記事監修者:五藤 良将 先生
体の中で最も大きい関節である、股関節。その股関節の片側だけの痛みに悩まされている方もいらっしゃるかもしれません。そこで、この記事では股関節が右だけ痛む方に向けて、原因や疑うべき疾患、対処法についてご紹介します。
股関節の位置と役割
胴体と下半身をつなぐ股関節。立つ、座る、歩くなどの日常動作には欠かせない重要な関節です。さらに、体の安定性を保ったり、関節への衝撃やダメージを和らげたりする役割も持っています。
股関節は骨盤の臼蓋に、大腿骨頭がはまり込む形で形成されています。臼蓋と大腿骨頭の表面は軟骨に覆われていますが、この軟骨は加齢によって少しずつすり減ってしまいます。軟骨はクッションのような役割も果たしているため、軟骨がすり減ると骨同士がぶつかり合い、痛みが生じます。
股関節の仕組みについて詳しく知りたい方は、次のページもご覧ください。
▶股関節の仕組み
股関節が右だけ痛いときの主な原因と疾患
ここからは、股関節が右だけ痛むときの主な原因と疾患をご紹介します。股関節が痛む代表的な原因は次の4つです。
- 先天性
- 病気による関節の変形
- 炎症
- 外傷
ひとつずつ詳しくみていきましょう。
先天性
先天性で、股関節が痛む原因となる病気には、先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全)や臼蓋形成不全などが挙げられます。いずれも股関節の痛みをきたす「変形性股関節症(股関節の痛み・機能障害・変形をきたす病気)」の原因となると考えられています1)。
先天性股関節脱臼は1000人に1~3人ほどの頻度でみられる疾患で、男児よりも女児に多くみられます。子宮内での姿勢のほか、出生時期、出生後の姿勢、向き癖など、さまざまな要因が関わっているとされますが、原因は多因子的で、完全には解明されていません2) 3)。
小児の臼蓋形成不全は、とくに自覚症状はありません。ただし、先天性股関節脱臼のように大腿の皮膚溝や非対称だったり、脚の開きの制限があったりする場合があります。一方、成人の臼蓋形成不全は、次に紹介する変形性股関節症の前段階にあたります4)。
そのほか、小児の大腿骨頭壊死であるペルテス病でも、股関節の痛みを訴える場合があります。原因は遺伝のほか、大腿骨頭への血流障害や内分泌異常、血液凝固系異常、外傷などが考えられています。ただし、股関節以外に痛みが生じることや、痛み自体が生じないこともあるため、注意が必要です5) 6)。
病気による関節の変形
前述した先天性の病気のほか、加齢などによる関節表面の軟骨のすり減りによって起こる病気として、変形性股関節症が挙げられます。
初期では動作開始時にのみ痛みを生じますが、進行すると持続痛や夜間痛に発展することもあります。また、足の爪が切りにくくなったり、靴下が履きにくくなったりなど、日常生活に支障をきたすため、QOLの低下にも注意が必要です1)。
変形性股関節症について詳しく知りたい方は、次の記事もご覧ください。
▶変形性股関節症
炎症
股関節に炎症をきたしている場合も、痛みが生じます。歩行など、同じ動作の繰り返しによる使いすぎによって、炎症をきたすケースもあります。
3~10歳の小児、とくに男児で多くみられるのは単純性股関節炎です。原因ははっきりとはわかっていませんが、安静にすることで自然治癒が見込めます7) 8)。
手足の関節に特徴的な症状が起こることで知られる関節リウマチ。関節の滑膜に炎症が起こり、痛みや変形をきたす病気です。このリウマチは股関節に起きることもあり、「リウマチ性股関節症(関節リウマチが股関節に影響を及ぼす病気)」と分けて呼ばれることもあります。
また、リウマチ性股関節症の特徴として、左右対称性に起きることが挙げられますが、稀に片側の股関節だけに痛みが現れる場合もあります8)。
外傷
スポーツや交通事故など、急激に大きな外力が加わることで、片側の股関節に痛みが生じる場合もあります。代表的なのは交通事故や墜落などによる、骨盤骨折です9)。
高齢者は大腿骨頚部骨折に気をつけなければなりません。明らかな転倒や転落以外にも、少し足を捻ったくらいでも発生する恐れがあるため、骨粗鬆症の方はとくに注意が必要です10)。
また、過去の受傷で左右の股関節への力のかけ方に差が生じると、それがゆがみとなり、数年~数十年後に痛みが生じることもあります。また、股関節の左右のバランスの差から、変形性股関節症をきたすケースもあります11)。
股関節が右だけ痛いときの治療法
股関節が片側だけ痛むときの治療法は、原因や症状によって異なります。具体的な治療方法については、医師にご相談ください。
ここからは変形性股関節症に焦点を当てて、治療法についてご紹介します。
変形性股関節症と診断されたら、まずは股関節への負担を軽減することが重要になります。痛みを感じやすい日常動作をなるべく避け、杖などの装具で関節への負担を減らします。痛み止めの薬などを用いた薬物療法、筋力トレーニングなどのリハビリテーションなどを並行して行うこともあります1)。
