記事監修者:松繁 治 先生
関節炎にはさまざまな種類があり、それぞれ症状や原因は大きく異なります。そのため、医師と相談し、適切な症状や原因に応じた治療を受けることが重要です。
この記事では、関節炎を引き起こす病気や治療内容をご紹介します。病気に応じた治療方法を知ることで、早期からの症状の改善につながるでしょう。
関節炎を引き起こす代表的な病気の症状と原因
関節炎を引き起こす病気には、さまざまな種類があります。ここでは、代表的な病気の症状や原因について解説します。
関節リウマチ
関節リウマチとは、身体を守っている免疫システムの異常によって、関節に炎症が起こる病気です1)。免疫システムが自分の身体を異物と認識して攻撃することで、関節に炎症が生じます。
関節リウマチのおもな症状としては、手や足の指などの関節の痛みや腫れです。左右対称に症状が現れやすいのが特徴で、指の付け根や第2関節から始まる場合が多く見られます。症状が進行すると、関節の変形や脱臼などが生じる可能性もあります。
関節リウマチは遺伝的要因や免疫異常などが関係していると考えられていますが、明確な発症原因は分かっていません。厚生労働省によると、関節リウマチは30〜50歳代の女性に多くみられ、男女比は約1:3〜4とされています2)。
全身性エリテマトーデス(SLE)
全身性エリテマトーデス(SLE)とは、全身のさまざまな部位に炎症が起こる病気です。この病気も関節リウマチと同じように、免疫システムが自分自身を攻撃することで発症します。エリテマトーデスの症状は以下があげられ、人によって現れ方が異なります3)。
- 関節の痛み・炎症
- 倦怠感・疲労感
- 蝶形紅斑(皮膚に現れる蝶型の赤い発疹)
関節リウマチとは異なり、関節や骨の破壊はあまり見られないとされています。この病気は女性に発症しやすく、とくに妊娠可能な年代に好発しやすいのが特徴です。
化膿性関節炎
化膿性関節炎とは、細菌をはじめとした病原体が関節内に侵入し、炎症を引き起こす感染性の病気です。化膿性関節炎を発症すると、関節の炎症や腫れなどの症状が現れやすくなります。
発症の原因としては、関節内への注射や関節の外傷などによる感染があげられます4)。しかし原因がはっきりしないケースもよくみられます。化膿性関節炎は進行が早く、放置すると関節の軟骨や骨が急速に破壊される恐れもあるでしょう。そのため、早期発見と適切な処置が非常に重要です。
痛風
痛風とは、体内の「尿酸」と呼ばれる成分が結晶化して関節内に沈着し、強い炎症を引き起こす病気です。痛風は、足の親指の付け根に突然現れ、激しい痛みをともないやすい点が特徴です。強い痛みによって歩行が困難となり、さらに以下の症状が現れることもあるでしょう。
- 関節の腫れ
- 熱感
- 発赤
痛風は夜間から早朝にかけて発症することが多く、徐々に痛みが強くなる傾向にあります。これらの症状は1ヶ所に起こりやすいですが、放置すると複数の関節に現れるケースもあります5)。痛風は中年以降の男性に発症する傾向があり、以下のような尿酸値が上昇しやすい生活習慣が原因です。
- プリン体を多く含む食品の過剰摂取(ビールやレバー)
- 肥満
- 運動不足
- 脱水状態
脊椎性関節炎
脊椎関節炎とは、背骨(脊椎)を中心とした関節に炎症が起こる病気の総称です。代表的な病気としては「強直性(きょうちょくせい)脊椎炎」や「乾癬性(かんせんせい)関節炎」などの種類があり、それぞれ症状が異なります。
強直性脊椎炎は、背中から腰の背骨にかけて炎症が起こる病気です。痛みやこわばりなどの症状が現れ、進行すると背骨の動きが悪くなります。乾癬性関節炎とは、皮膚の紅斑や関節の炎症などをともなう病気です。皮膚症状が先行して発症しやすいですが、関節症状が最初に現れるケースもあります6)。脊椎関節炎は、遺伝的要因や環境要因が重なることで発症するとされています。
変形性関節症
変形性関節症とは、関節の動きをサポートしている軟骨がすり減ってしまった状態のことです。変形性関節症のおもな原因は、以下のとおりです4)。
- 加齢による軟骨の変性
- 肥満による関節への過度な負担
- スポーツ
- 外傷
とくに、体重を支えている股関節と膝に発症しやすい傾向にあります。またよく使う手の指などにもみられます。変形性関節症の症状としては、運動時の関節の痛みや動きの制限があげられます。症状が進行すると安静時にも痛みを感じるようになり、関節の変形も目立つようになります。変形性関節症は炎症が直接的な原因ではありませんが、痛みとともに炎症をともないやすい病気です。
関節炎がある場合の受診の目安は?
