけです。法人の系列施設として、2024年10月から浜松市和田町におおつる整形外科医院を開業しました。石垣内科医院は神経内科が専門であり、身体の不自由な患者さまが多く来院しています。そうした状況の中で、グループに整形外科専門医がいる整形外科医院があれば、リハビリテーションの提案や継続的な診療サポートが可能になると思いました。近隣にある聖隷浜松病院の院長である岡俊明先生が私の従兄であることにもご縁を感じました。
また2018年に入職し今でも非常勤で勤務している、バイオセラピー(自由診療)専門クリニックの経験があることから、開業すれば保険診療と自由診療を組み合わせたハイブリッド治療の提案が可能になると思いました。患者さまにもメリットがあり、他院との差別化になると確信したことも動機になりました。
――ホームページにもある医院の理念「あなたの動きを、もっと自由に。」には、どのような想いが込められていますか?
整形外科で扱う疾患のほとんどが、加齢による変化や仕事に伴う慢性疾患であり、残念ながら「治る」ということはありません。ですから「歳だからしょうがない」「我慢できなければ手術しかない」というセリフを聞くことが多いと思います。
当院では、病態の説明をしっかり行った上で、治らない慢性疾患と付き合っていくための手段として、内服薬の調整、リハビリテーション、ブロック注射の併用、もちろんバイオセラピーも含めた豊富な選択肢を提案することで、少しでも痛みが少なく自由に動くことを叶えることができると自負しています。その想いを込めました。
変形性膝関節症とはどのような疾患ですか?
――高齢になると、膝が痛むようになるのはなぜでしょうか?
膝関節は体重がかかる荷重関節のため、長年使い続けていると半月板や軟骨が傷んできます。すると、その周囲にある滑膜が炎症を起こし、痛みを誘発します。半月板や軟骨の損傷がさらに進むと、そのかけらが関節内にはさまったり、骨同士が当たったりするようになり、さらに痛みを増大させるのです。これを変形性膝関節症といいます。
変形性膝関節症は、加齢や肥満などによって発症する一次性と、外傷や感染などをきっかけに発症する二次性に分類される中で、患者さまの多くは前者と診断されます。超高齢社会の日本において誰しも患う深刻な疾患であると言えるでしょう。
――変形性膝関節症の一般的な治療はどのようなものでしょうか?
一般的に初期症状の場合、保存療法として内服薬の調合のほか、ヒアルロン酸注射やリハビリテーションなどが行われます。進行期や末期になると、患者さまの年齢や症状の進行具合によって関節鏡視下(かんせつきょうしか)手術、骨切り術、人工関節置換術といった手術療法になります。
バイオセラピーは、保存療法の効果がなく手術療法を希望されない患者さまに対して、それらの治療の間を補完する位置づけとしてご検討いただける治療です。

バイオセラピーとは?-おおつる整形外科医院ではPFC-FD™を採用
――先生は変形性膝関節症に対するバイオセラピーの治療実績が豊富と伺いました。これはどのような治療ですか?
バイオセラピーは、細胞や血液由来製剤といった生物製剤(バイオロジックス)を関節内に投与する治療で、生物製剤が持つ抗炎症作用や組織修復作用によって、関節内環境の恒常性を維持することを期待する治療です。バイオセラピー専門クリニックの入職をきっかけに、研究テーマのひとつにバイオセラピーを加えて、現在でも学会発表と論文の執筆を行っています。
SNSでは「再生医療」という呼称が喧伝されていますが、治療による軟骨修復や組織再生作用の詳細なメカニズムは明らかにされていません。つまり文字通り損傷臓器が『再び生まれかわる』ことはありません。おおつる整形外科医院のインフォームドコンセント(説明を受け、納得した上で同意をすること)では、正式な呼称であるバイオセラピーという用語を用いて誤認を防ぎ、コンプライアンスのとれた状況で患者さまの治療に携われるよう努めています。
――この治療の魅力に感じる点を教えてください。
バイオセラピーは比較的新しい治療法ですから、医学的根拠が少なく教科書的な治療ではありません。未開拓の領域が未だ多く残されていることに、研究者の一人として魅力を感じています。
――外来ではどのようなバイオセラピーを行っているのでしょうか?
