記事監修者:松繁 治 先生
腰痛になったときに、整形外科を受診するべきか、整体を受けるべきか悩む方も多いのではないでしょうか。本記事では、整形外科と整体の違いをご紹介し、症状ごとにどちらにかかるべきかを解説します。腰痛にお悩みの方はぜひ参考にしてください。
整形外科と整体の違い
整形外科は、運動器の病気を扱う診療科1)です。医師国家試験に合格し、整形外科について詳しく学んだ医師を中心に、看護師や理学療法士、作業療法士など国家資格を有するメンバーで患者の診察や治療にあたります。
一方、整体は骨のズレなどを調整し、筋肉の疲労やコリをほぐして体のバランスを整える施術です。開業や施術にあたり、特別な資格を習得する必要はありません1)。
整体についてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
▶整体とは?
また、「整骨院(接骨院)」は整形外科とも整体とも異なるところです。整骨院(接骨院)での施術は医業類似行為にあたり、柔道整復師の国家資格を有する人でなければできません2)。また、開業するにあたり健康保険を取り扱うのであれば、柔道整復師以外に一定の実務経験と施術管理者研修の受講が必要になります3)。
整骨院(接骨院)についてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
▶整骨院(接骨院)とは?
腰痛になったら整形外科と整体のどちらに行くべき?
もし突然腰の痛みを感じたら、まずは整形外科を受診してください。
整形外科では症状に応じて、X線(レントゲン)やCT、MRIなどさまざまな検査を行えます。原因を特定したうえで、症状に合わせた適切な治療を開始することが可能です。がんの骨転移や感染など、整形外科領域におさまらない原因で腰痛が起きている場合にも、速やかに適切な診療科へつなげられます4)。
また、整形外科の診察や検査、痛み止めの内服薬や湿布などの外用薬の処方、リハビリテーションなどは、基本的に保険診療内で受けられます。全額自己負担となる整体と比べて、金銭的負担が少ないこともメリット4)でしょう。
整形外科でとくに病的な問題がないと判断されたにもかかわらず、腰の痛みが続く場合は整体院での施術を受けても構いません。ただし、整体での施術で痛みが悪化する可能性もあるため、慎重に検討することが必要です。
腰痛を起こす主な病気
ここからは、腰痛の原因となる次の病気について解説します。
- 側弯症
- 腰椎分離症・分離すべり症
- 変形性脊椎症
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 腰椎変性すべり症
- 外傷
- 感染・炎症
- 腫瘍
- その他の腰以外に由来する病気
それぞれの病気について、詳しくみていきましょう。
側弯症
背骨が左右のどちらかに弯曲した状態のことです。小児の脊柱変形や成人脊柱変形などがあります。背骨のねじれを伴うケースも多く、左右の肩や腰の高さの違い、肩甲骨や胸郭、肋骨などの変形をきたします。進行すると背中や腰の痛みのほか、心肺機能の低下を生じる場合もあります。
小児の場合は、先天性の側弯症のほか、神経や筋肉の異常により生じる側弯症(症候性側弯症)もありますが、全側弯症のうち6~7割を原因不明の側弯症(特発性側弯症)が占めています5)。
また成人の場合は、加齢による椎間板変性や、小児側弯症の悪化、骨粗鬆症による変形治癒などが原因となります。
お子さまの側弯症による腰痛が疑われる場合は、小児科または整形外科の受診をご検討ください。
腰椎分離症・分離すべり症
10代のころに、スポーツの練習などでジャンプや腰の回旋、腰の反りを繰り返すことで、腰椎の後ろ側に亀裂が入って腰や臀部・太ももの痛みを生じさせるのが「腰椎分離症」です。腰椎分離症から「腰椎分離すべり症」へ進行するケースもあります。
分離症は進行するとX線(レントゲン)のみでも診断可能ですが、初期ではCT検査やMRI検査でないとはっきりしないことがあります。また分離すべり症の診断にはMRI検査や神経根ブロックが必要なケースもあります。
腰椎分離症の腰痛は日常生活に支障をきたさない程度のものも多いです。しかし、腰痛やしびれなどの症状が強い場合や、腰を後ろに反ったときに痛みが強くなる6)場合は整形外科を受診しましょう。
変形性脊椎症
加齢による椎間板の変性で起きる病気です。無症状のケースも多くありますが、変形が進むと慢性的な痛みやしびれ、可動域制限が生じます。骨棘形成や肥厚などにより、神経の通り道が狭くなると、後述する腰部脊柱管狭窄症となることもあります。
