記事監修者:眞鍋 憲正 先生
関節に痛みや腫れがあるとき、炎症が起きているのではないかと心配になる方は多いのではないでしょうか。関節の炎症は、ケガや病気が原因で起こることがあります。症状によっては、重大な疾患が隠れている可能性もあるため、適切な対処が必要です。
この記事では、関節の炎症反応のメカニズムや、炎症が続くときに疑われる代表的な疾患についてご紹介します。炎症に関する正しい知識を身につけることで、症状の適切な対処につながるでしょう。
関節に起こる炎症反応とは?
関節に起こる炎症反応には、さまざまなパターンがあります。細菌やウイルスの侵入によるものもあれば、ケガで起こるパターンもあります。細菌やウイルスが関節内に侵入すると、体内の免疫細胞がそれらを異物として認識して、排除しようと働きます。その過程で炎症を起こす物質が放出され、結果的に関節の痛みや腫れなどが生じるのです1)。
一方、ケガによる炎症反応は、関節を構成する組織が損傷を受けることで起こります。損傷を受けた際も炎症を起こす物質が放出されるため、感染時と同様の反応が起こるのです2)。これらの炎症反応は本来、生体を守るために起こるものですが、逆に組織を傷つけ、機能障害を引き起こすこともあります。
関節の炎症が続くときに疑われる疾患
関節の炎症が続く場合、何かしらの疾患を発症している可能性があります。ここでは、関節の炎症を引き起こす代表的な疾患について解説します。
化膿性関節炎
化膿性関節炎は、関節内に細菌が侵入することで、化膿や炎症を引き起こす疾患です。化膿性関節炎を引き起こす細菌には、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌などがあります。これらの細菌が皮膚の傷から、または他の感染源から関節内に侵入することで、化膿性関節炎を引き起こします3)。
おもな症状としては、以下のとおりです。
- 関節の腫れ
- 関節の強い痛み
- 関節の発赤
- 発熱
- 倦怠感
適切な治療が行われずそのまま放置すると、関節が破壊され機能障害を残す恐れもあります。
痛風
痛風とは、血液中の尿酸値が高くなることで発症する疾患です。関節内に尿酸の結晶が沈着すると、その場所で激しい痛みや腫れなどの炎症症状を引き起こします。尿酸は、体内の老廃物の一種である「プリン体」が分解されてできる物質です。尿酸が過剰になったり、腎臓によって排泄を促す働きが低下したりすることで沈着しやすくなるのです。
痛風の好発部位は、足の親指の付け根にある関節とされています3)。痛風の原因として、以下のような生活習慣が関与しています4)。
- 肥満
- 多量の飲酒
- プリン体の多い食べ物の摂取(アルコールやレバー)
関節リウマチ
関節リウマチは自己免疫疾患の1つで、関節に炎症が生じる疾患です。免疫は本来、病原体から身体を守る役割を担っていますが、関節リウマチになると自身の組織を攻撃して、炎症を引き起こしてしまいます。関節リウマチは、さまざまな関節に左右対称性の痛みや腫れが現れるのが特徴です。炎症が長く続くと、軟骨や骨が壊れて関節が変形することもあります。
また、関節リウマチは遺伝や喫煙などの環境因子が関与して発症すると考えられていますが、明確な原因はわかっていません。女性に発症しやすく、好発年齢は30〜50歳代とされています5)。
変形性関節症
変形性関節症は、関節の軟骨がすり減って、炎症や痛みが現れる疾患です。炎症が慢性的に続くことから、変形性関節症は慢性関節炎の一種とされることもあります。変形性関節症のおもな原因は、加齢による関節の軟骨の変形とされています6)。その他にも、肥満や関節の外傷などで発症することもあるでしょう。
変形性関節症は高齢者に多く、膝や股関節などの体重がかかるような関節に起こりやすいとされています。おもな症状は以下のとおりです。
- 関節の痛み
- こわばり
- 可動域制限
症状が進行すると関節の変形が強くなり、日常生活でも大きな支障をきたす恐れがあります。
靭帯損傷
靱帯損傷とは、関節の動きや安定性をサポートしている組織が損傷することで起こる疾患です。靱帯損傷そのものは炎症性の疾患ではありませんが、靱帯が切れることによって関節に炎症が起こります。
症状は以下のとおりで、日常生活にも支障をきたしやすいといえるでしょう。
- 関節の腫れ
- 熱感
- 強い痛み
おもな原因として、スポーツ中の激しい動きや事故などによって、関節周囲にある靱帯に強い力が加わることがあげられます。靱帯損傷が起こりやすい部位は、膝関節や足関節などです。これらの関節は、歩行時に体重がかかるため靱帯への負担が大きく、損傷しやすいとされています7)。
関節の炎症がともなう疾患の治療について
関節の炎症がともなう疾患では、どのような治療が行われるのでしょうか。ここでは、以下の3種類の疾患に分けた治療法について解説します。
- 急性関節炎(急性化膿性関節炎、痛風など)
- 慢性関節炎(関節リウマチ、変形性関節症など)
- 関節炎以外の炎症をともなう疾患の治療(靭帯損傷など)
急性関節炎の治療
急性関節炎の治療は、炎症の原因によって異なります。たとえば、化膿性関節炎の治療では、体内に侵入した細菌を殺すために抗菌薬を投与します3)。関節内に溜まった膿を取り除くために、針を使用して吸引する処置を行うこともあるでしょう。重症の場合は、手術による洗浄が必要になることもあります。
