
整体、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復、カイロプラクティック療法など、医師の資格を持たない者が人体に対して何らかの施術を行い、疾病の治療や健康の維持・増進を目的とする行為のことを「医業類似行為」と言います。
本記事では、医業類似行為と整形外科との関わりや問題点などにについて詳しく解説します。
医業類似行為とは?
医業類似行為とはどのようなものを指すのでしょうか。医業との違いや医療類似行為の定義、種類について見ていきましょう。
医業類似行為の定義
まず、医業類似行為を語る前に、医業について理解しておく必要があります。
医師法 第17条には「医師でなければ、医業をなしてはならない」とあり、第31条では第17条の規定に違反した者について、「3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定めています。また、厚生労働省では、上記法律で定めている「医業」について、以下のように解釈しています1)。
医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
つまり、医業とは医師の判断および技術がなければできない行為(医師の独占業務)2)なのです。
一方の医業類似行為も、医療の一分野ではあります。順天堂大学の柴田泰治、東京有明医療大学の谷口博志は、医業類似行為について下記のように述べています3)。
あはき施術を含む医業類似行為は、いわゆる医療の一分野であるといえるが、鍼灸師の行う施術は医師の行う治療と比べて極めて限定的であり、制限もある。
条文解釈上、厚生省(厚生労働省)の見解、判例からも、あはき施術は医業とは異なる医業類似行為といえる。
医業類似行為はもちろん医師も行うことができるが、基本的には医師が行う場合は医業となることから、医師以外の者が行う施術を想定する。
その上で医業類似行為は、医師以外が治療目的、つまり病からの回復、病の回避、また健康の増進のための施術で、かつ医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼす恐れのある行為全般と定義すべきだと考える。
厚生労働省は、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復の4つを「医業類似行為」と認めています。整体やカイロプラクティック療法などは、厚生労働省が公的に認めていない施術4)となります。
整体について詳しく知りたい方は、下記もあわせてご覧ください。
▶【医師監修】整形外科と整体の違いとは?整骨院・接骨院の違いも紹介
法で認められた医業類似行為の種類
厚生労働省により認められている医業類似行為について、表でご紹介します。
職種 | 法律 | 必要な資格 | 健康保険適用となる業務の範囲 |
柔道整復師 | 柔道整復師法 | 柔道整復師(国家資格) | 急性または亜急性の外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫 |
あん摩マッサージ指圧師 | あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律 | あん摩マッサージ指圧師(国家資格) | 筋麻痺関節拘縮等で医療上マッサージを必要とするもの |
はり師 | あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律 | はり師(国家資格) | 慢性病であって医師による適当な治療手段がないもの |
きゅう師 | あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律 | きゅう師(国家資格) | 慢性病であって医師による適当な治療手段がないもの |
いずれも、文部科学大臣の認定した学校や養成施設において3年以上の教育を受け、国家試験に合格した人でなければ行えません5)。整体やカイロプラクティック療法は無免許で行える施術であるため、公的には「医業類似行為」とは言えません(厚生労働省が医業類似行為として認めているのは上記4つのみ)。
国家資格が必要な施術とそうでない施術の区別が分かりにくく、一般の人が誤解しやすい点は、「医業類似行為」の課題と言えるでしょう。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士について
医療機関では、日常生活や社会生活への復帰を目的として、理学療法士によるマッサージ、作業療法士・言語聴覚士による訓練などが行われる場合があります。
職種 | 必要な資格 | 対象 |
理学療法士(PT) | 理学療法士(国家資格) | ・脳性麻痺の人 ・事故や病気、脳卒中後遺症、老化による障害などで運動機能が低下した人 |
作業療法士(OT) | 作業療法士(国家資格) | ・関節障害など、体の動きに制限がある人 ・アルコール依存症など精神の障害を抱えた人 ・脳性麻痺などの発達障害の人 ・高次脳機能障害や認知症などの老年期の障害を持つ人 |
言語聴覚士(ST) | 言語聴覚士(ST) | ・言語や聴覚に障害を持った人 ・摂食・嚥下障害のある人 ・失語症、記憶障害、認知症の人 |
この3職種はいずれも国家資格が必要なリハビリテーションを専門とする医療技術職です。医業類似行為とは異なり、医師からの依頼や指示のもと、それぞれの分野で治療プログラムを立案し、リハビリテーションを実施6)します。
医業類似行為の広告表現
医業類似行為の一種である柔道整復の施術所としては、「接骨院」「整骨院」などが挙げられます。しかし、柔道整復師法では「ほねつぎ」や「接骨」の表記のみ認められており、「整骨」での広告は認められていません。
「整骨院」の増加による競争激化だけでなく、誇大広告による悪質な集客なども見られているため、今後厚生労働省では新規の施術所には「整骨院」の名称を認めないよう規制する7)という議論もあるようです。
整骨院(接骨院)について詳しく知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
▶【医師監修】整形外科と整体の違いとは?整骨院・接骨院の違いも紹介
整形外科と医業類似行為

ここからは、整形外科と医業類似行為について解説していきます。医業類似行為については、主に整形外科と関わりの深い柔道整復について取り上げます。
整形外科と法で認められた医業類似行為
