【医師監修】肩の痛みが続く場合は病気のサイン?疑うべき病気をご紹介

「肩の痛み」が出た際、それが病気によるものなのか気になる方もいるのではないでしょうか。肩の痛みが続いている、特にしびれを伴う状態が続く場合、なにかしらの病気を発症している可能性があります。

この記事では、肩の痛みが出ているときの病気のサインや、どのような病気が考えられるのかについて解説します。肩の痛みに関係する病気のサインを知ることで、肩の痛みが出たときに早期に対処できるようになるでしょう。

肩の痛みが出ているときの病気のサイン

肩の痛みが出ているときは、悪化具合やほかの症状に気をつける必要があります。ここでは、病気を疑うべきサインについて解説します。

痛みが強くなっている

徐々に肩の痛みが強くなっている場合は、病気のサインの可能性があります。筋肉痛や疲労による痛みであれば、時間とともにやわらぐものです。しかし、病気の場合は痛みが強くなる傾向があります。

肩の病気のなかには、筋肉や靭帯などの組織の損傷によって痛みが現れる種類があります。組織によっては自然治癒が期待できないものもあるので、徐々に損傷が進んで痛みが強くなる恐れがあるのです1)。痛みを我慢して放置していると、さらに症状が悪化して治療期間が長くなる可能性があります。

肩の動きにくさがある

痛みに加えて肩の動きにくさを感じる場合も、病気のサインとして見逃せない症状です。普段の動作で肩を動かしにくいと感じる場合、肩関節周囲の組織に異常が生じている可能性があります。

たとえば、後述する肩関節周囲炎では、肩関節を構成している組織が癒着して関節の動きが悪くなることもあります2)。肩の痛みだけでなく、前よりも動かしにくくなっていないかもチェックしてみましょう。

肩まわりがしびれている

肩まわりのしびれにも注意する必要があります。肩まわりがしびれている場合、神経に問題が生じている可能性があります3)

肩まわりがしびれていると力が入りにくくなったり、感覚が低下したりして日常生活に支障をきたす恐れがあるでしょう。症状を放置すると神経の損傷が進行して、治療に時間がかかる可能性もあるため、早期の対処が重要です。

肩の痛みが続く場合に疑うべき病気

肩の痛みが続き、動きにくさやしびれなどの症状がある場合、なにかしらの病気を疑う必要があります。ここでは、首や肩に関する代表的な病気をご紹介します。

肩関節周囲炎(五十肩)

肩関節周囲炎とは、肩関節が炎症を起こすことで発症する病気です。おもな症状は、肩の痛みと動きの制限です。肩を動かすときに症状が出やすく、夜間にズキズキと痛むこともあります。肩関節の組織が癒着すると腕が思うように動かせず、普段行っている動きに支障が出ることも珍しくありません。

発症原因としては、加齢による肩関節の組織の老化とされています2)。50歳前後の方によくみられる病気であることから、「五十肩」とも呼ばれています。

腱板断裂

腱板断裂とは、肩関節のまわりにある以下の4つの筋肉が断裂してしまう病気です4)

これらの筋肉の腱が集まったものを「腱板(けんばん)」と呼び、肩関節の動きをサポートする役割があります。腱板断裂の症状は、肩の痛みと腕の上がりにくさです。そのほかにも、肩を上げるときに軋轢音(あつれきおん:ジョリジョリとした音)がするケースもあります。

腱板断裂の原因には、加齢による腱の老化や過度な運動などによる影響があげられます。日本整形外科学会によると、40歳以上の方に好発するとされており、とくに利き腕側で発症しやすいのが特徴です5)

インピンジメント症候群

インピンジメント症候群とは、肩関節の骨や組織同士がこすれたり、挟まったりしている状態のことです。おもな症状は、肩を上げたときに痛みです。組織の損傷によって炎症が起こることもあり、症状が悪化している場合は寝ているときにも痛みが現れやすくなります。

インピンジメント症候群の原因としては、肩峰(肩甲骨の一部)と上腕骨の間の空間が狭くなることです。これは、以下のようなことがきっかけで起こるとされています6)

石灰性腱炎

石灰性腱炎(せっかいせいけんえん)とは、肩の腱板に石灰(カルシウムの結晶)がたまることで起こる病気です。発症時は夜間に多く、そのタイミングで急に痛みが現れはじめるのが特徴です。