また、痛風の急性期の治療としては、痛みを和らげるための鎮痛剤や炎症をおさえる薬が用いられます3)。痛風発作を繰り返す場合は、根本的な原因を解決するために、尿酸値を下げる薬の内服が必要です。いずれにせよ、急性関節炎に該当する疾患と診断されたら、速やかに治療を開始することが大切です。
慢性関節炎の治療
慢性の関節炎として代表的な疾患としては、関節リウマチや変形性関節症などがあげられます。関節リウマチの場合、おもに治療薬を使用して炎症をおさえ、症状をコントロールします5)。治療薬として中心となるのは、抗リウマチ薬です。薬物療法と並行して、リハビリテーションや手術などが行われることもあります。
変形性関節症の治療としては、軽症の場合は運動や薬による保存療法が中心です。症状が重症になり、保存療法で改善が得られない場合は、骨切り術や人工関節置換術などの手術が検討されます8)。慢性関節炎の治療は長期戦になるケースが多いため、医師と相談しながら焦らず進めていくことが大切です。
関節炎以外の炎症をともなう疾患の治療
関節炎以外の炎症をともなう疾患として、靭帯損傷の治療を例に解説します。靭帯損傷の治療としては、初期段階では保存療法が行われ、安静や関節の固定などが中心です。早期からのスポーツ復帰を希望する場合や、保存療法で改善がみられない場合は、手術療法を検討します。
一方で、靱帯が完全に断裂している場合は、早期に手術療法を進めることも多いでしょう。靭帯の手術では、自身の他の腱や人工靭帯を使用して、損傷した靭帯を再建する方法が中心に行われています9)。
このように、靭帯損傷に対する治療は、まずは保存療法が基本となりますが、重症例では手術をするケースもあります。そのため、医師と相談しながら、個々の状態にあわせた治療法を選択することが大切です。
関節の炎症を予防する方法
ここでは、以下の関節の炎症に関わる疾患の予防法について詳しく解説します。
- 急性関節炎
- 慢性関節炎
- 関節炎以外の炎症をともなう疾患の治療
急性関節炎
急性関節炎を予防するためには、感染症や外傷を防ぐことが大切です。皮膚の衛生管理を徹底し、細菌やウイルスによる感染から守ることで、化膿性関節炎の予防につながります。
痛風の予防としては、レバーやイワシなどのプリン体を多く含む食品の摂取を控えて、アルコールは適量に留めるようにしましょう。さらに肥満は痛風の危険因子でもあるため、バランスの良い食事と適度な運動で、適正な体重を維持することも重要です10)。
慢性関節炎
慢性関節炎であるリウマチや変形性関節症を予防するには、日頃から関節の負担を減らすことが大切です。なるべく正しい姿勢を保ち、関節に負担のかかる重労働や過度な運動は避けましょう11)。
また、バランスの良い食事で体重をコントロールし、適度な運動をすることで、関節を支える負荷の軽減につながるでしょう。喫煙は関節リウマチの危険因子の1つとされているため、禁煙も重要な予防法です5)。
関節炎以外の炎症をともなう疾患
靱帯損傷は、関節を支える靱帯に負荷がかかることで発生します。予防するためには、ウォーミングアップ・クールダウンを適切に行い、関節の柔軟性を高めるようなトレーニングが重要です12)。
また、普段から筋トレをして関節を支える力を維持し、靱帯への負担を軽減しましょう。スポーツの際には、サポーターやテーピングで関節や靱帯を保護するのもおすすめです。さらに、疲労が蓄積している状態での無理な運動は避け、こまめな休息を取るようにしてください。
関節の炎症が続いたら医療機関への受診を
関節の炎症をともなう疾患は数多くあり、症状や原因はそれぞれまったく異なります。治療法や予防法は疾患によって違うので、自分の状態にあわせて対処していくことが求められます。関節の炎症が続いている場合は、なるべく早期に医療機関へ受診し、適切な治療を受けるようにしてください。早い段階から治療や予防に努めることで、生活への支障を最低限におさえられるでしょう。
医師からのコメント
関節炎の分類としては記事内にある他に単関節炎と全身性関節炎という分け方があります。単関節、つまり一つの関節部位の痛みの場合はその個所の外傷や感染の問題であったりすることが多いですが、複数の関節が痛む全身性の関節炎の場合は全身に影響を及ぼすような疾患が背景にある事が多いです。
全身性の関節炎としては記事にあるリウマチ性の関節炎や痛風関節炎の他に、例えば風邪をひいた時に出る関節痛(反応性の関節痛)やさまざまな免疫系疾患に伴う関節痛があります。偽痛風という関節炎は痛風と同じような関節炎の症状を起こしますが、高尿酸血症が見られないことから名付けられた疾患もあります。こうした関節炎の正確な診断と適切な治療が必要であり、早期の対応が症状の進行を防ぎ、生活の質を向上させるために重要です。
【参考】
1)科学技術振興機構|炎症の起こる理由(メカニズム)
2)科学技術振興機構|炎症について
3)宇多野病院|1.関節の痛みが続くとき、どのような病気を考えるか?
4)東邦大学|痛風と偽痛風
5)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
6)日本整形外科学会|「変形性関節症」
7)順天堂医院|膝前十字靭帯損傷
8)近畿大学病院|変形性膝関節症の治療
9)順天堂医院|膝前十字靭帯損傷
10)厚生労働省|アルコールと高尿酸血症・痛風 e-ヘルスネット
11)慶應義塾大学病院|関節リウマチのリハビリテーション
12)順天堂大学|アスリートに多い膝の靱帯損傷。 理学療法士として研究と実践で競技復帰をサポート
記事監修者情報