記事監修者:松繁 治 先生
股関節とは、骨盤と大腿骨から成る関節です。よく動かす関節のため、痛みが生じると日常生活に支障をきたすことも。本記事では、股関節が急に痛い時の原因と予防法について紹介します。
股関節が急に痛い時の原因
股関節が急に痛くなる場合、原因となる箇所は大きく「骨」「軟骨・軟部組織」「股関節以外」の3つが考えられます1)。ここからは、股関節の痛みを急に生じる病気と、その治療法について詳しく紹介します。
変形性股関節症
原因箇所は股関節の臼蓋(骨)や関節軟骨で、患者の多くは女性です。発育性股関節形成不全や小児期の病気、発育障害の後遺症が原因となっているものが全体の8割を占め、その他は加齢が関わっていると考えられています。
立ち上がった時や歩き始めに股関節の痛みを感じますが、悪化すると常に痛かったり(持続痛)、夜間も痛みが続いたり(夜間痛)など大きな支障をきたすことも。まずは負担を減らす保存療法が選択されますが、症状の改善が見られない場合は骨切り術、変形が進んでいる場合は人工股関節手術の適応となります1) 2)。
大腿骨頭壊死症
血流障害により、骨が壊死を起こす病気です。大腿骨頭は関節内に深くおさまっているため、血管が少なく、もともと血流障害を起こしやすい場所です。血流障害による骨壊死の部分が大きいと、体重を支え切れず、潰れて痛みが生じるのです。
外傷など原因がはっきりしている場合は「二次性(持続性)」、原因不明の場合は「特発性」と分けて呼ばれることもあります。特発性は、アルコールやステロイドが関係しているのではないかと考えられています。
突然生じる股関節の激痛が特徴で、急速に症状が悪化する場合もあります。歩行や階段昇降でも痛みが生じ、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
病気の進行が軽度ならば杖などの歩行補助具や安静、投薬で治まることもありますが、壊死している部分が大きく、進行する可能性が高い場合は、手術の適応になることも。すでに変形が進行してしまい、骨を温存する手術が難しい場合は人工股関節手術も検討されます1) 3)。
関節リウマチ
関節に存在する滑膜が異常増殖し、慢性的な炎症を生じる疾患です。進行すると、軟骨や骨、そして関節までも破壊していきます。女性に多く、30~50歳代が発症のピークといわれています。
特徴的な症状として、左右対称の手足の指関節の腫れや朝のこわばりなどが挙げられますが、関節リウマチは全身性の病気です。股関節や膝関節に炎症が生じて痛みが出たり、水が溜まって動きづらくなったりするなどの症状が見られることもあります。なお、股関節に症状が出た場合は「リウマチ性股関節症」と呼ばれることもあります。
関節リウマチの原因はまだはっきりとはわかっていません。治療は抗リウマチ剤と非ステロイド性消炎剤を基本とする薬物治療がメインとなります。リハビリテーションの早期開始も有効です1) 4) 5)。
炎症により関節の痛みや変形が進行してくると、滑膜切除術や人工関節置換術、関節固定術、関節形成術などの外科的手術を検討される場合もあります。
大腿骨頚部骨折
骨粗しょう症の高齢者に多発する骨折です。日本だけでも年間10数万人が受傷しており、この骨折をきっかけに、寝たきりになったり、閉じこもってしまったりする高齢者が多いため、社会問題にもなっています。
大腿骨頚部骨折は、関節の中で折れる「大腿骨頚部内側骨折」と、膝寄りの関節外で折れる「大腿骨頚部外側骨折」の2つに分けて考えられます。
骨粗しょう症がある場合は、軽く脚を捻った程度でも内側骨折が生じる可能性があります。突然脚の付け根に痛みが生じ、急に立てなくなったというエピソードもよく見られます。一方、外側骨折は転倒や転落など、契機がはっきりとしていることがほとんどです。
内側骨折では内出血は少ないものの、血液循環が悪いため骨がくっつくまでに時間がかかってしまいます。また、大腿骨頭はもともと血流が少ないため、血流障害が生じると骨頭壊死を併発する場合があります。一方、外側骨折では骨がくっつきやすいものの、受傷時に大きな外力を受けるため、広範な内出血などで全身状態が悪くなってしまうことも1) 6)。
治療については、全身状態が悪くなければ早期に手術をし、リハビリを行うことがほとんどです7)。
鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)
股関節まわりの筋肉など、軟部組織に痛みが起きる病気です。
足首のねんざや下肢の打撲、肉離れ、腰痛などで、可動性・安定性・協調性に問題が生じたまま運動を続けていると、体幹から股関節周辺の機能障害が起きやすくなります。とくに、片足立ちでキックをするサッカー選手に多く見られます。
治療としては、可動性・安定性・協調性の問題点を修正するアスレティックリハビリテーションがメインになります。鼠径部痛症候群の治療には時間がかかるため、原因となる怪我や筋力低下が見られた場合はすぐに治療・修正するなどの予防も重要です8)。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)
大腿骨頭と寛骨臼のどちらか、または両方に軽度な形態異常があることで生じる病気です。関節内で骨同士の「インピンジメント(衝突)」が起こり、関節唇が損傷して股関節に痛みを引き起こします。しゃがむ動作や、靴下をはく動作で痛みが強く出る点が特徴です。
