【医師監修】五十肩とは?肩の痛みの原因となる病気や自分でできる予防法もあわせて解説

中年以降に見られる「五十肩」では、肩の痛みや肩関節の運動制限が生じます。本記事では、五十肩の病態について詳しく解説するとともに、治療法・予防法を紹介します。

五十肩とは?1)

「五十肩」とは、「肩関節周囲炎」の通称です。中年以降、とくに40~50代によく見られるため、「四十肩」「五十肩」と呼ばれるようになりました。江戸時代の書物「俚諺集欄(りげんしゅうらん)」にはすでに「五十肩」という言葉が登場しており2)、古くから日本人が肩の痛みに悩まされていたことがうかがえます。

五十肩は、肩関節を構成する骨や軟骨、靭帯、腱などの老化により、肩関節の周囲の組織に炎症が起きていることで生じていると考えられています。五十肩を起こす炎症として代表的なものは、腱板炎、上腕二頭筋長頭腱炎、腱板疎部炎などです。

症状としては、肩関節まわりの痛みのほか、腕を上げたり水平に保つことが困難であったり、後方に回せなかったりといった運動制限が特徴的です。さらに、眠れないほどのズキズキとした痛みが夜間に生じることも。肩峰下滑液包や関節包の癒着があると、さらに肩関節の動きが制限され、拘縮(関節の動きがかたくなること)や凍結肩(英語名:frozen shoulder)と呼ばれる状態にまで悪化してしまうケースもあります。

上にあるものが取りづらい、洗濯物が干しづらい、洋服の背中のファスナーが上げられないなどの症状3)から、五十肩に気付く人も。ただし、症状は人によって異なるため、安易に「五十肩」だと断定してしまうのは禁物です。

五十肩と間違えられやすい病気

肩関節の痛みや運動制限は、五十肩以外の病気でも見られる場合があります。ここからは五十肩と間違えられやすい病気を、それぞれの特徴とともに紹介します。

肩こり4)

肩こりは五十肩同様、肩関節付近に痛みを生じさせますが、その痛みは僧帽筋や頭半棘筋肉、肩甲挙筋、菱形筋などといった筋肉から来るものです。悪化すると頭痛や吐き気を伴うことも。長時間同じ姿勢での作業、ストレス、冷房などが原因といわれています。

翼状肩甲(翼状肩甲骨)5)

腕を前に上げるときに肩甲骨の内側が浮き上がり、天使の羽のように見える点が特徴です。主な原因は前鋸筋を支配する長胸神経の麻痺です。テニスやゴルフ、体操の吊り輪、重量挙げ、バレエのほか、腕を上げた状態で横向きに寝たり、重いリュックを背負ったりした後に生じることがあります。

翼状肩甲の場合は、診察にて五十肩との鑑別が可能です。ただし、リンパ節の生検や郭清術後の副神経麻痺、肩関節外転拘縮、肩関節外旋拘縮、進行性筋ジストロフィーなどでも同様の症状が見られるため、専門医のもとで診断を受けることをおすすめします。

肩腱板断裂6)

40歳以上、とくに60代で好発する病気です。女性よりも男性に発症しやすく、肩の運動障害や痛みを生じます。五十肩と異なるところは、多くのケースで腕を上げることが可能である点、拘縮が少ない点です。

肩腱板断裂の半数は日常生活の中で起きており、男性の右肩に多いことから肩の使い過ぎが関わっているといえるでしょう。なお若い年齢では野球などのスポーツの投球肩で不全断裂が起きる場合があります。

石灰沈着性腱板炎7)

夜間に突然生じる肩関節の痛みが特徴的な病気です。名前のとおり、肩腱板内に石灰(リン酸カルシウム結晶)が沈着し、急性の炎症が生じるのです。眠れないほどの激烈な痛みで、関節を動かせなくなります。40~50代の女性に多く見られ、症状の強さと期間によって急性型・亜急性型・慢性型に分けられます。

五十肩と症状がよく似ているため、鑑別診断はX線(レントゲン)撮影で行います。腱板部分に石灰が沈着している場合、石灰沈着性腱板炎と診断されます。

腕神経叢損傷8)

腕神経叢は第5頚神経~第8頚神経(C5~C8)、第1胸神経(T1)からなる神経の集合部分です。腕神経叢損傷とは、その名のとおり腕神経叢が何らかの原因で損傷を受けた状態です。高速で移動するオートバイやスキーなどでの転倒、機械に腕が巻き込まれて腕が引き抜かれるような外力がかかった場合などに生じるほか、お産の際にも生じることがあります。

腕神経叢の損傷部位により、運動麻痺や感覚障害、自律神経障害が現れます。五十肩同様、腕を上げる動作ができなくなる場合もありますが、腕神経叢損傷ではさらに肘を曲げる動作ができなくなり、肩を回す力や手のひらを上に向ける力の低下、上腕と前腕の外側部分に感覚障害が見られるのが特徴です。

胸郭出口症候群9)

腕神経叢や鎖骨下動脈・静脈が絞めつけられたり、圧迫されたりすることで起きる疾患です。神経障害と血流障害による痛みやしびれ、感覚障害、握力低下などの運動麻痺、手のひらの筋肉の萎縮などが見られます。アドソンテストやライトテストなどの検査、X線による頚肋(けいろく:胎生期の肋骨遺残物)10)の有無などで五十肩を含む他の病気と鑑別します。

その他の病気

上記で紹介した以外にも、骨折や脱臼などの外傷、繰り返す肩脱臼(反復性肩脱臼)11)、骨や軟部組織の悪性腫瘍12)などにより、肩の痛みや運動制限が生じる場合があります。