痛みやしびれなどがない場合は、整形外科にかかる必要はありません。しかし、慢性的な痛みが生じている場合には、一度整形外科でX線(レントゲン)を撮ってもらう7)ことをおすすめします。
腰椎椎間板ヘルニア
椎間板の中心部にあるゼリー状の「髄核」が押し出されて飛び出した状態のことです。加齢のほか、重いものを持ち上げたり、長時間運転をしたりすることでも生じます。また、悪い姿勢や喫煙なども、腰椎椎間板ヘルニアのリスクです。
腰椎椎間板ヘルニアでは、腰痛のほか、臀部の痛みや下肢のしびれ、脱力感などの症状が生じます。下肢伸展挙上試験と、X線(レントゲン)やMRIなどの画像による診断8)が必要なため、腰椎椎間板ヘルニアが疑われる場合にはまず整形外科を受診しましょう。
腰部脊柱管狭窄症
加齢などで腰椎の脊柱管が狭くなり、その中を走行する神経が圧迫されてさまざまな症状を生じる病気です。腰痛のほか、下肢の痛みやしびれ、脱力、排尿・排便障害などの症状をきたします。
腰部脊柱管狭窄症の特徴的な症状として、「神経性間欠性跛行」が挙げられます。腰部脊柱管狭窄症では歩きはじめてしばらくすると痛みが生じ、前かがみになってしばらく休むと痛みが和らぎます。この「歩く」「前かがみで休む」を繰り返す状態を「間欠性跛行」と呼びます。
間欠性跛行をきたすと、休まずに長距離歩くことが難しくなり、下肢の運動機能の低下(ロコモティブシンドローム)につながります。杖やシルバーカーで前かがみになりながら歩くと下肢の痛みは楽になりますが、腰痛を悪化させることがあるため、整形外科で適切な治療を受けることが大切9)です。
また、腰部脊柱管狭窄症と同じように間欠性跛行をきたす病気として、下肢の血行障害をきたす末梢動脈疾患(※)が挙げられます。なお、腰部脊柱管狭窄症と末梢動脈疾患を合併しているケースもあります10)。
※足の動脈が狭くなったり、詰まったりして血行が悪くなり、足にさまざまな症状を引き起こす病気の総称です。以前は「閉塞性動脈硬化症」や「下肢慢性動脈閉塞症」と呼ばれていました11)。
腰椎変性すべり症
先述した腰部脊柱管狭窄症と似たような症状を呈する病気です。間欠性跛行が特徴的な症状ですが、腰痛や片足だけの痛み・しびれをきたすケースもあります。
保存治療で症状が改善しない場合や、日常生活に支障をきたしている場合は、手術療法を検討12)します。間欠性跛行がある場合は腰部脊柱管狭窄症や末梢動脈疾患との鑑別診断が必要になるため、まずは整形外科を受診してください。
外傷
腰椎の椎体部分の骨折(圧迫骨折)や脱臼などを指します。交通事故や高所からの転落など、強い外力による骨折のほか、骨粗鬆症や転移性骨腫瘍が原因となって骨折をきたすケース13)もあります。
骨粗鬆症のある方の圧迫骨折は、胸腰移行部(第11胸椎~第2腰椎)に生じやすく、痛みが軽度の場合もあります。転倒や尻もちなどの比較的弱い外力によって骨折した場合は、骨折部位の痛みをともなうことがほとんどです。なお、転移性骨腫瘍による腰椎椎体骨折の場合は、通常、安静時にも骨折部位の痛みが持続13)します。
交通事故はもちろん、転倒など、腰痛発症の契機が明らかになっている場合は、必ず整形外科を受診しましょう。
感染・炎症
脊椎や椎間板に細菌感染が起こり、炎症をきたしている状態(化膿性脊椎炎・椎間板炎)です。黄色ブドウ球菌や大腸菌、緑膿菌などの感染によるものがほとんどですが、結核菌が脊椎に感染している場合は「脊椎カリエス」と分けて呼ばれます。免疫力の下がっている人に多く見られる病気で、血液を介した感染が主ですが、尿路感染や虫歯などから起きる場合もあります。
化膿性脊椎炎は、「急性」「亜急性」「慢性(潜行性)」と、症状の発症の仕方により3つのタイプに分けられます。急性では高熱と激しい痛み、亜急性では微熱と痛みが生じますが、慢性(潜行性)では発熱がないことも多く、軽度の腰痛がなかなか治らない状態が続きます14)。
高熱と激しい腰痛の場合、またなかなか改善しない微熱や腰痛がある場合は、整形外科にご相談ください。
腫瘍
ほかの部分のがん(悪性腫瘍)が腰椎に転移した状態です。もともとのがん細胞が腰椎の骨に運ばれ、そこで増殖すると骨を破壊して背中や腰の痛みを生じさせます。また、がん細胞による脊髄の圧迫があると麻痺を、がん細胞による椎骨の破壊が進むと骨折(病的骨折)をきたすケースもあります。
転移性脊椎腫瘍による腰痛の治療は、原発部分と転移部分のバランスを取りながら行っていく必要があります15)。まずは原発がんの主治医にご相談ください。
