記事監修者:眞鍋 憲正 先生

インピンジメント症候群とは、肩の痛みを引き起こすとても身近な病気です。おもに肩を酷使することや加齢などの影響で発症し、年齢問わずアスリートにも多くみられます。レントゲンを使用してもはっきりした損傷が確認できないのが特徴で、五十肩などと間違えられることが多くあります。ここでは、そんなインピンジメント症候群がどのような病気なのか、病院での診断方法や治療法をまとめました。予防するためのストレッチもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
インピンジメント症候群とは?
インピンジメント症候群とは、肩の痛みや腕を上げる際に不快感がある一般的な疾患です。ある研究では、肩の痛みで病院を受診した方の44〜65%がインピンジメント症候群と診断を受けるか、あるいはインピンジメントを原因とする不調であると言われる1)ほどで、誰でもかかりうる身近な病気だと言えるでしょう。「インピンジメント(impingement)」とは「衝突」や「挟み込み」という意味。もともと肩峰下は上腕二頭筋腱・ローテーターカフ・靭帯・滑液包など多くの組織があり、こすれや衝突が起きやすい構造になっているのですが、インピンジメント症候群は肩関節にある骨同士や軟骨、靭帯などが擦れたり、挟まれたりすることで痛みや炎症が起きます。ちなみに、肩の可動域が明らかに狭まる五十肩に対して、痛みながらも肩関節を動かすことができるのが特徴です。

インピンジメント症候群の症状は?
腕を上げたり、後方に伸ばしたりするときに痛みが出ます。特に、肩の高さ辺り(60~120度)に腕を上げたときに強い痛みを感じることが多く、真上に近くなると痛みが軽減するのが特徴です。これは、この角度にすると腕を上げるときに肩がつまり、骨や軟骨、靭帯などが当たりやすくなるためです。また、しばしば夜間痛があり、寝返りを打ったときや痛む側の肩を下にしたときに激痛が走ります。症状が悪化すると、関節が動きづらく感じるようなこわばりや筋力の低下なども起きます。
インピンジメント症候群の原因とかかりやすい人
インピンジメント症候群の原因の1つがオーバーユースです。繰り返し肩を使うことで、肩峰下の腱や滑液包が炎症を起こし、痛みが発生します。水泳選手や野球選手、バレーボール選手など肩を酷使するアスリートによくみられる疾患で、とくにスイマーに多いことから「水泳肩」と呼ばれることもあります。スポーツ以外でも、重いものを持ち上げる動作を繰り返す工事現場の職人さんや、子どもたちを持ち上げる保育士さんなどもインピンジメント症候群になりやすいと言えるでしょう。
ほかに、肩関節の可動域を減少させる猫背姿勢の人や、肩関節の筋力がアンバランスな人、加齢により肩まわりの筋肉や腱が衰えて肩関節の安定性が低下している人、肩峰の骨の形が出っ張っている人もインピンジメント症候群になりやすいと言われています。また、打撲や転倒など外傷によって引き起こされることもあります。
インピンジメント症候群の診断方法
患者の症状やスポーツ活動などを確認する問診、肩甲胸郭関節や肩甲骨の硬さなど機能障害の有無をチェックする身体検査に加えて、レントゲン検査やMRIが有効です。レントゲンでは、肩関節の骨の形状や骨棘(骨が変形して尖っている状態)の有無など、関節の安定性を確認します。MRI検査では、筋肉や腱、靭帯などの状態、炎症の程度や範囲も正確に把握することができます。ちなみに、インピンジメント症候群は五十肩、石灰沈着性鍵盤炎、鍵盤断裂などと似たような症状を持っているので、臨床症状を確認し、それら別の疾患と正確に区別することが大切2)です。
インピンジメント症候群と五十肩の見分け方
インピンジメント症候群はしばしば五十肩と混同されることがあります3)が、原因も症状も全く別のものです。二つの疾患の違いをまとめてみましょう。
インピンジメント症候群の特徴
・腕を上げたり引いたりするときに痛む
・痛みの原因は肩峰下の腱や滑液包が擦れたり挟まったりすること
・痛みはあるが動かそうと思えば動く
・スポーツ選手に多く、発症年齢に傾向はない
五十肩の特徴
・じっとしていても痛み、肩が動かなくなる
・痛みの原因は肩関節周辺の炎症や癒着
・段階的に肩関節が動かなくなる
・発症年齢が40~60代に偏っている
・炎症期、慢性期、回復期と3つの病期がある
インピンジメント症候群のセルフチェック方法3)
肩の違和感がインピンジメント症候群なのか、それとも別の疾患なのか見当をつけるのに有効的なセルフチェック方法を紹介しましょう。ただし違和感が強い場合など全く別の病気の可能性もあります。なるべく早めに整形外科のある医療機関で受診することをおすすめします。
ペインフルアークテスト
ひじを伸ばした状態で腕を体の横につけ、そのままゆっくりと頭上に上げていきましょう。脇の角度が60~120度あたりで痛みが強くなる場合はインピンジ症候群の可能性が高いです。
ホーキンステスト
腕を体の前に伸ばし、肘を左右に90度に曲げた状態で手首を内旋させます。その際、肩の前面が痛む場合はインピンジメント症候群の可能性が高いです。

