【医師監修】仙骨関節炎の原因と治療法、やってはいけないこと

腰痛の原因の1つである仙腸関節炎。経産婦など女性に多いものですが、老若男女誰でもかかる病気です。

この記事では、仙腸関節炎の症状や病院での診断方法や治療法、セルフケア方法などについて詳しく解説します。

仙腸関節炎とは？^1）

仙腸関節とは、骨盤の中心部にある仙骨と腸骨の間にあり、脊椎の根本に位置する関節です。体感を支える重要な役割を担う仙腸関節は3〜5mmほどわずかに動き、根本から脊椎のバランスをとっていると考えられています。仙腸関節は上半身の重さや地面からの衝撃を常に受けていて、中腰での作業や不用意な動作などで負荷が繰り返されると、仙腸関節に炎症が起こります。この炎症による痛みが仙腸関節炎です。仙腸関節炎ははっきりとした損傷がないため判断が難しく、他の疾患と間違われることもしばしばありますが、腰痛の15〜30%近く^2）が仙腸関節が原因と言われるほど、一般的な病気です。

また、ぎっくり腰のように重いものを持ち上げるなどの際に突然発症する急性型と、急性仙腸関節炎が完治しないまま長期間にわたって症状が続く慢性型があります。^3）急性仙腸関節炎の場合、適切な治療を行うことで比較的短期間で改善することも多いですが、慢性化すると長時間痛むうえに完治するまでに時間がかかりますし、日常生活や仕事への支障も大きくなります。腰に違和感があると感じたら、できるだけ早くクリニックを受診するのがおすすめです。

仙腸関節炎の症状

仙腸関節を中心とした腰の痛みが一般的ですが、おしりや足の付け根、足にも痛みが出ることがあります。下記のような場面で痛む人は仙腸関節炎の可能性があります。

・おしり、腰が痛む

・足の付け根、足が痛む

・階段で上り下りする時に痛む

・立ちっぱなしだと痛む

・片足に重心をかけると痛む

・大股で踏み出すと痛む

・歩行時に痛む（歩いていると痛みが軽減する）

・長く座っていると痛む

仙腸関節炎の原因・かかりやすい人^2）

お腹に赤ちゃんがいるとホルモンの影響で仙腸関節が緩んだり伸びたりしやすく、妊娠をきっかけとした体重増加などの要因が仙腸関節に負担をかけるため、一般的に出産後の腰痛には仙腸関節炎が多いと言われています。しかし、仙腸関節炎は女性に限ったものではなく、性別や年齢に関係なく発症します。

前後に足を大きく開く、腰をひねる、中腰での作業などで骨盤に負荷がかかることがリスク要因となるため、ラグビーなどのコンタクトスポーツをしている人や重いものを持ち上げる仕事をしている人は仙腸関節炎になりやすいと言えるでしょう。また、左右非対称の動きに弱いため、いつも重いカバンを決まった肩にかけていたり、足を組んでいたりすると発症リスクが高まると言われています。

また、交通事故などの外傷や、足の長さのズレや脊柱側湾症、軟骨がすり減ることで起こる「変形性関節症」が仙骨関節にも起きたり、非常にまれですが細菌感染が原因となったりすることもあります。

仙腸関節炎の人がやってはいけないこととは？^3）

仙腸関節炎の人は症状の悪化を防ぐために、仙腸関節に負担をかけないことが大切です。下記のようなことはできるだけ避けましょう。

・重いものを持つこと

・長時間同じ姿勢で座り続けること

・足を組むなど不自然な姿勢を続けること

・ジャンプやランニングなどの激しい運動

仙腸関節炎の診断方法

仙腸関節炎はレントゲンやMRI検査などでは明確な異常が診られません。そのため、患者さんに痛みの強い場所を指してもらうワンフィンガーテストや問診が有効です。また、触診して仙腸関節周辺に圧痛があるか、片足立ちした際、腰に痛みが生じるかなどのテストを行います。

麻酔注射を仙腸関節に打って、一時的に痛みが軽減されるかテストする診断方法もあります。また、関節の動きを確認したり、ほかの病気との識別のためにレントゲンやMRIなどの画像検査も行われます。

一方、レントゲンやMRI検査で、腰部脊柱管狭窄症（ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう）や腰椎椎間板ヘルニアと診断されていても、実は仙腸関節炎を合併していて、これによって痛みが出ている場合もあります。問診や触診を大事にすることで、別の疾患の裏に潜む仙腸関節炎の存在を見つけることもできるでしょう。

仙腸関節炎のセルフチェック法^4）

一般的な腰痛と混同されがちな仙腸関節炎。自宅でチェックする方法をいくつかご紹介します。ただし、セルフチェックはあくまで参考にしていただき、違和感が強い場合は、医師の診断を受けましょう。

パトリックテスト

1.仰向けに横になる

2.検査する側の足を曲げ、足首を反対の足の膝の上に、数字の「4」を描くように乗せる

3.曲げた膝を外側に押し下げていく

このとき、おしりの上の方に痛みが出る人は仙腸関節に問題があり、股関節に痛みが出る人は股関節に問題があると考えられます。

腰椎と仙腸関節の区別テスト

1.イスに座った状態で前屈

2.立った状態で前屈

1と2を比べて、2の方が痛む場合は仙腸関節に問題がある可能性が高くなります。逆に1も2も同じように痛む場合は腰椎に問題がある可能性が考えられます。

仙腸関節炎の治療法

仙腸関節炎の治療には、保存療法が用いられることがほとんどです。症状や患者さまのタイプに応じていろいろな方法がありますのでご紹介します。

1.装具療法

骨盤ゴムベルトやコルセットなどを使用して仙腸関節を安定させ、痛みを軽減させます。特に出産後の女性や慢性的な仙腸関節炎の方に有効で、再発予防にも使えます。

2.薬物治療

痛み止めや筋弛緩薬を服用したり、仙腸関節周辺にブロック注射を打ったりすることで痛みと炎症を抑え、日常生活を送れるようにします。強い痛みがある場合には、仙腸関節内へのステロイド注射を行います。ただし、一時的に痛みを軽減されても、長期的に見ると再発する可能性が高いので、痛みを落ち着けつつ、リハビリなど別の治療法と同時に行うことが多いです。

