記事監修者:眞鍋 憲正 先生
膝が痛くなったとき、何が原因なのかよくわからずに困っている方もいるのではないでしょうか。膝の痛みの原因は1つではなく、関節や筋肉などのさまざまな要素が考えられます。また、持続的に痛みが出ている場合は、何かしらの疾患が現れている可能性もあるでしょう。
この記事では、膝が痛くなる原因や代表的な疾患、おもな治療法についてご紹介します。膝が痛くなった原因や対策を知ることで、早期から改善につなげられるでしょう。
膝が痛くなる原因は?1)
一言で「膝が痛い」といっても、その原因はさまざまです。膝関節は以下の3つの骨で構成されています。2)
- 大腿骨(だいたいこつ):太ももの骨
- 脛骨(けいこつ):すねの骨
- 膝蓋骨(しつがいこつ):膝のお皿の骨
膝関節には動きをスムーズにしたり、安定性を保ったりするための軟骨や靭帯などがついています。このように、膝はさまざまな組織が組み合わさってできているのです。3)
そのため、軟骨や筋肉などのいずれかの組織が傷つく、あるいは衰えてしまうと膝の痛みにつながります。膝の痛みが続いているときは、医療機関を受診して何が原因なのかを明確にすることが大切です。
膝が痛くなったときに考えられる疾患
膝の痛みが現れたとき、何かしらの疾患を発症している可能性があります。その場合はすぐに医療機関を受診することをおすすめします。ここでは、膝が痛くなったときに考えられる代表的な疾患についてご紹介します。
変形性膝関節症4)
変形性膝関節症とは、膝の動きをスムーズにする関節軟骨がすり減り、歩くときに痛みが現れる状態のことです。初期段階では歩くときや階段の上り下りでの痛みが中心ですが、症状が進行すると膝が変形して「O脚」となります。O脚の状態になると膝を十分に曲げ伸ばしができなくなり、日常生活にもさらに支障をきたすようになるでしょう。
変形性膝関節症は加齢による影響で発症しやすく、男性よりも女性に多いとされています。また、普段の生活やケガの影響だけでなく、生まれつきO脚で変形性膝関節症を発症しやすい方もいます。
半月板損傷5)
半月板損傷とは、膝関節の「半月板」が傷つき、膝を動かすときに痛みや引っかかりが現れる状態のことです。半月板とは、膝関節にある三日月の形をした軟骨のことで、膝の衝撃を吸収して関節を安定させる役割があります。半月板損傷の症状が進行すると、半月板が関節に挟まって膝の曲げ伸ばしができなくなる「ロッキング」という現象も現れます。
発症の原因はおもにスポーツやケガによる要因と、加齢による要因の2種類です。とくに高齢者の場合はささいな動きやケガによって半月板損傷をともなうこともあるとされています。
膝靭帯損傷6)
膝靭帯損傷とは、膝関節の安定性を支えている靭帯が損傷していることで痛みが現れている状態です。
膝をサポートしている代表的な靭帯として、以下の4つがあげられます。
- 前十字靭帯:関節の前後のズレや捻りを防ぐ靱帯
- 後十字靭帯:関節の前後のズレや膝の伸ばしすぎを防ぐ靱帯
- 内側側副靱帯:関節の左右のズレを防ぐ靱帯
- 外側側副靱帯:関節の左右のズレを防ぐ靱帯
このように、靭帯ごとにさまざまな役割があります。
これらの靭帯が損傷すると、痛みだけでなく膝関節の安定性の低下につながるのです。膝靭帯損傷はスポーツや事故によって膝に大きな負荷がかかることで発症し、一度に複数の靭帯が損傷するケースもあります。7)
膝蓋腱炎(ジャンパー膝)8)
膝蓋腱炎(しつがいけんえん)とは、膝蓋骨と脛骨についている「膝蓋腱」が損傷して痛みが現れている状態のことです。膝蓋腱炎は「ジャンパー膝」とも呼ばれており、バレーボールやバスケットボールなどのジャンプするようなスポーツで起きやすい疾患です。
膝を動かすときや特定の動きをするときに痛みが現れます。さらに、時間とともに痛みが強くなり、日常動作にも支障をきたす恐れもあります。
腸脛靭帯炎(ランナー膝)9)
腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)とは、膝の外側で炎症をきたして痛みが現れている状態のことです。これは、膝の外側についている「腸脛靭帯」と呼ばれる靭帯と骨が擦れて摩擦が生じることで起こります。歩くときや走るときなど、足が地面についた際に痛みが現れるのがおもな症状です。
ランニングをはじめとした膝を動かす運動で生じやすい疾患なので、「ランナー膝」とも呼ばれています。その他にも、O脚や筋力の低下なども腸脛靭帯炎の原因の1つとされています。