インピンジメント症候群の治療法
インピンジメント症候群の治療法には、一般的な保存治療とそれでも改善しない際の手術、代替治療として再生医療など保険外の治療があります。それぞれの特徴を紹介しましょう。
保存治療
まずは痛みを軽減させます。肩をできるだけ動かさないように安静のポジションにし、痛みや炎症を抑えるために飲み薬や塗り薬を服用したり、ステロイド注射やヒアルロン注射で直接炎症を抑制します。その後、痛みが軽減した段階で、根本的な改善を促すために、肩周りの柔軟性を改善し筋肉を鍛えるためにリハビリテーションや姿勢改善を行います。多くの場合、この保存治療で症状が改善します。
手術治療4)
一般的な保存治療を3〜6カ月行っても症状が改善されない場合、あるいは症状が重い場合、腱板断裂や腱板の石灰沈着、上腕骨大結節骨折後の変形癒合などの機械的要因による場合は、内視鏡を用いた「肩峰下除圧術」と呼ばれる手術を行います。狭くなった肩関節の隙間を広げるため、炎症反応が出ている滑膜の切除や骨棘を削る処置を行います。肩を支える腱板が損傷する腱板断裂(けんばんだんれつ)も患っている場合は症状や必要性に応じて別の手術を併用することもあります。
インピンジメント症候群の手術以外の代替治療①再生医療2)
再生医療には、PRP(多血小板血漿)療法と幹細胞治療の2種類あります。PRP治療とは、自分の血液から血小板を濃縮してその成分を注入する治療法で、幹細胞治療とはほかの細胞に変化する能力を持つ幹細胞を注射や点滴で幹部に届ける治療法です。
これを注入することで患部の傷ついた組織の修復を促すとともに炎症を抑え、痛みを軽減させる可能性があります。一般的な保存治療で改善しなかった人で、できるだけ手術を避けたい人に注目されています。ただし、治療データが少ないため効果や副作用の可能性が一般的な治療と比べると不明な点が多いこと、自由診療であるため高額になりやすいといった点があります。
インピンジメント症候群の手術以外の代替治療①運動器カテーテル治療5)
最近注目されている、痛みのある部分に長く残ってしまう異常な血管、通称「モヤモヤ血管」にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑える治療法です。実は、繰り返し炎症が起きている箇所には、修復の過程で血管が増えることが知られています。通常、この血管は自然と消えていくのですが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖し、長引く痛みを引き起こしていると考えられています。一般的な保存治療で良くならない場合、早く痛みから解消されたい人に注目されている治療法です。
インピンジメント症候群の予防法1)
インピンジメント症候群を予防するためには、運動や仕事で肩の酷使を避けるとともに、適切な休息を取り、負担をかけない動作を心掛けることが必要です。ここでは、肩の筋力や柔軟性をバランスよく保つためのストレッチやトレーニングをご紹介します。ただし、痛みや強い違和感がある際は、安易に自己判断せずに病院で診察してもらいましょう。
インピンジメント症候群を予防するためのクロスボディストレッチ
回旋筋腱板を動かしやすくするため、肩の後ろ側を伸ばす、立位で行うストレッチです。
1.痛みのある方の腕をまっすぐ前に肩の高さまで上げる
2.痛みがない方の手で反対側のひじをつかんで体側に引き寄せる
3.肩の後ろののびを感じながら30秒間キープ

インピンジメント症候群を予防するためのスリーパーストレッチ
こちらも回旋筋腱板を動かしやすくするために肩の後ろ側を伸ばすストレッチです。肩に違和感がある時は、少し倒すだけでも効果的。いきなり力を入れすぎず、横になった状態でゆっくりと行いましょう。
1.伸ばしたい側の肩を下にして横向きに寝る
2.下の腕を肩の高さあたりまで上げ、ひじを90度曲げて床と垂直に立てる
3.上の手で下の手首を軽く握り、ひじを床に倒すようなイメージでゆっくりと押していく
4.肩の後ろがしっかりと伸びているのを感じたらその状態で30秒キープ
インピンジメント症候群を予防するためのコーナーストレッチ
肩甲骨、ひいては肩の上げ下げの動きに関係する小胸筋をほぐすストレッチです。立位で、壁やドアの角を生かしてストレッチを行います。過去に肩を脱臼したことがある人は外れやすい動きなので注意してください。無理に伸ばさず、快適に感じる程度にストレッチしましょう。
1.伸ばしたい腕側の肘を90度に曲げ、肩の高さまで上げて、壁やドアの角に添わせる
2.腕を壁に預けながら、ゆっくりと重心を前へ移動させて、肩関節の前から胸にかけて伸ばす
3.この状態を30秒ほどキープする
インピンジメント症候群には多種多様な治療法がある
インピンジメント症候群は肩の痛みを引き起こす非常に身近な病気で、年齢性別問わず、さまざまな人が発症する可能性があります。インピンジメント症候群かどうか自分でチェックするためのセルフチェック方法や予防のためのストレッチもご紹介してきましたが、肩に違和感がある場合は、整形外科で早めの受診を心がけましょう。
【参考】
1)NEXPORT|インピンジメント症候群を改善する3つのストレッチと5つのリハビリ
2)シンセルクリニック|肩のインピンジメント症候群とは?医師が解説
3)リペアセルクリニック|インピンジメント症候群と五十肩の違いを解説!セルフチェック方法も紹介
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