その他の腰以外に由来する病気
腰痛の原因が腰以外にある場合もあります。腰痛を引き起こす代表的な病気16)は下記のとおりです。
- 解離性大動脈瘤
- 尿管結石
- 子宮筋腫・子宮内膜症
- 胆嚢炎
- 十二指腸潰瘍
- 変形性股関節症
- 心理的要因によるもの
腰に原因がなかったとしても、はじめに整形外科を受診すれば、疑われる疾患の診療科を紹介してもらえます。急に腰痛が生じた場合や、なかなか治らない腰痛がある場合は、まずは整形外科を受診しましょう。
腰痛になったらまず整形外科を受診しよう
腰痛の原因は、筋肉のコリや冷えだけではありません。恐ろしい病気のサインとして、腰痛が生じている場合もあるのです。安易に整体やマッサージを受けると、腰痛が悪化したり、治療が遅れたりしてしまうおそれもあります。腰痛でお悩みならば、まずは整形外科を受診して原因を特定し、適切な治療を受けましょう。
【医師からのコメント】
ここでは特に注意が必要な腰痛に関して説明していきます。
腰痛において重篤な病気や状態が隠れている可能性を示唆する重要な兆候が「レッドフラッグサイン」です。これらの症状がもしみられるようであれば、できるだけ早期に整形外科を受診するようにしましょう。
1. 急激な発症
腰痛が突然に発生し、通常の動作に支障をきたすほどの強い痛みを伴う場合、椎間板ヘルニアや骨折などのけがが考えられます。
2. 神経症状
腰痛に伴って脚にしびれ、感覚異常、筋力低下が生じる場合、神経根が圧迫されている可能性があります。特に筋力低下がある場合は早期の受診が必要です。
3. 夜間痛
安静時や夜間に腰痛が悪化する場合、がんなどの内臓疾患が考えられます。特に睡眠中に痛みで目が覚める場合は要注意です。
4. 全身症状
発熱、体重減少、疲労感、脱力感など全身的な症状がある場合、感染症や悪性腫瘍など、何らかの重大な疾患が背後に隠れていることがあります。
5. 長期間続く痛み
3ヶ月以上腰痛が続いており、改善が見られない場合は、慢性的な疾患や他の疾患が潜んでいる恐れがあります。
これらのレッドフラッグサインが見られた場合は、自己判断せずに専門医の診察を受けることが重要です。早期発見が鍵となり、適切な治療を受けることで、重篤な問題を未然に防ぐことができるでしょう。
【参考】
1) サンキューグループ 整形外科・整骨院・整体の違いとは?具体的に分かりやすく解説
2) 一般社団法人 日本臨床整形外科学会 医業類似行為とは
3) 一般社団法人 日本柔整鍼灸協会 施術管理者になるには柔道整復師の資格は、もちろん実務経験期間と施術管理者研修の受講が必要
4) 東洋経済オンライン 【腰痛】まずは整形外科の理由、接骨院との違い 若い人と年配の人では腰痛の種類が違うことも
5) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「側弯症」
6) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「腰椎分離症・分離すべり症」
7) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性脊椎症」
8) 公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科シリーズ2 腰椎椎間板ヘルニア
9) 公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科シリーズ8 腰部脊柱管狭窄症
10) NHK きょうの健康 あなたの腰痛 改善の決め手「腰部脊柱管狭窄(さく)と末梢(しょう)動脈疾患」
11) 日本血管外科学会 血管の病気を知ろう!予防にいかそう!血管の病気(血管病)について 末梢動脈疾患って?
12) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「腰椎変性すべり症」
13) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「脊椎椎体骨折」
14) 一般社団法人 日本脊髄外科学会 化膿性脊椎炎
15) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「転移性脊椎腫瘍」
16) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「腰痛」
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