記事監修者:松繁 治 先生
関節や筋肉の痛みがある場合、医療機関にかかるべきか、民間の整体や整骨院、接骨院に行くべきか悩む方も多いのではないでしょうか。本記事では、整形外科と整体・整骨院・接骨院の違いを詳しく解説します。
整形外科とは?
整形外科は、骨や関節、筋肉・腱、末梢神経、脊椎・脊髄の治療を行う診療科です。専門とする分野ごとに、下記のように細かく分けて記載される場合もあります。
- 脊椎外科
- 手の外科
- 肩関節外科
- 股関節外科
- 膝関節外科
- 足の外科
- スポーツ医学
- リウマチ外科
- 骨・軟部腫瘍外科
- 骨代謝外来など
医師(整形外科医)の診察による理学初見や、レントゲン(X線)・CT・MRIなどの画像検査をもとに診断します。
スポーツや交通事故、仕事中の事故(労働災害)などによる打撲・捻挫・骨折などの外傷をはじめ、変形性膝関節症や変形性股関節症に代表される加齢疾患、骨粗鬆症、関節リウマチや痛風、悪性腫瘍、先天性疾患まで、幅広い疾患を扱います。新生児からお年寄りの方まで、患者さまの年齢層が幅広いことも整形外科の特徴の一つです1)。
形成外科との違い
形成外科は、主に皮膚の問題を専門に扱う外科になります。病気や怪我によって変化したり、先天異常などによる見た目の改善を目的に治療を行います。治療対象は全身で、下記のような疾患・怪我に対する治療を行っていますが、特に鼻骨や頬骨など顔面部の骨折は形成外科で治療をすることが多いです2)。
- やけど(熱傷)
- 外傷による皮膚のトラブル
- 手術後の皮膚の瘢痕(傷跡)・ケロイド
- 皮膚・皮下の腫瘍
- 先天性のあざ(母斑)
- 先天性の変形・以上(口唇裂・口蓋裂・小耳症・合指症・多指症など)
※合指症や多指症、手指の切断・外傷に対しては、整形外科で治療を行うケースもあります。
形成外科は、第二次世界大戦後、欧米を中心に急速に発展した、比較的新しい診療科です。日本においては、1956年、東京大学病院の整形外科の中に、形成外科の診療班が作られたのが始まりです。それまでは、形成外科の治療範囲であるやけどや口唇裂の治療は整形外科で行われていました。
1958年には日本形成外科学会が正式に誕生しましたが、日本医学会の分科会の一つとして公認されたのは1972年でした。また、1977年までは、整形外科や耳鼻科など、関連診療科の教授が学会長を務めていました。その後は形成外科の教授が学会長を務めています3)。
このように、日本の形成外科が整形外科のなかからスタートしたこともあり、現在でも整形外科と形成外科は混同されがちなのです。
美容整形(美容外科)との違い
美容外科は前述した形成外科の一分野で、いわゆる「美容整形手術」を行う科です。まぶたを二重にする手術や鼻を高くする隆鼻術、フェイスリフト、脂肪吸引、あざを消すためのレーザー照射などが、美容外科の代表的な手術です。
整形外科は運動器の機能改善を目的に診察・治療を行いますが、美容外科は主に容姿の改善を目的にしています4)。美容外科の診療は保険適用とならず、全額自己負担となります5)。
整体とは?
整体は、骨盤や背骨の骨のズレなどを調整し、筋肉の疲労やコリをほぐして体のバランスを整える施術を指します。資格を習得する必要はなく、誰でもすぐに開業・施術できる点が特徴です6)。
また、近年ではカイロプラクティックの施術者も増えています。カイロプラクティックはアメリカで考案された脊椎矯正の一つ。整体同様に、日本での公的な資格試験はありません。
整体・カイロプラクティックはともに、法的な根拠のない医業類似行為に分類されます。施術者のレベルはさまざまで、健康被害を生じた例もあるため7)、受ける際には慎重な検討が必要です。
整骨院(接骨院)とは?
