記事監修者:中原 義人 先生
膝を曲げ伸ばしした際に、膝の裏にピキッとした痛みを感じた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?本記事では、膝の裏が痛いときに疑われる病気とその特徴的な症状について詳しく解説します。また、痛みが軽い場合の対処法と、医療機関を受診するタイミングについてもお伝えします。ぜひ参考にしてください。
膝の裏の構造
膝関節は大腿骨・脛骨・腓骨・膝蓋骨(いわゆる膝の皿)の4つの骨から構成される関節です。
膝関節を後ろから見ると、たくさんの筋肉や靭帯で支えられていることがわかります。膝の裏側にある大きな筋肉はまとめて「ハムストリングス」と呼ばれ、次の3つの筋肉から成り立っています1)。
- 大腿二頭筋
- 半膜様筋
- 半腱様筋
ハムストリングスは、膝関節を曲げるときや、股関節を伸ばすときに働きます。なおハムストリングスが固くなると膝の痛みだけでなく、腰の痛みをきたすこともあります。
また、膝窩筋も膝の裏側の重要な筋肉です。膝関節を曲げたり、下腿(膝から足首まで部分)を内側にねじったりするときに働きます。
膝の裏側の靭帯はまとめて「後外側複合体」と呼ばれ、外側側副靭帯、弓状靭帯、膝窩筋腱から成ります。膝の外側を支持する役割を果たす靭帯1)です。
このように、膝裏には膝に負担をかけずに動かすための組織が集まっている2)のです。
膝関節について詳しく知りたい方は、次の記事もご覧ください。
▶ひざ関節の仕組み
膝の裏が痛いときに疑われる病気
激しい運動や使いすぎによる炎症で膝の裏に痛みが出る場合もありますが、病気が原因となって膝裏の痛みをきたすケースもあります。ここからは、膝の裏が痛いときに疑われる病気について、痛みが起きやすい場所や動作に触れつつ、解説します。
変形性膝関節症
膝関節の軟骨のすり減りで発症する病気です。男性よりも女性に多くみられます3)。
変形性膝関節症では、初期段階から歩き始めや立ち座り、階段昇降などの動作で膝の裏に痛みを感じる4)場合があります。症状が進むと、安静時に痛みが続くようになることも5)。
また、変形性膝関節症に特徴的な症状として、ひざに水が溜まったり、変形をきたしたりすることが挙げられます。放置すると変形が進み、歩行などの日常動作に支障をきたすこともあるため、早期に治療を開始することが重要4)です。
ベーカー嚢腫
膝の裏にコブのような腫れがある場合は、ベーカー嚢腫が疑われます。
膝関節は、関節液で満たされた関節包という袋状の組織に包まれています。さらに、膝関節内には筋肉や腱などをスムーズに動かすための滑液包という小さな袋状の組織が存在します。
何らかの原因で炎症が生じ、関節液(滑液)が過剰に分泌されて関節包や滑液包に溜まると、腫瘤(しこり)が生じます。これがベーカー嚢腫です。
中年以降の女性に多くみられます5)が、子どもにできる6)ことも。膝の後ろが張ったような感じや、曲げづらさなどが主な症状ですが、痛みやしびれを感じることもあります。また、変形性膝関節症や関節リウマチに合併して発生する4)こともあります。
半月板損傷
スポーツ外傷で多くみられる半月板損傷。ジャンプの着地時や歩行転換時など、膝関節に体重がのった状態で膝を強くひねったり、キック動作を繰り返し行ったりすることなどが原因で発生7)します。また、長時間の立ち仕事や、重い荷物の持ち上げなど、膝に過度な負担がかかると半月板が損傷することがあります。
膝の曲げ伸ばしの際に痛みやひっかかりが生じ、日常生活が困難になることも。重症になると、膝のロッキング(膝に引っかかりが生じ動かない状態)をきたす4)こともあります。また、半月板損傷は膝の安定させる靭帯の損傷との合併が多い7)点も特徴です。
後十字靭帯損傷
後十字靭帯は、大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯です。脛骨が後ろへずれないように防ぐ役割を持っています。
膝の正面から大きな外力を受けることで損傷する8)ため、フルコンタクトスポーツや交通事故などで多くみられます4)。受傷直後は痛みや腫れを生じますが、次第に改善し、日常生活には困難をきたしません。ただし、適切な治療を受けないと膝関節が不安定になり、膝を伸ばしたときに生じる膝裏のピキッとした痛み4)や、スポーツ時の違和感などが残る8)状態が続きます。
反張膝
反張膝とは、脚が後ろ側に反ってしまっている状態のことです。ひざを伸ばすと必要以上に膝裏が伸ばされ、ピキッとした痛みが生じます。
生まれつきの反張膝の方もいますが、後天性の反張膝の原因としては過去の怪我や脳卒中などの後遺症による麻痺などが挙げられます。また、筋力不足や悪い姿勢などが原因となって起きる4)場合もあります。
反張膝は大腿四頭筋や下腿三頭筋に大きな負担をかけ、膝関節や足の変形を生じさせる9)こともあるため、早期に治療を検討しましょう。