発症初期では肩の痛みが強く、慢性化すると動かしにくさや引っかかりなどの症状が現れるようになります。日本整形外科学会によると、40〜50歳代の女性に多くみられるとされています7)。しかし、発症原因は明確にわかっているわけではありません。

頚椎症

頚椎症とは、首の骨(頚椎)の老化によって引き起こされる病気です。頚椎症には、おもに「脊髄症」と「神経根症」の2種類があります8)

頚椎症性の脊髄症は、首の骨の間にある「椎間板」というクッションの役割をした組織が変性することで起こるタイプです。椎間板の変性によって首の骨が変形すると、背骨の後ろを通る脊髄(神経の中枢部)を圧迫し、首や肩まわりの痛みやしびれが現れます。

神経根症は、椎間板が変性することで首の骨が変形し、脊髄から伸びている神経を圧迫することで発症するタイプです。どちらも、加齢による椎間板の老化によって起こるとされています。

胸郭出口症候群

胸郭出口症候群とは、首まわりに通っている神経や血管が圧迫されることで起こる病気です。首から手に向かって走る神経と血管のなかには、筋肉や骨の隙間を通っているものがあります。そのような神経や血管は腕を動かすときに圧迫されやすく、肩まわりの痛みや手のしびれをともないやすくなります3)。そのほかにも、力の入りにくさや冷感などの症状が現れることも少なくありません。

胸郭出口症候群の発症原因には、神経と血管付近の筋肉の肥大化や、先天的な骨の変形などがあげられます。

肩の痛みをともなう注意すべき病気

肩の痛みをともなう病気のなかでも、とくに注意すべきものがあります。ここでは、その病気についてご紹介します。

関節リウマチ

関節リウマチとは、身体を守る機能である免疫が異常を起こし、関節に炎症を起こす自己免疫疾患の1つです。免疫が関節を攻撃することで炎症を起こし、痛みや腫れなどの症状が現れます。

関節リウマチは左右対称に症状が現れ、初期は手足の小さい関節が炎症を起こしやすいのが特徴です。症状が進行すると大きな関節にも影響が現れ、肩関節にも炎症が起こることもあるでしょう。関節リウマチの明確な原因はわかっていませんが、以下の要素が重なって起こるとされています9)

関節リウマチは症状が進行する病気で、放置すると関節の状態が悪化する恐れがあるため、早期治療が重要です。

胆石症

胆石症とは、肝臓や胆のう(肝臓の下にある袋状の臓器)などの臓器の管に結石ができる病気です。この結石の構成成分は、体内にたまったコレステロールやカルシウムなどです。胆のうに結石を認める場合、以下のような部位に痛みをともなうことがあります。

結石が詰まる場所によっては意識障害や発熱などの症状を引き起こす恐れもあるので、早期の対処が重要です。ただし、痛みがなく無症状で過ごす方もゼロではありません。胆石症の原因として、食生活の乱れや高齢による影響などがあげられ、とくに女性に多く発症するとされています10)

心筋梗塞

心筋梗塞とは、心臓に流れる血管が詰まり、血流が途絶えることで発症する病気です。血流が止まって心臓の筋肉が壊死すると、以下のような症状が現れます11)

これらの症状は長時間続くこともあり、早期に対処しないと命に関わる恐れもあります。心筋梗塞のおもな原因は動脈が硬くなる「動脈硬化」によるもので、これは生活習慣の乱れによって引き起こされます。心筋梗塞を発症した場合、1秒でも早い処置が必要です。

肩の病気に対して行われる治療法

肩の病気を発症した場合、どのような治療が行われるのでしょうか。ここでは、病気にあわせた治療法について解説します。

保存療法

保存療法とは、手術をせずに症状の改善を目指す治療法です。状態や病気の進行度合いによって、以下のような治療を組み合わせて症状の改善を図ります。

病気の発症初期の段階では、このような保存療法が第一選択として推奨されています。たとえば、肩関節周囲炎の場合、発症初期は安静を優先しつつ鎮痛剤を服用して痛みをコントロールすることが重要です2)。痛みのピークを過ぎた時期に、リハビリや物理療法などによって肩の筋力の強化を図ります。

