記事監修者:眞鍋 憲正 先生

拘縮(こうしゅく)になると、関節をスムーズに動かすことができなくなってしまいます。進行すると、歩行などの日常動作に支障が出ることも。この記事では、股関節拘縮が起きる仕組みやおもな原因となる病気、日常でできる拘縮予防ケアについて詳しく解説します。
拘縮(こうしゅく)とは?
拘縮とは、関節の不動により軟部組織が硬くなり、動かせる範囲が制限されている状態のこと1)です。例えば、股関節に拘縮が起きると、脚の前後左右への動きが悪くなり、歩行や立ち上がりといった日常動作に支障をきたし、QOLを低下させることがあります。
拘縮が進行すると元の可動域に戻すことは難しく、さらなる活動量の減少につながる恐れがあります。高齢者や長期臥床(ちょうきがしょう)、ギプスによる固定、術後はとくに注意が必要です。
股関節拘縮が起きるメカニズム
股関節の拘縮が起きるメカニズム1) 2)について、図でご紹介します。
股関節の不動 ↓ 軟部組織(皮膚・骨格筋・靭帯・関節包など)内でのコラーゲン増生 ↓ 軟部組織の線維化 ↓ 筋周膜・筋内膜の肥厚による骨格筋の伸張性低下 ↓ 股関節拘縮 ↓ 股関節強直 |
関節拘縮をきたしてからさらに不動が続くと、関節を構成する軟骨や骨などが変形したり、くっついたりします。動かせる範囲がせまくなってしまい、「関節強直(かんせつきょうちょく)」という状態3)になります。
股関節拘縮の原因となるおもな病気
股関節の拘縮の原因となる代表的な疾患をご紹介します。なお、股関節拘縮は以下で挙げる疾患以外にも、長期の臥床や不動により起きる場合があります。
変形性股関節症
加齢や股関節の使い過ぎのほか、発育性股関節形成不全など小児のときの病気や発育障害の後遺症として起きる病気です。股関節の痛みと機能障害がおもな症状4)として挙げられます。
股関節の痛みにより活動量が減ると、次第に股関節の動きが悪くなり、拘縮が生じます。さらに進行すると片方の骨盤が傾き、脚長差(脚の長さの左右差)を感じるようになります5)。
一般的に、初期は保存療法が選択されます。しかし、保存療法で症状が改善しない場合や、すでに股関節の変形をきたしている場合は、骨切り術や人工股関節置換術などの手術も検討されます4)。
大腿骨頭壊死
股関節の骨にある大腿骨に、十分な血液が流れなくなることで起こる病気のひとつです。大腿骨頸部骨折など原因が判明しているものを「症候性大腿骨頭壊死」、明らかな原因が分からないものを「特発性大腿骨頭壊死」と分けて呼びます。特発性大腿骨頭壊死は、ステロイドやアルコールとの関連が指摘されていますが、詳しいことはいまだ解明されていません。
壊死した大腿骨頭に荷重がかかることで痛みが生じ、歩行障害や可動域制限をきたします。放置すると、拘縮や脚長差のリスクが高まります6)。
ウルリッヒ病
先天性筋ジストロフィーの一種です。福山型先天性筋ジストロフィーに次いで2番目に多く、生まれつき力が弱いことが特徴です。手や足の関節が過度にやわらかい一方で、肘・肩・膝・股関節の拘縮をきたします7)。
鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)
なんらかの原因で鼠径部(そけいぶ)周辺の可動性・安定性・協調性に問題が生じたまま、スポーツのプレイを続けることにより起きる痛み8)の総称です。スポーツによる過度な負担などによる筋力低下や柔軟性低下、拘縮も関連していると考えられています。
とくにサッカー選手に多く見られ、ダッシュやキックする動作で鼠径部周辺に痛みが生じます9)。
外傷
交通事故やスポーツなどで受傷し、長期間の固定や安静が必要になると、拘縮のリスクが高まります。拘縮予防のため、できるだけ早くリハビリを始めることが大切です。
神経疾患
脳性麻痺の合併症として、関節拘縮が起きる場合もあります10)。また、脳卒中の後遺症として現れる筋肉の過緊張「痙縮(けいしゅく)」を放置すると、拘縮につながる可能性もあります11)。
拘縮を防ぐためのセルフケア

股関節の拘縮は、日常生活の中で意識することで予防・緩和が可能です。すぐに実践できる具体的なセルフケア方法をご紹介します。
ストレッチ
拘縮予防のためには、日常生活の中でできるだけ意識して股関節を動かすことが重要です。同じ姿勢を長時間続けることは避け、太ももやお尻のストレッチを取り入れましょう12)。無理に強く伸ばすのではなく、心地良い範囲で行ってください。
