記事監修者:松繁 治 先生
膝関節は大腿骨と脛骨、膝蓋骨で構成された関節です。歩行をはじめとする、日常生活に大きく関わっています。その膝関節に異変が生じた場合、手術が必要になってしまうことも。本記事では高齢者に多い変形性膝関節症に焦点を当て、手術方法について詳しく解説します。
変形性膝関節症とは?
加齢により、膝の関節軟骨が弾力性を失い、すり減ったことにより起きる病気です。加齢のほか、骨折などの外傷や関節炎などの感染、膝の使いすぎ、肥満、遺伝的素因も関与しているといわれています。患者の8割は女性で、膝の痛みや膝に水がたまることが主な症状として挙げられます。
膝の関節軟骨の変形の進行により、症状は異なります。変形が進んでいない初期では歩きはじめや立ち上がりなど、動作をはじめるときに痛みが生じ、休むと痛みはなくなります。変形が進むと次第に正座や階段昇降が難しくなります。変形が目立つようになると、膝をまっすぐに伸ばすことが難しくなるため、歩行が困難になるほか、安静時も常に痛みが続くようになってしまいます1)。
変形性膝関節症の手術以外の治療法
変形性膝関節症では、手術以外に下記のような治療が選択されます。
- 薬物療法
- 物理療法
- 運動療法・リハビリテーション
- 再生医療
症状が軽い場合は、鎮痛剤の内服や湿布などの外用剤の処方、膝関節内へのヒアルロン酸注射などの薬物療法をします。また、膝の動きに関わる筋肉の筋力トレーニングなどの運動療法、膝を温める物理療法なども行われます。足底板などの装具を作成することもあります1)。
変形性膝関節症の痛みの改善を目的として、「幹細胞治療」「PRP療法」「PRP-FD療法」という3種類の再生医療を受けることもできます。自分の軟骨を体外で培養して欠損部に移植する「自家培養軟骨移植術」という再生医療もありますが、こちらは外傷性軟骨欠損症と離断性骨軟骨炎のみ対象となっています。
再生医療は拒絶反応が少ない点がメリットといわれていますが、リスクがゼロとは言い切れません。ほかの医療行為同様に、感染や神経・血管の損傷、脂肪塞栓症などが起こる恐れもあります。
また、再生医療は全額自己負担となるため、治療費が高額になりがちです。治療を受けたのに効果が感じられないというケースもあるため、再生医療については慎重な検討が必要です2)。
再生医療について詳しく知りたい場合は、「【医師監修】再生医療とはどんな治療?種類やメリットを詳しくご紹介」もあわせてご覧ください。
変形性膝関節症の手術療法
保存的治療を2~3か月続けても症状の改善がみられず、膝の痛みの悪化や変形の進行が認められる場合は、手術が検討されます3)。
なおいずれの手術を行った場合でも、術後のリハビリテーションは欠かせません。また変形性膝関節症などでは、術後の回復を早くするため、術前からリハビリテーションを行うケースもあります。医師や理学療法士の指示にしたがって、筋力トレーニングや可動域訓練などを実施する必要があります。
変形性膝関節症に対する代表的な手術方法は、次の通りです。
- 関節鏡視下手術
- 高位脛骨骨切り術
- 人工膝関節置換術
それぞれ詳しく解説します。
関節鏡視下手術
関節の変形が軽度~中程度の場合に選択される手術です。膝の皮膚を6mmほど、2か所切開して関節鏡を入れ、軟骨の破片の除去や軟骨表面をなめらかにする処置を施します。患者の負担が少なく、入院期間も3日から1週間程度と比較的短めです3)。
高位脛骨骨切り術
関節の変形が軽度~中程度で、とくに脛骨に歪みがある場合に有効な手術です。膝関節を構成する脛骨の一部を切り取り、膝関節にかかる力が均等になるように矯正します。術後、骨がつくまでの約2か月間はリハビリテーションを行う必要があり、回復までに約半年かかるといわれています。筋肉の衰えやすい高齢者には不向きです3)。また術後1-2年で、使用した金属を抜く手術をもう一度行うこともあります。
人工膝関節置換術
膝関節の変形がかなり進んでいる場合に選択される手術です。摩耗などにより傷んだ関節表面を人工物で置換する手術で、全置換術と部分置換術の2つに大きく分けられます4)。
なお、変形性膝関節症以外にも人工膝関節置換術の適応となる疾患があります。より詳しく知りたい場合は、「【医師監修】膝関節で人工関節の適応となる疾患とは?リスクについても詳しく紹介」もあわせてご覧ください。
人工膝関節全置換術(TKA)
