記事監修者:松繁 治 先生

交通事故後には、関節の痛みや不安定さ、動かしづらさを感じることがあります。こうした症状は、受傷直後はもちろん、時間が経過してからも続く場合があります。適切な対処法を知っておくことは、痛みの軽減と回復に重要です。
この記事では、交通事故による関節痛の症状を詳しく解説し、痛みが取れない場合に実践すべき対処法をご紹介します。
交通事故による関節痛の原因
交通事故による関節痛の症状は、単なる痛みに限りません。事故の衝撃によって関節や周囲の組織が損傷すると、可動域制限やこわばり、関節の不安定さなどの症状が現れ、日常生活に支障をきたすこともあります。
ここからは、交通事故による関節痛の原因となるおもな外傷を詳しくご紹介します。
むち打ち
むち打ち(むち打ち症)とは、外傷性頚部症候群(頚椎捻挫・頚部挫傷)、神経根症(頚椎椎間板ヘルニア・頚椎症性神経根症)、脊髄損傷などを含む頚部外傷の総称です1)。頚部周囲の筋肉や靭帯などの軟部組織、神経、血管などに損傷を受けたことにより起こるもので、受傷契機や外傷の程度により以下のようなさまざまな症状をきたします2)。
- 首の痛み
- 頭痛
- 肩こり
- 吐き気
- めまい
- しびれ
- 倦怠感
多くの場合、安静により数週間ほどで軽快します。ただし、交通事故後にむち打ちが疑われる場合は、鑑別診断のために整形外科を受診することを強くおすすめします1)。
骨折・脱臼
骨折は骨が折れた状態、脱臼は関節を構成する骨が本来の位置からズレてしまった状態のことです。
骨折では周囲の筋肉や関節にも痛みが伝わり、腫れや変形をともなうことも少なくありません。脱臼では周囲の軟部組織が損傷し、激痛と可動域制限が見られます。どちらも整形外科医による適切な整復と固定、リハビリテーションが必要な外傷です3)。
捻挫・打撲
捻挫・打撲ともに、筋肉や腱、靭帯などの軟部組織の損傷を指します。出血は見られないものの、痛みや腫れ、内出血などを生じ、関節の不安定性さをきたすこともあります4) 5)。交通事故などの強い衝撃によって生じた捻挫・打撲では腱や靭帯が断裂していることもあるため、速やかに医療機関を受診しましょう。
交通事故による関節痛を軽減するための初期対応

交通事故でケガをした場合は、RICE法で迅速に初期対応を行うことが重要です6)。
- R(Rest):安静
- I(Ice):冷却
- C(Compression):圧迫
- E(Elevation):挙上
出血がある場合は、できるだけ清潔なハンカチやタオルを出血箇所に当て、直接圧迫して止血しましょう7)。頭部を強く打った場合は脳を損傷したり、頭蓋内で出血をしている恐れがあるため、すぐに医療機関を受診してください。
受傷直後に症状が見られなくても、時間の経過とともに痛みや腫れなどが生じる場合があります。早期回復のためにも、必ず整形外科を受診しましょう。
交通事故による膝の痛みが取れない場合の対処法
交通事故に遭ってしまったら、痛みなどの自覚症状がない場合でも速やかに医療機関、可能であれば整形外科を受診しましょう。
受傷直後はアドレナリンの分泌などにより、一時的に痛みを感じにくい状態になっていることがあります。初診が遅れると治療のタイミングを逃すだけでなく、膝の痛みが事故によるものだと証明しにくくなり、治療費や慰謝料の請求ができない恐れもあります。事故後は早急に医療機関を受診して、診断書を取得しておきましょう。
交通事故後の膝の痛みがなかなか取れない場合も、まずは整形外科を受診してX線検査やMRI検査などの精密検査を受けましょう。物損事故として届出をしたあとに膝の痛みが生じたら、医療機関で診断書を取得したうえで、警察で人身事故への切り替えの手続きが必要です。
事故後に接骨院(整骨院)への通院を検討される方もいらっしゃいますが、先に医療機関を受診することをおすすめします。医師の指示を受けて接骨院(整骨院)へ通院することで、適切な補償を受けられる可能性が高まります8)。
後遺障害と認定される可能性がある膝の症状
交通事故により生じた膝の痛みから、以下のような後遺障害が残ることもあります8)。
※表は左右にスクロールして確認することができます。
