記事監修者:松繁 治 先生
足首が痛みが続いているとき、何が原因なのか気になる方はいるのではないでしょうか。場合によっては足首に関する疾患を発症している可能性もあります。足首の痛みが継続する場合は、状態にあわせて治療をすることが大切です。
この記事では、足首が痛む原因や代表的な疾患についてご紹介します。足首の痛みのきっかけを理解することで、適切な治療ができるようになるでしょう。
足首が痛くなる原因は?
足首が痛くなる原因は、足関節を作っている組織に問題が現れていることがあげられます。
足首を作っている足関節は、以下の骨から作られています1)。
- 脛骨(すねの骨)
- 腓骨(すねの外側にある骨)
- 距骨(足首の根元にある骨)
- 踵骨(踵を作っている骨)
足関節は複数の関節からできているので、さまざまな方向に動かせるのが特徴です。そして多くの靭帯や筋肉によって、足関節の動きを安定させています。このように、足関節を作っている靭帯や筋肉が傷つくことで、足首の痛みが現れるのです。
足首の痛みが現れる代表的な疾患
足首の痛みが続く場合は、何かしらの疾患を疑う必要もあります。ここでは、足首の痛みが現れる代表的な疾患について解説します。
足関節捻挫(ねんざ)
足関節捻挫は、足首を捻ることで靭帯をはじめとした組織が引き伸ばされている状態です。足関節は構造上、内側に捻りやすいため、外側の靭帯が損傷されることが多いとされています2)。
足関節捻挫を発症したときの症状は、おもに足首の痛みと歩行の困難さです。その他にも、足首の腫れや内出血なども現れます。足関節捻挫の多くは数週間程度で改善しますが、なかには足首の痛みや不安定さが残るケースも少なくありません。
おもな原因として、スポーツ中に足首を捻ってしまうことがあげられます。捻挫による症状はよく軽視されがちなので、痛みが強い場合は適切な治療を受けることが大切です。
肉離れ(挫傷)
肉離れとは、強い力によって筋肉が引き伸ばされ、部分的に損傷した状態のことです。肉離れは、正確には「筋挫傷(きんざしょう)」と呼びます。肉離れは筋肉の損傷なので力を入れる、ストレッチするなどの動作時に痛みが現れます。肉離れによる足首の痛みが出ている場合、「下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)」の損傷が疑われるでしょう。
肉離れは、スポーツ時に筋肉に負担がかかることで起こりやすいとされています3)。また、その原因は身体の内部による問題の「内的要因」と、外部の環境による「外的要因」に分かれます。
それぞれの原因の内容は、以下のとおりです3)。
【内的要因】
- 筋力の低下
- 筋肉の柔軟性の低下
- 不適切な運動の実施
【外的要因】
- 天気
- 靴のフィット感
- 運動場の環境
アキレス腱炎
アキレス腱炎とは、ふくらはぎの筋肉と踵骨をつなぐ「アキレス腱」で炎症を起こしている状態です。アキレス腱炎を発症すると、運動時にアキレス腱の周囲に痛みが現れます。その他にも、筋肉の硬さを感じる場合もあるでしょう。
アキレス腱炎のおもな原因は、スポーツによってアキレス腱に繰り返し負担がかかることです。アキレス腱炎の発症者の多くは、スポーツを習慣的に行う方とされています4)。アキレス腱炎はセルフケアによって改善することが多いですが、重症の場合は適切な治療が必要です。
アキレス腱断裂
アキレス腱断裂とは、非常に強い力によってアキレス腱が切れてしまった状態です。アキレス腱が断裂すると強い痛みをともない、体重をかけることや歩くことが困難になることがあります5)。
アキレス腱断裂はジャンプやターン、急なダッシュなどの激しい運動が必要なスポーツがおもな発症原因です。アキレス腱断裂を発症した場合は早期に医療機関へ受診し、状態に応じた治療を受けることが大切です。
このように、アキレス腱断裂はアキレス腱炎よりも損傷が激しく、重症となるケースが多いといえます。
足関節果部骨折
足関節果部骨折とは、足首に強い力がかかることで起こる足関節の骨折です。足関節果部骨折は、足関節を構成している「脛骨・腓骨」のいずれかが折れている状態です。
おもな症状としては、以下があげられます6)。
- 足首の痛み
- 足首の腫れ
- 足関節の不安定さ
- 関節の運動制限
- 歩行の困難さ
足関節果部骨折の原因は、バランスを崩して足首をひねる、高い場所から落下して足から着地するなどがあげられます。骨折だけでなく、靭帯や筋肉が損傷するケースもあるでしょう。
変形性足関節症
変形性足関節症とは、足関節の表面にある「軟骨」がすり減り、さまざまな症状が現れている状態のことです。軟骨には関節にかかる負荷をやわらげる役割がありますが、変形性足関節になるとその働きが機能しなくなります。
変形性足関節症になると、痛みや動かしにくさが現れるだけでなく、症状の進行によって足関節の変形がみられるのが特徴です。変形性足関節症は外傷による軟骨の損傷がきっかけで発症することもあれば、明確な原因がないまま起こることもあります7)。
足首の痛みをともなう疾患の治療法について
足首の痛みをともなう疾患を発症した場合に行われる治療法は、以下のとおりです。
- 保存療法
- 手術療法
- 再生医療
ここでは、それぞれの治療法について詳しく解説します。
保存療法
保存療法とは、手術以外の方法で症状の悪化を防ぐ治療法です。
足首の痛みをともなう疾患に対して行われる保存療法は、おもに以下のとおりです。
- 薬物療法
- 運動療法
- 装具療法
- 患部の免荷(患部に体重をかけるのを避けること)
どの治療が行われるかは、疾患の種類や症状によっても異なります。たとえば、足関節捻挫であれば発症直後はアイシングや安静を優先で行います。その後も痛みが強ければ、松葉杖を使用して足首に体重をかけないようにすることがあります2)。