鵞足炎10)
鵞足炎(がそくえん)とは、膝内側の下方に炎症が生じて痛みが出ている状態のことです。膝内側の下方には複数の筋肉の腱がついており、その付着部分に摩擦をはじめとしたストレスがかかることで炎症が現れます。患部の圧痛や運動時の痛みなどが鵞足炎のおもな症状です。
膝関節の反復した屈伸運動を繰り返すことが原因で鵞足炎が起こるとされています。その他にも、外傷や関節の変形から鵞足炎に派生するケースもあります。11)
関節リウマチ12)
関節リウマチとは、外部から身体を守る免疫機能に異常が生じて、関節に炎症が現れる自己免疫疾患の1つです。炎症とともに腫れや痛みをともない、進行すると徐々に症状が現れる範囲が広がり、日常生活に支障をきたすようになります。関節リウマチは遺伝的な要因や環境要因によるものだと考えられていますが、明確な原因はわかっていません。
また、男性よりも女性に多く発症し、好発年齢は30〜50歳代とされています。関節リウマチの症状は手足の関節からはじまることが多く、そこから膝や肩などに炎症や痛みが現れていきます。
膝が痛くなったときの治療法
膝が痛くなった場合、以下のような治療を行います。
- 保存療法
- 手術療法
- 再生医療
ここではそれぞれの治療法について解説します。
保存療法13)
保存療法とは、手術以外の方法で膝の痛みの改善や悪化防止を目指す治療法です。基本的に、膝の痛みが現れた際は保存療法から開始します。14)
保存療法として行われる代表的な治療としては、以下の通りです。
- 運動療法(リハビリ)
- 装具療法
- 薬物療法
- 日常生活の動きの改善
運動療法では、膝まわりの筋力トレーニングやストレッチなどを行います。膝まわりの筋力や柔軟性を高めることで、痛みの軽減を図ります。
その他にも、サポーターを中心とした装具療法や薬による痛み止めを併用することも珍しくありません。ただし、保存療法はあくまでも対症療法であり、根本的な原因の解決ではない点に注意しましょう。
手術療法13)
保存療法を行っても痛みが変わらない、または強くなっている場合は、手術療法による治療を検討します。どのような手術をするのかは、膝の痛みの原因によって異なります。
たとえば、変形性膝関節症によって膝の痛みが出ている場合は、「人工膝関節置換術」と呼ばれる手術をすることがあるでしょう。人工膝関節置換術とは、膝関節を人工物に取り替える手術のことです。15)
手術療法では入院の必要性があるものの、根本的な原因を解決する治療法なので、痛みの解消が期待できます。
再生医療16)17)
保存療法や手術療法のほかに、再生医療という選択肢も広がっています。再生医療とは、人体の細胞を活用して傷ついた組織の修復を目指す治療法です。18)
再生医療では、血液中の有効成分を活用する方法や、「幹細胞」と呼ばれる、さまざまな組織や臓器のもととなる細胞を使用する方法などがあります。そのような成分や細胞を膝に注入することで傷ついた組織の再生を促し、痛みの改善につなげられるとされています。
この再生医療は、保存療法と手術療法の中間にある治療といえるでしょう。そのため、「保存療法では効果がないけど、手術するのに抵抗がある……」という方におすすめです。
膝が痛くなったときに自宅でできる運動
ここでは膝が痛くなったときにしておきたい運動についてご紹介します。自宅でも気軽に行える内容なので、ぜひ参考にしてみてください。
おすすめの筋力トレーニングの方法
膝まわりの筋力をつけることで関節の安定性が高まり、痛みの軽減が期待できます。
ここでは膝まわりの筋力トレーニングの方法についてご紹介します。
【パテラセッティング】
- 床やベッド上で上体を起こしつつ、両膝を伸ばす
- 膝の下にタオルを敷く
- タオルを下に押すイメージで膝に力を入れる
- 10回行ったら反対側の足で行う
- 3〜4の手順を3セットずつ行う
パテラセッティングは太ももの筋肉を鍛えるトレーニングです。
膝を大きく動かさずにトレーニングできるので、運動時に痛みが出やすい方におすすめです。
【スクワット】
- 立った状態で両足を肩幅程度に開く
- 背筋を伸ばしながら股関節と膝をゆっくりと曲げる
- 膝を90度ほど曲げたらゆっくりと元に戻る
- 2〜3の手順を10回×3セット行う
スクワットをする際は、膝がつま先よりも前に出ないように気をつけてください。
身体がふらつく方は、手すりやイスに手を添えながら行いましょう。
