記事監修者:松繁 治 先生
手足のしびれが現れた場合、それがどのような原因によるものなのか知りたいですよね? 手足のしびれは、神経に問題が現れた場合に起こるとされています。そのため、しびれが続く場合はなんらかの病気を疑う必要もあるでしょう。
この記事では、手足がしびれる原因や具体的な病気について解説します。しびれの原因を知ることで、早期からの対応が可能となるでしょう。記事の最下部に掲載している「医師からのコメント」もぜひご参照ください。
手足にしびれが現れる原因とは?
手足にしびれが現れる原因として、大きく「末梢神経」と「中枢神経」によるものがあげられます。末梢神経とは、身体全体に広がっている神経のことです。この末梢神経になんらかの問題で圧迫されたり、栄養を送っている血管の血流が悪くなったりすると、しびれが現れます。たとえば、正座をして立ち上がる際に感じる「足のしびれ」は、圧迫によって末梢神経への血流が悪くなることで起こる症状とされています1)。
一方で、中枢神経とは脳と脊髄のことを指す言葉です。中枢神経は神経の根幹といえるものなので、障害されると末梢神経よりもしびれの範囲や程度が強くなる傾向にあります。
手足のしびれの具体的な症状
単にしびれといっても、障害によって性質が異なる場合があります。手足のしびれは、おもに以下のような症状に分けられます2)。
- 感覚低下
- 感覚異常
- 運動麻痺
感覚低下とは、熱さや痛みを感じにくくなる、物に触れたときの感覚が鈍くなるなどの状態を指します。正常な感覚情報が神経から脳に伝わりにくくなることで起こります。感覚異常とは、「チクチク」「ビリビリ」など、通常とは異なる感覚を覚える状態のことです。
運動麻痺とは、手足に力が入りにくくなり、思うように動かせなくなる状態のことです。症状の種類を正しく理解することで、重大な病気の可能性を見極めるための重要な手がかりとなります。
手足のしびれが続くときに疑うべき病気は?
手足のしびれが続く場合、なにかしらの病気を疑う必要があります。ここでは、末梢神経や中枢神経などの原因ごとに疑うべき病気を解説します。
末梢神経が原因の病気
ここでは、末梢神経に問題が起こることで生じる病気についてみていきましょう。
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは、腰の骨の間にあるクッションの役割をする「椎間板」が外に飛び出す病気です。外に飛び出た椎間板が、背骨の近くに通っている神経を圧迫することで、しびれや痛みが現れます。
椎間板ヘルニアは腰の骨に起こることが多く、その場合は末梢神経が圧迫されて下半身の痛みやしびれが現れやすくなります。症状が進行すると、足の感覚が鈍くなったり、歩行が困難になったりすることもあるでしょう。椎間板ヘルニアを発症しやすい方の特徴としては、以下のとおりです5)。
- 重労働をしている
- 車を長時間運転することが多い
- 喫煙している
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは、背骨にある「脊柱管(せきちゅうかん)」という脊髄の通り道が狭くなる病気のことです。腰部にある脊柱管が狭くなると末梢神経が圧迫されやすくなり、さまざまな神経症状が現れます。
脊柱管狭窄症の代表的な症状が、「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」です。間欠性跛行とは、安静時は目立った症状はないものの、歩き続けると痛みやしびれが次第に強くなる症状です。この症状が現れると長時間歩くことが困難となり、定期的に休憩を挟む必要があります。
神経が圧迫される場所や程度によっては、足の脱力感や排尿障害(尿が出ない、または漏らしてしまう)を引き起こすこともあるでしょう。腰部脊柱管狭窄症は加齢にともなう背骨の変形で起こりやすく、発症割合は女性よりも男性に多いとされています6)。
胸郭出口症候群