後遺障害 | 症状 | 後遺障害等級 | 慰謝料相場 |
可動域制限 | 膝関節の動く範囲が制限される | 8級7号(関節がまったく動かない、またはケガをしていない足と比べて10%以下しか動かない) | 830万円 |
10級11号(ケガをしていない足と比べて50%以下しか動かない) | 550万円 | ||
12級7号(ケガをしていない足と比べて75%以下しか動かない) | 290万円 | ||
神経症状 | 膝関節に痛みが残っている | 12級13号(レントゲンやMRIなどの画像検査結果から損傷箇所を明らかにしたうえで、痛みが残っていることが医学的に証明可能) | 290万円 |
14級9号(自己や症状の内容、治療経過などから痛みが残っていることが医学的に証明可能) | 110万円 | ||
偽関節 | 骨折などの治癒過程で骨が癒合せずに、本来関節でないにも関わらず関節のような動きをきたす | 7級10号(大腿骨の骨幹部および骨幹端部に癒合不全が残り、常に硬性補装具を必要とする) | 1,000万円 |
8級9号(大腿骨の骨幹部および骨幹端部に癒合不全が残るが、常に硬性補装具を必要とはしない) | 830万円 | ||
動揺関節 | 膝のぐらつきや不安定性がある | 8級7号(常に硬性補装具を必要とする) | 830万円 |
10級11号(常にではないが硬性補装具を必要とする) | 550万円 | ||
2級7号(強度の労務の際に硬性補装具を必要とする) | 290万円 |
後遺症として残ってしまった症状は、一生付き合っていかなければなりません。後遺症を残さないためにも、事故に遭ってしまったら早めに整形外科を受診して、適切な治療を受けましょう。
交通事故後の関節痛は放置せず、すぐに整形外科の受診を!
交通事故に遭ったら、症状がなくとも早めに整形外科を受診することが大切です。放置すると症状が悪化して後遺障害として残ったり、回復までに時間がかかったりする恐れがあります。また、適切な補償を受けられなくなる可能性もあるため、必ず医療機関で診断を受けましょう。
【医師からのコメント】
交通事故で膝を痛めてしまうことは、時々経験してしまうことだと思います。歩けないほど痛みが強かったり、明らかに膝が腫れている場合はすぐに精密検査になりますが、問題は痛みはあるけど歩ける場合です。そのような場合はX線検査をして、骨折がなければ打撲と診断されて経過を見ましょうとなってしまうことがほとんどです。ただ膝の怪我では、関節のクッションである半月板の損傷や、関節を安定させる靭帯の損傷などもあり、それらはMRIの検査をしないとわかりません。そのため、もし最初の検査で問題がないと言われたとしても、1週間経っても痛みが続いていたり、徐々に痛みが強くなる場合はもう一度病院を受診するようにしましょう。
また注意が必要なのが、救急車で運ばれX線検査だけではなく、CT検査もした場合です。CT検査はMRI検査と似ているため勘違いしてしまうことがよくありますが、MRI検査を救急で行うことはほとんどありません。CT検査では半月板や靭帯を評価することができないため、どちらの検査をしたかわからない場合は、医師にMRI検査をしたかどうか質問してみましょう。
【参考】
1) 公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「むち打ち症」
2) 望クリニック 整形外科 むち打ち症(頚椎捻挫)【肩・肘・首・手首の痛み】
3) 小島接骨院 交通事故による関節痛の原因と症状
4) 第一三共ヘルスケア株式会社 くすりと健康の情報局 捻挫(ねんざ)の原因
5) オムロン ヘルスケア株式会社 痛みwith 打撲とは?頭部や足などの部位ごと痛みや症状と対処法
6) 第一三共ヘルスケア株式会社 くすりと健康の情報局 捻挫(ねんざ)の対策
7) 東京海上日動火災保険株式会社 安全運転ほっとNEWS 命を救うための応急手当
8) アトム法律事務所弁護士法人 交通事故の治療ナビ 交通事故による膝の痛みの原因や治療法は?後遺障害認定や慰謝料も解説
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