【医師監修】あぐらをすると股関節が痛いのはなぜ?原因や対処法を解説

あぐらをかくと股関節が痛くなり、日常生活に支障をきたしている方もいるのではないでしょうか。股関節が痛くなる原因はさまざまですが、場合によってはなにかしらの疾患を発症している恐れもあり、注意が必要です。

 

この記事では、あぐらをかいたときに股関節の痛みが生じる原因や疑うべき疾患をご紹介します。症状の程度に応じた適切な対処法を知ることで股関節の痛みをやわらげ、快適な生活を送るきっかけになるでしょう。

 

あぐらをかくと股関節が痛くなる原因は?

あぐらをかくと股関節が痛くなるのには、どのような原因があるのでしょうか。ここでは、おもな原因について解説します。

 

股関節の可動域の悪さ

あぐらをかくと股関節が痛くなるおもな原因の1つとして、可動域の悪さがあげられます。あぐらをかくためには、股関節を以下のように動かす必要があります。

これらの動作を行うための可動域が確保されていないと、股関節に強い負担がかかり、痛みにつながるのです。可動域が制限される要因は、運動不足や長時間のデスクワークなどで筋肉を動かさないことがあげられます1)。とくに、お尻の筋肉や太ももの内側の筋肉が硬くなると股関節の動きが悪くなり、あぐらの姿勢をとりにくくなります。

 

股関節まわりの組織の損傷

股関節まわりの組織が損傷していると、あぐらをかいたときに痛みを感じることがあります。股関節は骨だけでなく、軟骨や靭帯、腱などのさまざまな組織で構成されています。これらの組織が傷ついていると、股関節を大きく動かす際に痛みをともないやすくなるのです2)

詳細は後述しますが、股関節の軟骨がすり減り、痛みが現れている状態の「変形性股関節症」が代表例です。これらの組織の損傷は、日常生活で過度な負担がかかるだけでなく、加齢によって自然に発生するケースもあります。

 

生まれつきによる問題

生まれつき股関節の形状に特徴があり、それが原因で痛みが現れることもあります。股関節の形状は全員が同じではなく、個人差があります。

たとえば、股関節には前捻角(骨盤に対する大腿骨の角度)があり、その角度が大きい場合、外側に開く動きが制限されやすくなるのです3)。その結果、あぐらの姿勢をとりにくくなり、痛みを生じやすくなります。後天的な股関節の問題がない場合でも、先天的な構造の関係であぐらをかくのが難しい方も珍しくありません。

 

あぐらをかくと股関節が痛い場合に疑うべき疾患

あぐらによって股関節の痛みが続く場合は、なにかしらの疾患を疑う必要もあります。ここでは、股関節に関係する代表的な疾患について解説します。

 

変形性股関節症

変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減っている疾患のことです。股関節内の軟骨は、骨と骨の衝撃をやわらげるクッションとしての役割を果たしています。このクッションの役割がある軟骨がすり減ると骨がぶつかりやすくなり、以下のような症状が現れます4)

 

あぐらは股関節を大きく動かす姿勢のため、変形性股関節症を発症していると痛みが現れやすくなるでしょう。変形性股関節症の発症原因としては、加齢や体重増加などがあげられます。また、先天性の股関節の形成不全がきっかけで発症するケースも少なくありません。

 

鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)

鼠径部痛症候群とは、股関節やその周囲に慢性的な痛みを引き起こす疾患です5)。この疾患はスポーツをしている方にみられやすく、とくにサッカー選手に多く発症するとされています。腰痛や下肢の打撲などによって股関節の筋力や可動域が悪くなり、その状態で運動を続けることで痛みが現れはじめます。

 

股関節の組織による問題だけでなく、神経や内臓の疾患なども関係するケースもあるのが特徴です。そのため、股関節に限らず下腹部や肛門部にも痛みが生じることもあります。

 

大腿骨寛骨臼インピンジメント

大腿骨寛骨臼インピンジメントとは、股関節を作っている大腿骨の付け根部分と骨盤側の受け皿(寛骨臼)が衝突することで起こる疾患です6)。股関節は本来、ボールとソケットのような構造になっています。しかし、なにかしらの問題によって骨のでっぱりが生じると、股関節を曲げる際にそれぞれがぶつかりあって痛みが現れるのです。

あぐらは股関節を大きく動かす姿勢のため、大腿骨寛骨臼インピンジメントを発症していると痛みが現れる可能性があります。股関節の痛みだけでなく、可動域制限を起こすケースもあり、症状が進行するにつれて日常生活に支障をきたしやすくなります。

 

股関節唇損傷

股関節唇損傷とは、股関節の動きをサポートしている「関節唇」が損傷する疾患です。関節唇とは、寛骨臼の縁についている軟骨で、股関節の衝撃の緩和や安定性の向上などの役割があります7)

この疾患を発症すると、あぐら姿勢や屈み姿勢などの股関節を曲げた際に痛みが現れやすくなります。股関節唇損傷の原因には、スポーツや股関節の形成異常などによって股関節唇に負担がかかることです。

 

あぐらをかくときに股関節に痛みが出る場合の対処法

あぐらをかくときに股関節に痛みが出ている場合、どのような対策をすればよいのでしょうか。ここでは、具体的な対処法について解説します。

 

股関節まわりのストレッチをする

股関節まわりのストレッチによって筋肉をほぐすことで、あぐらをかいたときの痛みの軽減が期待できます。とくに、ストレッチは股関節の可動域の悪さによって痛みが生じる方におすすめといえます。おすすめのストレッチとしては、以下のとおりです。

 

【お尻の筋肉を伸ばすストレッチ】

 

