記事監修者:中原 義人 先生
日本人の高齢者に多くみられる変形性膝関節症。膝の痛みや変形をきたす病気です。本記事では、変形性膝関節症による膝の痛みに対するリハビリテーションについて解説します。変形性膝関節症予防につながるセルフケアもあわせてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
変形性膝関節症とは?
膝の関節軟骨の摩耗により、膝の痛みや変形をきたす病気です。初期では動作の開始時にのみ痛みが生じますが、だんだんと正座や階段昇降が困難となり、末期になると常に痛みが続くようになります。
多くの場合は加齢による軟骨の老化が原因ですが、肥満や遺伝子、骨や靭帯、半月板などの外傷、化膿性関節炎などの感染の後遺症から起きることもあります。
症状が軽い場合は薬物治療やリハビリテーション、装具などで保存的治療を行います。保存的治療で改善がみられない場合は、関節鏡下手術や骨切り術、人工膝関節置換術などの手術治療も検討されます1)。
膝の痛みに対するリハビリテーション
変形性膝関節症の痛みに対するリハビリテーションは、薬物療法や物理療法などと組み合わせながら行うことがほとんどです。過体重の場合には、減量などの生活指導を行うこともあります。
ここからは、変形性膝関節症の痛みに対するリハビリテーションについて、具体的に解説します。
ストレッチ
ストレッチは、主に膝関節まわりや下腿の筋肉、膝蓋骨まわりの脂肪組織を対象として行います。
膝を伸ばした状態で床に座り、タオルを足先にひっかけて足首をゆっくり倒すストレッチや、膝蓋骨を上下左右にほぐすように動かすストレッチなどがあります。
膝蓋骨まわりの柔軟性は、膝関節の曲げ伸ばしに深く関わります。膝蓋骨まわりの柔軟性は膝関節のクッション性にもつながるため、動作時の痛みの軽減が期待できるのです2)。
筋力トレーニング
膝の痛みに対するリハビリテーションでは、脚やおしり、腰など広範囲にわたる筋肉のトレーニングも行います。主な対象となる筋肉は次の通りです。
- 内側広筋
- 大腿四頭筋
- 内転筋
- 腸腰筋
- 中殿筋
- 大殿筋
- 股関節外旋筋群
- ハムストリングス
- 腓腹筋・ヒラメ筋
- 前脛骨筋
- 足趾屈曲筋群
どれかひとつの筋肉を集中して鍛えるのではなく、バランスよく鍛えていくことが重要となります2)。
歩行などの生活動作
日常生活に支障をきたすこともある、膝の痛み。リハビリテーションのなかでは、いかに膝に負担をかけずに、生活の質をキープしていくかも課題となります。
日常生活において欠かせない歩行時に痛みがある場合は、重心動揺計付きのトレッドミルなどを利用して、歩容(歩き方)を確認します。そのうえで、膝に負担をかけない歩き方を目指して、筋力トレーニングや片足立ちなどのバランス訓練、姿勢改善を行っていきます2)。
階段昇降での痛みがある場合は、実際に階段の昇降時の歩容を確認して、対策を考えます。とくに膝が内に入る「knee in toe out(ニーイントゥーアウト)」の状態は、膝関節への負担が大きくなるため、早期に改善した方がよいとされています。歩容の改善が難しい場合は、足を出す順番を変えるなどの指導を行うこともあります2)。
立ち上がりなど、ほかの日常生活に支障をきたしている場合も、歩行と同様に改善や指導を行います2)。
膝の痛みに対する手術を行う場合のリハビリテーション
ここからは、変形性膝関節症に対して人工膝関節置換術を行う場合のリハビリテーションについて解説します。
人工関節置換術について詳しく知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
▶【医師監修】膝関節に対する手術とは?さまざまな手術方法を紹介
人工膝関節置換術だけでなく、ほかの手術でも、術前・術後早期のリハビリテーションは非常に重要です。手術で膝の痛みや可動域の制限を取り除くことはできますが、すぐに膝の調子が良くなるわけではありません。膝関節の機能の回復のためには、適切なリハビリテーションが必要なのです。
人工膝関節置換術を行う場合、患者さまは手術の2日前くらいから入院し、術前リハビリテーションを始めます。まず、患者さまの生活や住居についておうかがいし、一人ひとりに合ったリハビリテーションメニューを組み立てていきます。その後、術後の膝関節機能の急激な衰えを予防するため、筋力トレーニングや関節可動域訓練、持久力訓練などを実施します。同時に、手術後すぐに患者さま自身で移動ができるよう、車椅子移乗や松葉杖歩行訓練も行います。
手術後、麻酔から覚めたらすぐにベッド上で術後リハビリテーションを開始します。その後は患者さまの状態にあわせて、徐々にリハビリテーションの強度を高めていきます。