整骨院・接骨院は、柔道整復師が施術を行うところです。柔道整復師は国家資格で、柔道整復師の行う施術は医業類似行為に分類されます。柔道整復師の資格のほかに、あん摩マッサージ指圧師やはり師・きゅう師の資格を持つ施術者が在籍している場合もあります。
柔道整復師が扱えるのは、外傷による打撲・捻挫や、骨折・脱臼の応急処置です。慢性的な疾患は取り扱いできません8) 9)。一方で、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師は、慢性疾患を扱えます。
なお、柔道整復師法では「ほねつぎ」「接骨」の広告のみを認めており、「整骨」については規定されていません10)。「整骨院」「接骨院」の増加による競争激化、誇大広告による悪質な集客なども見られているため、厚生労働省は広告ガイドラインを作成し、今後「整骨院」の名称を使用できないように規制する見込みです11)。
健康保険は適用される?
基本的に、医療機関である整形外科では保険適用で診察・治療を受けられます。
一方、接骨院(整骨院)では外傷性の疾患や一部疾患で条件を満たした場合に限り、健康保険を適用して施術を受けることが可能です9)。ただし、柔道整復師の対応範囲以外の施術については、全額自己負担となります。
整体では、健康保険が適用されることはありません。
どこを受診すればいい?
整形外科・整体・接骨院(整骨院)のそれぞれの特徴を踏まえて、どこを受診すればよいのかをご紹介します12)。
▼整形外科が適している方
- 薬がほしい
- レントゲン・CT・MRIなどの画像検査を受けたい
- 出血がある
- 骨折・脱臼の疑いがある
- 外傷の受傷部位以外に症状がある
- 痺れや排尿・排便障害などの神経症状がある
- 歩行や日常動作が困難
▼接骨院(整骨院)が適している方
- 急に生じた痛みがある(捻挫やぎっくり腰など)
- スポーツ障害(シンスプリント・ジャンパー膝など)
- 交通事故による外傷の一部
- 整形外科の検査で異常は見られなかったものの、痛みがある
▼整体が適している方
- リラックスしたい
- 癒されたい
- 定期的に体のケアをしたい
どこに行けばよいかお悩みの場合は、まず整形外科で相談することをおすすめします。
また、一部の接骨院は整形外科などと提携している場合もあります。接骨院での治療が難しい、またはより専門的な治療が必要だと判断されると、提携院へ紹介されるケースもあります13)。
骨や関節の症状が気になるときは、自分に合ったところを受診しよう
整形外科は運動器の機能改善を目的にした診療科であり、接骨院(整骨院)は柔道整復師が医療類似行為として施術を提供する場所です。整体に関しては、施術者の資格は必須ではありません。
ご自身のお悩みに合わせて、行くべき施設を検討しましょう。もしも症状が強い場合や、不安がある場合は、まず整形外科にご相談ください。
【医師からのコメント】
街中には整形外科、接骨院・整骨院、整体などいろいろな施設があります。最近では、「もみほぐし」などと表記している施設もありますが、これは整体と同じと考えていただいていいでしょう。
一番の違いは、整形外科では画像検査ができることと、薬が出せることです。痛みや腫れが強く骨折などの心配がある場合はすぐに整形外科を受診してください。一方、整骨院や整体の良さは、痛みに対してマッサージなどによる処置をおこなってもらえる点です。「もともと腰痛持ちで、ぎっくり腰になった」といった場合は整骨院であったり、「腰痛や頚部痛など慢性的な症状がずっと続くけど、病院に行くほどでもないな」といった場合は整体などで治療をしてもらってもいいかもしれません。ただマッサージなどの処置による痛みの改善には個人差があるため、症状が悪化するようであれば一度病院を受診しましょう。
【参考】
1) 公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科のかかりかた
2) 公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科と形成外科
3) 一般社団法人 日本形成外科学会 日本形成外科学会の歴史
4) 公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科と美容外科
5) 公立学校共済組合 関東中央病院 病気のはなし 形成外科と整形外科、美容外科
6) サンキューグループ 整形外科・整骨院・整体の違いとは?具体的に分かりやすく解説
7) 公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科とカイロプラクティック
8) 公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科と接骨院(いわゆる整骨院)
9) 横浜市 柔道整復師(整骨院・接骨院)の治療を受けるとき
10) 厚生労働省 令和6年7月12日 第11回あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会 資料3 「整骨院」に係るガイドライン上の取扱いについて
11) 東京新聞 厚労省のガイドライン案 「整骨院」名称ダメ 競争激化、ネット規制対象外の方向
12) からだ接骨院グループ 接骨院/整体院/整形外科の違い
13) ふれあい整骨院 初めての方へ
記事監修者情報