関節リウマチ
関節内の滑膜が異常に増殖し、関節内に慢性の炎症を生じさせる疾患です。進行すると、関節の破壊や変形が起こり、日常生活に支障をきたします。
関節リウマチは手の指や足の指に、左右対称の腫れやこわばりを生じさせることで知られていますが、膝関節に炎症を生じさせることもあります。膝関節に病変が及ぶと、痛みや腫れのほか、関節内に水が溜まるなどの症状を引き起こします。
関節リウマチでは早期の治療が重要です。抗リウマチ剤と非ステロイド性消炎剤を使った薬物療法が基本ですが、補助療法として薬剤の関節内注射を行うこともあります。薬物療法と同時に、リハビリテーションや理学療法も行われます10)。
深部静脈血栓症
「エコノミークラス症候群」という名前でも知られる、緊急性の高い病気です。寝たきりの方や、避妊薬などのホルモン剤を飲んでいる方はとくに注意が必要11)です。
長時間同じ姿勢を続けることで、膝の中心を走る深部静脈に血の塊(血栓)ができてしまいます4)。片脚全体、またはふくらはぎが突然赤黒くはれ上がり、痛みが生じます。放置すると腫れが続いて皮膚が変色したり、潰瘍が起きたりすることも。血栓が脚の静脈から心臓や肺に流れて肺の血管に詰まると、肺塞栓症に移行11)します。
肺塞栓症になると、突然の胸の痛みや呼吸困難、喀血をきたします12)。命にかかわるため、深部静脈血栓症が疑われる段階で、必ず医療機関を受診してください。
膝の裏が痛いときのセルフケア
膝の裏の痛みが軽い場合には、ストレッチやマッサージなどを試してみましょう。テニスボールやマッサージ器具を使うほか、ご自身の手でマッサージをするのもおすすめです。また、冷えが痛みを増悪させることもあるため、お風呂やカイロなどで温めるのもよいでしょう。
ただし、セルフケア中に痛みが悪化した場合などは直ちに中止してください4)。
膝の裏の痛みで病院を受診するタイミング
次のような場合には、膝の裏の痛みを放置せず、すぐに医療機関を受診してください4)。
- 大きな外力を受けて膝裏の痛みが生じた場合
- 痛みが激しい場合
- 痛みがなかなか改善しない場合
- 腫れや変色など、痛み以外の症状がある場合
膝関節の使い過ぎなどによる一時的な炎症の場合は、自然治癒も見込めます。ただし、外傷や病気が原因の場合、早期に適切な治療を受けなければ、日常生活に支障をきたす後遺症が残る可能性があります。
膝の裏が痛い原因はさまざま!早めに病院へ行って痛みの原因を特定しよう
膝の裏の痛みは、使いすぎによる炎症のほか、外傷や病気によっても発生します。いずれの場合も原因を特定し、早期に治療を開始することで改善が見込めるでしょう。膝裏の痛みで不安なことがある場合は、お近くの整形外科にご相談ください。
【理学療法士からのコメント】
膝裏の痛みには様々な原因が考えられますが、その中の1つである反張膝についてご説明します。反張膝の原因は元々の関節の緩さなども影響しており、太ももの筋力が低下することで膝をつっかい棒のように伸ばしきることが癖になると、膝裏の靭帯等に負担がかかり痛みが生じるという悪循環に陥ってしまいます。1日に10回程度でも良いのでスクワットを行ったり、椅子から立つ・座る際に10秒くらいかけてゆっくり行うスロトレなども効果的です。膝裏の痛みは関節周囲の組織の問題だけでなく、リウマチや血管の病気など様々な要因が影響している可能性があります。痛みによって歩行に制限が生じていたり、動いていなくても痛みがある(安静時痛)などの場合は早期に医療機関を受診しましょう。
【参考】
1) 医療法人幸鷺会 森整形外科リハビリクリニック 膝の構造(骨、関節、軟骨、靭帯など)について
2) 東京神田整形外科クリニック 膝の裏の痛みに隠れた危険信号と急に痛む膝裏の原因と解決方法とは?
3) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「変形性膝関節症」
4) ひざ関節症クリニック 膝の裏が痛い原因は?考えられる病気と治し方・ストレッチ方法を解説
5) 表参道イーグルクリニック 膝の裏が痛いときに考えられる病気
6) 医療法人西田会 にしだ整形外科 8.ベーカー嚢腫
7) 一般社団法人 日本スポーツ整形外科学会 スポーツ損傷シリーズ 33.半月板損傷
8) 東京逓信病院 後十字靭帯損傷とその治療
9) 再生医療専門クリニック リペアセルクリニック 大阪院 反張膝を治すには再生医療がおすすめ!原因や主な治療法を解説
10) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「関節リウマチ」
11) 日本血管外科学会 血管の病気を知ろう!予防にいかそう!血管の病気(血管病)について 深部静脈血栓症って?
12) 東京大学医学部付属病院 循環器内科 肺塞栓症
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