手術療法

保存療法で十分な効果が得られない場合や、重度の症状がある場合は手術が検討されます。手術によって根本的な問題を取り除くことで、症状の改善が期待できます。手術方法は病気の種類や症状によって大きく異なるので、医師と相談して適切な内容を選択することが重要です。

たとえば、腱板断裂で損傷範囲が広い場合、人工物または別の組織を移植して腱板をつなぐ「再建術」が行われます。腱板が断裂した状態が続き、関節の変形がみられる場合、肩関節を人工物に入れ替える「人工関節置換術」を行うこともあるでしょう1)。このように、肩の手術では病気や症状にあわせた内容が行われます。

再生医療

再生医療とは、人体の細胞や成長因子を活用して、損傷した組織の修復を促進する治療法です。従来の治療法では十分な効果が得られない場合の選択肢として、注目を集めています。

代表的な再生医療として、「PRP(多血小板血漿)療法」があります。これは患者さん自身の血液から血小板(けっしょうばん)と呼ばれる組織を濃縮して、活用する治療法です。血小板には組織の修復を促進する作用があり、これを損傷部位に注入することで症状の改善が期待できます12)

再生医療はまだ研究段階の部分も多いものの、今後の発展が期待される治療法の1つといえます。「手術はしたくないけど、保存療法では痛みがとれない」と感じる方は、再生医療による治療も検討してみてください。

肩の痛みの悪化を防ぐための日常生活の工夫

肩の痛みを悪化させないためには、日常生活でも動作や姿勢に気をつける必要があります。まず、重い荷物を持つときは、できるだけ両手で持つようにしましょう。買い物時はカゴを持つのではなく、キャリーカートを活用すると肩への負担を減らせます。

また、服を着るときは痛みがある腕から袖をとおし、脱ぐときは健康な腕から脱ぐようにしましょう。寝るときは、痛みがある側を下にしないことを心がけてください。このような工夫をすることで、肩の痛みの悪化を予防できます13)

肩の痛みが続く場合は病気のサインの可能性も

肩の痛みが続いたり、悪化したりする場合、なにかしらの病気を発症している可能性があります。肩の病気には肩関節周囲炎や腱板断裂など、さまざまな種類があります。

また、なかには関節リウマチや心筋梗塞などの危険な病気を発症することもあるでしょう。肩の異常を自覚したら、なるべく早めに整形外科のある病院やクリニックを受診し、医師に相談してみてください。

【医師からのコメント】
肩の痛みは、日常的に診察をする中で非常によくある疾患です。通常は緊急性が少ない肩の痛みなのですが、唯一注意が必要なのが、「心筋梗塞」です。左肩の激痛として症状が出ることが一般的ですが、糖尿病や透析などのある方の場合は、それほど強い痛みではないこともあります。肩の上げ下げで悪化をしない痛みの場合には、「心筋梗塞」が隠れていることがあるので注意してください。

また肩の上げ下げで悪化しない痛みの中には、「頚椎症」による神経痛のこともあります。ただこの場合には、首や腕にかけての痛みやしびれなども伴ったり、首を後ろにそらしたり、横に倒したりすると痛みが悪化することが多いため比較的わかりやすいです。

「頚椎症」は初期のうちは問題ありませんが、悪化すると手の力の入りづらさや、箸やペンの使いづらさ、ボタンのつけはずしのやりづらさなどの症状が出てくることもあります。そのような症状が出るようであれば手術が必要になることがあるため、早めに整形外科を受診してレントゲンやMRIなどの精密検査を受けるようにしましょう。

【参考】
1)霞ヶ浦医療センター|腱板断裂(けんばんだんれつ)
2)日本整形外科学会|五十肩(肩関節周囲炎)
3)慶應義塾大学病院|胸郭出口症候群
4)兵庫医科大学病院|腱板断裂
5)日本整形外科学会|肩腱板断裂
6)霞ヶ浦医療センター|インピンジメント症候群
7)日本整形外科学会|石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)
8)日本整形外科学会|頚椎症
9)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
10)慶應義塾大学病院|胆石症
11)国立循環器病研究センター|急性心筋梗塞
12)北里病院|再生医療(PRP療法・APS療法)
13)日本理学療法士協会|肩関節周囲炎とは?

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