
膝や腰の痛みが続くと、「手術を検討する時期なのか」「保存療法をどの程度続けるのか」と悩むことがあるはずです。近年、整形外科領域における治療方法が大きく変わろうとしており、日本整形外科学会が2026年の創立100周年に向けた「日整会100年プロジェクト」でも取り上げられています。
本記事では、同プロジェクトの概要と、人工関節手術を含む関節医療に関する話題、治療を検討する際に確認したいポイントを紹介します。なお、治療の適否や手術の時期は、症状や検査結果、全身状態、本人の希望などによって異なります。
この記事で分かること
✅日整会100年プロジェクトの目的と全体像
✅人工関節手術の方針がどう変わったか
✅手術療法と保存療法、どちらを選ぶかの判断材料
✅働き盛り世代に迫るロコモティブシンドロームのリスクと予防
✅日整会が発信する情報をどのように確認、活用するか
目次
日整会100年プロジェクトの全体像をわかりやすく解説
日整会とは日本整形外科学会の略称で、1926年に創立された日本の整形外科領域を代表する学術団体です。創立当初、わずか118名だった会員数は着実に増加しており、今や約2万人が所属する整形外科学会へと成長しました。
日整会は2026年の創立100周年、2027年の第100回学術総会という大きな節目に向けて、2022年3月より「日整会100年プロジェクト」を始動しました。その中で、「医療のチカラで運動器を支え、すべての人に自分で動ける生涯を」というビジョンを策定。目を覚まして起き上がり、行きたい場所へ自分の意思で出かけられるという当たり前の動作を生涯にわたって支えることが、日本整形外科学会の目指す姿と定めました。
このプロジェクトは、単なる記念行事にとどまりません。症例レジストリーの構築をはじめとする実務的な医療基盤を整備するための取り組みでもある点が、ほかの周年事業と一線を画すポイントと言えるでしょう。
なぜ今「日整会100年プロジェクト」が注目されるのか
日整会100年プロジェクトが医療業界だけでなく一般の患者さまからも注目を集めている理由は、実際の治療方針そのものに影響を及ぼしているからです。2026年に開催された記者発表会では、人工関節手術の適応や実施時期について、従来の「できるだけ先延ばしする」という考え方を一面的に捉えず、患者さまの痛みや生活機能、将来的な再置換の可能性などを踏まえて検討する必要性が紹介されました。
関節に対する治療はどう変わるのか
2026年、東京都で開催された100年プロジェクト記者発表会では、次のような発言・講演がありました。
| 登壇者 | 発言・講演内容 |
| 日本整形外科学会 理事長河野 博隆 氏 | 「もはや人工関節は短期間の移動能力を取り戻す手段ではない」と発言 |
| 日本整形外科学会 前理事長中島 康晴 氏 | 「“人工関節は最終手段”の時代は終わり」をテーマとした講演で、最新の人工股関節・人工膝関節手術の進歩を紹介1) |
これらの背景には、1990年代末以降、摩耗を抑えることを目的とした架橋ポリエチレンなどの材料が用いられるようになり、人工関節の長期にわたって使用できるようになってきた背景があるためです。ただし、耐用性には個人差があり、再置換術が必要になる可能性がなくなったわけではありません。
整形外科学会が症例レジストリーで目指す未来
日整会は「JOANR(日本整形外科学会症例レジストリー)」という症例データベースの構築を進めており、人工関節手術や関節鏡手術などの情報を全国規模で登録しています。JOANRでは、2023年度に約107万例の症例が登録されており、こうした大規模データがエビデンスとして蓄積されることで、治療の質への評価や研究をはじめ、医療提供体制の検討などへの活用が期待できます2)。
患者さまにとって学会での発表内容を実際のクリニックで実感しにくい面もありますが、こうしたデータにもとづいて標準化が進むことで、小児期から高齢期まで生涯を通じた運動器ケアという視点が、より現実的な医療の形として定着していくでしょう。
医師からの治療方針が最新の学会動向に合っているかを判断するための視点
日整会の方針転換を知ったところで、「自分はどうすれば良いのか」という疑問を感じる方も多いでしょう。ここでは、変形性膝関節症と診断を受けたあと、保存療法を続けるか、手術療法を検討するかを判断する際に押さえておきたい視点を一緒に整理していきましょう。
まず、次の図表から整形外科における疾患の規模感を数字で把握しましょう。
| 疾患・状態 | 推定患者数 |
| 変形性膝関節症(自覚症状あり)3) | 約1,000万人 |
| 変形性膝関節症(X線診断を含む潜在患者)3) | 約3,000万人 |
| ロコモティブシンドローム(該当・予備)4) | 約4,590万人 |
膝関節の基礎知識について、こちらから確認できます。
膝関節の基礎知識