入浴・マッサージ
入浴は血行を促進して冷えを解消するため、関節拘縮の予防につながります。また、入浴でしっかり身体を温めることで筋肉がほぐれ、関節まわりの組織がやわらかくなる12)ため、ストレッチやマッサージの効果が高まることも期待できます。
姿勢・歩き方の改善
関節を不自然な位置で固定し続けたり、身体のバランスが崩れたりすると、拘縮のリスクが高まります。まずは普段の姿勢や歩き方を見直してみましょう。就寝時や長時間座位を保つ場合には、クッションなどを活用して良肢位(りょうしい)12) をとるように心掛けてください13)。
身体を動かすときの注意点
すでに股関節が動かしづらいといった拘縮が始まっている場合は、以下のような注意が必要です。
- 急激に動かない
- 関節や筋肉に無理な負荷をかけない
股関節拘縮の予防・緩和のために身体を動かす場合は、ゆっくりと痛みや不快感が生じない範囲で行うことが重要です14)。無理のない範囲で意識的に身体を動かしましょう。
「動かすこと」が最大の予防!股関節の健康を守るために対策を
股関節の拘縮を予防するためには、日常的に股関節を動かすことが大切です。この記事で紹介した無理なく続けられるセルフケアを取り入れて、股関節の健康を守りましょう。もしも股関節に違和感や痛み、動かしづらさをおぼえたときは、早めに整形外科を受診してください。
【医師からのコメント】
股関節の拘縮は関節の動きが制限される状態で、放置すると日常生活の動作に支障をきたす恐れがあります。原因として、加齢や長期の安静、関節疾患、手術後の影響などがあり、とくに高齢者では早期の予防が重要です。
運動不足が大きな要因となるため、関節をやさしく動かすストレッチや筋力トレーニング、姿勢の工夫などを日常に取り入れることで、拘縮の進行を抑えることが可能です。
痛みや違和感がある場合には無理せず、早めに整形外科などの専門医に相談することをおすすめします。正しい知識と日々のケアが、拘縮の予防と進行抑制につながります。記事では原因や予防法が丁寧に解説されており、ご自身の身体と向き合う第一歩として非常に有益な内容です。
【参考】
1) 株式会社日本ケアサプライ GCメディアMIX 【疾病】関節拘縮の基礎知識
2) 「不動の過程における周期的な単収縮の誘発が骨格筋の線維化に及ぼす影響」 長崎大学 保健学科 川嵜真理子 田中美帆 卒業研究論文集 2012年) Vol.8
3) 株式会社クイック 看護roo! 用語辞典 整形外科 拘縮
4) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性股関節症」
5) いしがみ整形外科クリニック 変形性股関節症(股関節の痛み)
6) 再生医療専門クリニック リペアセルクリニック 東京院 大腿骨頭壊死の種類と特発性大腿骨頭壊死3つの原因
7) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター ウルリッヒ病(指定難病29)
8) 一般社団法人 日本スポーツ整形外科学会 スポーツ損傷シリーズ 11.鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)
9) 日本シグマックス株式会社 ZAMST Sports Medicine Library 鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)
10) 滋賀県立総合病院 こども/療育部門 疾患について 脳性麻痺
11) グラクソ・スミスクライン株式会社 「手足のつっぱり(痙縮)」情報ガイド 脳卒中の後遺症「痙縮(けいしゅく)」とは
12) セコム株式会社 介護情報なら安心介護のススメ 関節が固まるのを防ぎ、適切な角度を保つために~こんな時どうすれば?~
13) 株式会社さくらリバース 訪問鍼灸リハビリマッサージ事業部 関節拘縮の予防法とは?介護の際の注意点も解説します。
14) 株式会社さくらリバース 訪問鍼灸リハビリマッサージ事業部 関節拘縮のリハビリ方法は?注意点とポイントについて解説します!
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