変形性足関節の場合は、痛み止めの薬に加えてインソールを使用し、関節に負担がかからないようにします8)。このように、状況にあわせた保存療法で症状をおさえます。
手術療法
保存療法を行っても痛みが悪化し、生活に支障をきたしている場合は手術による治療が行われます。疾患にあわせた手術療法を行うことで、根本的な問題点が解消し、症状の改善が期待できます。
たとえば、足関節捻挫で靭帯を大きく損傷した場合の手術内容は以下のとおりです2)。
- 靭帯修復術:残っている靭帯を修復する手術
- 靭帯再建術:別の部位から採取した腱で靭帯を再建する手術
変形性足関節症の場合は、以下のような手術が行われます9)。
- 低位脛骨骨切り術:脛骨に人工骨を差し込み、骨の向きを変える手術
- 関節固定術:金属のスクリューやロッドで足関節を固定し、動かない状態にする手術
再生医療
再生医療とは、人が本来持っている再生力を活用した新しい治療法です。人の体内には、高い治癒力を持っている細胞や有効成分が存在しています。再生医療はそのような細胞・有効成分を患部に注入して、組織の修復を図る方法です。
再生医療の代表的な治療法として、「多血小板血漿(PRP)療法」があります。PRP療法とは、血液のなかにある組織修復や炎症抑制の効果が期待できる「血小板」を抽出して、関節内に注入する方法です。
実際に変形性膝関節症にPRP療法を活用したところ、半年から1年の時点で治療を行った方の6〜7割は痛みが軽減したという報告もあります10)。アキレス腱断裂を発症したアスリートの症例では、手術後にPRP療法を行ったことで状態が良好となり、術後3か月で競技復帰できたと報告されています5)。
このように、保存療法や手術療法以外の治療法として、再生医療が選択されはじめているのです。
足首の痛みを予防する方法
足首の痛みをともなう疾患には、スポーツが原因で発症するケースも多いです。ここでは、足首の痛みを予防するための方法について解説します。
筋力トレーニング
足首のケガは、筋力の低下によって引き起こされることも珍しくありません。関節を安定させて痛みを予防するには、筋力トレーニングで足の筋肉を鍛えることが大切です。
足の筋肉を鍛える筋トレ内容は、以下のとおりです。
- カーフレイズ(踵上げ)
- スクワット
- つま先上げ
足のトレーニングは筋力をつけるだけではありません。バランス能力の向上も期待できるので、転倒によるケガの予防にもつながるでしょう11)。
ストレッチ
足首の筋肉の柔軟性が低下していると、スポーツ時にケガをする可能性があります。ストレッチで筋肉の柔軟性を高めて、ケガの予防に努めましょう。ストレッチは、おもに「動的ストレッチ」と「静的ストレッチ」の2種類に分かれています12)。
動的ストレッチとは、関節を動かしながら筋肉を伸ばす方法で、運動前の準備体操として行われています。静的ストレッチは、筋肉をゆっくりと伸ばした状態をキープして、柔軟性を高める方法です。静的ストレッチはリラクゼーション効果もあるとされており、運動後のクールダウンとして行われています。
このように、運動前後はストレッチを行って筋肉の柔軟性を確保し、ケガをしにくい状態を作りましょう。
足首の痛みを治療して再発予防に努めよう
組織の損傷から骨折まで、足首の痛みをともなう疾患にはさまざまな種類があります。足首の痛みはセルフケアによっておさまることもありますが、持続する場合は何かしらの疾患を発症している可能性があります。痛みが続いているときは、医療機関へ受診して適切な治療を受けることが大切です。また、足首のケガを予防するために、筋トレやストレッチを習慣にするのがおすすめです。足首の痛みが気になる方は、まずは医師に相談して再発予防に努めましょう。
先生からのコメント
足首の痛みが出た場合、以下の基準で早めに医療機関の受診を検討することをおすすめします。
①捻ったり転んだりといった明らかなきっかけがある場合
骨折や捻挫が疑われます。骨折をしていても歩ける場合もあるため、レントゲン検査が必要です。ただの捻挫でも、無理をすると痛みが長く続いたり足首の不安定性が残ることがあります。
②腫れ、変形、内出血: 足首が腫れていたり、変形している場合、内出血がある場合も早期の診察が必要となります。①と同様に骨折や捻挫を疑います。
③ 激しい炎症や発熱: 足首の周囲が赤く腫れていたり、発熱がある場合は細菌感染の可能性があるため、速やかに医師の診察を受ける必要があります。
④ 痛みが長期間続く: 痛みが数日経っても改善しない場合や、繰り返し痛みが起こる場合は、専門家の診察が必要です。
痛みの状態や症状は個人によって異なるため、痛みが気になる場合は医師に相談することが最善です。医師は症状を正確に評価し、必要な治療や検査を提案してくれるでしょう。
【参考】
1)「足関節のバイオメカニクス」福本 貴彦 Jpn J Rehabil Med Vol. 53 No. 10 2016
6)「足関節果部骨折の骨折型と固定法」徳永 純一、小林 晶 他 整形外科と災害外科36 (2) 554~560 1987
7)聖マリアンナ医科大学|変形性足関節症(へんけいせいあしかんせつしょう)
8)国際医療福祉大学成田病院|下肢(足)領域:代表的な治療・手術方法
11)「足趾力・下肢力とバランス感覚との関連性について」鷲塚 寛子、金森 昌彦 他 Toyama Medical Journal Vol. 26 No. 1 2015
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