簡単に採取できる血液を用いたバイオセラピーの中では、多血小板血漿(Platelet Rich Plasma:PRP)の治療成績が本邦だけでなく世界中から報告されています。また有名スポーツ選手によく行われることでご存じの方もいらっしゃると思います。当院では数あるPRPの中でも、PFC-FD™を用いてバイオセラピーを行っています。
PFC-FD™は、まず採血し、その血液から遠心分離機を用いて高濃度の血小板を含む分画した後、凍結乾燥させて薬液を作製します。作製期間は3週間です。
私がPFC-FD™を選択した理由は、前述の専門クリニックで約4500膝の治療経験から、ただ治療を行うだけでなく、患者さまの様々な疑問にお答えできるからです。さらに治療効果を少しでも引き出すためにリハビリテーションを併用するようにしています。
――バイオセラピーは膝以外にはできますか?
可能です。当院では股関節、足関節、肩関節にも注射が可能です。
――今もバイオセラピー専門クリニックで非常勤医師として勤務を続けている理由は何でしょうか?
専門クリニックには、全国から集まる豊富な治療成績が蓄積されています。私が学会発表を行ったり、学術論文を執筆する際、膨大なデータによる裏付けが必要になります。よって常にバイオセラピーの分野における最新情報や知見をアップデートし続けられる環境に身を置きたいからです。
開業しながらこのような学術活動を行うことは、時間、体力、収支の観点から短期的に見れば大きなマイナスです。しかし自分の人生を顧みたときに大きな財産になると思いますし、遠方からバイオセラピーを目的に来院された患者さまに納得感、安心感をお届けできる自信を持っています。
――今までの研究結果から何か分かってきたことはありますか?
代表的な知見は、変形性膝関節症312 膝(平均年齢 63.5 歳)を対象に、PFC-FD™の1回注射の有効性と安全性を検証した結果、注射12ヶ月後の追跡調査で、62%の患者さまが奏功に達し、特に初期変形性膝関節症においては73%の患者さまが奏功に達したことが分かりました。副作用は重篤なものはなく安全性は問題ありませんでした。
この研究結果は世界的な学術出版社であるWILEY社により、ヨーロッパスポーツ外傷学・膝関節外科・関節鏡学会の公式ジャーナルであるKnee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy誌の「2023 年に最も閲覧された論文上位10%」に選出され、【Top Viewed Article】として顕彰を受けました。
そのほか、PFC-FD™の1回注射よりも3回注射のほうが奏功したこと、半月板損傷にも効果があること、当院では扱っていませんが、皮下脂肪から採取した幹細胞の注射と併用すると、治療後の軟骨体積が統計学的有意に増加したことを報告してきました。
ただし、これらの研究結果はまだまだ解析症例数が少ないこと、短期間の治療成績であること、患者報告型アウトカムのアンケートやMRI撮影にご協力いただいた患者さまのみの解析結果であることから、バイアスのかかっている(先入観の入った一方的な)点があることをお伝えする必要があります。
研究論文の詳細は、以下のページからご確認できます。
Freeze-dried noncoagulating platelet-derived factor concentrate is a safe and effective treatment for early knee osteoarthritis
――バイオセラピーに興味を持っている患者さまに何かメッセージはありますか?-
バイオセラピーは教科書には載っていない治療です。その意味で「歴史の浅い発展途上の治療」ということができます。もちろん保険の利かない自由診療でもあります。偉大な先人が築き上げてきた標準治療である手術療法の治療成績をしのぐものではないことをご理解ください。
しかし保険診療の枠内で、内服薬や注射、リハビリテーションといった従来の保存加療を続けているものの改善がなく、さまざまな理由で手術を見送っている場合、自由診療であるバイオセラピーは選択肢のひとつになりえます。
当院は保険診療と自由診療のハイブリッド治療提案が可能です。皆様のご来院をお待ちしています。

インタビューした医師・専門家