  1. あおむけに寝る
  2. 片足を胸に近づけるように曲げる
  3. もとに戻る
  4. 交互の足で行う

 

【太ももの後ろ側の筋肉を伸ばすストレッチ】

 

  1. 床に座って足を伸ばす
  2. 足を伸ばした状態で大きく開く
  3. 片方の足に向かって身体を傾ける
  4. もとに戻る
  5. 反対で行う

 

【太ももの内側の筋肉を伸ばすストレッチ】

 

  1. 立った状態で足を開く
  2. 膝を曲げる
  3. 両手を膝に乗せて屈んだ状態になる
  4. 身体をゆっくり捻る
  5. もとに戻る
  6. 反対方向に捻る

 

ストレッチをする際は20秒以上かけて筋肉を伸ばすことを意識しましょう8)。また呼吸を止めず、痛くない程度にストレッチするのがおすすめです。

 

定期的な運動をする

定期的な運動は、股関節まわりの筋力の維持や柔軟性の向上につながります。筋力をつけることで股関節の安定性が高まり、ケガ予防にもなるでしょう。おすすめの運動としては、有酸素運動や筋力トレーニングなどがあげられます。

 

有酸素運動の場合は、気軽に行いやすいウォーキングからはじめるとよいでしょう。有酸素運動は脂肪燃焼効果も期待できるので、減量をすれば股関節の負担軽減にもなります9)。1日20分以上が推奨されていますが、まずはできる範囲からはじめてみましょう。

 

筋トレは、スクワットやランジなどの自重トレーニングであれば自宅でも実施できます。これらの運動は、痛みのない範囲で継続的に行うことが大切です。運動中または運動後に強い痛みや違和感がある場合は、強度を下げるか医療機関に相談することをおすすめします。

 

正しい姿勢を意識する

股関節の痛みをやわらげるためには、日常生活での正しい姿勢を意識することが大切です。姿勢が崩れている状態が続くと股関節まわりの筋肉の柔軟性低下につながり、あぐらをした際に痛みをともないやすくなります。

 

たとえば、腰が丸まってしまうと股関節や膝関節も曲がりやすくなります。その結果、股関節まわりの筋肉の短縮や筋力低下を引き起こす恐れがあるでしょう。股関節の痛みを予防するためにも、できるだけ背筋を伸ばし、姿勢が曲がらないように意識することが大切です。

 

必要に応じて医療機関へ受診する

ストレッチや運動などの工夫をしても痛みがとれない、または悪化している場合は、股関節の疾患を発症している可能性があります。その場合は、なるべく早めに医療機関に受診しましょう。

 

股関節の痛みを改善するためには、早期から治療を受けることが重要です。診察の際には、いつから症状が出たのか、どのような動作で痛みが出るのかなど、詳しい状況を医師に伝えましょう。

 

あぐらをかくと股関節が痛い場合に避けるべきこと

あぐらをかく際に股関節に痛みが続く場合は、日常生活で避けるべき動作がいくつかあります。具体的には以下のとおりです10)

 

 

これらは股関節に大きく負担がかかる動作のため、痛みの悪化につながる恐れがあります。あぐらだけでなく普段の動作にも注意して、股関節に負担をかけないような生活を心がけましょう。

 

あぐらをかく際に股関節が痛い場合は早めの対処を

あぐらをかく際の痛みの原因としては、可動域の悪さや組織の損傷など、さまざまなものが考えられます。また、痛みが続く場合は変形性股関節症をはじめとした疾患を発症している可能性もあります。股関節の痛みを改善・軽減するためには、ストレッチや運動などの対策をしつつ、普段の動作にも注意することが重要です。それでも痛みが続く場合は、医療機関へ受診して医師に相談してみましょう。

医師からのコメント】
あぐらをかくと股関節が痛くなる場合は、若い人の場合はストレッチで改善することが多いです。一方、高齢者ではストレッチだけで改善しないこともしばしばみられます。その場合は整形外科を受診してレントゲン検査やMRI検査を受けるのが良いでしょう。変形性股関節症は経過が長ければレントゲン検査だけでわかることもありますが、初期の場合はMRIでないとはっきりと診断ができないこともあります。

また関節唇損傷や鼠径部痛症候群をしっかり診断するためには、MRI検査が望ましいとされています。 手術が必要になる方はそれほど多くはないですが、変形性股関節症で経過が長い方の中には、人工股関節置換術が必要になることがあります。

【参考】
1)「関節可動域制限に対する基礎研究の動向と臨床への応用 ー筋性拘縮の発生機序の解明ならびにエビデンスに基づいた治療戦略の開発を目的とした基礎研究ー」本田 祐一郎、坂本 淳哉ら 理学療法学 第45巻 第4号 275〜280(2018年)
2)「股関節運動機能障害の理学療法 ー股関節不安定性への対応ー」建内 宏重 理学療法学 第45巻 Suppl. No.1 41〜44(2018年)
3)「下肢の関節可動域と筋力の年代間の相違およびその性差 ─20–70代を対象とした横断研究─」松村 将司、宇佐 英幸ら 理学療法科学 30(2)239–246 2015
4)慶應義塾大学病院|変形性股関節症
5)日本スポーツ整形外科学会|11. 鼠径部痛症候群 (グロインペイン症候群)
6)藤田医科大学 ばんたね病院|股関節外来・小児整形外来
7)山口大学|股関節
8)厚生労働省|ストレッチングの実際 e-ヘルスネット
9)厚生労働省|エアロビクス / 有酸素性運動 e-ヘルスネット
10)日本理学療法士協会|股関節に負担をかけない生活を!

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