【ボール潰し】
- イスに座り、両膝の間にボールを入れる
- ボールを潰すように力を入れる
- 5秒間キープしたら力を抜く
- 合計5回×3セット行う
ボール潰しは膝の内側の筋肉を鍛えるトレーニングです。
力を入れるときは息を止めないように注意しましょう。
おすすめのストレッチの方法
ストレッチによって膝まわりの筋肉の柔軟性を高めることも大切です。
ここではおすすめのストレッチの方法をご紹介します。
【太ももの筋肉のストレッチ】
- 横向きの状態で寝る
- 上側の足首を持ち、お尻に近づける
- 20秒キープしたら元に戻り、反対の足で行う
- 左右で2セットずつ行う
ストレッチ中は股関節が曲がらないように注意しましょう。
【膝裏の筋肉のストレッチ】
- イスに浅く座り、片足を伸ばしておく
- 伸ばした足に向かって上体を曲げる
- 20秒キープしたら元に戻り、反対の足で行う
- 左右で2セットずつ行う
膝裏の筋肉を伸ばすためのストレッチ方法です。
ストレッチの途中でバランスを崩さないように、動きにくいイスで行いましょう。
今回紹介した運動の内容や回数は目安なので、痛みの出ない範囲で調整しながら実施してみてください。
膝の痛みがあるときに注意したいポイント19)
膝の痛みがあるときは、激しい運動や関節に負担がかかりやすい動きは避けるようにしてください。20) 膝に負担がかかる動きを繰り返すと、さらに症状が悪化する恐れがあります。膝の痛みが落ち着くまでは無理な動作をしないように注意しましょう。
ただし、安静が続くと膝の筋肉が衰えるので、適度な運動は心がけておきましょう。休憩を挟みながら運動を継続することによって痛みが落ち着くこともあります。21) それでも痛みが続く場合は、先ほど紹介した疾患に当てはまっている可能性があるので、速やかに医療機関へ受診することをおすすめします。
膝の痛みが現れたときは早めの対策を
膝の痛みは筋肉の衰えや組織の損傷など、さまざまな原因があげられます。痛みが持続的に続く場合は、変形性膝関節症をはじめとした疾患も視野に入れておく必要もあるでしょう。その場合は、なるべく早めに医療機関へ受診して、症状にあわせた治療を行うことが大切です。膝の痛みの治療には保存療法や手術療法だけでなく、再生医療も徐々に行われてきています。膝の痛みを解消し、安心して生活を送るためにも、ぜひ再生医療も検討してみてください。
医師からのコメント
膝の痛みの原因は多岐にわたります。一般的な原因には、記事にある以外にも膝関節の骨や軟骨の損傷、靭帯や腱の損傷といった外傷も多い場所です。膝の痛みは日常生活や活動に大きな影響を与えることがあり、放置すると悪化する可能性があります。重度の症状や損傷の場合には、手術が必要な場合もあります。そのため、膝の痛みが現れた場合は、早めに医師に相談し、適切な治療を受けることが重要です。
また、予防のためには、適切な姿勢や運動、身体のケアを心掛けることが大切です。高齢者の場合、痛みのあるときまずは安静も大事ですが、記事にあるように安静が続くと膝の筋肉が衰えるので、適度な運動は心がけておきましょう。
【参考】
2)愛媛大学医学部附属病院 人工関節センター |膝関節部門概要
5)順天堂大学医学部附属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科|膝半月板損傷
8)東邦大学医療センター大橋病院 整形外科|スポーツ整形外科の主な疾患:膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
9)地域医療機能推進機構 JCHO東京山手メディカルセンター| 腸脛靭帯炎(ランナー膝)
10)慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A|鵞足炎(がそくえん)
11)物理療法科学 J-STAGE早期公開 2022年11月8日 論文番号:21-12|拡散型圧力波治療を用いた鵞足炎症例の治療成績
13)伊藤整形・内科 あいちスポーツ・人工関節クリニック|変形性膝関節症の治療について
15)国際医療福祉大学成田病院|下肢(股関節・膝)領域:代表的な治療・手術方法
16)ひざ関節症クリニック|膝の再生医療【デメリット/進め方/効果】
19)岩国医療センターだより 2017.12|変形性膝関節症
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