上記の保存的治療の効果がみられない場合は、手術療法が検討されます。若年~壮年層では「骨切り術」「関節固定術」など、股関節をできるだけ温存する術式が第一選択しとなります12)。痛みや機能障害が進行し、QOLが著しく低下している場合は、人工股関節置換術が検討されます13)。
また、新しい治療法として「再生医療」を提供している医療機関もあります。患者さま自身の血液から取り出した多血小板血漿(PRP)を濃縮し、さらに自己たんぱく質溶液(APS)を調整し、痛みのある股関節内へ注射して、炎症の抑制や痛みの緩和を目指します。患者さま自身の血液由来のため、拒絶反応を起こしにくいのがメリットですが、保険適用外となるため、治療費は全額自己負担です。また、未知なる副作用が起こる恐れもあるため、慎重な検討が必要とされます14)。
股関節の痛みの予防法
日常生活のなかで、股関節の痛みを予防する方法をご紹介します。
- 適度な運動
- ストレッチ
- 体重管理(ダイエット)
- 姿勢改善
- 靴選び
- 生活習慣の見直し
運動は股関節に負担の少ないウォーキングなどから始めましょう。水中でのウォーキングなどもおすすめです。ストレッチは、筋肉をほぐし、可動域の改善につながります。
過体重の場合は、ダイエットも検討しましょう。体重を減らすことで、関節への負担軽減にもつながります。
長時間同じ姿勢を続けたり、猫背などの悪い姿勢を取り続けたりすると、股関節への負担が増加します。正しい姿勢を心がけてください。
歩行時、股関節には体重の3~4倍の負担がかかるといわれています。着地時の股関節への負担を軽減するためにも、足にフィットする靴を選び、クッション性のあるインソールなどを入れましょう。
正座やあぐら、しゃがむなどの姿勢は股関節の大きな負担となります。和式から洋式へとライフスタイルを変更することで、股関節への過度な負担を減らせます。椅子やソファ、ベッドなどの導入を検討しましょう11)。
しかし、股関節が右だけ痛い場合は、まず整形外科の受診を検討しましょう。また、運動やストレッチなどの最中に股関節の痛みが悪化した場合はすぐに中止し、かかりつけの医師にご相談ください。
股関節が右だけ痛い場合は、まず整形外科へ!
股関節が片側だけ痛む場合には、さまざまな原因が考えられます。痛みの原因を特定し、症状に合った治療を受けなければ、早期改善は見込めません。もしも右側の股関節のみに痛みを感じた場合は、早めにお近くの整形外科にご相談ください。
【医師からのコメント】
「股関節が片側だけ痛む場合の注意点」……股関節の痛みが片側に限られる場合、その原因として先天性疾患、炎症、外傷、加齢性疾患などが考えられます。特に痛みが持続したり日常生活に影響を及ぼす場合、早期の受診が重要です。例えば、変形性股関節症では進行を防ぐための生活習慣の改善やリハビリが有効であり、早期発見が治療の選択肢を広げます。また、リウマチ性疾患などでは、適切な薬物治療を行うことで症状をコントロールできます。
近年、PRP療法などの再生医療が注目されていますが、これらはエビデンスがまだ発展途上であり、適切な医師の判断のもとで慎重に検討されるべきです。日常生活では、適切な姿勢や体重管理、股関節への負担を軽減するための靴選びなど、予防的な取り組みも重要です。もし痛みが突然強くなったり、歩行が困難になる場合は速やかに整形外科を受診してください。
【参考】
1) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性股関節症」
2) 一般社団法人 日本小児整形外科学会 赤ちゃんの股関節脱臼 ―正しい知識と早期発見のために―
3) 滋賀県立小児保健医療センター 先天性股関節脱臼の原因
4) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「臼蓋形成不全」
5) 公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科シリーズ 37 ペルテス病
6) 地方独立行政法人 神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター ペルテス病
7) せりがの整形外科 股の痛み
8) 森整形外科リハビリクリニック 股関節が痛い(右だけ・左だけ・片方)
9) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「骨盤骨折」
10) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「大腿骨頚部骨折」
11) 中山クリニック 「右(左)片側だけ痛くなる股関節の謎に迫る!原因と治療法を徹底解説」
12) 医療法人相生会 福岡みらい病院 股関節の疾患「変形性股関節症について(3) ~手術療法~」
13) 大阪急性期・総合医療センター 人工関節センター 股関節の病気と治療、人工股関節手術
14) 東京科学大学病院 変形性股関節症の新しい治療ご紹介~PRP(APS)股関節内注射~
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