ロコモティブシンドロームの患者数は約4,590万人とされています。変形性膝関節症は、ロコモティブシンドロームの原因となる運動器の障害のひとつです。そのため、膝の痛みを放置するとロコモティブシンドロームが進行する可能性を見落としやすいため、注意が必要です。なお、ロコモティブシンドロームは、関節疾患だけでなく、脊椎疾患、骨粗鬆症、筋力低下などを含む概念になります。
変形性膝関節症の治療で判断に迷った際に大切なのは、痛みのレベル、日常生活への影響、画像検査の所見、保存療法への反応、年齢、全身状態、本人の希望などを総合して判断することです。手術の適応や時期は一律ではないため、主治医から治療の利点だけでなく、合併症や再手術の可能性を含めて説明を受けることが大切です。また、主治医からの治療方針に迷いがある場合、疑問点を確認しつつ、必要に応じてセカンドオピニオンを利用する方法もあります。
セカンドオピニオンを検討している方は、こちらから近隣の整形外科医院を検索できます。
医療機関検索
働く世代・予防層が知っておくべき「勤労者ロコモ」と関節ケア
膝や腰の痛みを高齢者だけのお悩みと思っている方も多いですが、実際には現役世代にもそのリスクが広がっていることをご存じですか? 2025年9月、日整会の記者説明会で「勤労者ロコモ問題」を取り上げながら、高年齢労働者が増えている社会において企業と個々人がどのように向き合うべきかが議論されました5)。デスクワーク中心の生活や運動不足が若年層からの運動器の衰えを進行させる要因になり得るとされています。
日常生活を踏まえて「身体の特定の部位が痛い」「普段の生活で身体を動かすのがつらい」といった簡単なセルフチェックを行うことで6)、ロコモティブシンドロームの兆候を把握する手がかりになります。こうしたチェックで思い当たる、または該当する項目があれば、整形外科などの医療機関への相談を検討しましょう。治療の選択肢を広げられるのはもちろん、保存療法で痛みや違和感の改善を目指せる余地があります。
日整会の最新ニュース・新コンテンツから読み解く今後の関節医療
日整会は100年プロジェクトの一環として、国民が運動器の健康に関心を抱くようなコンテンツを次々と発信しています。
例えば、2026年に株式会社地球の歩き方との連携で、「日本の歩き方 powered by 日本整形外科学会 神戸・ポートアイランド」という小冊子を制作しており、歩くことを楽しみながら健康寿命を延ばすきっかけづくりを目指しています。
また、同年に全国一斉市民公開講座を47都道府県で開催する計画もあり、身近な地域で整形外科専門医からの話を直接聞ける機会を増やします。
今後も、こうした情報が日整会の記者発表会や100年プロジェクト特設サイトを通じて更新される予定です。これらを定期的にチェックして知識や情報を更新する習慣をつけることが、変化の速い関節医療の分野では重要だと言えるでしょう。
まとめ
日整会100年プロジェクトは、単なる周年記念にとどまらず、「人工関節は最終手段」という長年の治療方針を見直す機会にするほか、症例レジストリーなどのエビデンスにもとづいて関節治療全体をアップデートしようとする取り組みです。変形性膝関節症の潜在患者が約3,000万人、ロコモティブシンドロームの該当者が約4,590万人にのぼる現状を踏まえると、この動向は整形外科医や専門家だけに当てはまるものではありません。
とくに意識したいのは、自身の症状が「保存療法で治療できる状態か」「手術も選択肢に加える状態か」を、新たな治療トレンドを踏まえたうえで医師に相談することです。整形外科医から手術を勧められた場合、医師ひとりの意見だけで判断せず、複数の整形外科専門医から話を聞く姿勢も大切になります。また、20~50代の働き盛り世代も日本整形外科学会がかかわるロコモ度テストを行い、そこに該当する項目があれば早めに整形外科医院を受診しましょう。
日整会から発信される市民公開講座や最新ニュースを定期的に確認しながら、自身の治療方針が現在の医学的知見と一致しているかを見直す習慣をつけることが、これからの関節ケアと向き合ううえでの第一歩になるはずです。
【参考】
1)“人工関節は最終手段”の時代は終わり〈2026年02月 記者発表会〉|日整会100年プロジェクト
2)日本整形外科学会症例レジストリー(JOANR)について|日本整形外科学会
3)初級編★「変形性膝関節症」の基本|日本関節病学会
4)ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは|日本整形外科学会
5)「勤労者ロコモ問題」に打ち勝つ〈2025年09月 記者説明会〉|日整会100年プロジェクト
6)ロコモONLINE|日本整形外科学会公式ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト
