【医師監修】頸椎ヘルニアの症状や原因とは?具体的な治療方法と再生医療の可能性をご紹介

首まわりの痛みやしびれが出るようになった場合、それは「頸椎椎間板ヘルニア」と言う疾患が原因かもしれません。頸椎ヘルニアは背骨に関係する疾患で、首から腕の痛みやしびれなどの症状が現れるのが特徴です。頸椎ヘルニアの治療はいくつかありますが、近年では再生医療も進められています。

この記事では、頸椎ヘルニアの概要とおもな治療方法、再生医療の特徴をご紹介します。どのような疾患なのかを詳しく知ることで、早期から治療を進めるきっかけとなるでしょう。

頸椎椎間板ヘルニアはどんな疾患?

頸椎椎間板ヘルニアとは、頸椎(首の骨)の間にある「椎間板」と言う、クッションの役割をしている組織が外へ飛び出る疾患のことです1)。椎間板が飛び出ることで頸椎のうしろにある神経が圧迫され、さまざまな症状が現れます。

ここでは、頸椎ヘルニアの具体的な症状や原因について詳しく解説します。

頸椎ヘルニアの症状

頸椎ヘルニアでは、脊髄(脳から伸びる太い神経の束)や神経根(脊髄から枝分かれして腕などに伸びる細い神経)が圧迫されることで、首から腕または手、あるいは肩や背中にかけての痛みやしびれなどの神経症状が現れます。症状が進行すると腕や手に感覚障害が現れたり、手や腕に力が入りにくくなり、ものをつかむことが難しくなる場合もあります1)

そのほかにも、次のような症状が現れるケースもあります2)

頸椎ヘルニアの原因

頸椎ヘルニアの原因はさまざまですが、一般的なものは加齢による椎間板の衰えです。椎間板はもともと柔らかい組織ですが、年齢を重ねるにつれて水分量が減り、弾力性を失いやすくなります。その結果、椎間板が飛び出しやすくなり、神経を圧迫する原因となるのです。

そのほかにも、交通事故やスポーツ中の衝撃など、外部の要因によって椎間板の損傷を引き起こすこともあります2)。また、パソコンやスマートフォンを長時間使用するなど首に負担をかける姿勢が続いて頸椎にストレスがかかり、頸椎ヘルニアを引き起こすケースもみられます。日本整形外科学会によると、頸椎ヘルニアは30〜50代に発症しやすいとされているため、若い方でも注意が必要です3)

頸椎ヘルニアの診断方法

頸椎ヘルニアは、さまざまな検査を行ったうえで診断されます。まずは医師による問診を行い、症状の特徴や発症時期について聴取したあと、首を動かして痛みを確認します3)

頸椎ヘルニアを診断するうえで重要なのが、CTやMRIなどによる画像診断です。これらの画像診断では、頸椎の構造や椎間板の状態を確認できるため、より確実な診断につながります1)。このように、頸椎ヘルニアの診断は複数の検査結果と実際の症状を総合的に評価したうえで判断されます。

頸椎ヘルニアに似ている疾患

首に関する疾患は、頸椎ヘルニアだけではありません。場合によっては、頸椎ヘルニア以外の疾患を発症している可能性があります。

ここでは、そのほかの首に関する疾患について解説します。

頸椎症

頸椎症とは、頸椎や椎間板が加齢により変形することが原因で脊髄を圧迫する疾患です。症状は圧迫される部位によって異なり、神経根(脊髄から出ている末梢神経)が圧迫される「神経根症」と脊髄が圧迫される「脊髄症」に分けられます4,5)

神経根症では、首から腕にかけての痛みやしびれが片側に現れやすいのが特徴です。一方、脊髄症では両手足のしびれや歩行障害などがみられます。頸椎症のおもな原因は以下のとおりで、これらは加齢によって症状が現れます。

靭帯骨化症

靭帯骨化(じんたいこっか)症とは、背骨内の「脊柱管(せきちゅうかん)」と言う、神経のとおり道につく靭帯が骨のように硬くなって脊髄を圧迫する疾患です。背骨に関する靭帯骨化症は、以下の2つに分けられます6)

後縦靭帯骨化症では、首や肩の痛み、手指の細かい動作の困難さなどの症状が現れます。黄色靭帯骨化症は首よりも胸の高さの背骨で起こりやすく、以下のような症状が現れるのが特徴です。

これらの疾患は、加齢による組織の衰えや外的要因(直接的なストレス、転倒など)が関与して発症すると考えられています。

胸郭(きょうかく)出口症候群

胸郭出口症候群とは、首から腕へ続く神経や血管が、胸郭(胸部)付近で圧迫されることで起こる疾患です。胸郭出口症候群になると以下のような症状が現れ、とくに腕を上げる姿勢で悪化する傾向にあります7)

神経・血管の中には、筋肉や骨などの狭い場所をとおっているものがあります。筋肉が硬くなったり、身体の動きに連動して骨が動いたりすることで、神経・血管が圧迫されて症状が現れるのです。もともと骨の変形がある、異常な組織が現れているなどが原因で発症するケースもあります。

手足のしびれが現れる疾患についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

関連記事:【医師監修】手足のしびれの原因とは?具体的な症状や疑うべき病気をご紹介

頸椎ヘルニアは放置していても治る?