胸郭出口(きょうかくでぐち)症候群とは、肩から腕にかけての神経や血管が圧迫されることでさまざまな症状が現れる病気です。首から腕に向かっている血管と神経のなかには、骨や筋肉などの狭いスペースに挟まれているものがあります。そのため筋肉が硬くなる、骨が変形するなどが生じた際に、血管と神経が圧迫されやすくなるのです。
とくに、斜角筋(しゃかくきん)と呼ばれる首の筋肉の間や、肋骨と鎖骨の間の狭いスペースを通る神経・血管は圧迫されやすい傾向があります3)。おもな症状としては、以下のとおりです。
- 手のしびれ
- 冷感
- 脱力感
電車のつり革につかまる、寝ながらスマートフォンを見るなどの手を上げる動作で症状が現れやすくなります。
手根管症候群
手根管(しゅこんかん)症候群とは、手首の手のひら側の付け根部分にある「手根管」を通る神経が圧迫される病気です。手根管は手の骨と靱帯に囲まれたトンネルのような構造のことで、そのなかを神経が通っています。手根管症候群を発症すると、以下のような症状が現れやすくなります。
- 手のしびれ
- 痛み
- 親指から中指にかけての感覚異常
人によってしびれる部位が変わることもあり、とくに夜間や明け方に症状が強くなる傾向にあります。症状が進行すると親指の筋力が低下して、細かい作業が行いにくくなることもあるでしょう。手根管症候群は更年期の女性に多くみられ、これは女性ホルモンの変化が原因とされています。そのほかにも、以下のような発症要因があげられます4)。
- 手首の骨折
- 仕事やスポーツによる手の酷使
脊髄が原因の病気
ここでは、中枢神経である脊髄に問題が生じることで起こる病気について解説します。
頚椎症
頚椎症とは、椎間板の変性によって頚椎(首の骨)が変形することで、脊髄や末梢神経が障害される病気です。頚椎症には、おもに「脊髄症」と「神経根症」の2種類に分類されます7)。脊髄症は、椎間板の変性によって頚椎が変形し、その骨が脊髄を圧迫することで起こる頚椎症です。この種類では、両方の手足のしびれや使いづらさ、排便・排尿障害などの症状が現れます。
神経根症とは、変形した頚椎が脊髄から出ている神経を圧迫して起こる頚椎症です。首から手にかけてのしびれや力の入りにくさなどの症状が現れやすくなります。頚椎症の原因としては、加齢によって頚椎や椎間板が老化することがあげられます。
後縦靭帯骨化症
後縦靭帯骨化症とは、背骨と脊髄の間にある「後縦靭帯(こうじゅうじんたい)」が硬くなる病気です。後縦靭帯が硬くなり、さらに分厚くなることで脊髄が圧迫され、以下のような症状を引き起こします。
- 手足のしびれ
- 痛み
- 手足の動きにくさ
- 歩行障害
- 排尿・排便障害
症状は必ずしも進行するわけではなく、なかには発症後も大きな変化がみられない方もいるのも特徴です。後縦靭帯骨化症の発症原因は明確にわかっていないものの、遺伝的な要因が関係していると考えられています8)。
脳が原因の病気
手足のしびれの原因として、中枢神経である脳の病気も考えられます。もっとも代表的な病気は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こる脳卒中です。脳卒中には、以下の3つに大きく分類されます9)。
- 脳梗塞(脳の血管が詰まる病気)
- 脳出血(脳の血管が破れる病気)
- くも膜下出血(「くも膜」という脳を包む膜の内側で出血が起こる病気)
脳卒中が発生すると脳の組織が損傷され、片側に手足のしびれが現れることがあります。そのほかの症状は、以下のとおりです10)。
- 頭痛
- めまい
- バランスの悪さ
- 呂律の悪さ
- 意思疎通の障害
- 記憶障害
このように、脳卒中を発症するとさまざまな症状が現れる恐れがあります。脳卒中の発症要因としては、高血圧や糖尿病などがあげられます。手足のしびれだけでなく、頭痛やめまいなどの症状が現れたら脳卒中の可能性があるため、その場合は早期に医療機関を受診しましょう。
手足のしびれが現れた場合の治療法
手足のしびれが現れた場合、どのような治療が行われるのでしょうか。ここでは、代表的な治療法について解説します。