3.リハビリと物理療法

リハビリテーションなどの運動療法は股関節の可動域や関節周辺の筋力を改善させることで股関節への負担を軽減させ、安定性を向上させる治療法です。痛みの再発防止も期待できます。また、深部の炎症を和らげる超音波療法や、痛みを緩和して血流を促進する干渉波電気療法、痛みの軽減と筋緊張の緩和など低周波療法などの物理療法もあります。

4.手術

仙腸関節炎は、ほとんどの場合保存療法が選択されます。症状が強く日常生活に支障をきたすレアケースにおいては、「仙腸関節固定術」という手術が行われることがあります。

5.再生医療^5）

仙骨関節炎の治療として、人間の体がもっている再生する力を利用して組織を再生させる「再生医療」も注目されています。中でも「PRP療法」という、自己の血液中に含まれる血小板の成長因子を活用する再生医療が、仙骨関節炎などの慢性腰痛の治療として用いられています。３ヶ月以上保存療法を行っても改善が見られないこと、痛みの原因が特定できる場合、症状が進行しすぎていないなど、再生医療に適した条件が必要ですが、自分の細胞を使うため副作用などが少ないなど体への負担が少ないというメリットがあります。

7.運動器カテーテル治療^6）

痛みを長引かせている微細な病的新生血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑える治療法です。実は、繰り返し炎症が起きている箇所には、修復の過程で血管が増えることが知られています。この血管は通常自然と消えますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖し、長引く痛みを引き起こしていると考えられています。一般的な保存治療で良くならない場合、早く痛みを取り除きたい人に注目されている治療法です。

仙腸関節炎のセルフケア^7）

過去に仙腸関節炎を経験したことがある方、仙腸関節炎まではいかないけれど腰痛が気になる方に向けて予防のためのアプローチをご紹介します。くれぐれも、強い腰痛がある方はセルフケアを過信せず病院で診断してもらい、医師に相談のうえ行ってください。

日常生活を見直す

まず取り組みたいのは、姿勢の改善です。腰に負担をかけないよう正しい座り方、正しい立ち方を心がけましょう。机やイスの高さを見直すのも効果的です。また、長時間同じ姿勢をとらないよう、デスクワーク時などは30分～1時間ごとに席を立ち、体を伸ばすようにしましょう。

生活習慣の見直しも大切です。ウォーキングやエクササイズなど適度な運動を習慣化させ、十分な睡眠を確保します。バランスのいい食事を意識し、太っている方はダイエットをして適正体重まで落とすように心がけましょう。自分なりのストレス発散方法を身につけることもストレス管理に役立ちます。ストレッチやヨガ、深呼吸などを取り入れて、気づいた時に体を緩めるようにしましょう。

運動とストレッチ1

仙腸関節炎の痛みを和らげるのに効果的な梨状筋のストレッチです。

1.仰向けに寝て、片方の膝を曲げて、その上に反対側の足首を乗せる

2.曲げた膝の下あたりを両手でつかみ、胸の方に引き寄せる

3.おしりが伸びるのを感じながら、20〜30秒キープする

運動とストレッチ2

腰と仙腸関節周辺の筋肉をほぐすストレッチです。横になったまま行えるので、寝る前や起床時に行うのがおすすめです。肩が床から浮かないように気をつけましょう。

1.仰向けに寝て両膝を曲げる

2.足の裏を床につけ、両膝を右か左にゆっくりと倒して20秒キープ

3.両膝を反対側にゆっくりと倒して20秒キープ

仙腸関節に負担をかけない生活習慣を心がけよう

女性を中心に多くの人がなりやすい仙腸関節炎について紹介してきました。仙腸関節炎はとてもポピュラーな病気でほとんどの場合は安静にして薬を服用したり、リハビリを行ったりすることで改善します。

この記事を参考に、腰に負担がかかった日はストレッチをして日々の予防を心がけしましょう。慢性化してしまったあとでも再生医療など治療法の選択肢がありますので、仙腸関節炎で悩む方は早期の治療を視野に入れてみてはいかがでしょうか。

【医師からのコメント】
仙骨関節炎は、腰やお尻の奥に鈍い痛みを感じる疾患で、長時間の同一姿勢やスポーツ、出産後などをきっかけに発症することがあります。私の臨床経験でも、自己判断で無理に動かしたり、痛みを我慢し続けることで症状が悪化するケースが少なくありません。早期に整形外科や専門医を受診し、炎症のコントロールや適切な運動指導を受けることが大切です。正しい知識と対処で、症状の改善や再発予防が期待できます。

【参考】

1）日本仙腸関節研究会｜仙腸関節障害について

2）慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A｜仙腸関節炎・仙腸関節障害

3）からだ接骨院｜仙腸関節炎とは？基本的な知識

4）仙腸関節炎の全てがわかる！痛みの原因から治療法まで｜一会接骨院

5）再生因子注入療法｜腰痛とPRP療法

6）なごやEVTクリニック｜仙腸関節障害

7）からだ接骨院｜仙腸関節炎とは？基本的な知識