五十肩の診断・検査13)14)

診察室では、主に問診や視診、触診などを行います。痛みや運動制限のない側(健側)との比較や、可動域の確認などもあわせて行います。そのほか、X線(レントゲン)やエコー(超音波)、MRIなどで、肩の痛みの原因が五十肩以外にないかを確認することもあります。

五十肩の治療法1)

五十肩の治療法は、痛みの程度により変わります。痛みの強い急性期には、三角巾などで患部を安静に保ちます。消炎鎮痛剤の内服、ステロイドやヒアルロン酸の注射も検討されます。急性期を過ぎると、ホットパックや入浴などの温熱療法、拘縮予防や筋力強化のための運動療法などのリハビリテーションを開始します。

五十肩は自然治癒するケースもありますが、放置すると、拘縮や凍結肩と呼ばれる状態になり、肩関節が動かなくなってしまうことも。日常生活に支障をきたすため、専門医のもとで適切な治療を受けることが大切です。

なお、すでに拘縮が重度な場合や痛みがなかなか改善しない場合、リハビリ後も可動域の改善が乏しい場合などは、手術を検討することもあります。外科的処置・手術としては、診察室で行える「非観血的肩関節授動術」や関節鏡を用いる「鏡視下肩関節包解離術」などがあります14)

五十肩の予防法14)

五十肩はある程度自分でも予防ができる病気です。まずは自分の姿勢が悪くないかをチェックしてみましょう。意識的に姿勢の悪さを改善2)し、日ごろから適度な運動で肩関節を動かしておくことが重要です。腕を大きく振るウォーキングなどからはじめてみましょう。

また、日常的に肩を冷やさないようにする工夫も大切です。肩掛けを使う、入浴時はしっかり肩まで温めるなど、日常生活に少しプラスするだけで、五十肩予防になります。

五十肩の予防ストレッチ

ここからは五十肩の予防につながるストレッチを紹介します。五十肩の痛みの改善にも効果が期待できるので、ぜひお試しください。なお、痛みが強い場合や動かして痛みが生じた場合は、直ちに中止して安静にしましょう。

座位での肩甲骨アップダウン15)

  1. 椅子に座って姿勢を正し、肩・腕の力を抜きます。手は床に向かって下げておきましょう。
  2. 猫背にならないよう気をつけながら、両肩だけをゆっくりと上げます。
  3. 同じくらいの秒数をかけ、今度は両肩だけをゆっくりと下げて元の姿勢に戻りましょう。

※上げる・下げるを1セットとして、10セット繰り返してください。

四つん這いでの肩甲骨アップダウン15)

  1. 肩の真下に手首、膝の真下に膝が来るよう、四つん這いになりましょう。
  2. 背筋を伸ばして肘が曲がらないように気をつけながら、両方の肩甲骨を頭の方にゆっくりと動かします。この時、頭や腰が動かないよう注意しましょう。
  3. 同じくらいの秒数をかけ、両方の肩甲骨をおしりの方へゆっくりと動かし、元の姿勢に戻りましょう。

※1往復を1セットとして、10セット繰り返してください。

振り子体操2)15)

  1. 足を肩幅に開き、腰の高さの台やテーブルなどに向き合って、そこに両手をおきます。
  2. 痛む方の肩の力をしっかりと抜き、腕をだらんと床に向かって垂らしましょう。痛くない方の腕は、台に残して体を支えてください。
  3. 痛む方の腕を「振り子」のようにして、前後左右に10往復ほど動かしましょう。

日頃から肩を動かして五十肩を予防しよう

五十肩は誰にでも起こりうる病気です。しかし、日常的に肩関節を動かしたり、肩を温めたりすることで、予防することは可能です。もしも肩の痛みが生じた場合は、五十肩と似た症状を呈する他の病気のおそれもあるため、できるだけ早く医療機関を受診してください。

医師からのコメント
50肩は非常によくある疾患です。痛みが長く続く方もいますが、ほとんどの場合は自然に痛みが引くため手術などになるケースはごく稀です。

そのため自分で体操をして治すという方も多いと思いますが、1つだけ重要な注意点があります。それは、「痛くて夜に起きてしまう」時期はリハビリをしないことです。そのような時は、炎症が非常に強く起きている時期です。そんな時に無理にリハビリで動かしてしまうと、痛みが長く続いたり、拘縮の原因になってしまうことがあります。市販の痛み止めでは、夜起きてしまうほど痛みには効果が十分ではないこともありますので、そのような場合は整形外科を受診して違うタイプの痛み止めを処方してもらったり、ステロイド注射を打ってもらうことをお勧めします。

【参考】

1) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「五十肩(肩関節周囲炎)」

2) 日本薬師堂 健康コラム 四十肩・五十肩とは?

3) 医療法人社団 永井整形外科医院 症状から見たよくある疑問 五十肩って?

4) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「肩こり」

5) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「翼状肩甲骨(翼状肩甲)」

6) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「肩腱板断裂」

7) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)」

8) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「腕神経叢損傷(わんしんけいそうそんしょう)」

9) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「胸郭出口症候群」

10) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「頚肋」

11) 一般社団法人 日本スポーツ整形外科学会 スポーツ損傷シリーズ 7.反復性肩関節脱臼

12) 新潟県立がんセンター新潟病院 骨軟部腫瘍・整形外科:骨に発生する肉腫

13) 医療法人社団 景翠会 金沢病院 五十肩(四十肩)の症状チェックと治療法/やってはいけないことは?

14) 洛和会ヘルスケアシステム 丸太町リハビリテーションクリニック 肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)

15) 医療法人上野会 上野会クリニック 四十肩・五十肩

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