記事監修者:五藤 良将 先生

肘の痛みや不快感が続くと、日常生活に支障をきたすことがあります。このような症状は、放置しておくと悪化する恐れがあり、治療が必要となることがあります。
この記事では、上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)による肘の痛みの原因や、その治療方法について詳しく解説します。さらに、ゴルフ肘の予防法に役立つアドバイスもお届けします。
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)のセルフチェック
まずは、上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)のセルフチェック1)をご紹介します。肘に痛みがある場合は、当てはまっていないかチェックしてみましょう。
- 肘の内側に痛みがある
- 肘の内側の骨を押すと痛い
- 手首を手のひら側に曲げ、力を入れると痛い
- ゴルフのスイング動作をすると肘が痛い
- ボールを投げる動作をすると肘が痛い
1つでも当てはまる項目があれば、上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)が疑われます。複数の項目に当てはまっている場合は、早めに整形外科を受診しましょう。
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)とは?

内側上顆炎(ないそくじょうかえん)とは、手首や肘を繰り返し使うことで起こる障害のひとつです。肘の内側にある内側上顆に付着する筋肉や腱に炎症が生じ、痛みが現れます。ゴルフのスイング動作が原因となることが多いため、「ゴルフ肘」とも呼ばれていますが、テニスのフォアハンドをする際に痛みが生じることもあります2)。
おもな症状は、手首を曲げたりひねったりする際に、肘や前腕の内側に痛みを感じることです。とくに、手のひら側に手首を曲げる動作で痛みが強く出るのが特徴です。そのため、病院の検査では内側上顆付近の圧痛や、手関節屈曲テストでの痛みの発現などを確認します3)。鑑別診断のためにX線検査やMRI検査、超音波検査を行うこともあります。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
中年以降のテニスプレイヤーに生じやすいスポーツ障害です。上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)は肘の内側に痛みを感じますが、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)では肘の外側から前腕にかけて痛みが出るのが特徴です。安静時に痛みが出ることはほとんどなく、ものをつかんで持ち上げる動作や、タオル・雑巾などを絞る動作をすると痛みます。
加齢によって、主に短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)の腱が痛んで起こると考えられています。Thomsenテスト・Chairテスト・中指伸展テストなどの試験を行い、診断します4)。
野球肘
成長期にボールを繰り返し投げることにより、肘に過剰な負荷がかかったことで生じるスポーツ障害です。投球時・投球後の肘の痛みのほか、肘の屈曲・伸展が悪くなったり、急に肘関節を動かせなくなったりすることもあります。
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)でも投球時の痛みは出ますが、野球肘との違いは損傷部位にあります。上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)は内側上顆に付着する筋肉や腱の炎症が原因ですが、野球肘では骨・軟骨の剥離や靭帯の損傷まで含みます。
野球をしていて肘に痛みがあり、動きの悪さなども認められれば、野球肘の疑いがあります。診断はX線検査やMRI検査、超音波検査などで行います5)。
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)の治療
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)の初期治療は、痛みを感じる動作を避け、安静にすることです。同時に、症状に合わせて以下のような保存的治療を行います。
- 患部の冷却
- 鎮痛薬の服用
- 装具やテーピングなどの活用
- リハビリテーション
上記治療を6週間ほど継続しても効果がみられない場合は、ステロイド注射や外科手術なども検討されます。また、痛みの軽減や傷ついた組織の修復を目的に、一部施設ではPRP(多血小板血漿)治療を選択肢とすることもあります6,7)。
3割負担の場合、治療費の目安は以下のとおりです8)。
- 初診料:850~1,000円
- X線検査(レントゲン検査):670~840円
- 超音波検査:1,050円
- 処方箋料:250円
- サポーターの処方:1,800円
- リハビリテーション:780~1,330円
- ステロイド注射:160~320円(必要に応じて短期的に行われます)
外科手術にかかる費用は、術式などによって異なります。また、PRP(多血小板血漿)治療は自由診療のため、医療機関によって費用が異なるので注意しましょう。
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)の予防法
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)の予防方法を2つご紹介します。
肘に負担をかける習慣の見直し
ゴルフやテニスをプレイする方は、スイングのフォームや練習量を見直しましょう。スポーツ中やスポーツ後に痛みや違和感を覚えたら、患部を冷やして休むことが肝心です2)。
長時間のパソコン作業や家事など、腕に負担がかかりやすい動作を繰り返しする習慣がある場合は、手首から肘の筋肉や腱を適度に動かしておくことで上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)になるリスクを低減できます1)。具体的なストレッチ方法は以下を参照ください。
ストレッチ
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)の予防や痛みの軽減が期待できる、肘のストレッチをご紹介します。
- 手のひらを上に向けて前に伸ばす
- 肘が伸びていることを確認して、手首を下に曲げる
- 下に向けた指先を反対の手で手前に引っ張って伸ばす
- 15秒ほどキープ
- 1~4を3セット繰り返す
痛気持ちいいくらいの力で伸ばすことがポイントです1)。肘のストレッチのほか、肩のうしろ側を伸ばすストレッチや股関節のストレッチ、側屈なども上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)の予防に有効です。
肘の痛みを予防して、快適にスポーツを楽しもう
肘の内側に痛みを感じる上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)を放置すると、日常生活やスポーツの継続が困難になることもあります。早期の対応と適切なケアが、痛みの悪化や再発を防ぐポイントです。肘に違和感や痛みが出たら、まずは整形外科を受診しましょう。
【医師からのコメント】
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)は、早期対応が予後に大きく影響します。初期の痛みを我慢してスポーツを続けると、慢性化し治療期間が延びるリスクがあります。痛みを感じたらまずは安静と患部冷却を心がけ、無理な負荷を避けましょう。6週間以上保存療法を行っても改善しない場合には、専門医に相談してください。治療にはステロイド注射やPRP療法、またまれに手術も検討されます。
なお、ステロイド注射に関しては、患者さんの中には「もう一度打てば治るのでは」と繰り返し希望される方も見受けられますが、ステロイドには易感染性や糖尿病・脂質異常症など代謝異常を引き起こす副作用があり、回数や間隔には十分な注意が必要です。医師と相談のうえ、適切な治療方針を立てることが重要です。スポーツ愛好家にとって、日頃からフォーム修正や適切なストレッチを行い、負担を軽減することが最良の予防策です。肘に違和感が続く場合は、早めに整形外科を受診することをおすすめします。
【参考】
1) スマイルアンドサンキュー株式会社 腕のお悩み 予防や根治法、費用と治療期間まで解説! 痛みが出たら要注意「ゴルフ肘」とは?
2) オムロン ヘルスケア株式会社 痛みwith 内側上顆炎(ゴルフ肘と呼ばれる肘の内側の痛み)の症状・原因と予防法
3) 医療法人 幸鷺会 森整形外科リハビリクリニック 上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)とは
4) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「テニス肘(上腕骨外側上顆炎)」
5) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「野球肘」
6) 医療法人社団 祐優会 オクノクリニック 慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)
7) "Effectiveness of Platelet-Rich Plasma for Lateral Epicondylitis" The American Journal of Sports Medicine
このシステマティックレビューでは、26の研究を分析し、PRP(多血小板血漿)注射が外側上顆炎(テニス肘)の治療において有効であることが示されています。特に、痛みの軽減や機能の改善において、臨床的に意味のある差(MCID)を超える改善が報告されています。
8) AR-Ex スポーツメディカルグループ 都立大整形外科クリニック 肘(テニス肘・ゴルフ肘・野球肘)の初診料金
記事監修者情報
