記事監修者:中原 義人 先生
「肩を上げようとすると痛い」「重だるくて肩を上げられない」と、肩が上がらない症状にお悩みの方に向けて、本コラムでは肩が上がらないときの原因となる疾患を解説します。また、ご自身でできる治し方とやってはいけないことを紹介します。肩の痛みによる可動域制限でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
肩が上がらない原因
肩が上がらなくなる原因には、さまざまなものが考えられます。ここでは、肩が上がらない原因となる主な疾患を詳しく解説します。
頚肩腕症候群(肩こり)
首すじや首の付け根から肩や背中にかけて張りやコリ、痛みなどを生じている状態です。悪化すると、頭痛や吐き気などをともなったり、肩を上げるのが困難になったりすることも。筋肉の疲労や血行障害などが原因として考えられていますが、頚椎疾患や頭蓋内疾患、高血圧症などさまざまな病気の随伴症状として起きる場合もあります1)。
肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)
「四十肩」「五十肩」とも呼ばれるように、40代以降でよく見られる病気です。肩関節を構成する骨や軟部組織などの老化により、肩関節の周囲組織に炎症が起きていることが原因とされています。
痛みや腕を上げられないこと以外にも、腕を水平に保ったり、後ろ側に回せなかったりなど、特徴的な運動制限が生じます。また、滑液包や関節包の癒着をきたすと、さらに動きが制限される「拘縮」と呼ばれる状態になってしまいます2)。
肩関節周囲炎について詳しく知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
▶【医師監修】五十肩とは?肩の痛みの原因となる病気や自分でできる予防法もあわせて解説
肩腱板断裂
40歳以上の男性の右肩で好発する病気です。外傷により生じることもありますが、日常生活動作の中で肩腱板断裂を生じた場合は、腱板の老化と使いすぎによるところが大きいと考えられています。
先述した肩関節周囲炎とは異なり、「拘縮」となることは稀ですが、肩の挙上時に痛みや脱力感、ジョリジョリというような軋轢(あつれき)音が生じることもあります3)。また、完全に断裂した場合は挙上困難となってしまう場合もあります。
石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)
40~50歳代の女性に好発する病気です。肩腱板内にリン酸カルシウム結晶が沈着し、それによって炎症が起こって急激な痛みを生じさせます。この痛みは夜間に突然生じることも多く、痛みで眠れないことも。肩関節自体を動かすことができなくなるため、肩を上げることもできません4)。
変形性肩関節症
膝関節や股関節よりも発症率は低いものの、肩関節に変形性関節症が生じるケースもあります。首から肩にかけての痛みが生じることもありますが、脇の下から肩関節の外側部分の痛みを訴える患者さまも多いのが特徴です。また、運動障害や関節の腫れなどをともないます。
一次性の変形性肩関節症は原因不明とされています。二次性の変形性肩関節症は、腱板断裂や関節リウマチ、過去の骨折などが誘因となっています。アルコールの過剰摂取やステロイドの服用による上腕骨頭壊死が原因となるケースもあります5)。
脱臼・反復性肩関節脱臼
肩関節は骨と骨との接触面が浅いため、脱臼しやすい関節です。次のような脱臼を起こす可能性があります。
- 肩関節脱臼/亜脱臼
- 反復性肩関節脱臼(肩関節不安定症)
- 肩鎖関節脱臼
脱臼すると、肩関節が外れてしまうため、腕が上がらなくなります。ご自身で治せる程度の脱臼を「亜脱臼」、他人による整復が必要な脱臼を「脱臼」と呼び分ける場合もありますが、どちらも外傷である6)ことに変わりはありません。
肩関節脱臼や肩関節亜脱臼は、腕を後ろに引っ張るような強い力が加わることにより発生6)します。最初の脱臼で小さな骨折や靭帯の断裂が生じると、脱臼を繰り返しやすい状態に陥ります。これが反復性肩関節脱臼(肩関節不安定症)、いわゆる「脱臼ぐせ」です7)。
上腕骨と肩甲骨が外れる肩関節脱臼に対し、肩を強打して鎖骨と肩甲骨がずれてしまった状態を肩鎖関節脱臼と呼びます。肩を動かしたときだけでなく、肩鎖関節を押したときにも痛みを生じるのが特徴8)です。
鎖骨骨折
鎖骨骨折は、交通事故や転倒などによる肩の打撲を契機に起こる骨折です。激痛と強い腫れを生じ、腕はまったく上がりません。保存的治療の場合は装具を使いますが、その装具を使用している期間も腕を上げることはできません9)。
肩が上がらないときに自分でできる治し方
ここからは、肩が上がらないときに試せるセルフケアをご紹介します。
安静にする
肩関節周囲炎など炎症による強い痛みがある場合は、安静にしましょう。無理に肩関節を動かすと、痛みが強くなるおそれがあります。
痛みで眠れない場合は、できるだけ肩関節を動かさないように軽く固定することも有効です。大きな腹巻やタオルを活用して、肩を冷やさないようにしつつ、固定しましょう10)。
ストレッチをする
強い痛みや腫れ、熱感などがない場合は、肩関節のストレッチを試してみましょう。筋肉をほぐし、血行を改善する効果が期待できます。
肩関節のストレッチについては、次の記事で詳しくご紹介しています。
▶【理学療法士監修】肩こりや五十肩予防・改善に!肩関節のストレッチをご紹介
温める
炎症による強い痛みがある場合は患部を冷やしたほうがよいとされていますが、慢性的な痛みに対しては温めるのも有効です。入浴や温湿布、カイロなどで患部を温めましょう。ただし、低温やけどにはご注意ください11)。
市販薬を使う