手術後は安静にしたほうがよいのではないかと思う方も多いかもしれません。しかし、術後早期のリハビリテーションは、身体機能や痛みの改善に効果的だという報告がなされています。また、手術の重篤な合併症である深部静脈血栓症の予防にもつながるため、積極的にリハビリテーションを行いましょう。
手術後のリハビリテーションは退院と同時に終わるわけではありません。ご自宅や外来でのリハビリテーションを続けていただき、さらなる膝関節の機能改善を目指していきます3) 4)。
膝の痛みの予防・改善が期待できるセルフケア
膝の痛みの予防・改善が期待できる代表的な方法は次の通りです。
- 有酸素運動
- 筋力トレーニング
- ストレッチ
- 生活様式の変更
有酸素運動といっても、はじめからハードなスポーツは逆効果です。まずは、1日20~30分程度のウォーキングやサイクリング、水中ウォーキングから始めましょう。山登りや階段昇降などは膝に過度な負担をかけてしまう恐れがあるため、お控えください。
膝の痛み予防のための筋力トレーニングをする場合は、大腿四頭筋を中心にトレーニングを行いましょう。大腿四頭筋は膝を伸ばすときに使われる筋肉です。大腿四頭筋を鍛えることで、膝の安定性が高まります。ただし、膝の痛みがある場合は、膝関節を大きく曲げ伸ばしするスクワットなどの運動はおすすめできません。痛みが強くなったり、炎症を起こしたりする可能性があるため、ご注意ください。
膝関節のストレッチは、入浴中や入浴後など、体が温まった状態で行うことをおすすめします。水中で膝をゆっくり曲げ伸ばししたり、膝蓋骨のまわりを上下左右にゆっくり動かしたりして、可動性を高めましょう5)。
有酸素運動や筋力トレーニング、ストレッチは、痛みが強い時期には控えてください。また、最中に痛みが強くなった場合はただちに中止して、安静にしましょう。無理は禁物です6)。
また、和式の生活スタイルは、膝関節に負担をかけやすいといわれています。椅子やベッドを取り入れて、洋式の生活に変更していくとよいでしょう。
医師や理学療法士から自主トレーニングの指導があった場合は、指示にしたがって行ってください。また杖などの装具は適切に使用して、膝関節への負担を軽減しましょう7)。
適切なリハビリテーションで膝の痛みの緩和や改善を目指そう
膝の痛みに対するリハビリテーションは早期から行うことが重要です。痛いからと言って動かさずにいると、可動域が狭まり、動きが悪くなってしまいます。
日ごろから適度な運動や筋力トレーニング、ストレッチなどを取り入れ、膝の痛みを予防することも大切です。もしも膝の痛みを感じたら、まずは整形外科を受診し、適切なリハビリテーションを実施しましょう!
【理学療法士からのコメント】
変形性膝関節症で自覚症状のある方は約1,000万人、自覚症状のない方(レントゲンなど画像上の変化のみ)も含めると約2,500万人の患者さんがいると言われています。特に50歳以上で年齢が上がるほど増加するほか、肥満や生活習慣、若い頃のケガなどによっても発症しやすくなります。
今回ご紹介したセルフケアは既に発症している方にも有効ですが、発症する前の予防として、また発症した場合でも、より早期であるほど効果的です。上記の発症しやすい条件に当てはまる方は、痛みがなくても日頃から運動不足にならないように心がけることが重要です。初期の段階では、膝に痛みが生じてもしばらくすると治まってしまい、いつの間にか進行してしまっていることもあります。
膝に痛みが生じた場合は一度整形外科を受診し、症状に応じて医師による画像診断を行うことで、早期に治療を開始することができ、進行の予防につながります。いつまでも元気に自分の足で歩けるように、膝の健康に目を向けてみましょう。
【参考】
1) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性膝関節症」
2) 丸太町リハビリテーションクリニック 変形性膝関節症
3) 医療法人社団 倫生会 みどり病院 人工膝関節置換術後のリハビリテーション
4) 医療法人社団 康心会 康心会汐見台病院 「人工膝関節置換術後のリハビリとは?目的や時期ごとの内容について解説」
5) 医療法人幸鷺会 森整形外科リハビリクリニック 膝の痛みに有効な運動、ストレッチ
6) 再生医療専門クリニック リペアセルクリニック 東京院 膝の痛みでリハビリ中(保存療法)に膝が痛みだしたらどうする?
7) 京都大原記念病院グループ 御所南リハビリテーションクリニック 膝のリハビリ方法とは?自分でできる変形性膝関節症の対処法も紹介
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