保存療法
手術以外で症状の改善・悪化予防を図る方法が、保存療法です。保存療法で行われる治療は、以下のとおりです11)。
- 薬物療法
- リハビリ
- 生活習慣の改善
薬物療法では、しびれの原因や症状に応じて、神経の働きを改善する薬やビタミン剤などが処方されることがあります。リハビリでは、しびれによって低下した手足の運動機能の回復や維持を図ることが大切です。生活習慣の改善では温かい服装を心がける、適度な運動を取り入れるなどの工夫で、血行を促進させて症状の緩和を目指します。
手術療法
保存療法で改善がみられない場合や、症状が重度である場合は手術による治療を検討する必要があります。どのような手術が行われるかは、病気によって大きく異なります。
たとえば、手根管症候群では神経を圧迫している靭帯を切り取る手術が代表的です4)。椎間板ヘルニアでは、脊髄を圧迫している椎間板の組織を取り除く手術が行われます5)。病気によってどのような治療が行われるのかは、その方の症状や状態によって変化します。医療機関へ受診した際は、医師と相談しながら適切な治療を受けることが重要です。
手足のしびれがある場合の日常生活の工夫
ここでは、しびれによる不快感をやわらげ、安全に生活を送るための具体的な工夫についてみていきましょう。しびれをやわらげる工夫としては、手足の定期的な運動や入浴があげられます。身体を温めて血流を促すことで、しびれの症状が軽減する場合もあります。運動不足の方や普段シャワーしか浴びない方は、これらの工夫を取り入れてみましょう。
しびれによって感覚が低下している場合は、やけどやケガのリスクが高まります。感覚低下によるケガを予防する対策としては、以下のとおりです12)。
- 取手のあるマグカップを使用する
- 包丁ではなくピーラーや調理用ハサミを使用する
また、足先や足の裏の感覚が鈍くなるとつまずきやすくなるので、歩きやすく滑りにくい靴を選ぶのもおすすめです。
手足のしびれが続く場合は医療機関への受診を
手足のしびれには、末梢神経によるものと中枢神経によるものに大きく分かれます。手足のしびれは感覚の低下や動かしにくさなどの症状をともない、日常生活に支障をきたすことも珍しくありません。
手足のしびれが続く場合は、なにかしらの病気を発症している可能性があるため、神経内科や整形外科のある医療機関への受診をおすすめします。頭痛やめまいなど、脳卒中の疑いがある症状が出ている場合は、脳神経外科や神経内科のある医療機関を受診してください。ぜひ今回の記事を参考にして、手足のしびれへの対処法や治療について知っておきましょう。
【医師からのコメント】
手足のしびれはよく経験する症状ではないかと思います。手の片側だけ、両手だけ、両足だけなど、症状が出るところ限定される場合は、今回記事で紹介したような病気が原因のことが多いです。しかし両手両足の指先だけや、手首・足首から先全部に症状が出たりするような場合は全身性の病気に伴う症状のこともあります。
最も有名なのは糖尿病で、薬などで治療をしないでいるとだいたい5年ぐらいで両手両足のしびれが出てくることもあります。その他に、お酒を大量に飲む方の場合はビタミンB1が不足することにより末梢神経障害が起こりやすいといわれています。また透析をされている方でも出ることがあり、症状が進行したり、症状が続く期間が長くなったりすると薬もあまり効果がないことも少なくありません。これを予防するためには、糖尿病のコントロールをしたり、飲酒量を抑えたりする必要になるため、早めに病院を受診して相談するようにしましょう。
【参考】
1)「2.高齢者の手足しびれ感の診断のポイント」吉村 道由、荒田 仁ら 日本内科学会雑誌 第103巻 第8 号 平成26年 8月10日
11)「健康人の正座によるしびれ感と末梢血流状態との関係」佐藤 一美、中村 美知子 Yamanashi Nursing Journal Vol.6 No.1(2007)
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