頸椎ヘルニアは、軽度の症状であれば自然回復する可能性もあるとされています。しかし、頸椎ヘルニアを放置すると神経がさらに圧迫され、痛みやしびれが進行するリスクもあるため、そのままにするのはおすすめできません8)。症状が長引くと慢性化し、治療が困難になるケースもあります。

首の痛みやしびれが続く場合は、整形外科のある医療機関を受診し、診察を受けることをおすすめします。現在気になっている症状がある方は決して放置せず、早期からの対応を心掛けましょう。

頸椎ヘルニアのおもな治療方法

頸椎ヘルニアに対しては、どのような治療が行われているのでしょうか。ここでは、具体的な治療方法について解説します。

保存療法

頸椎ヘルニアの治療では、まず保存療法から始めます。保存療法とは、手術をせずに症状の改善や悪化予防を図る治療法のことです。具体的な内容としては、おもに以下のとおりです1,2)

薬物療法では、痛みやしびれをおさえるための薬を使用します。リハビリでは、首まわりの筋肉を整え姿勢を改善したり、血流改善のためのストレッチを中心に行います。また症状がひどければ、頚椎カラーを装着して首を固定し、安静にして症状の緩和を図ることもあるでしょう。軽度から中程度の症状であれば、この保存療法の組み合わせで改善する場合もあります。

手術療法

保存療法で効果がみられず、症状が悪化している場合は手術による治療が行われます。手術では、頸椎ヘルニアの根本的な原因である椎間板を取り除き、神経の圧迫を改善することがおもな目的です。

代表的な手術方法として、「前方固定術」があげられます。前方固定術とは、飛び出ている椎間板を摘出したあと、頸椎を固定して首を安定させる手術です。そのほかにも飛び出た椎間板を除去し、人工物に入れ換える「人工椎間板置換術」と言う手術を行うケースもあります2)

頸椎ヘルニアに対する再生医療の効果は?

頸椎ヘルニアに対する治療として、近年では「再生医療」が新しい治療法として注目されています。ここでは、再生医療とはどのような治療法なのか、どのような効果が期待できるのかを解説します。

再生医療とは人体の自然治癒力を利用した治療法のこと

再生医療は、人体に備わっている自然治癒力を活用した治療法のことです。傷ついた組織を人工物で置き換えるのではなく、体内の細胞や成分を利用して修復や再生を促します。

整形外科の領域で行われている代表的な再生医療として、「PRP(多血小板血漿)療法」があげられます。PRP療法とは、その方の血液から「血小板(けっしょうばん)」と呼ばれる成分を濃縮し、患部に注射する治療法です9)。血小板には、傷の治療を促進する成長因子や炎症をおさえる物質が豊富に含まれているとされています。

再生医療の特徴や種類についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひご覧ください。

関連記事:再生医療 | ひざ関節の痛み解消ナビ

椎間板ヘルニアに対する再生医療の症例

椎間板ヘルニアに対する再生医療は、さまざまな医療機関で行われています。頚椎椎間板ヘルニアに対する再生医療を行っている施設もあります。

再生医療は本人の細胞・成分を利用するため、アレルギーや拒絶反応のリスクが低いことも確認されています。このような症例や特徴から、今後は保存療法や手術に加え、再生医療も治療の選択肢に入ることが予想されます。

お住まいの地域で再生医療を扱っている医療機関を探したい方は、こちらで検索してみましょう。

再生医療の対象となる方

再生医療は、すべての方に同じように効果がみられるわけではありません。再生医療の効果が期待できるのは、症状が比較的軽度から中等度の方が中心とされています10)。一方で、以下のような状態の方は思うような効果が得られない場合があります。

このような場合、再生医療よりも手術を優先したほうが良いケースもあるでしょう。再生医療は画期的な治療法と言えますが、決して万能ではない点に注意する必要があります。医師と十分に相談し、その方の頸椎ヘルニアの状態に適した治療法を選択することが大切です。

頸椎ヘルニアの治療では再生医療も選択肢の1つ

頸椎ヘルニアは背骨の椎間板と言う組織が外に飛び出る疾患で、脊髄を圧迫することでさまざまな症状が現れます。頸椎症や靭帯骨化症など、頸椎ヘルニアに似ている疾患もあるため、正確な診断には整形外科のある医療機関を受診する必要があります。

頸椎ヘルニアの治療には保存療法や手術だけでなく、再生医療も選択肢の1つです。ぜひ今回の記事を参考にして、自身の症状に合わせた治療を進めていきましょう。

【医師からのコメント】
頚椎椎間板ヘルニアは、腰のヘルニアと比べると頻度は少ないですが、夜眠れないぐらい強い痛みが出ることもあります。ほとんどの方は薬の内服などの保存治療を続けると、徐々に炎症が落ち着いてよくなりますが、あまり痛みが強いと日常生活や仕事などにも影響するケースもみられます。

そういった場合で早期に治療をされたい方は、ブロック注射もしくは手術が選択肢となります。それぞれの病院にもよりますが、ブロック注射は腰の場合と違い一般の整形外科では難しいとされることもあるため、ペインクリニックなどでの相談を検討してみてもいいかもしれません。

また、手術に関しては前方固定術が一般的ですが、最近では内視鏡で手術ができる病院もあります。短期間の入院での低侵襲(ていしんしゅう)な手術を希望される場合は、そういった病院を探してみてもいいでしょう。手の力が入りづらいなどといった症状がある場合は、薬の内服やブロック注射だけでは麻痺が快復しづらいため、手術を検討した方がいいでしょう。

【参考】
1)日本脊髄外科学会|頚椎椎間板ヘルニア
2)愛知医科大学病院|頚椎椎間板ヘルニア
3)日本整形外科学会|頚椎椎間板ヘルニア
4)日本整形外科学会|頚椎症性神経根症
5)日本整形外科学会|頚椎症性脊髄症
6)日本整形外科学会|後縦靱帯骨化症・黄色靱帯骨化症
7)慶應義塾大学病院|胸郭出口症候群
8)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン改訂第2版
9)北里大学|再生医療
10)東京女子医科大学|関節再生医療|人工関節

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