膝関節の軟骨や骨の摩耗が重度の場合に行います。適応範囲が広く、変形性膝関節症以外にO脚やX脚、靭帯の損傷による膝関節の動揺など、膝に関するさまざまな症状の改善を見込める手術です。
人工膝関節手術の約9割はこの人工膝関節全置換術といわれており、多くの病院で受けられます。さらに、大きい頑丈な部品を用いるため、耐久年数も優れています。一方で、次に紹介する人工膝関節部分置換術や骨切り術と比較すると、違和感が残りやすい、膝の曲がりが悪いというデメリットがあります4)。
単顆置換術(UKA)
病変が膝の内側または外側のどちらか一方に限定されており、靭帯やその他の周囲組織に問題がない場合に適応となる手術です。人工膝関節全置換術よりも体への負担が少ない点、そして違和感が残りにくく、膝の曲がりが良い点がメリットです4)。
一方で、人工膝関節全置換術と比べて手術数が少ないため、受けられる病院は限られます。さらに、術後の経過によっては追加手術が必要となる場合がある点がデメリットです。
膝蓋大腿関節置換術(PFA)
膝蓋大腿関節(膝蓋骨の裏側の関節)に病変が限られている場合に適応となる手術です。メリット・デメリットは単顆置換術(UKA)と同じです4)。
人工膝関節置換術を実施する場合は、手術前・手術後・退院後の3つのフェーズでそれぞれリハビリテーションを行います。人工膝関節置換術によって膝関節の状態は改善できますが、筋力や可動域、日常生活の動作までは改善できません。そのため、筋力トレーニングや可動域訓練、日常生活動作の改善のためのリハビリテーションが必要となるのです。
術後リハビリテーションは、人工膝関節置換術を受けた当日から開始することもあります。麻酔の影響もあるため、ベッドで体を起こしたり、軽く患部を動かしたりなどの負荷の軽いリハビリテーションが中心です。手術後は安静にした方がよいと思われがちですが、術後早期からのリハビリテーションは身体機能や痛みの改善、人工膝関節置換術の重篤な合併症である深部静脈血栓症の予防に有効なのです5)。
退院後は、通院または自宅でのリハビリテーションを行います。退院後の日常生活における動作は、正座などの特殊な動作を除くと、制限はありません。無理は禁物ですが、スポーツも楽しめます。ただし、膝関節に負担のかかりやすい運動や身体接触のあるスポーツは、人工膝関節の耐用年数を短くし、再手術のリスクを上昇させるといわれています。活動量にかかわらず、人工膝関節置換術後は定期的な検診で人工膝関節の状態を確認することが重要です6)。
膝関節に痛みを感じたら早めに医療機関へ!
変形性膝関節症は、関節の変形の進み具合により、治療方法が異なる病気です。進行状態によっては治療方法や手術方法の選択肢が狭まってしまう恐れがあるため、膝に痛みを感じたら早めに整形外科を受診しましょう。早期発見・早期治療で、いつまでも健やかに過ごしましょう!
医師からのコメント
人工膝関節全置換術について、よく心配される点について説明いたします。
1.手術の成功率:個人差がありますが、一般的には人工膝関節全置換術は高い成功率を誇り、手術後の痛みの緩和や関節機能の改善が期待できます。
2.人工関節の寿命:人工膝関節は個人差はあるものの、一般的には15年程度持つといわれています。基本的には高齢者に勧めることが多いですが、症状や膝の変形の程度によっては若年者でも行うことがあります。
3.合併症:手術時や手術後に感染症、神経・血管損傷、血栓形成などの合併症が発生する可能性がありますが、頻度は高くありません。
4.手術費用:人工膝関節全置換術は高額な治療ですが、高額医療費制度などを利用することで、自己負担を抑えることができます。
【参考】
1) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性膝関節症」
2) オムロン株式会社 痛みwith 膝の再生医療 – 期待できる効果と注意点
3) オムロン株式会社 痛みwith 変形性膝関節症の治し方 - 運動および薬、手術による治療法
4) 東京女子医科大学 整形外科 人工膝関節手術
5) 医療法人社団 康心会 康心会汐見台病院 人工膝関節置換術後のリハビリとは?目的や時期ごとの内容について解説
6) 医療法人社団 康心会 康心会汐見台病院 人工関節置換術を受けたあとに日常生活で気を付けることは?日常生活の注意点について解説
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