整形外科では、医師が整形外科領域範囲の診療を行います。診察や画像検査などの結果をもとに診断し、症状や病態にあわせて、薬の処方や注射、手術などで治療を行っていきます。また、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士と連携しながらリハビリテーションも行います。
一方、柔道整復では柔道整復師がマッサージや物理療法などの施術を行います。外傷による骨折・脱臼・打撲・捻挫が業務範囲9)ですが、骨折・脱臼については応急処置のみに限られます。応急処置以外で骨折・脱臼に対する施術を行う場合は、医師の同意が必要5)です。外傷以外の疾患に対する施術は行えません。
また、健康保険の取り扱いについても医業と医業類似行為では異なります。
医療機関にかかった場合、健康保険証を提示することで、一定割合の自己負担分のみを支払えば診察や治療などを受けられます。健康保険加入者に医療サービス(現物)を給付するため、この給付方式は「現物給付」と呼ばれています10)。
一方、医業類似行為で基本となる給付方式は「償還払い(療養費払い)」です。施術料全額を医業類似行為者に支払い、その後、健康保険組合に申請して払い戻しを受ける方法です。しかし、手続きにかかる時間などから、一時的に患者にかかる負担が大きくなってしまうことが問題11)とされています。
医業類似行為の中でも、柔道整復に関しては「受領委任払い」が認められています。1936年にこの制度が認められた背景には、整形外科医の不足や患者の負担増大などがあった5)といわれています。
受領委任払いでは、患者は自己負担分のみを支払います。代わりに、施術を行った柔道整復師が健康保険組合負担分の請求を行うのです。実質的に現物給付と変わらない方法ですが、患者は「療養費支給申請書」という書類に署名をしなければなりません。
また、受領委任払いができるのは、柔道整復師が地方(支)局長および都道府県知事と協定を結んでいる場合のみ11)です。
整形外科とカイロプラクティック
カイロプラクティック療法とは、19世紀末にアメリカで考案された脊椎矯正のための手技です。脊椎の乱れを矯正して、身体機能を回復することを目指すものですが、日本においては医業類似行為とは異なり、法に基づいた資格はありません12)。つまり、整体やマッサージと同様、無免許で誰でもできる施術なのです。
カイロプラクティックや整体などの施術者が、医療行為に近い説明をすることで、患者が誤認するケースもあるので注意が必要です。
なかには外国で公的な資格を取得した施術者もいますが、数日間の講習の受講のみで開業する施術者がいることも事実です。施術者のレベルがさまざまであるため、次のような健康被害などのトラブルも報告されています13)。
▼実際にあった危害事例
- 全身の指圧マッサージで肋軟骨を骨折した
- カイロプラクティックで頚椎捻挫
- マッサージ後に歩行困難になった
- 持病の症状が悪化した
また、カイロプラクティック療法のなかでもとくに危険な手技として、スラスト法が挙げられます。スラスト法とは、首の骨に急激に回転・伸展を加える手技のことで、通称「首ポキ」などとも呼ばれています。
スラスト法については、厚生労働省が注意を呼びかけている4)だけでなく、米国心臓協会と米国脳卒中学会も「脳卒中を引き起こす可能性がある」と警告14)しています。
カイロプラクティックを受けてはいけない疾患
厚生労働省はカイロプラクティック療法を受けるべきではない疾患4)として、次のような疾患を挙げています。
- 腫瘍性疾患
- 出血性疾患
- 感染性疾患
- リウマチ
- 筋委縮性疾患
- 心疾患
また、施術により症状が悪化しうる次のような疾患がある場合も、カイロプラクティック療法を受けるべきではない4)としています。
- 椎間板ヘルニア
- 後縦靭帯骨化症
- 変形性脊椎症
- 脊柱管狭窄症
- 骨粗しょう症
- 環軸椎亜脱臼
- 不安定脊椎
- 側彎症
- 二分脊椎症
- 脊椎すべり症
上記のような持病がある場合は、カイロプラクティック療法や整体、マッサージなどを受けるのは控えましょう。
腰痛でお悩みの場合は、次の記事も参考にしてください。
▶【医師監修】腰痛は整形外科と整体のどちらに行くべき?疑われる病気もご紹介
気になる症状があるならまず整形外科へ!
医業類似行為とは、あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう・柔道整復の4種類です。日本ではこの4種類以外の施術は医業類似行為とは認められていません。巷にあふれるカイロプラクティック療法や整体、マッサージなどはすべて無免許であり、受ける前には慎重な検討が必要です。
また、柔道整復や鍼灸・マッサージは特定の条件下で保険適用されますが、整体やカイロプラクティックは保険の適用外であり、費用面でのトラブルも発生しやすいので要注意です。
関節の不調でお悩みの場合は、まずは医療機関へかかることをおすすめします。診察や検査で原因を探り、治療を進めていきましょう。
【参考】
1) 厚生労働省 看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会(第1回) <資料1>「医行為」について
2) 厚生労働省 医行為及び診療の補助についての法令上の考え方
3) 全日本鍼灸学会雑誌 2024年第74巻2合 医業類似行為とは何か
4) 厚生労働省 医業類似行為に対する取扱いについて
5) 一般社団法人 福岡市医師会 医療情報室レポートNo.174 特集:医業類似行為と医療の関わり
6) 学校法人敬心学園 東京都知事認可 厚生労働省指定養成施設 日本福祉教育専門学校 言語聴覚士、理学療法士、作業療法士の違い
7) 東京新聞 厚労省の広告ガイドライン案 「整骨院」名称ダメ 競争激化、ネット規制対象外の方向
8) 厚生労働省 第10回あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会 資料3 あはき・柔整広告ガイドラインに記載する内容(案)
9) 公益社団法人 日本整形外科学会 よくある質問 整形外科と接骨院(いわゆる整骨院)
10) 健康保険組合連合会 けんぽれん 現物給付
11) ダイキン工業健康保険組合 受領委任払いと償還払いについて
12) 公益社団法人 日本整形外科学会 よくある質問 整形外科とカイロプラクティック
13) 独立行政法人 国民生活センター 手技による医業類似行為の危害 ―整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も―
14) 株式会社メディカルトリビューン あなたの健康百科 整体などの"首ポキ治療"による脳卒中を警告―米学会