痛みが強い場合には、市販薬の使用も検討しましょう。肩関節の痛みに対しては、消炎鎮痛剤を含む湿布や塗り薬のほか、消炎鎮痛剤の内服も有効11)です。
肩が上がらないときにやってはいけないこと
肩が上がらないときにやってはいけないことは、次の通りです。
- マッサージを受ける
- 無理に肩を動かす
- 痛いほうの肩を下にして寝る
- 重い荷物を運ぶ
- 放置する
肩関節周囲炎などで、肩に強い痛みがある場合には、マッサージを受けるのは避けてください。外部からの強い刺激により、炎症や痛みが悪化する可能性があります。無理に肩を動かしたり12)、ご自身で強くもみほぐしたりするのも禁物です。
痛いほうの肩を下にして横になると、患部に体重がかかって痛みが強くなる場合があります。また、重い荷物を運ぶなど、肩関節に負担をかける行動は避けるようにしましょう12)。
肩関節の痛みや、肩が上がらない症状が続く場合は、放置してはいけません。とくに、肩関節周囲炎が疑われる場合は、拘縮や凍結肩などでQOLが著しく下がる場合があります。必ず医療機関を受診しましょう。
肩が上がらないときの病院での治療法
肩が上がらない症状がある場合に、病院で検討される代表的な治療法は次の通りです。
- 保存療法
- 手術
- 再生医療
それぞれについて解説します。
保存療法
まず検討されるのは、保存療法です。関節の痛みを抑える薬剤の処方や、関節の痛み・動きを改善させるヒアルロン酸注射など、薬物療法をメインに、症状に応じて物理療法やリハビリテーション・運動療法を組み合わせて改善を目指します13)。
手術
一部の外傷や、保存療法で効果がみられなかった場合には、手術療法が検討されます。現在では、関節鏡を使った手術が広く行われています。従来の手術と比べて、患者さまの体への負担が少ないことがメリット14)です。
再生医療
新しい「再生医療」で肩関節の痛みの改善を図ることも可能です。肩関節が痛みで上がらない場合などには、「PRP(Platelet Rich Plasma)療法」と呼ばれる、ご自身の血液を利用した再生治療を受けられます。
PRP療法のメリットは、ご自身の血液を使うため、拒絶反応やアレルギー反応が起こりにくいこと15)です。しかし、自由診療で費用が高額になることや、未知の副作用が起きる可能性があることから、慎重に検討しなければなりません。
肩が上がらないときは整形外科に相談を!
肩や腕が上がらない原因には、さまざまな病気があります。早期に治療を開始しなければ、QOLを著しく下げてしまう疾患もあるため、注意が必要です。肩の痛みや運動制限が続いている場合は、早めに整形外科を受診してください。
【理学療法士からのコメント】
肩関節は体の関節の中で特に可動域が広く、また、複数の筋肉がバランスを取りながら支えられている部分も多いため不安定な構造となっています。外からの力の影響を受けやすく、様々な要因で痛みや挙上困難を生じやすいのです。特に腕を大きく動かすスポーツ(野球やバレーボール、テニスなど)や仕事で重いものを持つことが多い場合は、肩に慢性的なストレスがかかっている可能性が高いため、痛みや上がらないなどの症状が出たら早めに受診することをお勧めします。
また、長時間のパソコン作業などによる肩こりも、慢性化すると肩のスムーズな動きを制限し、関節の炎症につながることもあります。両手を組んで深呼吸をしながらバンザイをしたり、体の後ろで手を組んで胸を張るように伸ばすなどの簡単なストレッチを行うだけでも、肩周囲の筋肉の緊張を和らげる効果が期待できます。また、歩くときに腕をしっかり振ることも、肩の健康には重要です。いつの間にか緊張していることの多い肩周りの筋肉を和らげて、肩の傷害を予防しましょう。
【参考】
1) 公益財団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「肩こり」
2) 公益財団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「五十肩(肩関節周囲炎)」
3) 公益財団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「肩腱板断裂」
4) 公益財団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)」
5) 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト KOMPAS 変形性肩関節症
6) 独立行政法人労働者健康安全機構 関東労災病院 肩関節脱臼について
7) 一般社団法人 日本スポーツ整形外科学会 スポーツ損傷シリーズ 7.反復性肩関節脱臼
8) 独立行政法人 国立病院機構 霞ヶ浦医療センター 肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)
9) しのだ整形外科 肩がこる・上がらない
10) Kracie Kampoful life by クラシエの漢方 四十肩で腕が上がらないのはなぜ?肩関節周囲炎の原因や症状、診断方法を知ろう!四十肩・五十肩の症状回復におすすめストレッチ体操【図解】
11) アリナミン製薬株式会社 五十肩でやってはいけないこととは?痛みを緩和する方法も紹介
12) 医療法人社団一志会 高橋整形リハビリクリニック 肩が痛い
13) 日本薬師堂 【医師監修】四十肩・五十肩コラム 腕が上がらない!四十肩・五十肩の症状と治療法、セルフケアを解説
14) 社会医療法人 山弘会 上山病院 「肩が痛くて上がらない」でお困りの方へ
15) 医療法人社団康静会 赤羽ウェルネスクリニック PRP肩関節注射
記事監修者情報