原因ははっきりとはわかっていませんが、大腿骨寛骨臼インピンジメントを起こす骨の形態異常は成長期にできると考えられています。また、骨の形態異常があるからといって、必ずしも痛みが生じるわけではありません。一般の人に比べて激しく股関節を動かすアスリートに発症しやすいという報告もあります。
治療は関節唇への負担を最小限にする保存療法が第一選択です。筋力訓練と柔軟などのリハビリテーションと、薬物療法を組み合わせることがほとんどです。症状が改善しない場合は、股関節鏡下で骨の形態異常部分を削る手術も検討されます1) 9)。
仙腸関節障害
仙腸関節とは、骨盤の仙骨と腸骨で形成される関節です。周囲の複数の靭帯で強固に固められており、動きは少ないものの、全身のバランスをとるのに欠かせない関節といわれています。
仙腸関節障害は、中腰での作業や繰り返しかかる負荷によって生じる病気です。仙腸関節を中心に、おしりや脚の付け根などに痛みを生じることがあります。
仙腸関節障害では、安静や鎮痛剤、骨盤ゴムベルトなどの保存的治療がまず選択されます。痛みの改善が見られない場合には、関節に局所麻酔剤を注射する仙腸関節ブロックや、仙腸関節固定術などが検討されます1) 10)。
その他の病気
上記で挙げた以外にも、下記のような病気で急な股関節の痛みが生じる場合があります11)。
- 神経性の病気
- 膠原病
- 感染症
- ロコモティブシンドローム(運動器症候群)
股関節の痛み以外に腫れや発熱など、他の症状がある場合は速やかに医療機関を受診してください。
股関節の痛みを予防する方法
股関節に急な痛みを感じたら、まずは医療機関を受診しましょう。思わぬ病気が原因となっている可能性があります。
股関節の痛みを生じさせないために、日ごろからできるセルフケアとしては次のようなものが挙げられます。
- 適度な運動
- ストレッチ
- 減量
- 骨粗しょう症予防
適度な運動やストレッチは筋力低下につながります。標準体重よりも重い場合は、ダイエットで股関節の負荷を軽減してあげることも有効です。
骨粗しょう症は骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気です。とくに閉経後の女性は、女性ホルモンの減少により発症しやすくなるため注意しましょう。骨粗しょう症はバランスの良い食事や適度な運動などで予防できます1) 6) 12) 13)。
股関節が急に痛む時はまず整形外科へ!
股関節に急に痛みを生じる原因疾患は、一つではありません。全身性の疾患が股関節に痛みを生じさせているケースもあるため、必ず整形外科を受診しましょう。
また、日ごろから適度な運動・ストレッチを続け、股関節の筋力を保つことも大切です。骨粗しょう症になると、骨折による寝たきりのリスクも上がります。股関節だけでなく全身の健康にもつながるため、骨粗しょう症予防を意識して日常生活を見直してみましょう。
医師コメント
ここでは手術方法に関して説明します。
近年、関節リウマチは生物学的製剤の進歩により手術まで必要になるケースはかなり少なくなっています。その他の疾患もほとんどはリハビリがメインとなるため、手術まで必要になるのは、変形性股関節症、大腿骨頭壊死、大腿骨頚部骨折の3つになります。
大腿骨頚部外側骨折(転子部骨折)は、「髄内釘」と呼ばれる内固定材料で骨折部分を固定する骨接合術が行われます。
それ以外の場合は、骨盤側・大腿骨側をともに金属に入れかえる人工関節置換術や、大腿骨側だけを金属に入れかえる人工骨頭置換術が行われるケースが多いです。もちろん出血や感染などのリスクはありますが、人工関節の耐久年数は20−30年程度と安定しています。膝関節と比較しても手術の満足度は高い傾向にあるため、投薬やリハビリだけでは痛みが我慢できない場合などは、主治医の先生と治療方法をよく相談してください。
【参考】
1)朝日新聞Reライフnet 「股関節に痛みが……原因と考えられる疾患、対処法を整形外科医が解説」
2)公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性股関節症」
3)公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「大腿骨頭壊死症」
4)公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「関節リウマチ」
5)公益財団法人 日本リウマチ財団 リウマチ情報センター 「関節リウマチの治療-手術療法」
6)公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「大腿骨頚部骨折」
7)南江堂 大腿骨頚部/転子部骨折 診療ガイドライン 2021 改訂第3版 p.68
8)一般社団法人 日本スポーツ整形外科学会 スポーツ損傷シリーズ 「11.鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)」
9)社会福祉法人 恩賜財団 済生会 大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)
12)公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「骨粗鬆症(骨粗しょう症)」
13)一般社団法人 日本内分泌学会 一般の皆様へ 閉経後骨粗鬆症
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