関節に痛みや腫れが生じて関節炎が疑われる場合、早めの医療機関への受診をおすすめします。症状が続いている、または徐々に悪化しているときは注意が必要です。関節炎は早期発見・早期治療が重要であり、適切な治療により症状の改善や進行の抑制が期待できます。
関節の痛みや腫れがある場合は整形外科を、全身のだるさや発熱をともなう場合は内科を受診すると良いでしょう7)。受診の際は、症状の程度や持続期間などを医師に詳しく伝えることが大切です。不安に思う症状があれば、我慢せずに早めに医療機関を受診して医師に相談しましょう。
お住まいの近くの医療機関を探したい方は、こちらのページから検索してみてください。
関節炎をともなう病気の治療法
関節炎をともなう病気に対しては、どのような治療が行われるのでしょうか。ここでは、具体的な治療法を解説します。
保存療法
病気の発症初期の段階や症状が軽い時期は、まずは保存療法が行われる場合があります。ここでは、保存療法の具体的な内容についてみていきましょう。
薬物療法
薬物療法は、薬によって痛みや炎症などを抑える治療法です。病気の種類によって、使用する薬は大きく異なります。例えば、関節リウマチの場合は「抗リウマチ薬」と言う、免疫の異常を抑えて症状の進行を防ぐ薬が使用されます1)。
化膿性関節炎は病原菌の体内への侵入が原因のため、抗生物質と呼ばれる薬による治療が行われます4)。変形性関節症は痛み止めに加えて、関節の動きをよくするためにヒアルロン酸注射を行うこともあるでしょう8)。
運動療法
運動療法では、名前のとおり運動によって痛みの軽減や関節の機能の向上を図る治療法です。病気によって筋力が低下すると、関節にかかる負荷が増えて痛みが悪化しやすくなります9)。関節リウマチや変形性関節症では、この悪循環に陥りやすいため、無理のない範囲で運動習慣をつけることが重要です。具体的な運動は、以下のとおりです。
- 歩行練習
- 筋力トレーニング
- ストレッチ
入院や通院の際は、理学療法士や作業療法士と呼ばれるリハビリ技師とともに運動療法を行うこともあるでしょう。
動作指導
関節炎の症状を悪化させないために、動作指導によって痛みの少ない動きを身につけることも重要です。動作指導の具体例は、以下のとおりです10)。
- 階段の上り下り:上るときは痛みの少ない足から、下りるときは痛みのある足から先に出す
- 立ち上がり動作:深く腰掛けず、座面の高いイスを使う
- しゃがみ込み動作:可能な限り避け、必要なときは片膝をついて行う
- 重いものの持ち方:両手で持ち、荷物を身体に近づける
また、身の回りの環境を整える必要もあります。以下のような生活環境を整えることで、安全に動作を行いやすくなります。
- 手すりの設置
- スロープによる段差の解消
- 杖の使用
手術療法
手術療法は、保存療法で効果が得られない場合に検討されます。おもに関節リウマチや変形性関節症など、関節の変形が生じている方に対して手術が行われます。例えば、膝関節の変形に対して行われる代表的な手術は、「人工関節置換術」や「骨切り術」などです11)。
人工関節置換術とは、関節を人工物に入れ換える手術で、変形性関節症や関節リウマチなどで関節の変形が強い場合に選択されます。骨切り術とは、骨を部分的に切って関節面を調整し、負担を分散させる手術です。症状が軽度の場合は、この手術が行われる傾向にあります。
関連記事: 肩関節で行われる人工関節置換術とは?種類や対象となる疾患を解説
再生医療
再生医療とは、身体に備わっている自然治癒力を活用した新しい治療法です12)。再生医療では、血液内に含まれる「血小板」や、組織や細胞のもととなる「幹細胞」などを活用します。このような細胞や成分には、組織の修復や炎症の抑制効果が期待されています。自身の細胞や成分を使用するため、副作用が起こりにくいのもメリットです。
一方で、重度の症状の場合は再生医療の効果が見込めず、適応とならないケースもあります。再生医療について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:【医師監修】再生医療とはどんな治療?種類やメリットを詳しくご紹介
早期に医療機関を受診して関節炎の治療に努めよう
関節炎は関節に炎症が生じている状態のことで、さまざまな病気によって生じます。症状が進行すると、日常生活に大きな支障をきたす恐れもあります。関節炎に対する治療は病気によって大きく異なり、症状に適した対応が必要です。関節炎の症状が気になったら、早めに医療機関を受診しましょう。
【医師からのコメント】
ここではできるだけ早めに病院を受診した方がいい病気に関して説明します。
一般的に、関節炎は長い経過をたどります。特に関節リウマチやSLEなどの膠原病、脊椎関節炎などは初期の頃の診断は難しく、何度か検査を行なったり経過をみることで診断がつくことも少なくありません。
ただ、化膿性関節炎は早期の診断と治療開始が重要です。注射や外傷後に起こることもありますが、明らかなきっかけがなく関節が腫れてくることもあります。膝が多いのですが、肩や肘、足首、背骨などに起こることもあります。ほかの病気と比べると、熱が出たり、食欲不振や倦怠感が強く出やすいです。また関節は腫れが強く、赤みが出ることも多いです。痛風や偽痛風でも腫れや赤みが強く出ることが多いため診断が難しいこともありますが、熱・食欲不振・倦怠感といった全身的な症状や、夜間や安静時の関節の痛みがある場合はできるだけ早めに病院を受診するようにしましょう。放置しておくと、関節が壊れてしまい慢性的な痛みが残ってしまう可能性があるので注意が必要です。
【参考】
1)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
2)厚生労働省|内科的治療法 第6章
3)東邦大学|全身性エリテマトーデス
4)国立病院機構 宇多野病院|続編:関節の具合はどうですか?―関節の痛みが続くとき、どのような病気を考えるか?最近の治療の動向は?
5)慶應義塾大学病院|痛風(gout)
6)東京女子医科大学 |脊椎関節炎
7)日本リウマチ学会|リウマチ・膠原病を心配したら
8)慶應義塾大学病院|変形性関節症
9)順天堂医院|変形性膝関節症
10)日本理学療法士協会|シリーズ 7 変形性膝関節症
11)慶應義塾大学病院|変形性膝関節症
12)東京女子医科大学|関節再生医療
記事監修者情報
